駅でありさとオーロラを見送り、大和が家に戻ると、一台の車が家の前に停まっていた。
「やっほー。おはよう大和くん」
 まん丸の赤い小型車の、運転席から顔を出したのは明美先生だった。助手席にはルゥも座っている。
「おはようございます。どうしたんですか先生」
「ドライブにね。はにはに市まで」
「それって、ありさが行った?」
「うん。場所ならルゥくんが知ってるし」
 そのルゥはなんだか不安そうな顔をしている。
「いや、でも。もうすぐ魔法天使と正義の魔法少女の総攻撃が始まるって」
「だから行くのよ。可愛い教え子にだけ、危険にはさらせないし。大丈夫。遠くから見るだけだから」
 不安が顔に出たのだろう。明美先生は安心させるように微笑んだ。
「魔法天使に見つかったら、袋叩きにされますよ」
 今の明美は悪の魔法少女。ルゥは魔物。見つかったら大変な目に遭うだろう。
もちろんダミアン軍団に見つかってもただでは済まないだろう。
「だから、見つからないようにこっそりと遠くから見るの」
「だったら、僕も一緒に」
「大和くんは駄目よ。リリムちゃんとリリスちゃんを守ってやらないと」
「うーん」
 大和はぽりぽりと頭をかく。かといって、この二人だけでは不安。
「おーい。エステル」
 家の中に呼びかけると、すぐにエステルが顔を出す。
「はい、マスター」
「エステルならいいでしょ?」
「そうね。いいわよ」
 明美先生に許可を貰い、大和はエステルに向き直る。
「エステル、明美先生と一緒にはにはに市まで行って。偵察だけで無茶しないでいいから。ついでに、ありさが危なくなったら助けて」
「了解です、マスター。準備してきますので、少々お時間を」
 家に入って、エステルは箒とマントを身に付けてすぐに戻って来る。
「みんな気をつけてな」
「はい。マスターもお気をつけて」
「こっちは任せて。それじゃ、出発」
 エステルを後部座席に乗せて、明美先生は車を走らせる。
 こうして、明美とルゥとエステルもはにはに市に向かった。ダミアン軍団の待つ決戦の市へ。
「さーて」
 明美先生の車を見送ると、大和はうーんと背伸びして、家に入っていった。
 今日は何しようか。何といっても、ありさがいないのだ。
「あー。なんだか、くつろぐー」
 ずっとずっとずーーーーーーーーーーと、一緒だったありさがいない。それだけで、解放感に浸っていた。
「ご主人様ー。エステルお姉様、どうしたんですか?」
 階段に足をかけると、リリムが自室から顔を出す。
「明美先生とルゥと一緒に、はにはに市にまで行ってもらった。様子を見に」
「えー。リリムも行きたいですー」
「リリムは駄目だろ。狙われてるんだから。こっちおいで」
 とことこと寄ってきたリリムの細い腰に手を回し、大和は軽々と持ち上げた。
「リリムは、僕とちゅーしてあうーんだ」
 ちゅーとキスする大和。唇が重なった途端、リリムはばっと顔を赤くした。
「もう。こんな、朝から」
「いや?」

