時間は少し遡る。
半魚人とモアイが擬似魔法少女二名の遺体を犯すのに飽きた頃、暗がりから一人の男が現れた。
「一部始終、写させてもらいましたよ」
<ウオ、プロフェッサー様>
<覗き見トハ、趣味が悪いンだな>
デジカメを手にしているプロフェッサー。
「私としては生け捕りにして欲しかったのですが、殺してしまいましたか……」
人生最後の数時間を最悪の形で過ごした二人の少女を見やるが、別段怒った風でもない。
「ま、私としてはコレが手に入っただけでもよいです、が……」
ブレスレットを二つ回収。ひらひらと振りながら、去っていった。
「それで、どう見る、奴等の戦力を」
魔物達の動きは早い。程なくして、彼等の王は報告を受けることになった。
「このマギアと呼ばれるブレスレットに込められた魔力が力の源になっているようですね。誰が扱っても同じ戦力になれるということです」
「魔法少女の変身システムを参考にしているようだが。君とは設計思想が違うようだな」
「マギアより、私のライダーシステムの方が優れています」
「お前、今ライd」
「王のベルトは王の為の物、比べるべきではありませんぞ。完成すれば、古の魔王さえも凌駕するお力を手にされることになるのですから」
「わ、わかった」
咳払いひとつ。
「……古の魔王か。暁の深淵と呼ばれるそうだが、私は伝説でしか知らない」
「実在する魔物です。千年前の話ですよ。さて、それはさておき」
「相手の本拠地がわかったわけだな」
「いかがなされます?」
「……バルバロスが戦いたがっている。赤の魔法少女クラスでもなければ、手に余ることはあるまい」
「御意にございます。……ヴァルキナス様にはお命じになられないのですね」
「彼自身は仕事を選り好みしないが、先代からの王の代理人たる存在を軽々しく動かすのもな。魔人の姫君の動きも気になるから、今回は控えさせておく」
「御意」
即座に出撃準備を整える魔物サイド。指示を与えた後で、王は私室に下がった。
携帯が鳴る。
「私だ」
『裕子ですけど、ごめんなさいお仕事中でした?』
「いや、かまわないよ。どうかした?」
『ごめんなさい、今夜のことなんですけど、ちょっと急な仕事が入って…この埋め合わせは必ずするから!』
「いいよいいよ、こっちもちょっと仕事入りそうだったから」
『本当、ごめんなさい。……また連絡します、竜仁さん。必ず』
「あんまり働きすぎるなよー」
電話を切る。ふぅと、溜息がひとつ。
「二重生活も、段々きつくなってきたな……」
「で、俺にお鉢が回ってきたというわけか」
「バル殿にお任せする程でもないとは思いましたが……」
慇懃に笑うプロフェッサー。
「技術提供した魔法少女がいるかもしれねえんだろ?だったら俺等のウチ誰かが出張った方がいい。王は正しいと思うぜ」
意外に話はわかるな、そうも思ったが表には出さない。
「そうそう、バル殿にお渡ししたいものが……」
そう言ってプロフェッサーは錠剤のようなものを取り出した。
「なんだそりゃ?」
「バイアズラと申しまして、バル殿の素晴らしいパワーを更に引き上げる薬です。もし魔法少女がいた場合、勝利後の役得の時にでもお役に立つかと。ご自慢の物が更にパワーアップ致します」
「……お前、王のベルトや人造魔物だけじゃなく、そんなくだらない研究までしてたのか。副作用とか怖いんだが」
「実は私自身で一度試してみましたが、問題なかったですよ」
プロフェッサーの顔色はいつも悪い。
「説得力ねえぞ。……ま、貰っとくよ。擬似ナントカ相手に使ったら殺しちまいそうだがナア」
受け取ると、バルバロスは去って行った。
「ほんとは試したことないんですけどね」
舞台を擬似魔法少女サイドへ戻す。
正面ロービーにて、仲間達の無惨な最期を見せ付けられ、擬似魔法少女達の大半は恐慌状態にあった。
「なんで……なんでよ!私達が力を合わせればあいつらに勝てるんじゃなかったの!?」
「こんな死に方なんて嫌よ……!」
ただ一人、若菜だけは冷静さを失っていない。
「落ち着きなさい、渚、明日香!!」
