「ではグラドリエルには人間界を侵略する意志は無い…そう申すのですな」
 竜魔王は重く頷いた。
 黒い巨大なこの竜は、魔界にその名を轟かす支配者の一人である。
「もちろんですわ。我らが緑の世界は人間界無しでは存続すら怪しい世界。そのことは竜魔王も十分にご承知のはず…」
「ふむ。無論知っておるよ。しかしアグレアのミーディアンか……鬼どもにも困ったものだ」
 魔界三王の一人と恐れられ、賢王と讃えられる竜魔王は深いため息を吐いた。
 世界のバランスの維持に努めるこの黒の魔竜は魔王の徴である黒曜のローブを翻すと長い首をもたげた。
 創世の真竜だからとて、全裸で他国の王の前に出るのは失礼に当たる。
 しかも相手が麗しき女性とあればなおのことだ。
「まぁ、あちらにもあちら側の事情があるのは分かっておるがな」
 賢王は明晰であるが万能ではない。いや、神とてけして完全な万能では無いのだ。
 こちらが安定すればあちらで火種が上がる。あちらを何とかすればこちらが。まったく運命因子とはやっかいなものだ。皮肉にも程がある。
 神のように全てを見放し、享楽に溺れ引きこもるのも一つの手ではあるが、竜魔王は生真面目な性格だったので世界の在り様に無関心にもなれない。
 そして彼は弱い民草を見捨てることも出来なかった。
 いっそのこと魔王らしく暴君にでもなればもっと楽に生きられるものを。
 しかしこれが竜魔王の性分だ。好きでやってるんだから、まぁ仕方が無い。
 竜魔王の前には人間大の姿見の鏡が置かれていた。そこに映っているのは竜魔王のごつい姿ではなく、白いドレスを身に纏った美しい貴婦人の姿。
 長い艶やかな緑の髪をアップに編み上げ、ドレスの胸元は大きく開かれ豊満な胸元をこれ見よがしにアピールしている。
 だが過度にいやらしくは無い。むしろ清楚な雰囲気すら感じられる。
 セクシーでありながら清楚。この矛盾、アンビバレンツを見事に両立させている。
 括れた腰、豊満な胸元もそうだが腰のラインが実に色っぽい。清楚なドレスからうっすらと浮き上がるボディラインが何とも扇情的である。
口元に浮かぶアルカイックスマイルもグッドだ。
 昨今の脱いで見せればいいと考えている若いサキュバスどもには大いに参考にして貰いたい。まったく、脱げばいいと言うモノでは無いのだ。
 鏡に映るこの美しい貴婦人こそ、緑の魔法世界グラドリエルの女王シズその人だ。
 今現在竜魔王と緑の女王は鏡を使った魔法通信で直接会談をしている真っ最中なのである。
「…で、犯人の行方は?」
「人間界にて逮捕されましたわ。イスカリオテの魔法少女達が捕まえて下さったそうです。ですが…」
「その逃走途中にエメラルドストーンを落としたと…全く、なんたることだ」
 フンと鼻を鳴らす竜魔王。怒りのドラゴンブレスが鼻の穴からチョロチョロとわずかに漏れる。
「重ね重ね申し訳ありません。今現在回収し、封印の済んだ石は2個」
「残り時間は220時間足らずか……余計な問題がこれ以上出なければよいのだがな」
 竜魔王は瞳を綴じると深く頷いた。
「うむ、委細承知した女王よ。そなたの使徒と魔法少女の活躍に期待しようぞ」
「それがですねぇ……」
 女王シズは少し困った風な表情を浮かべた。
「どうしたのかね?」
「いえいえ。なんでもありませんわ♪」
 にっこりとスマイルを浮かべる女王陛下。これ以上竜魔王の縦皺を増やすのも哀れだと考えたのだろう。言葉を濁した。
 別れの挨拶を済ませ、通信を切った女王は深いため息を吐いた。
「魔法少女ならぬ魔法少年少女だなんてとても言えないわよねぇ……」


第2回『僕の事情と彼女の事情』

「はぁ〜〜〜〜っ」
 中2の少年、薫は校舎の窓枠にもたれかかると、ほう〜っと艶やかなため息を漏らした。
 片手で髪を掻き上げるその仕草はまるで女の子のよう。
 いや、見掛けはまるっきり女の子。それが男子向けのブレザーを着ているようにしか見えない。
「いかんいかん……」
 慌てて頭を振る。最近ますます仕草が女の子っぽくなって来ている気がする。
 窓から校庭を見渡すと授業が終わり、クラブ活動に励み勤しみ青春の汗を流す同世代の生徒たちの姿が見える。
 薫の目には彼らが眩しく見える――マジ羨ましい。
 青春の汗。ほとばしる汗。汗。アセ。あせ。
「…やばい。何か頭がおかしくなってきた…かも…」
 こめかみを落ちる変な汗を拭い、瞳を綴じて俯きぼやく。
 彼、那須薫(なす・かおる)は中学2年生。先月14歳になったばかりの少年である。
 一見女の子に見間違われることも多い彼だが、れっきとしたオトコノコだ。
 胸に膨らみは無いし、股間にその立派な証明も付いている。
 しかし大抵の人は信じない。
 肩まで伸ばした艶やかなそれでいてサラサラな濃い茶色の髪。細いうなじ、整った眉目に通った鼻筋、黒曜石のように耀く大きな瞳、リップが乗りやすそうな小さな唇。
 彼の第一印象は、どこからどう見ても輝かんばかりの少女――しかも超の付く美少女だ。
 身長は152cm、体重は41kg。肩幅は狭く、ほっそりと小柄。
 しかし運動神経は良くスポーツはわりと万能。意外なことに力もある。
 なにせ空手初段剣道二段合気道二段の腕前である。
 ちなみにどれも中途半端なのは問題を起こして道場を破門されたから。
 彼の魅力というか魔力というか変なフェロモンはあまりにも強力で、体育会系の先輩諸氏方に対して絶大な効果を催すらしい。性的な意味で。
 まぁ要するに道着姿の薫と一緒に練習していると欲情してしまうのだ。
 薫は男だからインナーなんて着けない。
 そんな薫の道着の隙間から、チラチラ柔肌が見えたりするもんだから、そりゃもー多少頭がオカしくなっても仕方のないことだ。
 男に告白されたことも一度や二度ではない。着替えの途中に襲い掛かって来たので思わず返り討ち。半殺しにしたこともある。
 結局町道場は出入り禁止、学校のクラブも追い出される始末である。
 昇段試験をきちんと受けてさえいれば、もっと高い段になっていたかもしれない。
 ちなみに柔道の段位を持ってないのは単に柔道の昇段試験は受付が15歳、中学3年生からという理由だけ。道場は既に破門済みである。
 薫は顔も可愛いがスタイルも良い。スポーツが得意にも関わらず、肉付きは筋肉質では無くすらりとしている。
 手足はむしろほっそりと滑らかで、まるで女の子そのもの。
 身長と比較すると長さもかなりのものだ。いわゆるモデル体型。
 学校の制服がブレザーなもんだから、どう見ても宝塚の男形とかそんな雰囲気だ。
 つまり、可愛くも凛々しい女の子が男装しているようにしか見えないのである。
 そのため少女たちの熱い視線はおろか、少年たちの熱い視線をも浴びる毎日。当然下駄箱や机の中は毎日ラブレターの山。
 これが1日や2日、小学生の頃みたいに誕生日とかバレンタインデーだけとかならまだしも、中学生になってからはほぼ毎日がそんな感じである。
 こうなると話は別だ。もう食傷気味、勘弁してくれと思う。
 誰か一人をさっさと選び、特定の恋人を作れば今日の事態を避けることが出来たのかもしれない。
 しかし薫は生真面目な性格だったため、遊びやそんな誠意の無い理由で誰かと付き合うなんてことはとても出来なかった。
 ゲームとかによくありがちな――例えば幼なじみの女の子とか、隣の美人なお姉さんとか、実は田舎に婚約者がいました――
とか、そういうことも無ければ運命を感じるような出会いもこれまで無かった。
 まぁ薫自身が校内美少女ランキングでぶっちぎり1位、彼女にしたいナンバー1と彼氏にしたいナンバー1なので運命の出会いもへったくれも無いのだが。
 そして今や、彼には人にはけして言えない――家族にも明かせぬ大きな秘密が出来てしまった。
 これでは彼女を作るなんて夢また夢。
 なにせ彼は魔法少女になってしまったのだから――

 魔法少女ハミングナスカは緑の世界グラドリエルからこの世界に持たされた秘宝『エメラルドストーン』を回収するために魔法使いユフィによって選び出された愛の戦士である。
 人類の平和のために無償で戦う正義の戦士と言えば聞こえはいいが、やっていることはただの強姦魔と大して変わらない。
 その選出方法は不明だが、どうせロクでもない方法か適当に決めたに違いないと薫は睨んでいた。
 兎に角、薫は魔法少女に変身して戦う羽目になった。
 敵は――同じく魔法少女。
 人間界に落ちたエメラルドストーンは、人間界にいる少女たちと融合し、周囲の魔力を吸い上げて活性化する。
 そして、その魔力を受けて少女たちは魔法少女へと覚醒してしまうのだ。
 活性化したエメラルドストーンは少女たちの胎内で子宮と融合するため、その活動を停止させるには直接子宮に精子をぶっかけるしかない。
 そうすればエメラルドストーンは停止し子宮と分離、膣から体外へ摘出される。
 ちなみにエメラルドストーンは異世界グラドリエルでは無害だが、人間界では周囲の莫大な魔力を無尽蔵に吸収するため、
およそ300時間後には大爆発することが判明している。
 ちなみにその際の被害予想は――爆心地から半径50キロの巨大なクレーターが完成するとのこと。
 1個でも残せば関東平野のど真ん中に巨大な穴が出来上がるという寸法だ。
 もし7個全てが連鎖爆発した場合、この日本という国自体が世界地図の上から消え去るだろうと薫は脅された。
「別に私はこんな町、どうなっても構わないんだけどねぇ〜♪」
 小鳥姿のユフィは翼を毛づくろいしながら無責任にもそうほざきやがった。
 薫には拒否権が無かった。嫌々ながらも承諾するしか無かった。
 タイムリミットは約2週間。それまでに7つのエメラルドストーン全てを回収しなければならない。
 だが敵である魔法少女たちもそう易々とエメラルドストーンを渡してはくれない。爆死すると説明しても無駄なのだ。
 魔石に魅了された彼女たちは己の願いのままに力を振るい、魔法の力に溺れ、争う。
 魔力の暴走のあまり理性は崩壊し、自分たちが爆死することも理解出来なくなるのだ。
 だから薫はぶん殴ってでも、強姦してでもエメラルドストーンを集めねばならない。この東京が巨大なクレーターになる前に。
 何としても7つの緑の魔石を集め、7人の少女たちの命を救う――そして薫は魔法少女の生活とは一生オサラバするのだ。
 現在集めたエメラルドストーンの数は2個。倒したのは魔法少女スイートハーツと魔法戦士シャスティスブレイバーの2人。
 幸いにもこの2人は小学生だったので比較的楽勝だった。
 嫌がる彼女たちを無理矢理凌辱するのは心が痛んだが、これも仕方が無い。正義を遂行し東京を守るためには心を鬼にする時も必要だ。
 それが魔法少女ハミングナスカに課せられた運命なのだ――