「大好きですー」
 ぎゅ−と抱きつくリリムを抱え、大和は階段を上がっていく。リリムとちゅーしてあうーんするために。

「あうーん」
 ベッドの上で、リリムが悶える。大和が股間に顔を埋め、陰唇にちゅーとキスするから。
 二人とも服を脱いで全裸になって。夏の暑さの中、熱く裸体を絡ませあう。
「んふぅ」
 リリムの太ももがもぞもぞと悶え、きゅっと硬くなり、合間に挟む大和の顔を締め付ける。
 その柔らかい太ももを頬に感じ、さらに奥を舌で突付く。
「ふあっ!」
 びんっと持ち上がるリリムの腰。
 腰と一緒に大和も顔を上げ、てらてらと濡れた唇をリリムの口に押し付ける。
リリム股間を舐め、愛液を吸った口。
「んっ」
 大和の唇を濡らす自身の愛液の味。リリムの頬がさらに赤くなり、耳まで染まった。
「どうだ。自分のここの味は?」
 唇を離し、大和が意地悪く聞いてきた。
「甘くて……酸っぱいです」
 とろんとした目で素直に答えるリリム。大和の意地悪な笑みには気付いていない。
「その汁をこんなに出して」
 大和がするっと股間をなぞると、手に湿り気を感じる。
「あんっ」
 たまらなくなって、リリムの手が大和の背に回る。豊かな胸を下から押し付け、大和の胸でぎゅっと潰れた。
 リリムの柔らかい乳房を胸いっぱいに押し付けられ、なんだかふわふわと浮かぶような感触に包まれる。
「くすぐったいよリリム」
 乳房はふわふわだが、乳首はかちかちに固い。そのあべこべな感触が大和の胸をくすぐる。
「は、早くぅ……」
 熱に浮かされたようなリリムの目。大和の言葉は耳に入っていないようで、汁気を帯びた股間を大和の腰に押し付けてきた。勃起した硬いペニスが、その割れ目をなぞっていった。
「いれて……はやく、はやくぅ」
 表面をなぞるだけのペニスに、焦れたように悶えるリリム。もぞもぞ動くもんだから、返ってペニスは入りにくくなる。
「はいはい」
 手を腰に伸ばし、ペニスを摘んで狙いをつけてやる。ギラギラした眼差し。大和も焦れているのだ。
 カチカチのペニスを指で支え、先端を肉壷へと触れさせた。ぐちょぐちょに濡れそぼる肉穴の入り口。
「んぅ! はあっ!」
 ぐにぐにと肉棒が奥まで突き刺さり、奥までいっぱいに満たす。リリムの腰が浮き上がり、すとんと落ち、今度は脚が上がり、大和の腰を挟み込んだ。
「んんーぅー!」
 眉がきゅっと曲がり、全身でリリムは抱きつく。両手は背中、両足は腰に絡みつき、肉壷も大和の分身を熱く締め付けた。
「熱い……熱いですぅ!」
 夏。夏休み。その暑い空気の中、ベッドの上でしっかりと裸身を絡め、肌を重ね、肉体を結ぶ。
 熱い。熱い。蕩けるように、燃えるように熱い。

 噴き出す汗が肌を濡らし、汗と汗が合わさり、ぐちょぐちょになってベッドを濡らした。
「ああああぅ! あうううぅ! あぐううぅ! あはああっ!」
 不意にリリムが腰を小刻みに悶えさせ、喘ぎを大きくする。肉壷の中の肉棒が擦れ、肉ひだを抉った。
「はああっ! 熱い! 熱いよおおぉっ!」
 ピンクのツインテールを揺らし、切ない気持ちに喘ぎ、リリムはただしっかりと大和に抱きつく。しがみつくように。すがるように。
「リリム、変に、おかしくなっちゃうー!」
「ああ。一緒におかしくなろう」
 額に汗を浮かべ、大和はすぐ下の喘ぎ悶えるリリムの、鮮やかなピンクの唇にちゅっとキス。
「んんぅー!」
 がくんっと背筋が仰け反り、さらに胸を押し付け、乳房が圧迫される。
 締め付けた肉壷が肉棒を圧迫し、子種を搾り取った。
「はああっ! アアアーッ!」
 精を胎内に受け、リリムが達する。同時に大和も、脳内にばちっと赤い火花を散らし、リリムをきつく抱きしめ、精を放射した。
「はあああああっ! アアアアアアアアアーッ!!!」
 ガクンガクンと結ばれる二人が揺れ、ベッドがギシギシとなった。
 熱い。熱い。流れる汗が蒸気となり部屋を湿らせ、滴り落ちる汗がベッドを濡らす。
「ああっ! あぐううぅ!」
 ギシギシとベッドを揺らしながら、なおも大和は射精を続ける。
 長い長い射精の中、リリムは何度もイキ、そして叫んだ。
「好き! 好き! 好き! 大好き!」
 ありさが一緒だと絶対に言えない言葉を連呼しながら、リリムは大和の腕ので昇りつめた。
「はー。はー」
 長い長い射精と絶頂の余韻に浸りながら、大和とリリムは息を整える。熱い部屋の中だというのに、白い息を吐いて。
夏の暑さも、二人の熱さには届かない。
 ぐったりとなった大和とリリムは、目を合わせ、唇を重ね、また強く抱き合う。結ばれたままの腰が揺れ、絶頂の余韻が再び強い性感に変わった。
 夏は、夏休みは、まだ始まったばかり。熱い夏が。
 熱い熱い部屋の中、もっと熱い二人が交わっていく。
 ピンクのツインテール、ピンクの唇、ピンクの乳首、そしてピンクの秘肉。
 全てがピンクのリリムを抱きしめ、そのピンクの肉を貫き、大和はピンクの肉に埋まるような錯覚に陥っていた。それが心地いい。
「熱いよ。リリム」
 そしてリリムの胎内の熱さに蕩けそうになる。夏の暑さよりも熱いリリムの体。愛。
 舌をくちゅくちゅと絡ませ、性器をぐちゅぐちゅと結び、大和とリリムは交わっていく。
「ふぅ。ふー。はあぁー」
 吐いた息が、流れる汗が、部屋の湿度を高め、それでも二人の熱さは下がらない。
「リリム」
 僕の悪の魔法少女。全てはこのピンクの少女を犯したときから始まった。
「可愛いよ」
 欲望の赴くままに抱き、そしてまた性を放つ。
「はうううぅ!」
 早くも二度目の射精を受け、リリムもまた昇りつめる。
「熱い! 熱いよおおぉっ!」
 涙と、ツインテールを振り乱し、リリムは大和を全身で締め付けた。内も外も。

