†魔女と魔杖† 一話
丸太小屋、と称すのが最も適切であろうその場所を、何やら淫楽めいた旋律が支配していた。
木々の隙間から僅かに差し込む春陽の光が、暗灰色のローブを全身に纏い、しゃがみ込んでいる男の逞しい背中を照らし出す。
「あぅ…………あ゛っ……!」
紡がれる稚い嬌声は、黒衣の男の眼前にいる、緊縛された少女から洩れるものだ。
脚をM字に開かされ、両手を頭上に組んだ状態で縛られた幼い美顔が、快楽に耐えるかのような歪み方をしている。
金髪を両の頬に垂らし、うっすらと開いた碧い瞳は自らの下半身に向けられていた。
年の頃は、十ばかりだろうか?
彼女が今されていることはあまりにも不似合いなほど、あどけなく、そして整った顔立ちをしている。
「……くっ……ふぅぅ…………っ!」
眼前の男に自らの秘処をぐちゅぐちゅと探られ、性感を激しく呼び起こされようと、彼女は殆ど声を出さない。
双眸をぎゅっと閉じ、思い切り歯噛みした表情こそ露になっているものの……せめて声だけは、という彼女のプライドだった。
「……後一分、抜くなよ」
――気を。
ふいに発せられた、壮年男性のものと思われる重い声が、陵辱に近い行為に耐える少女の耳に届いた。
返答はない。する余裕もない。したくもない。
この男が未熟な花弁を穢し、少女はそれによって達することを許されていない。
拷問だった。
彼に攫われた少女はその日から二年、屈辱であり、苦行であるこのような生活を送ってきた。
成熟しきらない肢体を強引に開発され、一日に一度の絶頂を強要され、まるで性奴隷の如き扱いを受けてきた。
この男にしてみれば、全ては魔術師の跡継ぎを育てる為のものでしかないのだろうが。
突如にして平穏な生活を奪われ、両親と別離し、淫獄に墜ちた生活を押し付けられた少女にしてみれば、恥辱であるのを通り越して殺意すら沸いた。
「あっ……あぁ、はっ…………やぁ……っ!!」
迫りくる悦楽の波に、どうしても淫らな声が洩れ出てしまう。
むしろここまで声を抑えているのは、奇跡に等しかった。
絶頂はすぐそこまで迫っているのに、限界まで膣内に侵入した中指がくいくいと蠢いて、更なる快感を呼び起こすのだ。
「――はぅっっ!!」
と、ようやく太い指が抜かれた。
露見した幼な子の陰部は、愛液によってぐしょぐしょになっている。
華奢な肢体と恥部をひくひくとうち震わせ、奥底から昇ってくる至高の快楽を必死に追いやった。
あぶなかった。
達する寸前まで攻めておいてやめてしまうのだから、かえって辛かった。とはいえ、もしイってしまうと、この男に折檻を喰らう。
一時の絶頂を我慢すれば、痛みを感じることはない。
少女は、耐えた。
虚霧山。
男と少女が住む所は、人々からそう呼称されている。
山全体が、季節、時間帯を問わず薄い霧に覆われ、その姿が不明瞭なことからそう名づけられたのだ。
そして、そこは古くから、魔術を用いる者が住む場所として知られていた。
今となっては理由など不明だが、魔術を用いる者は大陸において二人まで、それも男女一人ずつ。
という掟が、先祖代々に渡って守られてきた。
理由としては、性別によって魔術を行使する際の代価が異なるからだ。
男の場合は身体的な痛覚や疲労を。女の場合は性的な快楽や情欲を。
これらに耐えねば、魔術を放つことは不可能なのである。
魔術の始祖・オースィラから数えて、十一番目の魔術師であるギデオン。
彼もまた、後継者である女性を育てる責務がある。
魔術師として認められた者には、魔術師としての才能を持つ者が見るだけで分かる。
だが、才能があったからといって、順調に育ってくれるとは限らない。
現在育てている少女――フィーナの前に、既に二人の育成に失敗している。
後が無いわけではないが、当然焦りはあっただろう。
過去の二人は、一年としない内に失踪、もしくは‘壊れて’しまった。
フィーナは既に二年経っているが、ギデオンは、彼女が資格を手にするのは、軽く見積もって十二年はかかると見立てていた。
ギデオンは現在五十一歳。フィーナは十歳。
老いてからでは遅いのだ。
彼女が最後――そういう気持ちで、心を鬼にして魔女への道を進ませている。
幸いにも、以前の二人に比べたら若く、根性も反骨心もある。
いくら嫌われようと、決して甘くしようなどと思わない。
だが、その意志が揺らぐ日が迫っていることを、ギデオンに知る由も無かった……
早朝の行為後。
薄く霧がかった山林道に、暁旦を示すほのかな陽光が射している。
虚霧山の中腹に建てられた丸太小屋の側、やや開けた所に、ふたりは居た。
「では、わしは買出しに赴く。一日空く故、自慰を忘れるな」
魔術師にしては逞しい体躯を暗灰色のローブに纏ったギデオンが、眼前に起立する少女――フィーナに告げる。
丈が短い純白のミニスカート。薄い胸には、紫色のさらし布一枚が巻かれ、両手で小さなオーク・ロッドを持っている。