一喝され、渚と呼ばれたセミロングの少女、明日香と呼ばれたお下げの少女は一応黙り込む。しかし一度張り付いた恐怖の色は消せない。
若菜は振り返った。そこには、お嬢様と呼ばれる彼女達のリーダーが食い入るように写真を見つめている。
決して目を背けようとしないが、両手が怒りに震えているのがわかった。
もっとも、ただ怒りに身を任せていたのではない。
(……考えなさい、黒崎綾乃!何故こんな写真をバラ撒いていったのか……そもそも、何故ここに……)
結論は即座に導き出される。いや、遅いくらいだ。
顔色を変える暇さえ惜しい。
「若菜さん!」
混乱を切り裂いたその声が、一同すべてを黙らせた。
「戦闘準備を!」
その一言で若菜も理解する。
お嬢様──黒崎綾乃は内線を館内すべてに繋いだ。
「黒崎綾乃が命じます。総員、第一級戦闘配備に就いて下さい。間もなく魔物達の攻撃が予想されます。非戦闘員はシェルターへ。滝川主任、予備のマギアに氷哲を移して下さい」
「お嬢様」
傍らに寄り添う男がはじめて口を開いた。聴覚より脳に響くような声。
綾乃は答えた。。
「相当の戦力が予想されます。彼女達だけではまずいかもしれません」
「しかし、貴女は……」
語を次ぐことができなかった。綾乃の瞳は何人にも冒し難い光を放っていたのだ。
「どうにもならなくなったら、須藤さん……」
須藤と呼ばれた男は強く首を振る。
「それは」
「代償は私自身です。……そういう契約でしたでしょ?」
慌しく迎撃準備が整えられる中、奇妙な主従二人は無言で視線を交わす。
少なくとも、目前に迫った戦闘という事態は混乱を収めるのに効果的ではあるらしかった。
強力な魔力反応。
ロビーの床下からである。
「正面からとはね……戦闘配置!変身!」
「変身!」「変身!」
3人に減ってしまった擬似魔法少女。
床が、抜けた。
大穴から大男が二体の魔物を従え這い出てくる。
「あいつは……!」
若菜が唇を噛んだ。二体の魔物には見覚えがあったからだ。
<ゲッゲッゲ……こチらは3、向コうも3。また愉しメソうだなあ>
<今度は、もうチョっと粘っテ欲しインだな>
半魚人とモアイ型魔物。
それを率いるのは一見人間に見えるが、発する魔力が尋常でない。
「渚、アレ測って!」
「は、はい!」
セミロングの少女は腰に提げた片目の眼鏡のようなものを手に取り、左耳に装着した。
「魔力値12000…13000……嘘でしょ、まだ上がっていく……」
血の気が引いていく。
「23000…24000……キャッ!」
ボン!と音を立ててスカウターが煙を吹いた。想定外の魔力。
「主任、敵の戦力は!?」
若菜が状況をモニターしているであろう滝川裕子に通信を送る。
『半魚人が3200、モアイが3500。…………大男は、概算で30000』
ぎり、と奥歯を噛む音が聞こえた。勝てるわけがない。
その大男は余裕の表情でこう言い放った。
「お前達二人でやってみろ。俺様が戦うまでもなさそうだ」
<魔物遣いが荒イでスなバルバロス様>
<まあ、楽勝だトは思うんダナ>
3対2。これならなんとか……と若菜は思った。
しかし、肝心の部下二人は再び恐怖に囚われている。
<まずハ……お前ダァ!!>
半魚人がお下げの少女に飛び掛った。
「ヒッ」
「明日香、しっかりしなさ……」
間に合わない、そう思った瞬間。
<ゴギャッ!!??>
バンという空気の響きと共に、半魚人の顔の半分が吹っ飛んだ。
音がした階段の上を見る。須藤が、馬鹿みたいにデカいライフルを構えている。
「微弱ながら魔力を込めた14.5mm銀弾だ。貴様のような雑魚には有効らしい」
そして擬似魔法少女達に指示を出す。
「早く追撃を」
「は、はいっ!」
明日香と渚が射撃体勢に入る。若菜は剣を構え突撃。二人の援護射撃の下、半魚人に達する。
<オゴギャアギャガ!!テメエ、テメエエエエエ!!!>
無茶苦茶に腕を振り回すが、魔力弾を全身に喰らって動きが止まった。
「てぇぇええい!!!」
一閃。袈裟に斬り下ろし、灰と化す。
<……許さナいんダナ!>