「はああっ! はぐううぅ!」
 真っ白に包まれるリリムの頭の中に、ありさの姿が浮かんでくる。マジカル☆アリサに変身して、魔法の斧を振り上げてきた。
「ごめんね……。ありさちゃん」
 その小さな罪悪感も、すぐに熱さの中に溶けていった。
 ギシギシとベッドの軋む音をどこか遠くに感じる。

 キシー。
「はにはにー
 はにはにー」
 電車が止まる音、そして駅名を呼ぶアナウンス。
「やっと着いたー」
 鈍行と急行を乗り継ぐこと数時間。お昼過ぎ。埼玉県から奈良県まで電車でやって来たありさは、ぴょんと電車から飛び降りる。
「疲れてはいませんか」
「うん。大丈夫」
 疲れてはいないが、飽きていただけ。ありさの元気な笑顔に、オーロラも上品な笑顔を向けた。
 小さなバッグを背負ったありさに、手ぶらのオーロラ。
 オーロラの長い金髪と白い翼、そして完璧なまでの美貌は非常に目立ち、今も多くの視線を集めていたが、特に気にした様子はない。
「迎えが来てるはずです。行きましょう」
「はい」
 そしてオーロラとありさははにはに市に降り立つ。決戦の地に。
 駅を出ると、迎えはすぐに分かった。
『魔法少女御一行様』
 そう書かれた旗を二人の少女が左右から持っている。
 一人は黒髪おかっぱに白い修道服の少女。背中の白い翼で魔法天使と分かる。
 もう一人はありさよりも小さな少女。長い栗色の髪に、半袖の可愛らしいワンピース。
「あ、あれなの?」
 唖然とするありさ。オーロラはすぐに近付き、おかっぱの天使に声をかけた。
「シルクさん。お久しぶりですね」
「オーロラさん!? は、はい。お久しぶりです」
 シルクと呼ばれたおかっぱ天使がすぐに頭を下げ、小さな少女と共に旗をまとめた。
「オーロラさんたちで、最後なんです。あ、私はシルクと申します。神に仕える魔法天使です。癒しが出来ます」
「千巻 ありさです。どうぞよろしくお願いします」
 シルクに向けて、ぺけりとお辞儀するありさ。なんだか、ローラやオーロラさんとは違うなーと思いながら。
「野乃原 結です。まあ。千巻さんは、すっごく可愛い魔法少女ですね」
 ありさよりも小さな少女も、ぺこりと丁寧にお辞儀して自己紹介。
「オーロラと申します。よしなに」
「はい。オーロラさんも、すっごくお綺麗で。
 他の皆さんはもう集合してますから。車で行きます」
結が言い、駅前の駐車場まで進んで行く。
「この車です」
 まん丸の黄色い車まで来ると、ドアを開け、運転席に座った。結が。
「え!? あの、あなたが運転するの?」
「はい。この車は『まるぴん』と言うんです」
 そういうことは聞いていない。小学6年生のありさよりもさらに小さい結。
身長は140センチもないように見える。その結が当たり前のように運転席に座っている。
「あっ、大丈夫ですよ。こう見えても、私は学校の教師をしてますから」
「えー!?」