「あのぉ、薫さん? どうかしましたか?」
 鈴を鳴らしたような可愛い声にふと薫は我に返った。
 見慣れた景色が目の前にある。
 6畳の部屋にベッド、机、本棚にタンス、クローゼット――あれ、いつの間に自分の部屋に帰って来たんだろう?
 そうか、学校が終わってぼんやり考え事をしながら歩いていたっけ。
 そして自宅の前で笑顔の――が待っていたのだ。その彼女の黒髪のおかっぱ頭が目の前で揺れている。
 先程の鈴を鳴らしたような小さな声を発したのはこの少女――長浜悠の声だった。
 ちみっこい体。身長はハミングナスカに変身した薫よりも一回り小さい138cm、さらさらの黒髪を綺麗なおかっぱに整えている。
 表情はちょっとおとなしめで、たれ目がち。
 とても可愛らしいのだが、どこかおどおどした感じが何とも小動物っぽい印象を受ける。
 その、くりくりとした大きな黒い瞳が薫を見つめていた。
「あ、ごめんごめん。ちょっと考え事してた。なにかな、悠ちゃん?」
 薫はにっこりと微笑んだ。
 考え事というより魔法少女になっている時以外、ぼんやりすることが多くなっている。
 これも魔力強化の後遺症かもしれない。まったく…普通の生活を返してくれと叫びたい。
 そして目の前にいるこの黒髪おかっぱ少女こそ、昨晩ジャスティスブレイバーを倒し、凌辱した直後にナスカたちを襲いに乱入して来た本人だ。
 魔法少女スイートハーツ。彼女は3日前に薫がハミングナスカへ初めて変身し、戦った魔法少女でもある。
 つまり魔法少女狩りに成功した記念すべき第一号。
 悠は上目使いにじーっと薫を見つめていた。
 しゃぶっていた薫の肉棒から口を離すと、ツーっと唾液が零れ落ちる。
「あのっ……ごめんなさい…私『ふぇらちお』って、その…やったことがなくて…へたで…ごめんなさい…」
 大人しそうな悠が悲し気な表情で小さく謝った。油断すると聞き逃しそうなウィスパーボイス。
 どうやら薫がぼんやりしているのを、気持ち良くなかったと勘違いしたらしい。
 こっちこそごめん。小学5年生の女の子にフェラチオをさせている時点でアウトです。薫は心の中で謝った。
 実は悠の胎内からエメラルドストーンを無事摘出したものの、彼女の体には魔石の後遺症というか、魔法少女になった副作用が残ってしまった。
 そのひとつがこれ。とてつもなくエッチになっちゃうという代物。
 彼女たちの体内には膨大な魔力がそのまま残っている。
 魔力制御機関であるエメラルドスト−ンを取り出してしまったため、彼女たちは自身の体が魔力に順応するまでどうしても体が疼いて仕方が無いのだ。
 魔力が急激に増大すると、人は一時的に著しく性欲や食欲、睡眠欲や攻撃性などの原始的な欲求が増大するらしい。願いの力が暴走するのもそのためだ。
 これが物欲や食欲、睡眠欲なら良かったのだが、性欲となるとなかなか解決し辛い問題がある。
 いかんせん一人では性欲を満たすことが出来ないのだ。
 副作用の仕様上、一人エッチ即ちオナニーではなかなか達せられない、つまり満足出来ない。
 時間が経てば自然と魔力適合が進み解決する問題なのだが、今はその時間が無い。
 ここは薫が当事者として協力してあげるしか無かった。
 まぁ、昨晩は約束を破っちゃったし。


 夜の闇が濃くなり、雑居ビルの屋上を冷たい風が吹き抜ける。
 結界をバリアブレイクの一撃で破壊され、ハミングナスカとスイートハーツは緊迫の睨み合いをしていた。
 急に肌寒く感じる。セックスして汗ばんだ肌が風に煽られ急に冷えたためだろうか。それとも何か別の理由のせいか。
「…約束したのに、酷いです薫さんっ!」
 大粒の涙を溜めて抗議する悠――魔法少女スイートハーツ。
 白いレオタードからすらりと伸びた生足が――動いた。
 両手で魔法の長刀を構え、勢いよく振り下ろす。
 ブンッ、ブンブンッ!
 鋭い剣閃の残像がまるで大きな三日月のようだ。
 長刀とは長い杖のような棒の先端に厚みのある片刃の剣を取り付けた武器。
 振り回したり突いたり、自由自在に攻撃出来る。
 遠心力や梃子の原理の応用で力の無い女の子でも強力な打撃力を与える危険な代物だ。
 ましてやスイートハーツの魔法の長刀は魔力を切り裂く。
 闇夜に輝く残月が幾つも鋭い牙となってナスカを襲う。
 泣き叫びながら襲いかかる美少女というか幼女の攻撃を必死でナスカは――躱す躱す躱す!
 上に下に右に左に、体をくねらせ必死に避ける。
 先日みたいに「えいっ、やぁっ、たぁっ」と殴ってKOという訳にもいかない――どうしよう?
「絶対に許しませんからっ!」
 一方スイートハーツの瞳は真剣そのもの。殺る(やる)気満々である。
「私と一緒に戦おうって言ってくれたくせに、一人で犯っちゃうなんて……ずるいですっ!」
 ブンブンブン!
 泣きながら迫る悠。迫る長刀。
 鈍いとも鋭いとも言える白光がギラリと輝く。
 長刀も怖いが、悠の気迫の方がもっと怖い。
 当たったらマジ洒落にならない。痛いじゃ済まないだろうなぁ。
 思わずそんなことを考えてしまうハミングナスカ――魔法で幼女化した薫。
「だ、だってもうこんなに遅い時間でしょ? 小学生は寝る時間よ? 悠ちゃん、もう寝てるだろうって思って……」
 ちなみに現在は夜の11時過ぎ。悠は9時には寝ると言っていたのだが。
「…酷いです薫さん、二人で一緒に襲おうねって約束したのに! 私、すごく楽しみにしてたのにっ!」
 大粒の涙が可憐な少女の頬を伝って落ちる。
「悠ちゃん……」
 思わず見惚れ、足が止まるナスカ。
 ブンッ!
 スイートハーツはきらめく刃を情け容赦なく振り降ろした――
 しまった、一瞬回避が遅れる。
 ついにその一撃がナスカを捉えた。亜麻色の前髪がぱさりと切り落とされ、風に舞う。
「ひっ――!?」
 危ない。もう3mm鼻が高かったら当たっていたところだ。
 幼女化してて、鼻が小さくなっていて良かったと心から思った瞬間である。
「わ! 分かった、分かったから! ごめん! もうしないから!」
「だめです許しません今さら反省したって遅いです命乞いしたってむだです神様にお祈りする時間もあげません!」
 一口で言い切り、長刀を構える悠。目が完全に据わっている――怖い。
「じゃ、じゃあ、こうしよ! また今度暇な時間にエッチしよ? 約束する。だから剣を収めてよ! ねっ?」
 ナスカは必死になってペコペコ謝った。颯爽と華麗にジャスティスブレイバーを倒した無敵の魔法少女の姿はもうどこにも無い。
「死んでから反省してください。私も後で死んであげますからっ」
 ビュンビュンビュン! 突き突き突き!
 吹き荒れる嵐のように長刀が闇に乱舞する。
 薫は――決意した。


「明日! 明日、放課後エッチしよ!」
 ナスカの眼前で――長刀がぴたりと止まった。
「…本当ですか?」
 泣き腫らした黒い大きな瞳が上目使いにナスカをじーっと見つめる。
 グズグズと鼻をすする音。
「うん。ほんとほんと」
 こくこくと頷き、ナスカはにっこりと――顔半分を引きつりながら微笑んだ。
「……分かりました。それだったらいいです」スイートハーツは長刀を下ろした。
 はぁ−−−っと深いため息のナスカ。どうにか…助かった。
 ほっと胸を撫で下ろすとスイートハーツがとてとてとてと近づき、ナスカにすり寄り抱き着いて来た。
「えへっ…薫さん♪」
 やれやれ。このまま戦い続けていたら、いずれ彼女になます斬りにされるところだった。
 ナスカはちらりとスイートを見ると黒髪をそっと撫でた。
「えへへ……♪」
 にこにこと笑顔の甘えん坊――スイートハーツが頬をすり寄せる。
 もうすっかり機嫌が直っている。
「あれ〜もう終わっちゃうの?」
 突然女の子の声が響いた。
 青髪をトゲトゲにおっ立てたパンクヘア。前髪の一部を金色のメッシュに染め上げた魔法少女――ジャスティスブレイバーだ。
 いつの間にか全裸の彼女が胡座をかいて座り込み、のんびり見物を決め込んでいる。
「いやー途中で目が覚めたんだけどね。なんか、お取り込み中みたいだったんでさ。体思うように動かないし」
 あっけらかんと笑うジャスティス。
 彼女の瞳には理性の光が戻っている。魔石から解放されてどうやら正気に戻ったらしい。
 はぁ−とナスカは再び盛大なため息を吐いた。
 さて、これから彼女に説明して、説得しなければならない。
 それから――まだまだやることはたくさん残っている。
 ナスカは頬をすり抜ける風に、ふと夜の街並みを見下ろした。
 この街のどこかに残り5つのエメラルドストーン、それを持った少女達がいる――何としても彼女たちを――
 そしてこの街を守らねばならない。
 それが魔法少女ハミングナスカに課せられた使命なのだ――