それだけの衣服しか纏っていない故、肩もへそもむき出しなのだが、これにはきちんと理由があるのだ。
「…………はい」
フィーナはやや間を置いて、稚く、控えめな返答をよこした。
どういうわけか、彼女は落ち着き無く首を左右に振り、小さな顔の両頬に垂れた金髪を揺らしていた。
双つの碧眼の焦点もやはり落ち着きが無く、虚空をうろうろとさまようばかりだ。
――いつものことである。
ギデオンに見入られると、挙動がおかしくなる。彼にも、理由は何とはなしに想像がついていた。
強靭な体躯の男は、ふっ、と微かなため息をついた。
「……行くぞ」
一言を最後に、ギデオンは少女に背を向けた。
向かうは、虚霧山のふもとより徒歩で一日以下の、王都ダニアル。
月に二度は、様々な目的を持って都に赴く。
からして、フィーナと一日離れるからといって不安はない。
はずなのだが、ギデオンは何か、言い知れない違和感を覚えていた。
何に対してかは、彼自身にも分からない……
虚霧山のふもと。
この山は、登山道もふもとも密集した林に覆われている。
進行が支障が出るのと同時に、姿を隠しやすくもある場所なのだ。
故に、ギデオンが‘彼ら’に気付かなかったのも無理はないが……
「行きやしたぜ、頭目」
王都の方へと歩み進む壮年の男を遠巻きに眺めながら、いかにも山賊ですといった風貌の、肉厚の巨躯をもつ醜い男が呟いた
……実際は傭兵なのだが。
脂ぎった顔には清潔感の欠片も無く、伸ばし放題の髪と髭からは、ほんのりと奇天烈な臭いが香っている。
「っふ……ようやく、行ったか」
頭目と呼ばれた男は、興奮のあまり声が震えている。
褐色肌にスキンヘッドのごつい顔に、喜色が浮かび上がっていたが。
「……頭目、まだやる前ですよ」
コトに及ぶ前に高揚気味の頭目に話しかけたのは、傭兵にしておくには勿体無いほど、秀麗な面差しの男だ。
浮かれやすいのはいつもの事とはいえ、今回は常時とは比べ物にならないくらい、デカいヤマ。
あんまり油断してもらっちゃあ困る。
魔杖ミストルテインを奪い、商家に売れば、どれほどの値がつくか。
ついでに魔女も奪いたいとこだが、そうするとあの男に一生付回されそうな気がするので、止めておこう。
……輪姦はするが。
「わあかってるってキュロス君! 今までのヤマたぁ違うことくらい、俺にだって分かる。故に、君達はいつものように俺を先導してくれよなぁ」
美貌の若者――キュロスは、頭目の声のうわずり方に危機感を覚えた。
今まで、彼の尋常ならざる強さと鷹揚さに惹かれてついてきたが、こういう部分――アタマが足りない部分――は悩みのタネだった。
それは、頭目ほどではないが腕が立つ、巨躯の醜男も同じで。
…………ふぅ。
二人は、対照的な容姿を見合わせて、大きなため息をついた。
ギデオンが経ち、まだ間もないころ。
フィーナは丸太小屋の屋上に登り、山林の合間に射す陽を受けながら、小屋の頂の丸太に腰掛け、多くの鳥達と戯れていた。
「はぁ…………爺め、いつか必ず……」
必ず――どうしようというのか?
彼女自身も、明確な答えを用意しているわけではない。だが、ギデオンを嫌悪していることだけは事実なのだ。
「それにしても、爺のやりかたは強引すぎます。あなた達もそう思うでしょ?」
思わず、右手人差し指に止まったスズメを見つめながら、のろけるように呟く。
ボク、そんなこと言われても分からないよ――といった具合に、スズメはフィーナを見返しながら首を傾げていた。
……かわいい。
あどけないおもてに柔らかな微笑を湛えながら、フィーナは心の安らぎを覚えていた。
彼がいなくなった時しか、羽を伸ばせる時間は無い。
逃げ出したいと思う気持ちも、ギデオンの話を聞かされてすっかり萎えてしまった。
以前、ギデオンが育てていた少女の一人は、何度と無く脱走を試み、実際に王都にかくまってもらったこともあるが。
その度に何度と無く連れ戻され、折檻と、陵辱に遭わされたらしいのだ。
一体、何故そこまでして魔女を育てるのか、フィーナには理解し難かった。
同時に、恐怖や、それを上回る嫌悪感でいっぱいだった。
……やめよう。思い出したくない……けど。
認めたくはなかったのだが、つい先刻に行われた痴態の所為で、フィーナは身体が火照っていた。
ギデオンに攻められた後で自涜に及ぶのは、彼にイかされたみたいで、少女の自尊心がそれを許したくなかったのだ。
「…………」
右手に止まるスズメを視界に映しつつ、フィーナはなんとなく、空いた左手を下腹部に伸ばした。
人に見られているわけでもないのに、羞恥心が煽られる気がして、余計に情欲がかきたてられる。
彼女の周囲には、十数匹ものスズメが集まり、さえずり、またはフィーナの身体の各所に留まったりしていた。
全く怯えることがないのは、少女が放つ魔性のようなものが起因しているのだろうか?
