「この私が、こうも深手を負わされるとは……」
 生まれてこの方傷一つ、くすみ一つ付けられたことの無かった生体装甲とも呼べる表皮は、今はえぐられるような深い傷口をいくつも穿たれていた。
 目の前の少女……おそらく年は16前後と言ったところか……は恐るべき強さを持っていた。
 10体を数えるしもべの魔物も打ち倒し、魔物の中でも並ぶものがいないと言われてきた自分が、手ひどく痛めつけられている。
「恐るべき……か……」
 初めて感じる『恐れ』に彼は自嘲気味に苦笑いを浮かべた。
 むろん、少女も無傷などではなかった。
 戦闘服は何カ所も破れ血に染まっていた。
 だが、それでもはだけた素肌はみずみずしい白さを誇っており、このような命がけの状態でなく、普段であれば舌なめずりをしていただろう。
<ゴォォッ!>
 灼熱の、それも強い酸性を持つブレスを放つ。
 並の魔物なら一瞬で文字通り溶かすその一撃を、少女は魔法で障壁を展開すると、その大部分を彼方に逸らせた。
 しぶきがいくらか降り注ぐが、いくらか艶めかしい面積を増やした程度にとどまった。
 魔物はそうなることを予想していた。素早く次の攻撃に移る。
 目にも止まらない早さで一気に距離を詰め、鋭い研ぎ澄まされた爪を振り下ろす。
 それは簡単に避けられてしまった。
 しかしそれも予想の上だった。本命はよくしなり、それでいて何でもなぎ払う尻尾の一撃であった。
 少女はそれの直撃で吹き飛ばされた……が、同時に尻尾に激痛が走る。
 ゼロ距離で魔法を受け、大きく焼け焦がされていたのだ。
 大きな体が大きくよろめく。バランスをとるために必要な尻尾の機能が損なわれてしまったからだ。
 してやったと思ったら、してやられていたのだ。
『油断なら無い』と思い知らされた魔物はその少女の方を見やった。
 少女は荒い息をしながらゆっくりと立ち上がる。
 さすがにあまり余裕は無いのだろう。
 一方的に彼だけが追い詰められているわけではない、それが救いであった。
 まだ魔物には切り札があった。
 正確にはこのようなときでなければ使えない、そしてその機会は今の今まで無かっただけなのだが。
「我が苦しみ、我が痛みを汝に……」
 少女を、厳めしい指で指しながら詠唱した。
 それは、自らの苦痛を相手にも与えるという魔法であった。
 魔物がこの魔法を知ったときは、『やられる前にやってしまえば良いではないか?』と思い、事実そうしてきたのであったが、人生……いや、魔物生か……何が役に立つか分からないものである。
 魔法をかけられた少女が、地面に倒れ伏せる。
 その苦しみは何より自分で体験しているのであるから、少々の同情を感じざるを得なかった。
 魔物も荒い息使いを隠さなかった。
 彼女はこちらの『底』を身をもって知っただろうから、今更無い余裕を見せつけたところでなんの虚勢にもならないからだ。
 少女が呻く。苦しいから当然であろう、私も呻ききたいくらいだから……いや、呻いているのではなかった!
「……汝に……」
 その言葉を聞いたときにはすでに遅かった。
 魔物の体が雷にでも打たれた……もっとも、雷など恐れはしないのだが……かのように激しい衝撃を受け、片膝を、そして両膝をつく。
 まさか即興で真似をされるとは思っていなかった。
 少女の才能に恐れを超えた別の何かを感じるほどであった。
 両者ともに互いに後一撃で勝負が決まることを実感していた。
 二人……いや一人と一匹が、渾身の力を振り絞って立ち上がり身構える。そして、激しくぶつかり合った。
 あたりはその余波でまばゆい光に包まれた……

