「撫子さーん」
朝。いつものように彼が私の名前を呼んでくれる。
「おはよう。大和くん」
「おはよう」
小学校からちょっと離れた場所。
妹のありさちゃんを小学校まで送った大和くんは、ここからは私と一緒に登校してくれる。
本当は家から一緒でいたいんだけど。私と大和くんが一緒に歩いていると、
ありさちゃんが殴ってきたり、蹴ってきたり、包丁で刺してきたり、バットで殴ってくるので、
ありさちゃんが見てないところで一緒にいることにした。
私、ありさちゃんに嫌われてるのかな?
ううん、本当は理由は分かっている。
大和くんを見るありさちゃんの目。あれは間違いなく恋する少女のもの。
私も同じ目をしていたから分かる。今もそんな目をしてるのかな。
「はぁ」
ため息。隣の大和くんが「どうしたの?」と顔を向ける。
「ありさちゃんと、仲良くできるのかな」
「仲良くしてたじゃない。ほら、3人で一緒に遊んで」
うん。幼い頃は3人でよく一緒に遊んだよね。ありさちゃんは本当に可愛くて、
私もあんな妹が欲しいとずっと思ってた。
「あの、撫子さん」
「はい」
「今度の日曜さ。どこか出掛けない?」
そ、それってデートのお誘い? そうよね。デートしたっておかしくない。
だって私と大和くんは……。
「だめだよ」
え?
振り向くとありさちゃんがいた。手に包丁を持って。
「お兄ちゃんはあたしと結婚するの」
どす。包丁がお腹に刺さる。
不思議と痛みはなかった。私のお腹を包丁が縦に切り裂き、子宮を開くのまではっきりと見えてしまう。
「なんだ。中に誰もいないじゃない」
そう言ったありさちゃんは、大和くんの生首を抱えて、地に濡れて笑っていて。
「お兄ちゃん。これからはずっと一緒だよ」
夕日の海を背景に、ボートに乗ったありさちゃんが大和くんの生首とともに船出していく。
「夢……?」
なんだかすごい悪夢を見たようで。
寝汗をびっしりと掻いて目覚めた撫子は、長い黒髪を振って頭を振る。悪夢を打ち払うように。
「あんな夢見るなんて」
今日は月曜日。気を取り直して起き、学校に行く準備。
顔を洗って髪を梳かし、夏の半袖の制服を着る。大和くんが、「よく似合うよ」と言ってくれた夏服。
「撫子」
すると居間から母親の呼ぶ声。
「大和くんから電話よ」
「えっ?」
なんだろうと思い、すぐに電話を取る。
「もしもし」
『あ、撫子さん。おはよう。ごめんね朝から』
「ううん。いいの」
『悪いんだけどさ。今日、学校休むから』
「えっ?」
『ちょっと妹の看病でね』
「ありさちゃんが?」
『うん。最近落ち込んでたからさ』
そっか。同級生の友達が、惨殺死体で発見される事件があったばかりだし。
「うん。ありさちゃんに付き添ってて。私も放課後行こうか?」
『い、いや、いいよいいよ。うん。大丈夫だから。それで、学校にはもう欠席するって連絡したんだけどさ』
「うん。ノート取っておくから」
『悪いね』
「いいよ。ありさちゃん元気になるといいね」
『そうだ。今度さ。どこか出掛けない?』
「うん……。また行きたいね」
『じゃあ、今度また日にち決めよう。それじゃあ』
切れた電話をしばらく撫子は見つめ、それから受話器を置く。
(大和くんは、ありさちゃんとずっと一緒か)
ふと窓の外を見ると、今日は快晴だった。
これでよし。
受話器を置き、学校と撫子さんへの連絡を済ませると、大和は不意に寒気を感じ、びくっと震えた。
横にありさが立っている。包丁を持ち、半眼で。
「お兄ちゃん。朝ごはんできたよ」
「あ、ああ」
ありさも小学校に休みの連絡を入れていた。こちらは『お兄ちゃんが、持病の妹がいないと寂しくて死んじゃう病を再発させたので看病します』という理由で。
「わーい、ありさの作るご飯は楽しみだな」
無理に笑顔を作ってリビングに行くと、もう一人の少女が待っていた。
「マスター。私の準備を済みました」
ナイトメア☆エステル。新しい下僕の悪の魔法少女。
長い金髪は左右で一房ずつ結んでツーサイドアップにし、黒いとんがり帽子に黒いマントという魔女ファッション。
昨日処女を奪って、家に帰ってからも抱いて。すっかり大和は気に入った。
大和に奪われた魔力は回復し、いよいよ連れ去られたリリムとリリスを救出しに行くのだ。
その前に居場所を探さないといけないが。
「私の使い魔を放っておきます。窓を開けてください」
大和が窓を開けると、エステルが長い黒手袋を填めた手をかざす。
宙にもやもやと黒い闇が浮かび、それが無数の蝙蝠となり、窓から外に飛び立っていった。
「蝙蝠を使えるのか」
「はい」
得意気にエステルは頷く。格闘だけではないということだ。
「お兄ちゃん」
「あ、ああ。それじゃ、探索は蝙蝠に任せて」
席に着き、手を合わせる。
「いただきまーす」
まずは朝ごはん。エステルは後ろで静かに待っている。魔界の魔物は魔力があれば食事は必要ない。
そしてありさは、リリムやリリスにもご飯は作っていなかった。
お兄ちゃんにくっつく女に食べさせるご飯はないからだ。
「ごちそうさまー」
朝ごはんを食べ終わっても蝙蝠が戻ってくる気配はない。すぐにはさすがに無理だろう。
大和はエステルを連れて二階の自室に入っていく。台所で食器を洗うありさは、階段を上がる二人をジト目で見上げていた。
「いいもん。最後に勝つのはありさなんだから」
やおら包丁を握り、きらっと光る刃に薄ら笑い。
「お兄ちゃんの赤ちゃんを産むのはありさなんだから」
もしありさ以外の女がお兄ちゃんの子供を妊娠したら、
「お腹を切り裂けばいいんだよね」
包丁を握りながら、ありさちゃんはニタニタと笑うのでした。
そうとは知らず、部屋に入った大和は早速エステルに抱きついていく。
「やんっ。マスター。慌てないで」
背中の黒マントに手を回し、金髪と一緒に抱きしめる。そして口を重ね、吸い付いた。
「んー」
唇を吸われ、うんっとエステルの頬が紅く染まる。
口を離すと、大和はエステルのとんがり帽子を取り、マントも外させた。
「もう。慌てないでったら」
くすくすっと笑いながら、エステルはわずかに身を離し、背中を向ける。
小さな黒い羽の生えた背中。裾の短い黒いドレスのジッパーが見える。
「脱がしてください」
ジッパーを降ろすと、エステルは自ら黒いドレスを脱ぐ。ブラジャーを取ると豊かな胸がぷるるんと揺れた。下は何もなし。
昨日散々抱いたというのに、豊満な白い裸身に大和は眩しく目を細める。そして股間が疼いた。
もどかしそうに大和も服を脱ぎ、その間にベッドに寝そべるエステルの上に覆い被さっていく。
ベッドに広がる長い金髪を撫で、体の下の柔らかさと温もりを全身で味わい、肌を重ねて。
「んんぅ」
ハァと熱い吐息。白い肌がたちまち熱を帯びて紅潮し、うっすらと汗ばむ。
こうして裸で抱き合うだけで、お互いの高まる鼓動がはっきりと伝わり。大和はすりすりと全身をすり寄せ、エステルを包み込み、キスしていく。
ちゅっ、ちