「ここか」
電車を乗り継ぐこと数時間。てくてく歩くこと数時間。山の中、大和は黒いピラミッドを見上げていた。
ダミアンの本拠地。アリサが捕まっているはずの場所。
すでに周囲は真っ暗。夜の山はしんと静まり返っている。ここまで来る間に、
アリサはどんな責め苦を受けているのだろう。想像するだけでちんこがギンギンになってしまう。
「へんしん」「へんしーん」「マジカライズ」
大和と明美、そして絵梨華がさっと変身。
「ナイトメア☆ヤマト、邪悪に参上」
「ナイトメア☆アケミ、癒して参上」
「マジカル☆エリカ、優美に行くわよ」
変身して順次名乗りを上げ、他の者もそれに続いていく。
「ナイトメア☆リリム、ただいま参上」
「ナイトメア☆リリス、ゆっくりと参上です〜」
「ナイトメア☆エステル、美麗に参上」
「ナイトメア☆ルゥ、わんわんと参上わん」
「ナイトメア☆レイ、闇わんわんと参上」
「エンジェル☆シルク、清楚に光臨です」
この9人で黒の神殿に挑む。
「いいかみんな。敵が出たら、『ここは任せて先に進め』なんて言わずに、全員で袋叩きにするんだ」
ヤマトの言葉に全員がしっかりと頷く。
「ダミアンが出たら、アケミ先生お願いします」
「はいはい」
ダミアンのちんこには、アケミ先生のおっぱいで対抗。それが全員で考えたちんこ対策だった。
「では突入」
全員でぞろぞろと用心しながら歩き、のぽっかり開いた大きな入り口をくぐると、
「はうーん」
ばたっと倒れた。天使のシルクが。
「ふえーん」
「はいはい」
力の抜けたシルクをエリカがずるずると外に引っ張る。外に出た途端、シルクはびしっと立ち上がった。
「入れないでーす」
どうやら天使を封じる結界は機能しているらしい。神殿内ではシルクは動くこともできない。
「シルクはここで待ってて」
「……分かりました」
仕方ない、といった表情でシルクはエリカを見上げる。その手を取ってきゅっと握った。
「エリカ。無事に戻ってきてください」
「分かってる」
そしてエリカは金色の髪をたなびかせ、神殿に踏み込んでいった。
「皆さん。お気を付けて」
いきなり一人減り、8人は神殿の内部に入っていく。
シルクはその後ろ姿を見送ると、神殿の前で体育座りして待つことにした。
内部に入ると、大きな階段が上まで続いている。
「前に来たときはずっと一本道だったわ」
前回、魔法天使や正義の魔法少女と突入したエリカが言う。
だが今回も同じとは限らない。
階段を上がり、だだっ広い玄室に入ると、全員の足が止まった。
部屋の奥と左右。ぽっかりと三つの出口が開いている。
「増えてる」
エリカが呆然と呟く。以前は奥の一つだけだったのに。
「これ、真っ直ぐでいいんじゃない?」
「そうね……。以前も真っ直ぐだったし」
ヤマトの意見にエリカも賛同し、左右は無視し、全員で真っ直ぐ進むことにした。
まずヤマトがくぐり、次にエステルとエリカが一緒に出口をくぐり−
すとん
3人入ったところで、その出口が閉じた。一瞬にしてただの石の壁に変わる。本当にいきなり壁に変わったのだ。
「なんと!?」
慌ててヤマトが壁を叩きつけるが、ビクともしない。
「おーい」
呼びかけるが返事はない。声も遮断されているのか。
「これは……分断されましたね」
エステルが眉根を寄せる。何人か移動した所で出口を閉じる。分断するときによくやる手だ。
「まずいなー」
ヤマトが左右を見回すが、出口はない。奥に一つあるだけ。壁を壊さない限りは前に進むしかない。
「この壁、壊れると思う?」
「さあ」
エステルに訊いても肩をすくめるだけ。
「やってみればわかるか」
ガンと悪魔の手で壁を叩きつけ。
「やってみて駄目だった。諦めよう」
ただ手が痺れただけだった。
「おーい。僕らは真っ直ぐ行くからな」
呼びかけても無駄かもしれないが、ヤマトは後方の部屋に呼びかけ、奥へと進んだ。
エリカとエステル、二人の金髪の美少女と一緒に。
「はわわ。ご主人様がー」
一方、残されたリリムとリリスとアケミとルゥとレイは。
「落ち着いて」
アケミの言葉ですぐにリリムは落ち着く。
「一端戻って見ましょうか」
とアケミが言った途端、後ろの出口も消える。すっとただの壁になった。
ぎょっと驚く一同。どういう仕掛けか不明だが、自在に入り口と出口を制御できるらしい。
「どっちかに行くしかないわね」