 ちゅぱちゅぱちゅぱ。
 悠の小さな舌が薫の肉棒を舐めていく。
 全裸になった悠がベットに横たわった薫の上に跨っていた。
 白い痩せた小さな体。薫の股間に頭を、薫の頭にお尻を向ける丁度シックスナインの体勢だ。
 大きな薫の肉棒を小さな口で頬張るように含む。カリ首を舌が舐める感触が何とも心地良い。
「うっ……」
 気を抜けば射精してしまいそう。このままでは小学生の口に出してしまう。
 意識を堪え、お礼代わりに薫は目の前で動く悠の小さなお尻、その下の陰裂を愛撫した。
「…ん…あっ…っ、薫さんっ…んっ…」
 人差し指を悠の膣唇の中にねじ込む。ぬるっとした肉襞の生暖かい感触がぎゅうぎゅうと指を押し潰そうとしてくる。
「んーっ…ん…んっ…薫さんっ…ん…薫…さんっ……」
 薫の指の動きに感じ入る悠。舌の動きが止まる。
 ねっとりとした熱い肉の襞が指に絡み付いてくる。とても小学生とは思えない熟肉のうねり。
「…あ…ん…はっ…んんっ…あっ…薫さん…とても…気持ちいい…です…」
 蜜壷はすっかりトロトロで、熱い愛液が次から次へと溢れ出て来る。
「うん…そろそろ行くよ、悠ちゃん」
「は、はい…どうぞいらしてください、薫さん…」
 薫は悠の体をベッドに寝かせると、覆い被さるように正上位の形を取った。
 股を開く悠。胸元と表情を恥ずかしそうに隠している。
「あれ? …どうしたの?」
「…は、恥ずかしい…です…」真っ赤になった悠が小さく呟いた。
「あまり…じろじろ見ないで…下さい…」
「ダメだよ。ちゃんと見せて」
 薫は笑って悠の手を取った。
「…あっ……」
 ぐいと両股を開き、悠の全てをさらけ出す。
 薫は悠の股間のスリットに、そっと肉棒を押し当てると腰を沈めて挿れ始めた。
 すでに悠のあそこはたっぷり濡れている。薫の怒張した肉棒が挿し込められると、ぐぐぐっと小さな膣口が広がり、ぱっくりと呑み込んだ。
 悠とセックスをするのはこれでもう何回目だろう。最初に悠を凌辱してからすでに3日が経ち、あれから薫と悠は毎日時間があれば体を重ねるようになっていた。
 お互いに魔力が高まり、性欲が収まらないという事情もある。
 今日もこれから夜になれば魔法少女を探し出し、狩らねばならない。
 体力は温存しておきたいが膨らむ魔力を制御しやすくしておくのも大事な務めだ。
 残り時間は後8日と少ししかない。
 幸いなことに悠――魔法少女スイートハーツは魔力探査能力に長けている。
 彼女はエメラルドストーンの魔力波長を捉えることで魔法少女を特定出来るのだ。
 先日もジャスティスブレイバーをいち早く発見したのは彼女だった。そのお陰でジャスティスの尾行と監視が楽に出来た。
 予定では次の日、つまり今日悠と二人で変身する前のジャスティスに接触を図るはずだった。
 しかし発見したその日の夜のうちに狩ることに急遽変更したのだ。
 それには理由がある。あまりにジャスティスの行動が杜撰で、これ以上犠牲者を出すのが見るに絶えなかったせいだ。
 それにしても戦いの場には悠を呼ばなかったのは失敗だった。
 まさかあんなに怒るとは思わなかった薫である。


 ねっとりと絡みつく悠の膣の襞肉を内側から抉るように腰を動かす。
「…っ……ん、あっ…んっ……はっ…」
 薫が腰を動かすたび喘ぐ悠。その唇の端から悦楽の泡が零れ落ちる。
 両腕を薫の首元に回し、小さな囁くような歓声で啼き続ける。
 その細い足はピンと反り返り、爪先は快感にプルプルと震えている。
「うっ…くっ…あっ…」
 腰を使う薫も、もう限界だ。
 悠の膣肉がキュッと薫自身を締め付け、まるで貪り食うように捉えて離さない。
 悠の中をグラインドするたび強烈な快感が背筋を駆け抜ける。
「悠ちゃん……もう…でちゃいそう…」
 ガクガクガクと腰を振る薫。それに合わせて悠の喘ぎ声も高まっていく。
「…んっ…はっ…いいです…薫さん…中に、私の中に出して…くださいっ…来てください…」
「うん……んっ! 行くよっ悠ちゃんっ!」
 どぴゅっ!どぴゅっ!どぴゅっ!
 薫は溢れ出た欲情の塊を悠の胎内へと注ぎ込んだ。
「ん! …んっ…あんっ……ん…んんっ…ああっ…」
 がくがくと震える悠の体。
 びくんびくんと薫の体が射精の快感に打ち震える。
「…はあっ…あ…ん……んっ……」
 放心したようにぐったりと項垂れる悠。
 薫は身を起し、悠の体から離れた。
 ぬちゃりと白い糸を引いて悠の小さな蜜壷の中から、欲望を吐き出したばかりの肉棒が引き抜かれる。
 ごぶりと音を立て、白濁の液が淫唇の間から零れ落ちた。
「ふぅ……」薫は悠の隣に倒れ込んだ。
「えへへ…薫さん…」
 悠はそんな薫に抱き着くと、頭を薫の胸に押し当てた。
「…キモチ良かったです、薫さん♪」
「そう? それは良かった…僕も気持ち良かったよ」
「うれしいです…♪」
 二人はそのままベッドに寝そべり、エッチの後の余韻に浸った。

 しばらく静かな時間が流れる――
 悠が薫の方に首を傾けた。
「薫さんは…乙女心をちっとも分かってないです」
「そ、そう…かな?」
「はい。私、いつも薫さんと一緒にいたいんですよ?」
 ぷうと頬を膨らませる悠。
「……ごめんね」
 素直に謝ったので悠は微笑んで「もういいです」と許した。
「でも…もう置いて行かないで下さいね」
 そう言って再び悠は薫の胸に頬をすり寄せた。
「…えへへ♪」
 彼女が昨夜怒っていたのはエッチしそびれたからだけでは無い。
 折角仲間に加えて貰ったのに、肝心な時に内緒で行動をされては意味が無いからだ。
「でも……ほら、他の女の子とエッチしちゃう訳だし。そんな姿を見られるのは…やっぱりさ…」
「いいえ。だって一緒に犯れば罪の意識も半分こじゃないですか」
「悠ちゃん……」
「薫さんが辛いってこと、私知ってますから。出来るだけ女の子に優しくしてあげようって……ふふっ、女の子みたいなのに、女の子にとっても優しいんですよね、薫さんは」
「女の子みたい、ってのは余計」
 薫は起き上がると枕をポイッと悠に向って投げた。
 悠は枕をキャッチすると抱いてくんくんと匂いを嗅ぐ。
「…えへへ…薫さんの匂いがします」
「変なことしないの」慌てて枕を取り上げる。すると悠はまた抱き着いてきた。
 小さな悠の裸体を抱き返す。悠の体は胸も無いし、どちらかと言えば痩せていて肉付きもあまり良い方ではない。
 でも柔らかくて、すべすべしていてとても気持ち良い。


「あ。もう4時回ってるんじゃないですか?」悠が呟いた。
「…そうだね」
 机の上の時計を見る。
 4時12分。
 昨晩魔石の魅了から解放されたジャスティスブレイバー、彼女が今日ここにやって来るのだ。
 正常な思考を取り戻した彼女を説得した結果、快く仲間になってくれることになった。
「あの、薫さん…お風呂お借りしてもいいですか?」
 悠が上目使いに薫を見る。確かに汗と愛液と精液でベトベトだ。
「うん、いいよ。ゆっくり入っておいで」
「ありがとうございます」
 悠は長風呂が好きだ。
 床に散らばった服を取り、悠は裸のまま下の階へと降りていく。
 彼女を見送ると薫は服を着て、カーテンと窓を開け換気を行った。

 しばらくのんびりしているとピンポーンとチャイムの音が階下から聞こえて来た。
 彼女だろうか?それとも宅配の業者か訪問販売の営業か。
 薫は階段を下りて玄関に向かった。鍵を開け扉を開くとそこに――
「やっほーごめんごめん、ちょっと遅れちゃったー♪」明るい声。
 一人の女の子が玄関前に立っていた。
 少し青っぽい黒髪をショートカットにTシャツにデニム地のジャケット、パンツルックのスポーティな格好だ。小学生は高学年くらいの年頃か。
 黒髪は後頭部をちょっと刈り上げ気味にして、前髪を二つに分けている。
 髪を留めている銀色のヘアピンがお洒落のワンポイントらしい。
 ちょっと太めの眉と大きな瞳、にかっと笑みをたたえた大きな口元。
 全身から少女の快活さが表われ出ている。
「えっと…どなたでしたっけ?」
 呆然と見つめる薫をしげしげと眺めていた少女は、はーいと手を挙げ、にこり微笑んだ。
「やほー薫ちゃん、元の姿も可愛いねぇ。僕。気に入っちゃったよ♪」
「あっ…もしかしてジャスティス?」
「そうでーす♪ 僕がジャスティスブレイバーの新庄明日香でーす♪」
「…………。」
「あれ、薫っち? どうしたの?」小首を傾げる明日香。
「あはは…あ、いや、なんでも。えっと、初めましてかな。普段はつんつくてんじゃないんだ?」
 そう言って薫は自分の髪を指差した。
「あははー普段からあんな髪形してたらママとパパ、驚いて寝込んじゃうよー♪」
「そりゃ…そうだね。まぁ取り敢えず上がってよ。ジュースでも入れるからさ」
「あいあいさー、お邪魔しまーす♪」
 軽く敬礼すると靴を脱ぎ、明日香は薫の家に堂々と上がり込んだ。
 2階にある薫の部屋に案内する。


 部屋に入ると突然明日香はくんくんと部屋の匂いを嗅ぎ出した。
「ど、どうしたの?」
「エッチな匂いがする。淫乱な女の子の匂い」
 さすがは魔法少女。目敏い、というか鼻敏い。
「うん、悠ちゃんが来てる。今お風呂に入ってるよ」
「シてたの?」
「うん」
 ウソを言っても仕方が無い。薫は正直に言った。
 魔力増強で性欲を持て余しているのは関係者全員同じである。そういう運命因子が働くのだ。
「ふーん、悠ちゃんとエッチしてたんだ」
 ボーイッシュな明日香が色気漂う流し目で薫を見つめる。
 ジャスティスブレイバーのパンクルックも似合っていたが、ナチュラルな明日香もなかなかキュートで可愛い。
 魔力で体が疼いて仕方の無い悠と同様に、魔力で精力が強化された薫も今は欲求を抑えるのでまた一苦労なのである。
 さっさと魔法少女をやめたい理由の一つがこれだ。
 外見がいかに美少女とはいえ、薫の中身はれっきとした男の子なのである。
「だったらさ、今度は僕とする?」
 明日香はベッドに座るとペロリと舌舐めずりをした。
 小学6年生なのにエロ過ぎる。反則だ。
 むくむくと下半身に全身の血が集まり膨れ上がるのを感じる。悲しい男の子のサガ。
 薫はため息を吐くと窓を閉め、カーテンを閉じた。
 本能的欲求には逆らえない。
 二人は仲良くベッドの上に座った。
「薫ちゃん、顔は女の子っぽいのにここは凄いもんね」
 明日香は薫の上に跨がると薫の股間をズボンの上からさわさわと弄る。
 薫のアレはズボンの下で、もうガチガチになっていた。
「わ、悪かったね、女顔で」
「気にすること無いと思うけどな〜僕、薫っちも薫ちゃんも好きだし」
「ナスカは…一応女の子…なんだ…けど…うっ」
「じゃ、薫っちでいいや♪ これあるもんね」
 明日香はチャックを唇に銜えて下ろした。
 ご開帳〜にょっきりそびえ立つ肉棒。
 ついさっき悠の中に出したばかりなのに、もうすっかり元気を回復してる。


