魔物はとても上機嫌だった。
 狩りを愉しんでいたら魔法少女に出くわしたものの、返り討ちにすることができたからだ。
 彼にとって、まだ年端もいかぬ少女を犯し、嬲り、壊すのは最高の快楽だった。
 魔法少女を死ぬまで犯し、亡骸をゴミのように投げ捨て、一息ついたところでふと思い出す。
 最初に犯していた獲物はどうしたか。
 見つけるのはすぐだった。失神したまま転がっていたからだ。
「さて、と。こいつももう一回犯っておくか」
 魔物は倒れている少女に触手を伸ばす。手元に引き寄せ、先端が赤黒いソレを秘所に押し当て、
「おらっ、起きろっ!」
 ねじ込んだ。
 既に貫通済みであったとはいえ、みちっという嫌な音がする。
「……はっぎ!?いぎゃあああ!!」
 つい先刻まで処女であった彼女には過酷な責めに、意識は無理矢理覚醒させられた。
 まず視界に入ったのは、自分を犯している人外の異形。
 そして、彼女と同じくらいの年頃の、半裸で捨て置かれた女の子の体。
 犯し殺された魔法少女の亡骸だった。
 二度目の凌辱を受けている少女は、どこにそんな力が残っていたのかと不思議になるぐらい激しく暴れる。
 魔物はわざと拘束を緩めている。
 無論、逃げる獲物を嬲って愉しむためであるが、ともかく少女は股間を貫かれながらも、腕を使ってじりじり後ろへ後ずさる。
「そらそら、早く逃げろよ?でないとアレみたいにお前も死ぬぞ?」
 魔物の剛直は少女には大きすぎ、既に引き裂かれるような苦痛を伴っている。
「いやぁああっ!!助けて、おとうさん、おかあさん、おにいちゃん助けてえええ!!誰か、誰かぁっ!!」
 魔物の言葉に彼女は顔色を青くし絶叫した。必死になって逃げようともがく。
 右手が何かに触れた。

 その時だった。世界が静止したような感覚と共に、脳内に誰かの意識が流れ込んできたのは。
『娘、私の声が聞こえるか』
 頭の中に声が響く。
(…ぁっひゃ……は?な、何っ!?)
『……そうか、聞こえてしまったか……』
 全身を貫いていた痛みが消えていた。しかし、体は動かない。
(だ、誰なんですか!?)
『落ち着きたまえ。といっても無理か。私はそなたが右手で触れている剣だ』
 右手の方を見ようとしたが、やはり微動だにできなかった。というか、魔物……いや、全てが止まっているように見える。
『そなたの魂に直接接触させてもらっている。あまり長時間維持できないから単刀直入に言わせてもらおう』
 少し間をおき、静かな声が響いた。
『私と契約して戦って生き延びるか、普通の人として死ぬか選べ』
(……へ?)
 意味がわからない。思考をめぐらそうとするが、理解がついていかない。
『このままでは、そなたはあの魔物に殺されるだろう。だが、私は戦う力を与えることができる。代償は……』
 再び少しの間。沈んだ声が続く。
『代償は、一生彼の者達と戦い続けること。あの娘のように……』
 また剣と名乗った者の意識が流れ込んでくる。
 瞬間、少女は理解した。
 「彼」は、少女を助けに来た魔法少女と契約していたこと。
 「彼」は、魔法少女の相棒であり、無二唯一の武器であったこと。
 「彼」は、魔法少女を嬲り殺しにされたことに深い悲しみを、魔物に激しい憎悪を、自らに抑えようのない憤りを抱いている。
(人として、死ぬか、魔法少女として戦い続けることを選ぶか……)
『どちらを選んでも待つのは地獄かもしれない。……もうじき接触が切れる。その時に、選べ』
 目前には醜悪な魔物の顔が迫っている。
(こいつが……私を助けてくれたあの人を……)
 形をなしつつある決意。
(あなたの力を借りれば、あいつに勝てるんですか?)
『……魔法少女としての戦術経験・ノウハウは私に蓄積されている。適宜そなたに提供しよう。互角に戦うことはできるはずだ』
(あいつを放置していたら、また犠牲者が出るんですよね)
『際限なく襲い続ける』
(……だったらっ)