左右にぽっかり開いた出口を見て、アケミが唇を舐めた。どうも、敵の思惑に乗っかってる気がする。
「じゃあ、左に行きましょう」
時間稼ぎだとすれば急いだほうがいい。アケミはすぐに決断し、左の出口をくぐる。ルゥとレイも一緒に続き−
いきなり出口が消え、ただの石の壁になった。
「ふえええーん」
アケミたちまでも消え、リリムとリリスは二人きりになってしまった。完全に分割されたのだ。
「リリスお姉さまー。どうしましょう」
「こっち〜」
リリスは残った右側の出口に向かっていく。リリムもおっかなびっくりと後に続いていった。
ヤマトとエステルとエリカは真っ直ぐ、アケミとルゥとレイは左、リリムとリリスは右。
いきなり三つに分断され、全てはダミアンの思惑通りに進んでいく。
リリムとリリスが進んだ先は細い通路になっていて、少し歩くと、また広い玄室になっていた。
そしてそこには敵が待っている。
「マジカル☆アリサ、ちゃきちゃき行くよー」
「マジカル☆アオイ、しゃきっと行くよ」
「マジカル☆ホナミ、幼馴染で行くよ」
「マジカル☆チヒロ、園芸で行きます」
「マジカル☆ユイ、プリンで行きます」
五人の魔法少女が華麗に名乗り、ぱっと5人で決めポーズ。
「はわわ。リリスお姉さま、正義の魔法少女ですよー」
「いっぱい〜」
リリムとリリス二人に対し、正義の魔法少女は五人。
「ア、アリサちゃん。ご主人様がすっごい心配してたですよー」
「ふーん」
一歩前に出たアリサが、つまらなさそうに言う。
「リリムちゃんのリリスちゃん。ダミアン様の命令で生きたまま連れて行くね」
「はわー。アリサちゃんが、おかしいですー」
「服従させられてる〜」
すぐにリリスは気付いた。アリサが服従させられたことに。
「駄目ですよアリサちゃん! 服従の呪いなんかに負けちゃ。そのご主人様は本当のご主人様じゃないのです」
必死に呼びかけるリリムを、アリサはふんと鼻で笑う。
「いいじゃない。いらない子のリリムちゃんが役に立てるんだから」
「リ、リリムは、いらない子じゃないです!」
「いらない子よ。だって弱いじゃない」
「はわ〜」
ぐさっと何かが突き刺さったのか。リリムはよれよれよふらつく。
「リ、リリムは、リリムは弱っちくていらない子だったんですか!?」
「今ごろ気付いたの? お兄ちゃんだって、リリムちゃんはいらない子だよ」
「そんなことはないです〜」
反論したのはリリスだ。
「リリムちゃんは〜、アホで〜、まぬけで〜。いない方が役に立つけど〜、いらない子じゃないです〜」
「そ、そうですよ! 役に立たなくたって、いらない子じゃないです!」
ぐっと拳を握って立ち直るリリム。
「ふー」
再び鼻で笑い、アリサは魔法のバトンを突きつけた。
「マジカル☆ダブルトマホーク」
そのバトンが魔法の斧に変わる。
「それじゃ、力尽くでダミアン様の所に連れて行くよ」
「イヤでーす」
「負けない〜」
リリムがきっぱり拒否し、リリスもピンクのバズーカを構える。
「ふふっ。そう。やる気なんだ」
嬉しそうにアリサは無邪気な笑顔を浮かべ、興奮にそくぞくと背筋を震わせた。
「そうだよね。これでいいんだよね。元々は敵同士なんだから」
笑みを浮かべるアリサの瞳がリリムを見据える。
「ねえ、覚えてるリリムちゃん。最初はアリサと戦ってたよね」
「は、はい」
四月。大和に犯される前、リリムは何度かアリサと戦っている。結果はいつも惨敗だったが、なんだか遠い昔のことのよう。
「あの頃は良かった……。何も考えずに戦えて」
淡々とアリサは語り続ける。
「あなたたちと一緒に暮らし始めて、最初は嫌だったけど、すぐに楽しくなっちゃったの」
リリムが来て、リリスが来て、エステルが来て。悪の魔法少女との生活は、思い起こせば楽しいことばかり。
「でもね。すっごく楽しいけど……やっぱり嫌になっちゃうの。だんだん穏やかになっていく自分が」
穏やかな毎日。それはどんな戦闘民族でも穏やかにさせていく。
「だから……今は、すっごく気持ちいいんだ。また前のように、何も考えずにリリムちゃんと戦えるから!」
アリサの瞳がギラッと輝く。強い闘志の炎。それが戦いの合図となった。
「そ〜れ〜」
「電撃ー」
リリスがバズーカを発射するのに合わせ、リリムも電撃を放つ。
「ぷっちんぷりん、ぷりんぷりん〜」