「…ふむっ…あむっ…」
 明日香は早速舌を使って竿を舐め始めた。たどたどしい手つきだが、勢いがある分悠よりも感じてしまう。
 薫は自分の女の子っぽいところを随分気にしているが、明日香にとっては羨ましい限りだ。自分よりずっと女の子っぽい。
 元気のいい明日香はクラスメイトの男子からも男扱いされている。
 自分で言うのもなんだが、男の子の方が良かったなーと思ったことも一度や二度では無い。
 でも――
「今は違うかな?」
「そうなの? なんで?」
「えへーん。今は薫っちと知り合えたからね。女の子でうれしいかなっと♪」
 亀頭の先をぺろり。
「うっ! 僕と知り合ったから…? ど、どうして?」
「それはもー薫っちとエッチ出来るからに決まってるジャン♪」
 明日香はぎゅっと薫のペニスを握り締めた――痛いんですけど。
「…明日香ちゃん」
 薫の呼び掛けに明日香は瞳を綴じて唇を突き出すと――顔を近づけて来た。
 薫も顔を寄せ、唇を重ねる。
 ちゅ。
 軽いキス。
「…僕のファーストキス、薫っちに取られちゃった♪」
「…一応昨日キスしたんだけど」
「僕気絶してたもん! それじゃノーカンなんだよっ!」
「…そ、そうなんだ?」
「そうでーす。キスはお互いがキスしてるって思って初めてキスになるんだよ?」
 明日香はにっこり笑った。
「唇を付けるのはただの接吻なのだ♪」
「じゃ、もっとキスしよ」
「…うん」
 ちゅっちゅっちゅっ。
 唇が触れ合い、舌が絡み合う。吐息が鼻にかかり、喉の中に息がこもる。
 二人の唾液が混ざり合い、滴り落ちる。
 頭がくらくらするくらい気持ちいい。
「はふ…あは…薫っち、キス上手だねぇ…」
「明日香ちゃんのキスが美味しいからだよ」
「あは…ね、こっちにもキスして」
 明日香はシャツをめくると胸をさらした。相変わらずブラはしてない。
 ピンク色の乳首が屹立し、ぴくぴくと震えている。
「うん」
 ちゅ。乳首を噛むように口に含む。
「あんっ! あっ…いいっ!」
 乳首の先を口の中で、舌を使って転がすように嘗める。
 同時に空いた方の乳房を手を使って愛撫。ほんのり膨らみかけの小さくも柔らかいおっぱいを激しく、力強く揉む。
「あん…あっ…」
「敏感だよね、明日香ちゃんって」
「薫っちだから…」
「……服、脱ぐ?」
「うん♪」
 お互い服を脱ぎ、裸になった明日香を薫は背後から抱き締めた。
 股間はもうすっかりびしょびしょに濡れている。
 裂れ目を何度もさすり、ゆっくり膣穴を確認してから指を入れる。
 にゅるっ。熱い肉が絡んで来る。
 もうすっかり蕩けている。受け入れ体勢は準備完了だ。
「ねぇ、明日香ちゃん…四つん這いになって」
「…こ、こう、かな?」
 まるで犬のようなポーズ。恥ずかしさに真っ赤になる明日香。その背後に立った薫は股間のものを構えた。
「…行くよ」
 薫は肉棒を明日香の淫唇に押し当てる。
「あっ…当たってる…薫っちのおちんちん…当たってるよぅ!」
「…入れるよ」
 薫は腰を突き出した。ぐぐっと狭い膣口を広げ、柔肉を掻き分けて薫のペニスが明日香の膣内に挿入される。


「ふぁ…あ! あぁっ! うっ、くっ、あ!」
 異物感に背筋を反る明日香。全てをぱっくり銜える頃には全身がぷるぷると小刻みに震えていた。
「だめぇ…気持ち良すぎ…薫っちのおちんちん…気持ち良すぎだよぉ…」
 肉棒を抽送するたび、明日香の白い背中がピクピクと震える。
 その姿があまりにも可愛かったので、思わず薫は明日香の背筋からお尻までをさわさわっと撫でた。
「ふぁんっ! ああっ…あっ! あんっ!」
 きゅーっと膣が締まる。
 やばかった――出してしまいそうだった。
 両腰を抑え、ぐいぐいと腰を突き動かす。抉るように貪るように。
 じゅぶ、じゅぶ、じゅぶ。
 溢れ出す愛液を押し出すように薫の肉棒は明日香の狭い膣内を掻き回す。
「ふぁ…ンっ! あっ…あんっ! いいよぅ! 気持ち良いよぅ!」
 まだ2度目ということで明日香の中は悠ほど馴染んではいない。それでも熱肉は薫の肉棒に絡み付き、ぎゅーっと締め上げる。
 どろどろに蕩けた蜜が熱を帯び、襞が蠢いて薫を離さない。
「…僕もだよ。明日香の中、とっても…気持ち良い…よっ」
「あくっ! あっ…あんっ…あっ!」
 肉棒を突き挿され、よがり狂う明日香。
 薫は繋がったまま明日香の体を持ち上げた。
 そのまま体を起こし、背面座位の態勢に。下からガクンガクンと突き上げる。
「あっ…あっ、あぁん!」
 うねるように絞り込む明日香の膣肉。
「うっ…で、出ちゃう…」
 薫も限界だ。もういつ出してもおかしくない。
「中っ…中に出しても…大丈夫だよっ…」振り向いてそう呟く明日香。
 涙目で潤んでいる。喘ぎ声がもう限界に近い――
「え、でも…」
 昨夜は胎内にあったエメラルドストーンが子宮内に入った精子を全て吸収したので妊娠の心配は無かった。しかし普通に中出しすれば妊娠してしまう可能性がある。
「へーき。僕…初潮、まだだから…妊娠の心配は無いよ…」
 明日香はにっこりと微笑み薫の耳元で囁いた。
「だから…たっぷり中に出して♪」
 ――!
 思わず薫は激しく腰を突き上げた。
「ひゃ、はぁんっ…ふぁっ…あっ…あ!」
 腰を突き動かすたびに明日香の最奥にコツンコツンと当たる。
「…うわぁ…薫っちのおちんちん…僕の子宮口を…ノックしてるよぉ…」
「うん。明日香ちゃんの子宮、気持ち良いよ」
「ぼ、僕…もうっ!」
 明日香が叫んだ。
「い、行くよっ…!」
 薫は股間に高まった意識を解き放った。
 どぴゅっ!どぴゅっ!どぴゅっ!
 灼熱の塊が明日香の中に放たれる。
「うわぁぁっ! 出てるっ、薫っちのせーえき出てるっ!」
 背筋を大きく反らし、ぴくんぴくんと震える明日香の体。
「まだ出てる…薫っちのせーえき、びくんびくんいってる…」
 どくどくどく。
 まだ射精が続いている。
「あふぁ〜」
 変な声を出して明日香が薫の体にもたれ掛かる。
「…明日香ちゃん」
「……んっ」
 二人は繋がったまま、もう一度キスをした。


「はぁ〜気持ち良かった♪」
 そう言って明日香は立ち上がった。
 肉棒がぬぷりと引き抜かれ、ぽろりと抜け落ちる。
 明日香の下半身――無毛の裂れ目、そこからごぶごぶと音を立ててどっぷりと白い精液が零れ、太股を伝って流れ落ちた。
「んじゃ、お風呂いこ」あっけらかんと明日香。
 ぴょんとベッドを飛び降りた全裸の彼女は薫に手を差し延べた。
 一緒に入ろうと誘っているのだ。
「いや、だからお風呂には悠ちゃんがいるんだけど…」
 悠は長風呂だ。気絶しているんじゃないかと思うほど長い。
「いいじゃんいいじゃん。3人で一緒に入れば。裸のお付き合いだよっ♪」
「はぁ…ま、いっか」
 さすがに連続2回戦。体もすっかりベタベタだ――
 薫もやれやれと重い腰を持ち上げ立ち上がった。
 裸の二人はお風呂場へと向うのだった。

「それじゃ、改めて説明しようか」
 お風呂を上がった3人はさっぱりした姿で薫の部屋へと戻って来た。
 薫は椅子に座り、悠は床に正座、明日香はベッドに腰掛けている。
 部屋の中に香料の匂いが漂う。同じボディシャンプーの香りがいつもの3倍。
「さて、昨夜はどこまで説明したっけ?」
 薫は明日香を見た。
 昨夜説得した際にこれまでの事件の経緯をかいつまんで説明してある。
「薫ちゃんがナスカに変身して悠ちゃんと戦うところまで‥‥かな?」
 こくこくと頷く悠。
「そっか。じゃあ一旦事件のあらましを整理しよう。本当は責任者に解説して貰うのが一番良いんだけど…」
 薫はベッドの上を見た。
 この東京救済計画の現地プロジェクトリーダー、異世界の大魔法使いは様々な体液が染み付いたベッドの上でグースカといびきをかいて眠っている。
 寝る時は人間体でも平気らしい。しかも全裸だ。
 バスト88cmの紡錘形巨乳がぷるるんと揺れる。
 風呂から上がるとユフィが寝ていた。石の封印作業はどうやら終わったらしい。
「えっへっへーエメラルドストーンの封印方法は企業秘密なんですぅ〜」
 そんな訳でどこでどういった風に封印しているのか分からない。知りたくもないが。
「アホは放っておいて」
 さて、ここ人間界は魔界の蓋と呼ばれ、多重世界の門《クロスゲート》が存在する。
 多重世界とは天界や魔界など様々な異世界、この世界とは《ことわり》が異なる世界だ。
 自然に次元ゲートが生まれるほど人口密度が高く、超高密度の魔力溜まりが点在するこの国の首都は、人間界でも混沌の渦と呼ばれるほどの高密度の魔力集中地帯らしい。別名《東方は龍の島》。
 人間界に魔力溜まりはそう珍しくないが、そういった場所が大都市に発達するのは極めて珍しい。
 大都市になれば人間界における魔力ユーザーこと《キャスター》、簡単に言えば魔法使いになる素質の高い人間も数多く集まって来る。
 薫や悠、明日香もそうだ。そしてユフィやまだ見ぬ魔法少女たちも。そこには運命因子という見えない何かが働くらしい。
 こういった魔力使いの適正者が多く集まる土地では、ますます大気中に含まれる残量魔力量が増える。
 無意識に魔力を集めるくせに、魔力をほとんど使わないからだ。
 そして時と共にその量は大きく膨れ上がる。これが魔素のスパイラル現象と呼ばれるものだ。
 魔族や死神、天使の餌場としては非常に最適だが、エメラルドストーンにとっては最も最悪の場所――
 限界まで魔力を吸い込んだ魔石は、1個が爆発しただけでもこの関東と呼ばれる地方を壊滅させるに十分な力を発揮する。
 当然体内に魔石を抱えた魔法少女は爆死。魂すら消滅。跡形も残らない。
 1個が首都圏で爆発した場合、一般市民の死傷者の数も1千万人は下らないだろう。喜ぶのは死神界くらいのものだ。