フィーナ自身も、幼少の頃から、他の人間には寄らないスズメ達が、自分にだけは懐いてくるのを不思議に思っていたが……
「くっ…………っふ……うぅ……」
白いミニスカートの上から股間部を押さえる少女のおもては、誰が見ても判るほどに朱に満ちていた。
そもそもどうして、ギデオンに自慰を命じられたのか。
魔女の場合、一日に一度自慰に耽ることで、自然と魔力が高まるからである。
但し、それ以上でも以下でも許されていない。
二回以上すると、魔神シグルズの怒りを買い、逆に魔力が下がってしまう。
まだ、魔力に変化が無い、しない日の方がましなのだ。
「スズメさん……ゴメンなさい、私……」
カラダの奥底から迫り来る色欲にとうとう堪えきれなくなり、スズメが留まっている右手を屋根に下ろす。
まるでフィーナの意志を察したかのように、スズメは小さく跳躍して丸太小屋の屋根に降りた。
「ありがと……」
頬を紅く染めた顔を向け、スズメに礼を述べる。
できればみんな(スズメさんたち)には離れて欲しいのだが、自分が自涜に及ぶ為だけに彼らを邪険に扱うなど、フィーナには出来ない。
仕方ないので、いつも周りに十数匹のスズメを囲いながら、あまり身体を動かさないよう自慰に耽るのだ。
……いつもどおり、‘何か奇妙なコト’を始めようとする少女を、スズメたちは丸太を跳ねながら首をかしげて眺めてくる。
はずかしい……
むろん、スズメ達がフィーナの行為を理解しているハズもないが、数十の視線が向けられて、少女は羞恥心にかられていた。
それもまた、良いスパイスになるであろう。
スズメさんたちに悪いから、早く済ませちゃお……
フィーナは碧い双眸を閉ざし、気分を昂めた。
白く短いスカートの裾を左手で持ち、捲りあげる。薄目を開けて見据えると、スカートと同様の純白の布地が、フィーナの視界に入る。
上気した顔を下半身に向けながら、ひらひらの白布をたくし上げ露になった下着に、自らの右手をゆっくりと伸ばし始める。
「……ふっ……くっ…………あぁっ!」
右手の二本指が、布越しにすじをなぞると、自然と甲高い嬌声が洩れた。
色のある吐息を荒げるようにはき始め、少しづつ情感を高めてゆく。
「はぁ……はぁ……はぁぁっ、あぁ……あん! ……あぁん!!」
稚い喘ぎはだんだんと強く響き、少女は肢体を仰け反らせる。
布越しにしゅっしゅっとクリを刺激し、自ら快楽を求めるフィーナ。
羞恥と快感に顔を歪めつつも、同時に呼び起こされる背徳感をごまかす事は出来ない。
――関係ない。
理性など忘れて、今は愉悦を貪りたい。
フィーナは、花弁を覆い隠している白き布を下ろした。
糸をひきつつ、幼いぐしょ濡れの秘処が姿を表した。
恍惚とした表情で自らの陰部を眺め、ゆったりと、二本指を運び――挿入れはじめる。
「あぁっ! ……はぁん!! ……あぁんっ!!」
スナップをきかせて膣を探る指使い、同時に腰を振る動きには慣れたものだった。
ぐちゅぐちゅと水音を響かせながら、指を出し入れさせるたびに悦楽の嬌声を洩らす。
乱れる主人の姿を訝るように見ても、スズメ達は一匹たりともその場を離れようとはしない。
「あっ! やっ! あぁっ!! あぁぁあっ!!」
気持ち良くなる為に、ことさらに淫らな声を発し、欲望の頂を目指すフィーナ。
「……んっ! ダメ!! あんっ、イく、イっちゃうよぉ……」
指の動きが、速くなる。
淫音をぐちゃぐちゃ散らし、未熟なカラダの奥底から何かが迫りくる。
「……いやっっ!!! ……はん、あぁっ、はぁぁあんっっ!!! 出ちゃっ………………」
秘所を攻める速さが最高潮に達し、声が途切れる。
――瞬間。
フィーナの周囲にいたスズメ達が、一斉に飛び立った。
「さ〜〜ん、じょっ!!」
いかにも間抜けそうな声と共に、三つの影が丸太小屋の上に降り立った――
FIN