誰より小さいユイ先生が巨大プリンを召還して防御。その間にアリサが懐に飛び込む。
「行くよ。リリムちゃん」
「来るのです」
さっと斧を振り下ろすアリサに、リリムは果敢に立ち向かう。
ざくっ。
魔法の斧がリリムの左腕を切り落とし、そのまま左足までずばっと斬った。
「あっ……」
切断され、ぽーんと飛んで行く左腕を、リリムはどこか他人事のように見ていた。
そして体が斜めに落ちる。目に見えるのは自分の左足。その足も一呼吸遅れてぱたっと倒れた。
ああ。腕と足が斬られたんだ、と認識した瞬間、
「ぎゃあああああああああーっ!!!」
焼けるような痛みとともに、切断面から真っ赤な血が滝のように噴き出す。
たちまち自らの血の海に沈むリリム。
「リリムちゃん〜」
慌てて駆けつけるリリスにも、アリサは斧を薙ぎに振るう。
「あ〜れ〜」
小走りになるリリスの上半身がばたっと床に落ちる。その後ろには残された両足が立ったままだった。
「足が〜」
無い。太ももから両足を切断された。
「いたい〜」
そしてリリスと両足もばたっと倒れ、血の海に沈む。
「どうしたのリリムちゃん。もうギブアップ?」
「ああぁ……。痛い、痛いいいいいぃぃーっ!!!」
血の海に沈み、斬られた左足を残された右手で必死に押さえるリリムを、アリサが冷たく見下ろす。
「やっぱり、いらない子だね」
そしてさくっと斧を振り下ろす。
「ぎゃああああーっ!!!」
今度は右足が膝から切断された。飛んで行く右足をリリムは涙で霞んだ瞳で見送る。
「やめ……返して! リリムの手と足を返してー!」
「はーい」
アリサは血に濡れたリリムの両足を拾ってくると、ぶんと投げつけてやる。
「足……足がー」
顔に当たった両足を片手で拾い、リリムはせっせと切断面にくっつけた。
「くっついて。早く、早く、くっついてくださーい」
ぶつぶつ呟いて、切り離された足を必死にくっつけようとするリリム。だがきれいに切られた切断面をくっつけても、すぐにずるっと離れてしまう。
「どうして、なんで、くっつかないんですかぁ。リリムの足なのにー」
「うるさい」
黙って見ていたアリサが、不意に人差し指を突きつける。リリムの左目に。
「ぎゃああああああーっ!!!」
左目がじゅぶっと指に潰され、汁が飛び散る。潰された白目と瞳の汁。
さらにアリサは、突っ込んだ指をぐりぐりと回転させた。
「ああっ……あがああああーっ!!!」
ビクビクとリリムの全身が痙攣し、口から血と泡が吹き出る。
「まだまだだよ」
目から指を離したアリサは、また斧を構え、ぶんと振り下ろした。豊かな右の胸に。
「ひぎいいいぃーっ!!」
もはや痛みは麻痺し、ただ乳房を叩き割られたという事実に、リリムは絶叫する。
「へー。おっぱいの中身ってこうなってるんだ」
二つに割れた棟がぷるんと左右に分かれ、脂肪の中身はすぐに血に染まった。
「この胸で、これでお兄ちゃんを!」
さらにガッと割れた右の乳房に蹴りを入れる。
「ああっ……ガアアアアアアァァァーっ!!!」
両足と左腕を切断され、左目を潰され、右の乳房を二つに切られ、そこに蹴りを入れられるリリム。
意識もたえだえにただ叫び、泣くしかできない。
「やめて〜だめ〜」
リリスが必死に訴えるが、その声は弱弱しい。同じく両足を切断された彼女も、意識が朦朧としていた。
黙って見ている正義の魔法少女たちも真っ青で、チヒロとユイは失神している。
「あんたが……あんたがいなけりゃ、お兄ちゃんは!」
ぐりぐちと割れた乳房を踏みつけ、その足も血に染まっていく。
「もうやめなさい」
「そこまで」
ようやくアオイとホナミが左右からアリサの手を掴み、引き離した。
「離して! この女は、一度痛い目を見なきゃだめなんだよ」
「もういいでしょ。生きたまま連れて来いってダミちゃんの命令を忘れたの」
「ここまでにしなさい」
アオイとホナミの二人から説得され、アリサはぶーとほっぺたを膨らませながらも、渋々ながら納得した。
ダミアンの服従の呪いにかかった現在、ダミアンの命令には逆らえない。これがアリサの好きにさせていたら……。
「ああっ。いたい、痛いよぉ……」
「リリムちゃん〜」
両足を切り落とされ、団子虫のように床に転がるリリムとリリスを見下ろし、アオイは嘆息した。
「とりあえず、ダミちゃんの所に連れて行こう。早くしないと本当に死んじゃう。グスタフさーん