 元々エメラルドストーンは異世界グラドリエルの秘宝だ。7つしかないこの魔石はグラドリエル存続には欠かせないアイテムらしい。
 それを別の異世界の者が盗み出し、途中で落っことした。それがそもそもの事件の発端である。
 そして英明なるグラドリエルの女王シズは魔法使いユフィに人間界へ赴き、魔石を回収する使命を与えた。もちろん正式な滞在許可証を得てだ。
 期限は2週間。その間に何としても全てのエメラルドストーンを全て回収しなければならない。
 失敗した場合――この東京と呼ばれる大都市が大きなクレーターとなる。
 それだけでは無い、経済や物流の中心であるこの街が消滅した場合、最悪人間界そのものが破綻する恐れもある。
 引いては人間界に頼り切っている魔界やグラドリエルも滅びの道を歩む可能性も否定出来ないのだ。
 こうして魔法使いの少女ユフィは重責を伴って人間界にやってきた。
 彼女がまずやったのは適当な下僕――いや、優れた力量を持つ魔法少女を捕まえ――あ、いや、理解をして貰い協力を仰ぐことだった。
 そうしてユフィが選んだのが那須薫。
 薫は一見女の子に見えるが、どこからどうみても美少女にしか見えないのだが、れっきと男の子だ。
 当然魔法使いであるユフィは魔法でアナライズしているので彼が男だと最初から知っていた。その上で魔法少女にしたのだ。
 塾からの帰り道、夜道を歩いていた薫は背後から突然襲われ、暗い森の中へと引きづり込まれた。
 そんな訳で力づくでユフィに乱暴されたあげく童貞を奪われ、その上魔法少女にされた薫である。
 始めは魔法少女になることに抵抗した薫だったが、東京壊滅の話を聞かされれば無下にも出来ない。
「あと、女の子とヤリタイ放題です。魔法少女はみんな可愛い娘ばかりですよぉ♪」
 薫だって中学2年生の健全な男の子。そう言われれば心も揺らぐ。
 こうして那須薫は魔法少女ハミングナスカとなったのだ。
「はい先生、質問」
 すたっと手を挙げる小学6年生。
「どうぞ、明日香くん」
「なんで薫っちって変身すると小さくなるの?」
 いい質問である。ハミングナスカの外見はどうみても10歳程度の幼女だ。
 これはユフィが「魔女っ子は幼女が基本ですからねぇ」とほざきやがったからだ。
 薫は反対した。
 有り得ない、昔の魔女っ子はお姉さんタイプが普通だし、今だってプ○キュアとかは中学生じゃないか。
「それじゃ駄目なんです。やる気が削がれます」
 拳を固めて力説するユフィ。
 誰のやる気なんだ。
 げんなりした薫だったが、良く考えたら素のままの自分がそのまま魔法少女にさせられるよりは遥かにマシかもしれない。
 騙されているかもしれないが。
「とまぁ…そんな訳であの姿に決まった次第です」
「まぁ薫ちゃん、可愛いから別にいいけど」納得する明日香。
 その隣でこくこくと悠も頷く。
「でも、お姉さんになった薫さんも見てみたかったです。きっと美人さんなんだろうなぁ…」
 ぽーっと頬を赤らめ悠は呟いた。口の端から涎が垂れている。
「おっぱいとか大きそう♪」明日香もピンクの妄想にうふふと変な声を上げる。
 どうだろうか。初めて変身した時、薫はちょっとだけ自分の胸に触ってみた。
 ぺったんこだったがうっすらと乳房の感触があった。女の子の体だった。意外にしっくり来ることに驚きを禁じ得ない。
 スカートをそろ〜っと捲り上げると可愛い白のパンツ。その下にはもちろん何も無い。完全無欠のオンナノコの体だ。
「大丈夫っす。魔法で出し入れ出来ますよぉ」
 えいっとユフィが人差し指を振るとたちまちパンツの中にアレの感触が蘇った。もっこりと形が浮き上がる。10才の体に14才のアレ。ここら辺ユフィの趣味である。
「い、いいっ! 消して、早く!」


 薫はたしかに可愛い。
 クラスはおろか、学校、いやご町内でも1、2を争う可愛さで美少女ランキングのトップをぶっちぎりで走る人気者だ。
 小顔で肌も綺麗だし、将来は美男子、あるいは姓転換しての美少女になることが期待されている。いや期待するな。
 薫自身は男である、誰よりも男であることに誇りを持ちたいと願っている。
 それがどうして。何の因果でこんなことになってしまったのだろうか。
 はぁーと深いため息を漏らす。
 陰のある美貌もなかなかグッとくるものがある。
「まぁまぁ薫ちゃん。僕も手伝うから頑張ろうよ。命を助けて貰ったお礼もあるし、東京が無くなるのは困るからさ♪」
 明るく明日香が笑い飛ばした。昨夜処女を失ったばかりだというのに意外と元気である。
 まぁ…「もうちょっとで君爆死するとこだったんだよ、てへっ♪(byユフィ)」なんて聞かされれば、それどころの騒ぎじゃないのかもしれないが。
「それに、皆と一緒に居れば、一杯薫っちにエッチして貰えそうだしね♪」
 あっけらかんと言う小学6年生。露骨過ぎます。
 思わず薫の方が逆に耳まで赤くなってしまう。
 魔法の力を得、エメラルドストーンを失って彼女の中の何かが変わったのかもしれない。
「そういえば、やっぱり説得は無理だったんですか?」
 悠の質問に薫は「うん」と頷いて応えた。
 魔法少女の願いが魔力の暴走と共に抑え切れなくなり、魔法少女は自制が利かない状態となってしまうことはスイートハーツとの戦いの際、すでに判明していたことだ。
 ジャスティスブレイバーとも話し合う余裕は無かった。結局やはり魔法少女とは戦って、倒して止めるしかない。
「覚えてないんだよねーどうしてあんなに戦いたかったのか」
「私もです」頷く悠。
 結局ユフィの指示通り、胎内に直接精子を送り込み、エメラルドストーンを活動停止、速やかに摘出し回収するしか手段は無さそうだ。
 停止した魔石は封印処理さえすれば危険では無くなる。
「残りの石は後5つ。つまり5人の魔法少女を倒せばいい。あと残り8日、なんとか1日に1人のペースで探して行こう」
「おー」「はい」「ぐー」まだ寝てやがる。
 薫はジト目でアホ魔女を睨んだが、幸せそうにすやすやと寝息を立てるだけだ。
こいつに何を言っても期待しても無駄である。
 そうだ。こうなったらやるしかない。魔法少女を倒し、魔石を回収する。
 さもなくばこの東京は跡形も無く吹っ飛んでしまうのだ。
「はーい」
「なにかな明日香くん」
「僕、またムラムラ来ちゃいました。エッチして欲しいです♪」
「あっ、あの…私もです…」
 おずおずと手を挙げる悠。
 結局、3人はベッドからユフィを追い出し、初3Pでもう1戦することになったのである。


 夜の新橋。
 帰宅途中のサラリーマンが仕事疲れを紛らわし、一杯の酒で心を癒す。
 そんな大人たちで賑わう都内でも有数の繁華街は今日は一段と喧騒に包まれていた。
 あちらでは酔ったサラリーマンが数人肩を組みラインダンスを踊っている。
 こちらでは酔った者同士が千鳥足でストリートファイトを繰り広げている。
 道路の真ん中では数人の男たちが居眠りを決め込み、車が通行止めになっている。まさに文字通り、大混乱の様相を呈していた。
 そしてその怪異は街の裏側にも――林立するビルの間を軽々と飛び跳ね壁をひた走る怪しい黒い影。
 間違いない。こんなことが出来るのは魔法少女か魔法使いか――この騒ぎの関係者か、あるいは本人か。
 そして黒い影を追いかける二つの影。
 それは魔法少女たちの姿だった。
 暗い夜道、駅前の騒ぎのためにこの裏通りは人影が無い――と、二人の行く手に立ち塞がるように人影が現れる。
 すわ――敵か?
 走りながら緊張する二人の魔法少女。
 人影は――コート姿、初老の親父。
 男は突然コートの前をはだけた。
 ばさりとコートを開く。その下には何も着ていない。服もズボンも、下着さえも。
 裸一貫。黒い茂みと股間にぶら下がる陰茎。
 にやり――男は笑みを浮かべた。
「天誅ジャッジメントじゃすてぃーす!」
 げしっ!
 一秒たりとも止まることなく走り続ける少女達。
「じゃ…ジャスティスさん、今のは普通のおじさんでしたよ?」
 白いレオタードに燕尾服、黒いおかっぱ頭の魔法少女――スイートハーツは首だけ振り返り、倒れ逝く男の後ろ姿を見た。
 ジャスティスブレイバーの一撃を喰らったオヤジは全裸コートを棚引かせ、スローモーションで倒れ逝く。
「いいのいいの。変態に人権は無いのだ♪」
 青髪をピンピンにおっ立てたパンク風、全身を白のプロテクターに覆った魔法少女――ジャスティスブレイバーは二カッと白い歯を見せ微笑んだ。
「大体あんな粗チン、見せびらかす程のもんじゃないっつーの♪」
「包茎でしたね。ちゃんと治療してなかったんでしょうか……」
 別の心配するスイートハーツ。
 もし親父が聞いていたら、そっちの方がダメージがデカい。多分。いや絶対。
「見ーっけた! スイちん、予定通り追い込むよ! 薫っちに伝えて!」
 ジャスティスはビルの壁を平然と走る黒い影を追う。
「はいっ!」
 スイートハーツは燕尾服のポケットから携帯電話を取り出した。
 登録してある番号を押す。相手先は那須薫――ハミングナスカ。