「ここは……」
 少女が目を覚ました。起き上がろうとしたが、体のあちらこちらが痛みままならなかった。
「気づいたか」
 声のする方を向くと、この痛みの原因であった魔物がこちらを見ていた。
「私、負けたのね……」
 少女はつぶやいた。
 魔物は何も言わなかった。
 念を押すことなど無意味であっただろうし、二、三度闘っていればこちらが負けていても不思議は無い。
 それにこちらには手下がいたのだ。とても勝ったなどと誇る気になれなかった。
 しばらく奇妙な沈黙が続いた。
「私をどうするつもり?」
 最初に沈黙を破ったのは少女の方からだった。
 普段であれば、完膚無きまでに叩きのめしたその後は、その場で凌辱の限りを尽くし、あげく死なせてしまうのが常であったが、そうはしなかった。
 こちらも十二分に叩きのめされたというのもあるが、それは言い訳だ。
 ある程度体力が回復した時点で、衝動の赴くまま、というのも無理ではないのだから、わざわざ少女が目を覚ますまで、何を待っていたというのだ?
「知っているだろう?」
 束の間自問自答して、出した答えは強がりに満ちていた。
 少女は黙っていた。魔物に襲われたものがどうなるか知らないはずは無いし、意味は通じただろう。
「どうした?諦めたのか?」
 暴れもしなければ騒ぎもしない、その少女の反応に、魔物は挑発をする。
「やるだけのことはやったのだから、後悔は無いわ……あなたの仲間を殺し、あなたも傷つけておきながら、負けて何も無いなんて甘いものね。」
 じっと魔物を見据えて少女は語った。
「仲間……ああ、彼らが死んだのは、そなたの力を見誤った私の責任だ。気に病むことは無い。私の傷も、まぁお互い様だろう。」
 自分でも何を言っているのか、理解できていなかった。不思議であった。
 他の魔物が殺されたのなら、加虐性を燃え上がらせて、より酷く犠牲者をなぶるのが魔物の特性だというのにだ。
 それは少女も思ったのだろう。魔物を見据える瞳が、少しばかり柔らかな輝きに変わった。
「……いや、話はこれくらいだ。」
 少女の横たえられていた、貧相で、ベッドと呼べるかどうかの代物が、悲鳴を上げる。
 魔物が少女に覆い被さるようにのしかかったからだ。
 もうすでにあまり用をなさなくなっていた少女の戦闘服を、たやすく破き完全に丸裸にしてしまった。
 魔力を利用した治癒力で外傷を癒していたのか、怪我は見あたらなかった。
 少し安堵した。『あまり傷が酷いようであったら、やめておこう』と考えていたのが杞憂であったからだ。
 そこでまた、精神的な調子の悪さに首を横に振る。
 欲望に突き動かされて相手の身も心も欲しいままにする、のが魔物の本質ではないか!それなのに!
 魔物は気づいていなかった。そして、彼に責任は無いものの彼自身が原因であった。
 先の戦いで使用した、自らの苦痛を相手に与える魔法は、使い方によって非常に強力な攻撃手段になりうる。
 その点で言えば、彼は非常にうまいタイミングで行使できた。
 だが、互いに掛け合えばどうなるか……それは互いの苦しみを共有することとなり、シンパシーを強く感じ合ってしまうこと、そして魔法の影響下を離れても、相手が傷つくのを酷く恐れるようになってしまうことがあるのだ。
 それは身動き一つとれない少女も同じであった。
「どうしたの?」
 襲われる者が襲うモノに対する言葉ではなかった。

『どうもしていない。』と答える代わりに、少女の十分に膨らんだ胸を舐め回した。
 少女はさすがに驚いたが、嫌悪感を感じるまでは無かった。
 魔物は続ける。爪で傷つけないように腹のあたりをゆっくりと撫でる。
 始めこそ緊張のためかこわばっていたが、次第にほぐれてくるかのように柔らかなくなってきた。
 そこから更に下に進めて、魔物の注目は少女の秘部へ到達した。
「あの……私、処女なの……」
 襲われているというのにこのような申告とはあまりにも滑稽であったが、魔物は滑稽なのが自分だけでないのに、妙なことに親近感さえ感じていた。
「それは痛いだろうが我慢してくれ……ああ、あの魔法は無しでな。」
 オスの身で処女消失の痛みを味わうなど、悪い冗談でしか無い。
『あの魔法』が何を意味したか悟った少女は、目を逸らして何も明言しなかった。
 そればかりか少しばかり笑みを浮かべているようにも思える。
 やぶ蛇とはこのようなことを指すのかもしれない。
 しかし、言ってしまったことはもうどうにもならないから、覚悟を決めるしか無いだろう。
 少女の膣口に、肉の凶器……いや、肉の掘削機でもたとえるべきだろう……を触れさせる。
 無理も無い。少女は目をきつく閉じ、細かく震えていた。
 巨根を強引に押し込められたため、薄く広げられた処女膜。そこに先端が到達する。
 魔物は少女を見つめ、できるだけ苦痛が少ないことを祈るしか無かった。
「くぅぅっ……」
 今度こそ正真正銘、少女が呻いた。
 魔物はそのまま動きを止めた。そっと手を少女の柔らかな背中に回してさする。
 その抱き心地から、改めてこの少女が実に華奢な体であることを思い知った。
 それを考慮すれば尚のこと、少女の苦痛は想像を絶するものであろう。
 ああ、じきに想像ではなく、身をもって実感することにでもなるのだろうか。
 それはそれで仕方が無い気もしたが、ともかく魔物はじっとしていることしかできなかった。
「だ、大丈夫……使わないから……」
 しばらくして口を開く余裕ができたのか、少女が答えた。
 それを聞いて魔物は一安心したが、それが自分自身への安心感は半分も無いことに気づく。
 巨根を少し進ませては休み、少女が落ちいのを確認してから、また少し、と根気強く時間を掛けていった。
 やがて子宮口までたどり着く。
「さぁ、全部入ったぞ。」
 魔物のモノはまだまだ長さをもてあましていたが、『全部』が魔物のモノを指し示す必要は無かった。
 少女の『全部』で十分であったからだ。
 ゆっくりとストロークを始めていく。
 一時のことに比べれば、幾分少女も楽になってきているのだろう。
 目を少し開け、同じく少し開いた口からは、恍惚の混ざった声が漏れてきている。
 普段の彼自身からすれば、実に気の抜けた犯し方だったかもしれない。
 だが、その普段よりも早くに、絶頂の予感がこみ上げてきた。
 小刻みなリズムに切り替えて、そして二度、三度と少女の奥に突き入れる。
 そして弾けた。
 固く閉ざされている子宮口もお構いなしに、子宮にほとんど直接注ぎ込まれる、熱い白濁液。
 少女は身を焦がされる感覚と、官能の極限を同時に味わうこととなった。
 幸いなことに後者の方がずっと勝っていたのか、嬌声を上げながら果てた。

 それから毎日というもの、魔物は少女の名を呼びながら少女を犯し、少女は魔物の名を呼びながら魔物に犯されていった。