モアイが突撃しようとする。
再びBAMという音。砲弾は頭をいくらか削っただけだった。
「石頭め」
次弾装填。足を狙う。止まった。
「早くしろ」
再び二人が援護射撃、若菜が近接を狙いに行く。しかし。
「あーもーめんどくせえなお前ら」
黙って見ていたバルバロスが、早くも痺れを切らして動き出した。
肉体を変容させながら一歩一歩前進してく。
やがて現れたのは、牛頭の化物だった。
少女達を戦慄させたのはその体躯もさることながら、股間にそそり立つモノであろう。
これから彼が自分達に何をしようとしているのか、されたらどうなるのか、想像するのもおぞましかった。
<俺は優しくネエからなあ。勢い余って殺しちまうかもな!>
プロフェッサーに貰った薬を口に放り込む。ドクン、と心臓が脈打つ。
<フォオオオ!?これはぁ!!!>
魔力と筋肉がボンと膨れ上がり、それだけでなく股間の逸物までもが一回り大きくなっている。
暴風が吹き荒れた。カメラが破損し主任の側から状況が把握できなくなった。
<こいつはすげぇ!バイアズーラ!バイアズーラ!>
「な、なんなのよ、アレ……」
<フゥ〜…フゥ〜…クワッ。女が3人、さぁて、頂くか……オマエはあの男を足止めしてろ>
<一人くラい残して欲しイんダナ>
<わかってるよ>
モアイに盾役を押し付け、凶悪な魔物はまた一歩一歩少女達へ近づいていく。その度に、擬似魔法少女達も一歩一歩下がってしまう。
「さっきより魔力が上がってる……あ、悪夢だわ……」
「う、う、うわあああああ!!!!」
お下げの少女が恐慌状態に陥り、無闇やたらに魔力弾を撃ちはじめた。
「明日香、落ち着いて…!」
「来ないで、来ないでええ!!!!」
鋼板のような胸板に弾かれ、一発もダメージが通らない。
<ああ、痒いな。まずはお前からイクか?>
身体の向きをそちらに変える。
「明日香、逃げてッ!!」
一人が射撃を開始、若菜が突っ込む。
<そう焦るなよ。後で相手してやるから>
「ガッ……!」
腕を一振り。かすっただけなのに若菜は壁まで吹き飛ばされた。
刹那、階上から空気を叩くような発砲音。
<オット>
モアイが素早く射線上に割って入る。また頭が少し欠けたが、それほどのダメージは無い。
<でかした、いい動きだ。あの剣使いはお前にやるよ>
明日香の魔力弾が止まった。マギアのダイヤルが赤く点滅している。
「嘘、魔力切れ……」
その場に座り込む。
バルバロスが踵に力を込め、駆けた。一瞬で戦意を喪失した少女の前に立つ。
「……あ……ああ……」
恐怖で見上げるお下げの少女の両手を右手ひとつで掴み、掲げる。
「いや……放して……」
殺される、誰もがそう思った。
だが、次の瞬間から彼女達が見たのは信じられない光景だったのだ。
左手でインナーの股布を破り、腰を掴み、
そのままどずん、と自らの巨大肉棒で股間を突き刺したのである。
「ァァアアギャいあがああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!???」
「…え?」
「嘘」
3人が3人共、信じられないという表情をしている。
戦闘中に、
衆人環視の中、
なんでもないことのように、犯す。
「あんた……何やってんのよ……」
若菜がよろよろと立ち上がり、怒りに震えだす。
「明日香を放せええええッ!!」
剣がより強い輝きを放ち始めた。より力強く、長大な姿へと変貌する。
一直線にバルバロスへ斬りかかる。
同時に、渚も魔力弾を連続で放っていた。明日香に当たらないよう、背中に回りこんでいる。
<いい目だな>
片腕を立てた。鉄のような皮膚へ刃を突き立てる若菜。
ガキィンと、金属音が響く。
それがまずかった。
「ひっぎひぃ!!」
全力で斬り付けた時の衝撃が、バルバロスの肉棒を通して明日香の胎内へ伝わっていた。
狭い膣内に凶暴なモノが隙間なく捻じ込まれているのだ。少し動いただけでも大変な苦しみがあるだろう。
怯む若菜。渚の顔色も変わる。遅かった。
牛頭魔物の背中に次々命中弾。