 接触が切れた。
 全身に激痛が戻る。しかし、少女の瞳には光が戻っていた。
「こんな…こんなやつらの為に…!」
 剣をしっかりと握る。
「みんなの笑顔が、見たいから!」
 横一文字に振り切る。触手を薙ぎ払った。反撃を受けるとは全く思っていなかった魔物が後ずさる。
 全身に力が戻っていく。傷が癒え、絡み付いていた触手が灰になる。
「見ててください!」
 立ち上がった。剣を逆手に持ち、刃を下に、柄を上に捧げ持つ。
「私の!」
 刀身の根元にある玉石に左手を押し当てた。
「変身!!」
 少女の体を光が包む。
『…落ち着いてイメージしろ。そなたの身を守る、強い衣服の姿を』
 光が収まった時。
 黒を基調とした、彼女を助けた魔法少女と似た感じの衣装に身を包んだ魔法少女の姿がそこにあった。
「ばかな……魔法少女だと!?」
「あの人の仇、とらせてもらいます」
 剣を構えた。
「……だが、所詮は即席。遠慮なくここで殺す!」
 四方から触手が伸びる。
 少女は切っ先を下げて地に着け、クルリと一回転した。
 光の円柱が彼女を包む。
 襲い掛かる触手は全て灰に帰す。
 続いて、大きく剣を振りかぶり、そして魔物めがけて振り下ろした。
 一閃が走る。
「うぐぉあ!?」
 反射的に身を翻す魔物だったが、左半身をごっそり断ち切られていた。
『……驚いたな。一撃で魔物の身を断てる程の魔力を放てるのか』
「うぐぁあああぁぁアアアあアああ!?このガキゃああ!!!なめやがって、なめやがって!!やりやがったな!!!」
 予想外の事態、そして痛みと屈辱に逆上する魔物。
 全身から無数の触手を放ち、突貫してきた。
(怖くない、怖くない!どう動けばいいのか、瞬時にイメージが沸いてくる!)
 少女の姿が消える。
 頭に血が上った魔物には、少女の動きを見極められない。
「どこ消えやがったガキィィィ!!!」
「ここです」
 背後にまわっていた。
 剣が白い光を放っている。
 魔物の目が大きく見開かれた時、それが振り下ろされた。

「……仇は、とりました」
 灰になっていく魔物だったモノを見つめる、新しい魔法少女。
『大したものだ。これほど自在に魔力を操れるとは思っていなかった。……油断と逆上に付け込めたのもあったろうが、完勝してしまうとはな』
「あいつは、強い方だったのですか?」
『中の下、だ。……だが、一瞬の隙で勝負がひっくり返ることはままある。あの娘もそうだった…』
 新しい相棒の悲哀が、彼女の中にも流れ込んできた。胸の奥に疼くような痛みを感じる。
『すまない。そなたの責任ではないのだ。……だが、これだけは憶えて欲しい。連中はその隙をつくり、狙うことに長けている。絶対に、隙を見せてはならない』
「……わかりました」
『私は玉石さえ無事なら折れようが砕けようがそなたの魔力で再生可能だ。存分に振るってくれてかまわない』
「大事に扱わせて頂きますよ」
『あの娘が持っていた力と知識は全てそなたのものだ。
 ……魔物によって穢された体は、契約した時に清浄に戻しておいた。
 体は清らかに戻っても記憶は消えぬし、こんなことでそなたの慰めになるとも思えぬが…』
 確かに、胎内の奥にあった鈍痛は消え去っている。
「いえ、ありがとうございます。……これからは、一緒に戦っていきましょう」
『勿論だ、我が主』
「はい、宜しくお願いします!」
 剣に向かってお辞儀。
 とても素直で純朴な子なのだろう。
『……急場をしのぐためとはいえ、巻き込んでよかったものか……いや、あのような悲劇を繰り返さないためにも、私がしっかり支えるのだ』
(私が、みんなを、この街を護るんだ。絶対に負けないんだから!)

 固く決意する両者。
 彼等は強い意志をもって戦いに身を投じる。
 誰かの為に、相棒のために。



 無惨な最期が待っていることも知らずに。