 その頃薫は有楽町に近い雑居ビルの屋上に立っていた。
 Gパンのポケットに手を入れ夜景を見下ろし立っていた薫は深いため息を吐く。
「薫くん、スイートハーツから連絡来たよー♪ 作戦通りこっちに追い込むってさー」 
 小鳥のユフィが首から下げた薫の携帯を使っている。器用なことにハンズフリーのイヤホンを装着してだ。
「…石の反応、それにスイートとジャスティスの魔力反応もこっちに近づいて来るっす」
 パタパタと羽ばたくユフィ。
 この姿は低魔力消費モード。グラドリエルの住人にとって人間界は例えて言うなら深海のようなものだ。
 あまりにも魔力が濃すぎて人間体を維持するのが辛いらしい。
 要はエメラルドストーンと同じ。人間体になると魔力を吸収し過ぎて、魔力が抑え切れなくなってしまうのだ。
 そのための小動物モードである。この姿になることで周辺魔力から受ける影響を抑えているのだ。
「さぁ変身っす、薫くんっ♪」
「ううっ…やっぱり? やだなぁ………」顔を引きつらせる薫。
 何度変身したって嫌なものは嫌だ。一番嫌なのは、変身した自分が完全に女の子に成り切ってしまうのがとてつもなく嫌すぎる。
「ぶつくさ言って無いでとっとと変身し・や・が・れ♪」
 薫はしぶしぶ右手を掲げ、コマンドワードを唱えた。
「へんーしんっ、とうっ!」
 ジャンブした薫の姿がきらめく魔力光に包まれ、その姿がムクムクと縮み、幼女の姿へと変わっていく。
 幼女化しても髪形などは変わっていない。
 セミロングのツヤツヤサラサラの濃い茶色の髪。顔も造形そのものは14歳薫と同じだ。細い眉につぶらで大きな黒い瞳。ちょっと幼っぽくなった顎のラインは華奢で、Tシャツから覗く首筋の鎖骨のラインがなんとなくエロい。
着ている服はさっきまで着ていた薫の物がデザインもそのままに小さくなっただけである。
 10歳の幼い女の子に変身した薫はさらにコマンドを続け、ビルを飛び降りた。
「らぶり〜じゅ〜すぃ〜ハミングハミングルルルルル〜♪」
 夜空に舞う幼女の服が一瞬で弾け飛び、全裸になる。
 どこからともなく光のリボンが体を覆い包み込み、それと同時に髪の色が亜麻色に変化、そして光のリボンがブラウスとスカートへ。
 エプロンドレスが、白いニーソが、赤い靴が次々に出現する。
 パタパタと白い帽子がこれまたどこからともなく飛んで来て、頭に着地。
 手元に長い魔法杖が出現。パッと握り締める。
 変身完了――完全無欠の魔法少女の誕生だ。
 正面の道路を黒い影が走っている。近付いて来る。計ったようなジャストタイミング。
 人影の眼前にふんわりと着地、くるくると杖を回し、ポーズを決める。
「魔法少女ハミングナスカ、ただ今参上♪」
 ぱちりとウィンクでキメ。
「あなたのハートに一撃必殺★ …やさしく狩ってあげちゃうわよ♪」
 突然目の前に現れたロリ魔法少女の姿に黒い影は慌てて急停止した。
 驚き戸惑っているようだ。
 今がチャンスだ!
「いくわよ、ハミングブレス!」
 バトンモードの魔法杖を構えるナスカ。問答無用、光弾を撃つ撃つ。
 実は14歳の那須薫の状態からでも直接ナスカに変身することは可能だ。
 しかし中2の男子である薫にハミングナスカへの変身コマンドはあまりにも恥ずかし過ぎる。
 改善を断固要求したのだが、ユフィは「え〜それがいいんですよぉ♪」と言って聞いちゃくれない。だが無理なものは無理だ。
 そこで一旦幼女姿になってからの2段変身で妥協することにした。どっちがどう妥協したのかは分からない。
「それそれっ!」
 杖を構え遠慮なく光弾を連続でブチ込む。黒い影は眼前に白い円盤状の魔力障壁を展開して防御。
 足が止まりようやくその姿が分かった。獣人だ。しかも馬の獣人。こいつは――男?
「あれぇ〜? そんなぁ、違いますぅ、なんでぇ?」
 パタパタと闇夜を降りてきた小鳥――ユフィが困惑の声を上げた。
「この人、エメラルドストーン持って無いっす! っていうか男に融合は有り得ませんっ!」


「…えっ? 人違い?」慌ててハミングブレスを止めるナスカ。
 馬男の背後にジャスティスブレイバーとスイートハーツの二人も駆けつける。
 これで完全に挟み撃ちなのだが。
「えっ? でもエメラルドストーンの魔力反応はありますよ? この人が魔石の魔力に酔っているのは間違いないですけど…?」
 追いついたスイートハーツが詳細な魔力アナライズを行った。
「どうしよっか?」
 正義少女ジャスティスも困っているようだ。
「そうだねぇ。取り敢えず、ぶちのめせば? しばらく寝かせれば魔石の効果も消えて暴れ回ることも無くなると思うしぃ」
 乱暴だがユフィの意見ももっともである。このまま街を暴れる魔人ならぬ馬人を放置しておく訳にもいかない。
 人間界に仇なす魔人を倒すのは魔法少女の使命である。
「それなら、いくよっ!」
 ジャスティスが光剣片手に襲いかかった。
 素早く躱す馬男。足が速い。
「このっ、ちょこまか逃げるなっ!」
 光剣を振り回し追いかけるジャスティス。
 ハミングブレスで援護しようにもジャスティスが邪魔で撃てない。
「でりゃっ!」
 ガキン!
 光の防壁が光剣を受け止めた。かなり物理・魔法耐性の強力な魔力障壁《バリア》を習得しているらしい。馬なのに。
「ジャスティスさん、どいて下さい!」横からスイートハーツが長刀で薙ぎ払う。
 慌てて飛び下がるジャスティス。
 障壁を切り裂こうと放たれた一撃。しかし馬人は軽くバックステップ、攻撃を易々と躱す。
「あっ!」「くそーっ!」
 馬人のくせに――というか馬男だからこその素早い動き。
 おまけに硬いバリアで相当の防御力を誇る。
 さすがは魔族。なかなか侮れない敵だ。馬のくせに生意気な。
 こちらは即席チームなだけに連携もままならない。
 セックスばかりしてないで、少しはフォーメーションの確認くらいしておくべきだった。
 だが、今さら反省したところでもう遅い――今はやれることをやるしかない。
「あたしが牽制するから、ジャスティスは接近してあいつを足止めして。あいつの足が止まったらスイートはその足を封じて。いいわね?」
「あいさー」「はいっ!」
 ナスカとジャスティスは左右に散った。
「ハミングブレス!」
 魔法杖を構え、わざと散らして光弾を発射。馬人を攻撃する。
 最小の動きで躱す馬人。
 その間にジャスティスが一気に接近し、光剣で接近戦を仕掛ける。
 馬人は足を止めバリアを再び展開、光剣を防ぐ。
 キンッと響く金切り音。
 しかしその時、ガキンと光のチェーンが馬男のくるぶしを捉えた。
 スイートハーツの束縛魔法だ。
「やったね、スイート!」
「今のうちです!」黒髪の魔法少女は光のチェーンを必死で抑え込む。
 ジャスティスは一気に止めを刺さんと間合いを詰めた。
 一方ナスカもフォローに入ろうとハミングブレスの発射態勢。
「うらぁっ、天誅ぅーっ!」
「ハミングブレス!」
 ズババァァァァーンッ!
 激しい打突音。二人の同時攻撃が炸裂するも巨大な光のシールドに阻まれている。
 さっきの魔法バリアよりランクが上なのだろう。巨大な魔法陣の紋様が空間に描かれている。相当に強力な防壁だ。
「ちぇっ、ホントに馬? 生意気なっ!」呆れるジャスティス。
「スイート、これバリアブレイク出来ない?」
「でも、そうすると束縛魔法が……」
 ナスカの問いにスイートが申し訳なさそうに小さな声で答えた。


 思い出した。スイートハーツは同時に複数の魔法展開が出来ないのだ。
 悠があまりにも悲しそうな顔をするもんだから、悪いことを言った気分になる。
「だ、大丈夫っ♪ こんな奴なんか、ナスカにお任せっ★」
 パチリと華麗にウインク。
 とはいえ――あの魔法陣バリアはやっかいだ。
 魔力が光の紋様を描くほど、高密度で強力な防壁。
 それに今はスイートが足を封じているからいいものの、高速で動き回れては攻撃を当てることすらおぼつかない。
 急造チームで連携がまるでなっていないナスカたちでは一度自由にさせては再度捕えることも困難だろう。
 スイートにしてもいつまで束縛を続けられるか。一体、どうすれば――
「こうなったらナスカ、ハミングストライカーで一気に倒すしかないっす!」
 ユフィがパタパタと飛んで来て、ナスカの帽子の上に降り立った。
「え? でもあれって対魔法少女戦用呪文でしょ? あいつ男よ?」
「ダイジョーブっす♪ 本来は対神魔殲滅用の魔法をアレンジしたものなんすよー。あんな下級魔族のHPくらい、奴の魔力障壁をぶち抜いて瞬殺KO間違いないッス♪ 殺せないけど★」
「…分かった。それじゃジャスティスは牽制、スイートはそのまま奴を結界で足止めしてて。その間にあたしはチャージして一気に止めを刺す、これでいい?」
「あいさー」
「はいっ!」
 ジャスティスとスイートはそれぞれ頷いた。
「でやっ!」
 ジャスティスは靴のローラーを消し高速モードから通常モードへ移行、光剣を振り回し目茶苦茶に魔力シールドに向かって攻撃。
 ガキンガキンガキン!
 頑丈な魔力シールドを思いっ切りぶっ叩く。
 馬男はシールドをそのまま展開、どうやらジャスティスの攻撃を耐え凌ぐつもりのようだ。
 まさに狙い通り。
 その隙にナスカは馬男から50m程離れ、発射の予備動作に入った。
「響け雷光、轟け雷迎」
 魔法杖を翳し踊るナスカ。凄まじい量の魔力がギュンと一点に収束――
「閃く光の螺旋となりて」
 バシッとバトンを構え、ポーズを決める。
「行くわよ、雷光閃火ハミングストライカー!」
 ダッシュ――大地を蹴り、魔人目掛けて高速で飛ぶように突進。
 その瞬間。全身から噴出する魔力が雷光を呼び、ナスカ自身が巨大な雷鳥と化す――そのまま加速して一気に突っ込む!
 ガンガン、魔法陣をぶっ叩き続けるジャスティスの背後に迫る巨大な雷鳥。
「ブレイク!」
 そう叫んでナスカは切り返した。馬人の眼前、バックステップで飛び上がる。
 スイートとジャスティスもその場を離脱。
 雷鳥のエネルギー体だけが馬男に激突――魔法シールドをするりと突き抜け、内側で巨大な閃光の塊になった。
 大爆発。轟音に大地が震え、凄まじい閃光が馬男の魔力障壁を内側からブチ破る。
 ズドドドドドドド!
 巨大な閃光。
 クルクル、スタッ。
 空中を宙返り。回転から華麗に着地、くるりとターンを決めてバトンを振り翳す。優雅にポーズを決める。目許に横Vサイン。
 大爆発を背景にウインクでキメ。
「一撃必殺ハミング★ナスカ♪」
 ズドドドドドドド!
 燃え上がる大きな焔をバックに、逆光にきらめくハミングナスカの白い魔法衣。
 あまりにもカッコ良く決め過ぎである。思わず「おー」「パチパチ」と声援や拍手を贈ってしまうスイートハーツとジャスティスブレイバー。
 こうしてひとまずの戦いは終わった――