 ありさは目を丸めて結を見下ろす。ちっちゃくて、童顔で、胸もぺったんこで。どう見てもありさより年下にしか見えない。
「本当に教師なんですか?」
「はい。古典を教えています。魔法少女の中には、私の生徒もいますよ」
 にこにこ笑顔のまま話す結先生。同じ先生でも明美先生とは大違いだ。
「先生なのに、魔法『少女』なんですか?」
「それは言いっこなしです」
 とりあえず納得し、ありさは車に乗り込んだ。シルクとオーロラも。
「お昼は食べました?」
「はい。駅弁を」
「では行きますよ」
 結先生の運転で、にこぴんは走り出す。危なげなく。

 魔物たちの拠点は山の中にあるということで、はにはに市の山の中を車は進む。
やがて山道の入り口付近の駐車場に車は停まった。
「着きました」
 てっきり天使がわらわら、と思ったら、そこには3人の少女しかいない。
「よく来てくれました。千堂 絵梨華です」
 最初は天使かと見違えた金髪の少女が握手を求める。
「あ、千巻 ありさと言います」
 慌てて手を握り、ありさはぽややんと絵理華を見上げた。サラサラの長い金髪に澄んだ青い瞳に白い肌。天使と見間違うのも無理はない。
 学校の夏の制服を着ている絵理華。ありさの視線を見返し、にっと微笑んだ。
「あ、この髪? お母さんがフランス人なの」
「あ、はい。すっごく綺麗です」
 疑問に気付いたのだろう。教えてくれる絵理華に、ありさは恐縮して頷いた。
 残る二人の少女は半袖の白い制服を着ていた。絵理華とは違う制服。
「わ、可愛い子。藤枝 保奈美です。よろしくね」
「橘 ちひろです」
 長い栗色の髪の保奈美に、ショートヘアに小柄なちひろ。保奈美のほうが年上に見える。
「藤枝さんと橘さんは、私の生徒なんですよ」
 結がそう言っても、まだありさには信じられなかった。
「びっくりしたでしょ? 野乃原先生が小さくて」
「は、はい」
 小声で耳打ちする保奈美に、ありさは素直に頷く。
「千巻さん」
「ありさで結構です」
「では、ありささん。お家の人にはなんて言ってきました?」
 教師だけあって、その辺は気になるのだろう。結先生が聞いてくる。
「はい。お兄ちゃんに、悪い奴をやっつけて来るって言ってきました」
「お兄さんに? もしかして、魔法少女ということを?」
「はい。お兄ちゃんには教えてます」
「大丈夫なんですか?」
「お兄ちゃんは理解がありますから」
 その兄が悪魔というのは黙っておいた。ややこしいいから。
「ご両親は?」
「家、親はいません。去年亡くなりました」
「す、すみません」
「いいですよ」
 屈託なく笑うありさ。そのありさに、絵理華が申し訳なさそうに言う。
「あのね、ありさちゃん。私の友達が、ひょっとして魔物に捕まってるかもしれないの。その子も、魔法少女なんだけど」
「ええっ!?」
「だから……ありさちゃんも危ないかもしれないから」