アオイに呼ばれ、輸送魔物のでっかい団子虫のグスタフがやって来る。誰も血まみれの二人には触れたくなかったからだ。
「なんじゃこれは」
グスタフが運んできたリリムとリリスを見て、さすがのダミアンも血の気が引いた。
二人とも息もたえたえの重傷。
リリムは両足と左腕を切断され、左目を潰され、右の乳房を縦に切られている。
リリスは両足を切断されているだけだが、こちらも重傷には変わらない。
「誰じゃ、こんなひどいことをしたのは」
魔法少女全員がアリサを見る。ユイとチヒロも意識を取り戻していた。
「何よ。命令通りに生きたまま連れて来たでしょ。なにか文句あるの」
「い、いや、文句はないのじゃが。足を切り落とすのはやりすぎじゃ」
「足なんて飾りですよ。偉い人にはそれが分からんのです」
「う、うむ」
アリサの言葉に、ダミアンは冷や汗を流しながら頷く。
「やれやれ。まず治療からじゃな」
一緒に運ばれてきた足や腕を見て、ダミアンは重くため息をついた。
「そなたたちは侵入者の排除に当たれ。残っていればじゃがな」
「はーい。行こう、みんな」
アリサが言い、正義の魔法少女たちは通路に消えて行く。侵入者、すなわちヤマトたちを排除するために。
もっとも、すでに迎撃は送られているが。
「やれやれじゃな」
血まみれのリリムとリリスを見下ろし、ダミアンはまたため息をつく。
「余の命令を聞くのじゃー」
気を失っている二人に服従の呪いをかけたが、ばちっと弾かれた。二人の意志にではない。
「やはり、父上のかけた呪いは破れぬか」
父親の魔王がかけた「処女を奪った人間に服従せよ」という呪いに、ダミアンの呪いが弾かれた。
発動前ならダミアンの呪いも有効だが、発動した状態では魔力の強い魔王の呪いが優先される。
「余もまだまだじゃな」
呪いが弾かれる。それはまだ父親の魔王のほうが魔力が強いことを示していた。
「治療せねばな」
切られた足を拾い上げ、ダミアンは黒の魔力球に向かった。ここまで重傷だと、魔法の治療にも時間がかかる。
治療が間に合うか、それともヤマトたちがここに到着するのが先か。
「さて。どうなることやら」
どこか楽しそうにダミアンは呟いた。
「悪魔人間ヤーマートー♪」
狭い通路にヤマトの歌声が響いていく。
「僕も自分のテーマソングが欲しいなー」
というヤマトの言葉を、エステルもエリカもきっぱり無視。その二人の金髪の魔法少女に挟まれ、ヤマトは上機嫌だった。
「ね、二人とも。エッチしよ」
殴られる。両方から。
「今はそんなことしてる場合じゃないでしょ」
「マスター。今はそれどころではありません」
「はーい」
黙々と歩いていくと、広い玄室に出た。これで何度目かの広い玄室。
「ぎょぎょぎょ」
今までは何もなかったが、ここは違う。部屋の中央に、銀色の魚が待ち構えていた。
「ナイトメア☆ウォディック、魚と参上」
魚が名乗り、びちびちと飛び跳ねた。
「魚か……。お前一人で僕たち三人を相手にするつもりか?」
「無論。俺一人で十分」
自信満々にウォディックが言い切る。
「この俺は、魔王の子供の中でも水中戦ならば最強」
「ほう」
嘘ではない。魚のウォディックは水中戦に滅法強いのだ。
そしてウォデックは石の床の上でびちびち飛び跳ね、言うのだった。
「というわけで。海に行って勝負だ!」
その頃、アケミとルゥとレイの前にも、魔物が立ちはだかっていた。
「ナイトメア☆ブラストル、とらとらとらと参上」
「ナイトメア☆カノントータスBC、亀と参上」
「ナイトメア☆ケーニッヒ、野生の狼と参上」
「ナイトメア☆ディバイソン、もーもーと参上」
「ナイトメア☆サイクス、黒豹と参上」
「ナイトメア☆ミャア、にゃーにゃーと参上にゃん」
その数六体。
「わ、わんー。いっぱいいるわんー」
「えーと。やばい?」
冷や汗を流すルゥとアケミの横で、レイは猫耳魔法少女のミャアを見ていた。
「ミャア。こっちに来い」
「お断りだにゃー」
それからミャアはアケミを見て、
「お前のおっぱいは危険が危ないのにゃー」
どうやらダミアン軍団は、アケミのおっぱいがもっとも危険と判断したようだ。そしてそれは正しい。
「ここでやっつけるのにゃー」
魔物たちがアケミへと迫る。
リリムとリリスはあっさりと捕まった。そして、ヤマトとアケミにも危機が迫る。
(つづく)