「それにしても…一体何だったの、こいつ?」
 ナスカはゴツンと軽く黒焦げになった馬男を蹴飛ばした。
 ハミングストライカーで馬男は黒焦げのKO。意識を失うと同時にエメラルドストーンの魔力反応も途絶している。
「何者かに魔力を付与されて…それで操られていた…という可能性はどうですか?」
 スイートハーツの華麗なる推理に全員はユフィを見た。
「うーん、あたしにもよく分かんないですぅ」
 本当に役に立たない魔女だ。
「でも、そうすると…どっかに操った奴がいるってことだよね?」
 ジャスティスはナスカを見る。
「…そうね」
 確かにその通りだ。この魔族がエメラルドストーンを持ってないということは、どこかに持っている者がいるということになる。
「じゃあ調べてみますね…って、え?」
 スイートハーツがはっと顔を上げ、叫んだ。
「薫さん! エメラルドストーンの魔力反応が!」
「えっ、どこに?」
「この周囲に! しかも大勢いますっ!?」
「なんですって!?」
 ナスカは慌てて周囲に視線を飛ばした。
 ゆらり蠢く人影の群れ。すっかり――囲まれている。
「うそっ、これってまさか――!?」

 ゆらゆらと蠢く人影が暗闇の中から這い出るように集まっていた。
 どいつもこいつもそろぞろと腕を前に延ばし、おぼつかない足取りで迫って来る。
 その集団は何者かに操られているようだ。魔法少女たちを取り囲もうと動いている。
 まるで出来の悪いホラー映画に出て来るゾンビのような雰囲気だ。
「…これみんな《キャスター》?」
「微弱なエメラルドストーンの魔力反応が感知されますが…一般人の方ばかりですね」
 ナスカの問いに、彼女と背中合わせに長刀を構えたスイートが答える。緊張の面持ちだ。
 謎のゾンビ集団。そこにいるのはゾンビな男たちだけでは無かった。
 ゾンビ男たちに抱かれた裸の女性の姿もある。若いOLや学生の姿。
 どうやらゾンビ男たちは街の暗闇の陰で女性を襲っていたらしい。
 専門用語でレイプ、俗に言う路上青姦とか集団輪姦って奴だろうか。なんともはや。
「これ全部エメラルドストーンに操られてんの?」
 ナスカはげんなりした。さすがにこれ全部を相手するのは面倒すぎる。
「何らかの魔法じゃないかなぁ? 魔法にかかってるのは男だけみたいだし」ユフィはパタパタとスイートの肩に移った。
「どうする? …一度退却する?」
「その方がいいかもしれませんね…」
 ナスカの意見に賛成するスイート。ジャスティスはと言うと――
「いやだっ!」
 ザンッと光剣を構え、ゾンビの群れに相対する。
「僕は悪から逃げないよっ!」
「逃げるんじゃ無くて戦略的撤退ってヤツ! これ全員ぶっ飛ばす訳にもいかないでしょうっ?」
「…!」
 ナスカの言葉に、ジャスティスは我が意を得たり――ニカッと微笑んだ。
「全員ぶっ飛ばすんなら問題無しだよね?」
「…ちょ、ちょっと待って!」
 止める間も無く、ゾンビの只中へ突っ込んでいくジャスティス。
「あちょージャスティスキーック!」
 げしっ。
 激しい飛び蹴りが女性をバックから犯していたスーツ姿の男を吹き飛ばした。
 肉棒がするりと抜け、白い精液が飛び散らばる。
 そのまま男の顔にローラーブレードを押しつけたまま、頭を地面に叩きつける。
「…君達、正義とはなんだと思う?」
 ジャスティスは自分をぐるりと取り囲むゾンビ男達を見渡した。
「こんな魔力に踊らされて…恥ずかしいとは思わないのかっ!」
 きらーん。ジャスティスの☆型サングラスに光が閃る。
「僕の正義は……僕自身の勇気だっ!」


 光剣を構えるジャスティスブレイバー。
「受けろ正義の必殺剣、ヒート・ザ・マックス!」
 ブーーン、甲高い唸り音と共に光の剣の長さが一気に数メートルに伸びた。
「一網打尽ジャッジメント!」
 えいやっと振り被った超ロング光剣の一撃が、男達を文字通り根こそぎ薙ぎ払った。
 ギャアとかウガァとかひでぶとか、様々な悲鳴があちこちで上がる。
「多い日も安心。峰打ちだから♪」
 この技は長さが増す分威力がグンと落ちる。今はせいぜい高出力のスタンガン程度の威力だ。
「おりゃー!」
 ぶっちゃけ殺さずに済むので全力全開。光剣を当たるを幸い振り回し、男どもを次々に薙ぎ払うジャスティス。
「おりゃりゃりゃりゃぁぁぁぁー!」
 右に左に吹っ飛ぶゾンビ男たち。
 まさに例えて言うならば、リアル三国志無双状態。
 魔法少女の手に掛かれば一般人など有象無象の塵芥に過ぎないのだ。

「…ユフィ、どう? まだ見つからない?」
「まだっす…申し訳ないですぅ」
 ナスカは念のため、いつでもハミングブレスで援護射撃を撃てる構えを取っている。
 スイートハーツの手のひらに載った小鳥のユフィはブツブツと必死で何かを念じていた。
 スイートも一緒に精神集中をしている。魔力の流れを制御してるのだ。
 結局戦略的撤退を諦めたナスカたちは相談の結果、この事件の首班であろう魔法少女を探すことにした。
 悠とユフィは二人の感知能力を連動させ、同種の微弱な魔石反応を除外した上で広域捜索を行っている。
 これはかなり高難度の魔法術式だ。
 今はそれをやれるといった二人の力を信じるしかない。
「あちょー♪」
 一方路上ではリアル無双を楽しんでいるジャスティスが一人大暴れしている。
「そこのけそこのけ正義が通る♪ 悪漢どもに情けは無用〜♪」
 本当に楽しそうだ。やれやれ。
 道路は倒れたゾンビ男やら巻き込まれて倒された半裸の女性やらですっかり死屍累々の有様である。まぁ実際に死んでいる訳じゃ無いけど。
「…やいやいやい、手前ら! この正義の使徒に逆らうたぁいい度胸だ、べらんべー。この町の平和を乱す狼藉乱暴不届き者は、あっ、この僕が月に代わって許さないぞっ!」
 ジャスティスも口上のレパートリーが無くなって来たのか、だんだん訳が分からない単語の羅列になってきている。
 倒れた全裸男の股間をギュッと靴で踏み潰し、ジャスティスはまるで歌舞伎のような見栄を切った。
 あれはちょっと痛そう。
「ついでに気持ち悪い痴漢変態強姦魔も一掃!」
 ぎく。
 ちょっぴり強姦魔というキーワードにドキリとするナスカ。
 ジャスティスがクルリと笑顔で振り返った。
「ナスカっちはダイジョ〜ブだから安心してね。気持ち良かったし♪」
 またクルリと振り返る。
「…という訳で愛の無いセックスは天と地が赦しても――この愛と正義の戦士ジャスティスブレイバーが赦さない! この正義の星印を恐れぬのならば掛かって来いっ!」
 相手は大して攻撃手段の無いゾンビ男軍団なんですけど。
 ばきっ!げしっ!ぐしゃっ!ずべしっ!
 言ってる傍からスタジャン姿の青年が殴られ昏倒した。白衣のお医者さんと思しき老紳士が蹴倒され、ゾンビ数人に犯されていた看護婦が光剣スタンショックで悶絶昇天。
 他数名がバッタバッタと薙ぎ倒される。まさに手加減無しのザッツ正義オンパレード。
「さぁさぁ次つぎカモンカモン〜♪ 僕の愛の一撃を喰らいたい奴はどこのどいつだ!」
 しゃきーんと闇夜に光剣がきらめく。
 愛か。愛は大事だよね。
 エッチしたのは任務なので仕方なく…なんて言えないよな。墓場まで持っていこう。そう心に誓う薫だった。


「へぇー愛ってそんなに大切なものなんすかぁ?」
 ユフィがほへーと感嘆の声を上げ、ナスカの帽子の上に降り立った。感心するポイントが若干違うのは気のせいだろうか。
「…ってユフィ、捜索は?」
「もう終わったっス♪」
「…それじゃ?」
「はい、大体の位置は判明しました」微笑むスイート。
「どこ?」
「あそこです!」
 ビシッ。スイートハーツは目の前に建つ高層ビルの屋上を指差した。
 20階建てくらいの、周辺より一際高い大きなビル。そこにはきらびやかなネオンサインの看板が光輝いている。
 HATSUSHIBA。大手電機メーカーの名前だ。半年くらい前に社長が交替したことをニュースで見た覚えがある。
 なんとなくエロそうなオヤジだったのでよく覚えている。
「あのビルの屋上です!」
 スイートハーツは確信を持って、自信満々気にそう断言する。
 と、その背後にゆらり忍び寄り迫る黒い男の影。
 バキッ。長刀の峰が男の脳天をぶちのめした。バタン、キュー。
 振り向きすらしない。魔法少女とはかくも恐るべし存在か。
「いよっし!」
 たっぷり心ゆくまでリアル無双ごっこを楽しんだジャスティスは笑顔で頷いた。
「僕先に行ってるよっ! ダッシュローラー、サリーゴーっ!」
「え? ちょ、ちょっと!」
 軽く飛び上がったジャスティスは靴裏のローラーブレードを加速させると凄まじい勢いで飛び出した。
「もうっ! あのばかっ! こらー待ちなさーいっ、ジャスティスっ!」
 ナスカが制止する間も無く飛び出していくジャスティス。本当、鉄砲玉見たいな子だ。
「もうっ…イノシシ娘なんだからっ! スイート、追っかけるわよ!」
「はいっ、薫さんっ!」

「えいっ!やぁっ!とりゃぁーっ!」
 当たるを幸い、右に左に薙ぎ倒す。気持ち良い〜魔法少女ってやっぱ最高♪
 高速モードでゾンビ男たちの群れを薙ぎ払いつつ強行突破、一気に包囲網を突き抜けたジャスティスは大ジャンプ、そのままの勢いを駈ってビルの壁面を駆け昇った。
 屋上を飛び越し、空中から目標に肉迫、強襲を仕掛ける!
 驚く隙も与えないぞ――
「往生せやぁぁぁぁぁっ!」
 まるで任侠映画に出て来るチンピラの台詞である。正義のヒロインとはとても思えぬ雄叫びを上げながら光剣を大上段に構え、一気に振り下ろすジャスティスブレイバー。
 目標は――いた!
 赤い水着のようなコスチューム。白い襟に黒いネクタイ。長い黒髪。頭には白いウサ耳……これって――
「…ウサギちゃん?」
 赤いバニーガールはにこっと微笑むと腕組みを解いた――その手に何かを握っている。何だアレ――
 白銀に輝く拳銃。回転式の大型銃がいつの間にか、魔法のように現れ握られて――いや違うっ、魔法だ!
「天使のリボルバー♪」
 バニーガールは躊躇無く引き金を引いた。
 ガンガン!
「わっ! このぉっ!」
 キンキンッ!
 素早く光剣を切り返し、立て続けに銃弾を打ち落とすジャスティス。
 相手を確認せずに攻撃を仕掛ける方もどうかしているが、警告も無しに発砲する方もどうかしている。
「あら、なかなかやるじゃない」
 若い女の声だった。歳は薫――本来の薫の年齢とそう変わらないかも。せいぜい15か16くらいか。
 抜群のプロポーション、大きなおっぱい、括れた腰。発育は立派だが、まだ声にはあどけなさが残っている。
 銃弾を打ち落とした衝撃を利用して空中でバク転、体勢を整えたジャスティスはビルの屋上に着地――しようとして足下に何も無いことに気付いた。
「うぇ? ――うそぉっ!?」
 銃弾に弾き押され、その上バク転である。完全に着地点を見誤っていた。
 ビルに届かない――落ちちゃうっ!!