「危ないのは覚悟してます。友達が捕まってるなら助けないと」
「うん。ありがとう」
 ぐっと拳を握るありさに、絵理華は素直に感謝する。そして親友の葵の顔を思い浮かべ、ずきっと胸が痛んだ。
 6月から行方不明の葵。絶対助けてやるから。
「あの、それで、集まったのはこれだけなんですか?」
「いいえ。ほら、来ましたよ」
 シルクが上を指差す。
「わあ」
 空を見上げ、ありさは思わず歓声を上げた。
 舞い降りる白い翼の群れ。無数の魔法天使たちが、空から光臨してきた。
 ふわふわと地に降りてくる、背中に白い翼を生やした美しい乙女たち。その数シルクとオーロラも含めて20人。そしてありさたち正義の魔法少女が5人。
「では、今回の作戦を説明します」
 山道の前の空き地。遠足前の小学生のように集まるみんなを前に、シルクが説明を始める。あまり慣れていない様子で、それでも精一杯に。
「この山の中、魔物たちが集まっています。リーダーと思われるのは、ダミアンという名の魔物。数は20体ほどと思われます」
 そこで一区切りして、シルクは全員を見渡した。自分も入れて全部で25人。
「本拠地を見つけ、これらの魔物を殲滅するのが今回の作戦です。なお、正義の魔法少女が捕まってるかもしれませんので、留意してください」
『はーい』
「本作戦を、『オペレーション・サンクチュアリ』と命名します。
 では作戦を開始です」
 作戦は、正義の魔法少女たちの変身ではじまった。
『マジカライズ!』
 5人の少女−結先生も含めて−が、一斉に叫ぶ。そしてきらめく魔法の光。
「マジカル☆アリサ、ちゃきちゃき行くよ」
「マジカル☆エリカ、優美に行きます」
「マジカル☆ホナミ、幼馴染で行くよ」
「マジカル☆チヒロ、園芸で行きます」
「マジカル☆ユイ、プリンで行きます」
 栗色のツインテール、上半身は胸を覆う細い赤い布のみで、ふわっと広がる緑のミニスカート、魔法のバトンを回すアリサ。
 サラサラの長い金髪を大きなピンクのリボンが飾り、白とピンクのドレス、レイピアを持つエリカ。
 白い制服の上から、白いエプロンを身に付け、包丁を持つホナミ。
 白い体操服に赤いブルマ、植木鉢を大事に抱えるチヒロ。
 プリン柄のドレスにプリンを持つ、まるでのプリンの妖精のようなユイ。
『魔法少女戦隊! マジカル☆レンジャー!』
 どーんと背後に五色の爆発が起き、びしっとポーズ。出会ったばかりというのに息ぴったり。
 続いて20人の魔法天使が名乗る。
「エンジェル☆オーロラ、清らかに光臨」
「エンジェル☆シルク、清楚に光臨です」

(以下18名省略)

 そして山道を歩き、あるいは空を飛んで行く25名。美しい魔法天使と魔法少女軍団。
 全員が緊張した面持ちで無言で進む。やがて全員がハッと身をすくめた。
 黒い邪悪な魔力の波動を感じたからだ。全員がはっきりと山の奥から。
「これが、魔物たちの本拠地の」
 オーロラの言葉にシルクが頷く。冷や汗をかいて。夏だというのに。
「行きましょう」
 この邪悪な魔力はただ事ではない。それでも進むしかない。