「あが、ひが、おあ、ああ、あ、やめて、死ぬ、死んじゃ、あぎひゃあ!!」
助けようとした味方の攻撃が原因で、責め苦を受けることになってしまった少女。
須藤も銃口をバルバロスに向けていたが、発砲できない。
<ヒデエな、おい>
げへげへと笑うバルバロス。擬似魔法少女を抱きかかえたまま、片腕を振って若菜を弾き飛ばした。
「若菜さん、どうしよう……」
渚が泣きそうな声で相談してくるが、若菜にもどうしようもない。
<オトモダチは助けてくれないらしいぞ、カワイソウニナア>
串刺しにされたままの少女の身体を肉棒を軸にクルリと180度回転させる。
また膣内がゴリっと抉られた。
「ひゃっぎ……いやぁ、抜いてぇ……見ない…で……」
その表情を見せつけながら揺さぶり始める巨漢の魔物。
「あっ…いやっ、たすけ、がっ…!いぎゃっ、おねが、たすけて…あひっ!」
泣きながら片手を伸ばして助けを求める少女。
「放しなさい…その子を放しなさい……」
若菜はギリ、と奥歯をかみ締めるが、手出しできない。攻撃は通じず、むしろ明日香に苦痛を与えてしまうだけなのだ。
<じゃあ遠慮なく愉しませてもらうぜ>
突き上げる速度が速くなる。段々明日香の泣き声も弱くなってきた。
「…ぁっひ……なんで……たすけて……くれないの……ぃゃあ……ひぎゃっ……」
やがて。
<もうちょっと気張れ。しょうがない、俺が気合を入れてやんぜ!>
両手で腰をがっちり掴み、華奢な身体を乱暴に上下する。糸の切れた人形のように、明日香はされるがままといった有様だ。
そして。
<そりゃああああ!>
地を蹴り飛び上がるバルバロス。意味するところは、若菜にもわかった。
「嘘でしょ……もうやめてあげてよ……」
巨体が落下し、
どんっ。
床にヒビを走らせ、着地すると同時に少女の身体を肉棒へ押し下げた。
「っはァぎあいやああ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」
同時に夥しい量の精液がぶちまけられ、結合部から溢れ出す。耳をつんざく悲痛な叫び声はやがて弱まり、虚ろな眼でぐったりした状態となっていた。
<んー、お、まだ生きてるな。よしよし、これでもうちょっとは楽しめそうだ>
再びゆるゆると腰を動かし始める。だが、明日香の反応はほとんどない。
「……あ……あは……ひは…………」
<もう壊れたのか。このまま連れて帰って産む機械にでもしちまうかぁ?>
「貴様は……どこまで……」
剣を握り締めて立ち上がる若菜。
一歩踏み出した時。
ロビーを、冷気が駆け抜けた。
<ん?>
階上の扉が開いていた。
黒髪の少女がつかつかと歩いてくる。
一度須藤の前で止まった。
「お嬢様、おやめくださ……」
無言のまま頬を平手で打った。
そして、階段を降り始める。
腕には青色に輝くマギアが装着されている。
『コイツは不完全なんじゃねーか、ご主人』
マギアが少女に語りかけた。
「承知の上。他に手がありません。力を貸してください、氷哲」
マギアが一度光った。
左手を添える。
『行こうか、華麗に、激しく!』
「変身」
ダイヤルを回す。
黒崎綾乃の身体を白い吹雪が包んだ。
<そうか、こいつが魔法少女か!!>
明日香を犯したまま片腕だけで構えるバルバロス。
吹雪がバルバロスとモアイめがけて広がる。
<ウオオ!?>
<なんダナ……ヒィアア!?>
思わず目を瞑った。すぐに目を開けたとき、手中の少女の姿が消えている。
モアイは全身凍りついていた。
「医療班、早く」
部屋の隅で綾乃が明日香を床に下ろしている。
彼女の姿、基本的に擬似魔法少女に似ているが青色を基調とした意匠になっている。
明日香を開放した綾乃は、放心状態の少女が搬送されるのを確認すると、氷のような瞳をバルバロスに向けた。
「生きて帰れると思わないで下さい、外道」
右手に吹雪が集まる。
<おもしれぇ!次は貴様を犯してやるぜぇ!>
「……無理ですよ、ソレではね」
左手でバルバロスの下半身を指し、抑揚のない声で言い放った。
<ンア?>
自分のソレを見る。……凍っている。