「スイート!」
 追っかけてビルの壁面を昇っていたナスカはスイートを一瞬見て叫んだ。
 迷うことなく魔力ブースト全開、大きくジャンプ。空中に飛び出す。
「はいっ!」
 アイコンタクト、ナスカの目を見た瞬間にスイートハーツは薫の行動を理解した。
 同じくジャンプ。スイートハーツは長刀を両手に持ち、上方に大きく翳す。
 飛び上がったナスカがスイートに向って落ちる――長刀の中央を踏み台に――その瞬間スイートは魔力障壁の斥力場を展開。
 ナスカはさらに垂直ジャンプ、斥力場に弾かれた勢いでさらに加速。
 魔法杖を天に翳し、ロングポールモードよりさらに大きく延長。
「掴んで!」
 ナスカの声にジャスティスは手を伸ばし、ナスカの魔法杖をはっしと掴んだ。
 そのまま勢いを逆に利用してクルリと1回転、ネオン輝くビルに向かって飛び出す。
 放物線を描いて落下するナスカ。左腕のリボンを振り解き――
「リボンシュート!」
 振り出したリボンがギュンと勢いよくビルの方向へと伸びる。
 そこにはスイートがいた。
 先に空中を落ちていた彼女は結界壁を展開、三角蹴りの要領で元のビル壁に戻っていたのだ。
 長刀を翳したそこにシュルルとナスカのリボンが絡みつく。
「――えいっ!」
 スイートは長刀を振るとリボンを引き寄せた。同時にナスカもリボンを元の長さに戻す。
 スイートの元に体ごと引き寄せられ、無事ナスカも元のビル壁に戻ることに成功。
 この間わずか数秒弱。

「はぁはぁ……」「はひはひ……」「はぁ…っ…」
 3人はビルの窓の張り出し部分に着地すると各々息を荒く継いだ。
「はぁ〜た、助かったぁ〜さんくす、薫ちゃん、悠ちゃん♪」
「もうバカ! このおたんこなす! 何やってんのよ!」
 ナスカは顔を真っ赤にしてジャスティスに詰め寄った。
「一人で勝手に飛び出し過ぎっ! 貴女空飛べないんだから、落ちたら痛いじゃ済まないわよ?」
 飛べない魔法少女墜落死、なんて洒落にもならない。
 ちなみにナスカもスイートも空は飛べない。
 ナスカは帽子の魔法力で空中をゆっくり降下することは出来る。スイートも結界の足場を空中に組むことで空中を歩くことは可能だ。
 しかし二人とも機動的な空中戦闘はとても無理。
 魔法少女の肉体的な能力は魔力ブーストで飛躍的に高めることが出来る。
 魔力ブーストと身体を保護する魔法障壁、魔力で展開する魔力障壁のバリアにより魔法少女は地上のいかなる場所でも戦闘が可能だ。
 しかしうかつな場所でうっかりな行動をすれば自滅する可能性も少なくない。
 年間、それが原因で死亡する魔法少女のなんと多いことか。
 ちなみに余談だが天界系列の魔法少女の一番の死亡原因は墜落死である。
 天界の使徒である天使はデフォルトで空を飛べる能力を授かっているが、魔法少女が必ずしも空を飛べるとは限らない。
 むしろ飛べない魔法少女の方が数は多い。
 飛べる天使と飛べない魔法少女の組み合わせもさることながら、魔力消費0で飛べる天使と飛べる魔法少女の組み合わせも非常に危険が多い。
 高空で魔力切れになって墜落、そのままお亡くなりになってしまうこともままある。
 つまり、空を飛ぶ時には細心の注意が必要ということだ。
 ――で。

「な、ナスカさんっ!」
 スイートハーツの叫び声にナスカは振り返った。
 目前に、ニッコリ微笑む黒髪の美女。赤いバニーガールが立っている。
 いや、何にも無い闇夜の空に、ふわりと浮いている。
 こいつ、空を――飛べる魔法少女!?
「悪魔のオートマチック♪」
 バニーガールの右手に黒光りする巨大な自動拳銃が姿を現わす。
「ばぁん♪」
 ガンガンガンガン!
 黒い銃が白いマズルフラッシュを立て続けに炊いて光の銃弾を放つ。
「くっ!」「んっ!」「ていっ!」
 ナスカ、スイート、ジャスティスは壁を蹴りビル壁を飛び上がった。
 ビルの窓に着弾した弾丸がガラスに弾け、光となって消える。
 間違いない、魔法の銃弾だ。
「昇って! 屋上で迎撃するわ!」
「はい!」
「あいさー!」
 ガンガンガン!
 ドキュン!ドキュン!ドキュン!
 両手に構えるリボルバーとオートマチック。それらが次々に火を吹いて光の弾丸を撃つ撃つ撃つ!
 3人はビル壁を走り昇りながら、右に左にランダム回避。
 各々剣や杖や長刀を振り回し、銃弾を弾き切り裂き打ち落とす。
 ガンガンガン!
 バニーの拳銃は一向に弾が切れる様子がない。
 いや――切れないのだ。
「リロード♪」
 装弾が切れたら拳銃にキス、コマンドを呟くだけで銃弾が回復する魔法道具《アーティファクト》らしい。
 ちなみに数えてみたところ、リボルバー側は6発、オートマ側は15発。
「もうっ――なんて便利な武器なのよっ!」
 そう叫ぶナスカだが今は我慢、耐え凌ぐしかない。ここで戦うのはあまりにも不利過ぎる。
 屋上のネオンサインが近づく――もうすぐだ。
 3人はビルの頂上に到達すると振り返った。
 黒い影が夜空に閃く。
 3人から離れた場所、光り輝くネオンサインの巨大看板。その前にすたっと降り立つ赤いバニー。
 彼女はクルクル拳銃を回すと背中側に納めた。
 どうやらあの大きな白い尻尾がガンホルスターの役目を果たしているらしい。
 4人の魔法少女、3対1が静かに対峙する。
 逆光だが、こうして見ているとバニーはすこぶる美少女だ。
 以外と化粧気が無い。風俗っぽい格好とは裏腹に、顔のメイクはナチュラル系。薄いアイシャドウに切れ長の黒紫の瞳。真っ赤なルージュ。
 これでもかと張り出した巨乳。括れた腰つき。
 プロポーションも見事だが、顔もなかなか可愛い。ちょっとキツ目の鋭い顔つきだが、クールビューティなお姉さん系と言ったところか。
 シャギー気味、広がったストレートの長い黒髪がとても良く似合っている。
 ふーんと舐め回すように3人を見つめ、バニーは口を開いた。
「…私のお茶会、マッドティーパーティは女人禁制なんだけど?」
 眩しいネオン看板をバックに黒髪のバニーガールは腕組みをしてふんぞり返る。
 間違いない。この女、このバニーガールこそが今回のターゲット。
「誰かしら、呼びもしない飛び入り参加《ゲスト》のお子さんたちは?」
 小首を傾げてバニーガールは呟いた。
「やっぱり。下の騒ぎは貴女の仕業なのね?」
「ええ、そうよ」
 ナスカの問いにバニーは素直に答えた。
 ジャスティスブレイバーがずずいーっと一歩前に踏み出る。
「僕らは正義を守る魔法少女戦隊ジャスティス3――」
 べきっ。
 スイートの長刀の峰がジャスティスの顎を直撃。
「ぐぁ、あいたた…」
 ナスカは目線だけでスイートに礼を贈ると一歩前に出た。
「…あたし達は魔法少女を狩るモノ、よ」
 魔法杖を構えるハミングナスカ、長刀を構えるスイートハーツ、慌てて光剣を構えるジャスティスブレイバー。

「…で、その魔法少女を狩るモノさんがこの私に一体何のご用かしら?」
「貴女の体の中にあるエメラルドストーン、それ、大人しく渡して貰えないかしら?」
「ああ、この力の源?」
 バニーガールは下腹部を愛しそうに撫でた。どうやら自覚はあるらしい。
「私はこの力で世の中の男たちに愛をあげるの」
「…愛?」
「ええ…そう。それが私の願い。私の無限の愛の奉仕活動を邪魔するって言うのなら……」
 にこやかに笑みを浮かべるバニーガール。
「あなたたち…お月様までぶっ飛ばすわよ♪」
 チカッ、チカッ、チカッ。
 ネオン看板のライトが4人の姿を明るく照らし出し、くっきりと黒い影を床に刻む。
 少女は微笑んでいた――その瞳を暗く、どんよりと濁らせて。
 全身から放たれる凄まじい魔力。これまでに無く感じる強大な石の力。
 ―――やばい。
 ナスカは残りMPの残量に内心焦りを感じていた。
 さっきの全開魔力ブースト、それにバニーとの戦闘。ここに到達するまでにかなり余計なMPを消費してしまった。
 残りMPは――ハミングストライカー1回、それにプラスα程度。
 ハミンブレスだと数発分、リボンカッターやリボンシュート、リボンバインドなど魔力念体創造や制御系の技は意外にMP消費量が高い、もう使えないかも。
 この残量MPでどこまで戦えるか――勝てるかどうか、ギリギリのとこだ。
 しかし、ここで引き下がる訳にはいかない――奥歯を噛み締め決意も新たにナスカは叫ぶ。
「行くわよ、みんな!」
 眩しく輝く光と強い闇の中、新たな戦いの火蓋が今、切って落とされようとしていた――

 《つづく》


魔法♂少女ハミングナスカ
第2回『僕の事情と彼女の事情』



 今度の魔法少女は男をたぶらかし操る能力の持ち主みたい。お陰で街は大パニック!
 魔力を消耗して大苦戦のあたしたち。
 おまけに相手は空飛ぶ――巨乳のバニーガールだなんて!
 あたし達の中で空を自由に飛べるのってユフィだけなのにっ! 一体全体ど−すんのよっ!?
 次回、魔法♂少女ハミングナスカ。第3回『彼女はエキセントリック★』に一撃必殺ハミングナスカ♪