 注意深く進む一同の前に、やがて黒いピラミッドが姿を現した。
「大きいー」
 呆然と見上げて呟くのはアリサ。黒いピラミッドは山ほどの大きさもある。
 魔法で隠されているとはいえ、今まで発見されなかったのが不思議なほどだ。
 魔法天使や魔法少女にしても、一定の距離に近付くまでは見えなかった。ただ黒い魔力の波動は隠しようもない。
「入りましょう」
 ぽっかり開いた大きな入り口を見据え、オーロラが先頭になって進む。
「魔物は見えませんね」
「ええ」
 先頭に立つシルクとオーロラがそんな言葉を交わす。
 これだけの数で近付いているのだ。気付いていないはずがない。だが迎撃する様子はなく、ピラミッドはしんと静まり返っていた。
「待っててね。葵」
 もうすぐ助けるから。エリカはきゅっとレイピアを握り、ドス黒いピラミッドに足を踏み入れた。
 中は真っ暗だが、暗視が出来る魔法天使と魔法少女には関係ない。
 入ってすぐの階段を上がり、油断なく、注意深く全員で固まって進んで行く。
 大小様々な部屋。幾つもの通路。建物の中は広かったが、魔物の姿は一体も無かった。
 そして今までで一番広い空間に出た。部屋というよりも広場。その奥に、どーんとでっかい女神像が半ば石壁に埋まるような形で安置されている。
「あれは!?」
 その女神像を見て、魔法天使の間からざわざわとざわめきが起こった。
「まさか……どうしてここに!?」
「嘘!」
「いやーん」
「ジャッジメント!」
「封印されてる!?」
 口々に驚く天使たちに、魔法少女たちも不安になってくる。
「ねーねー。あれ何?」
 唖然とするオーロラを突付いて訊ねるアリサ。彼女は呑気なものだ。
「ジャッジメントといって……全ての邪悪を破壊する、天界の神罰執行用の最終兵器ですわ」
「ふーん」
 アリサがなおも呑気に返事したとき。
「よくぞここまで来た」
 響く声に誰もが注目する。女神像の足元。人がすっぽり入れそうな黒い魔力球が二つ。
 そこに、魔物たちの群れがいた。一際大きいのは輸送魔物のグスタフ。その魔物の先頭に立つのは、全裸の男。
「きゃー!」「いやー!」「へんたーい!」
 ジャッジメントを見たときとは別の悲鳴が上がる。魔法少女からも。
 いつもながら全裸でちんこぷらぷらのダミアン。可憐な乙女たちには目の毒。
「はっはっは。何を恥ずかしがることがある」
 ぷらぷら揺れるちんこを見せ付けるように、仁王立ちのダミアン。背中の黒い翼にはまだ誰も気付かない。
「へんたーい!」「へんたーい!」「へんたーい!」
 自然と沸き上がる変態の大合唱。ダミアンの背後の魔物たちからも。みんな気持ちは一つ。天使と魔物の気持ちが一つになる。歴史的な出来事であった。
「まずは一曲」
 へんたいの大合唱にさらされながら、ダミアンのちんこがぎゅいーんと伸びて、マイクになる。
 なんと。ダミアンのちんこはマイクにもなるのだ。驚異の万能ちんこ。
 歌い出すダミアンの後ろでは、へんたいと合唱していた魔物たちも好き勝手に踊りだす。バックダンサーのつもりらしい。

 ちんこをマイクに、踊る魔物たちをバックに歌うダミアン。曲はもちろん、

『ナイトメア☆ダミアンの歌』

 ダミ ダミ ダミアン アン
 ダミ ダミ ダミアン アン

 あそこにちんこが立っている
 あれはだれだ だれだ だれだ
 でっかいちんこのダミアンだー

 あんな夢いいな こんな夢いいな いろいろあるけれど
 みんな みんな みんな ふしぎなちんこで かなえてくれる
「空を自由に飛びたいな」
「はい。ちんコプター」

 アン アン アン とっても大好き ダミアンのちんこ
 アン アン アン とっても大好き ダミアンのちんこ

 なんでも掘るよ ちんこドリル
 かたくて ながくて ふとい
 あなたも ちんこを 鍛えてみてよ

 ちんことちんちんは違うものらしいよと
 あなたの金玉がささやく Oh!
 でっかいちんこ みんなのちんこ
 ちんちんちん ちんちんちん

 ダミ ダミ ダミアン アン
 ダミ ダミ ダミアン アン

 ちんこの救世主 Oh!
 今だ 必殺
 ナイトメア☆ちんこ・フル射精!

 みんな包むよ ちんこで守るよ
 ダミ ダミ ちんこぷらぷら ダミアンだー


「本日は余のライブにようこそじゃー」
 ……
 ぽかーん。
 マイクにしたちんこを握り締めるダミアンに、踊りを止める魔物たち。
 その彼らを前に、魔法天使と正義の魔法少女たちは、真っ白になってぽかーんと口を開けていた。アリサでさえも。
 ぽかーん。
「魔法天使たちに告げる」
 真っ白な天使と魔法少女たちに、さらにダミアンの言葉が追い討ちをかけた。
「余、ダミアンの名において、休戦を申し込む」

(つづく)