<ナアアアアアアアア!!??>
「砕けろ」
右手でパチンと指を鳴らす。
バルバロス自慢のモノと、ついでにモアイが粉々に砕け散った。
<アンギャオアアアアアアアアアア!!!!キサマ、このアマ、やりやがったなアアアア!!!>
信じがたい激痛と屈辱に逆上したバルバロスは綾乃めがけて突進した。一歩ごとに床を震わせる。
巨大な猛獣がぶつかってくるが如き状況だが、綾乃は顔色一つ変えない。
右手を振った。
従えた吹雪が刃となってバルバロスに襲い掛かる。
<なんだと!?>
慌てて身体を翻すが、右腕を肩口から斬り落とされていた。
<ばかな、俺の身体に傷を……俺の皮膚を裂き、肉を斬り、骨を断っただと……何者だテメエ!!!>
「貴様の様な外道に名乗る名はありません」
再び右腕に吹雪が集まる。
「死になさい」
その腕をバルバロスに向けようとした瞬間、突然吹雪が拡散されてしまった。
『まずいぜご主人、マギアってやつのキャパが小さすぎてうまくコントロールできねえや』
「くっ……」
精神を集中させようとする。吹雪が集まったりバラけたり、一定しない。逆にバルバロスは好機と捉えた。
<なんだか知らんが、あの吹雪さえなければ……!>
「やめておけ、バルバロス」
圧するような声。
戦局は、もう一度動く。
誰も気がつかなかった。若菜は勿論、バルバロスも、綾乃も。
いつの間にか若い男がそこにいたのだ。
<お、王……>
バルバロスの搾り出すような声。
綾乃の全身に戦慄が走る。
まずい、すごくまずい。
「あれが、竜王……」
『ご主人、ワリィ、今の状態じゃアレ無理だわ』
先程とは別格の相手がそこにいた。
王と呼ばれた青年は周囲を見回す。
擬似魔法少女には、一瞥をくれただけだった。
綾乃を見る。
「……成る程、青のメイガスか。死んだと聞かされていたが、君ならばバルバロスじゃ荷が重すぎただろうね。契約器はマギアの中か?ふむ、その為の?」
再び視線を動かす。
須藤を目が合った。
何も言わず、バルバロスに戻す。
「私も参戦するつもりで出てきたんだけど、帰るよ。さっきプロフェッサーから通報があったんだが、魔人の姫君の手勢が隙を衝いてきたらしくてね」
<しかし>
「とりあえずヴァルキナスを当たらせているから問題はないと思うんだが、なかなか出来る奴がいるらしいんだ。ま、君は使わないけど」
<王、みすみす目の前の獲物を見過ごすと!?王のお力なら一瞬で一切合切蹴りをつけられるでしょうに!>
バルバロスの咆哮が響く。
「……私に逆らうのか?」
声量こそ普段と変わらない。しかし、その声は聞くものを一瞬で凍りつかせた。バルバロスは巨体を小さく縮ませている。
「だから君は二流なんだ。何も気付かなかったのか」
若菜は二体の会話の意味するところが理解できない。綾乃は理解できていた。
「帰るよ。腕と生殖器はプロフェッサーに補ってもらえ」
それだけ言うと、二者は侵入経路を引き返して姿を消した。
後には、青のメイガスと呼ばれた魔法少女、戦闘可能な擬似魔法少女二名、須藤の4名が残された。
「須藤さん」
後片付けと、撤収準備に慌しい彼女達の本拠地。
変身を解いた綾乃が須藤に責めるような視線を向けている。
「貴方がその気になれば、彼女を助けられたのではないですか?」
カメラが壊れていたとはいえ、みんなの前で魔物に処女を散らされ無惨に犯された少女。
生きてはいるものの、助け出した時には既に瞳に光がなかった。今後再起できるかどうかわからない。
その男は、重く響く声で答える。
「お嬢様自らのご命令であれば。自分が戦うとすれば、お嬢様お一人のためと決めております」
綾乃は唇を噛み、須藤を睨んだ。
「では命じます、次は戦いなさい!」
「敵よりも味方に多大な損害を及ぼすことになるかもしれません」
綾乃は須藤の胸を叩いた。本気で殴りかかったというより、憤りの矛先を見失った結果の所作に見えた。
「だから、その時には、私を……」
涙を流していることに気付いたのは須藤だけだった。
━To Be Continued━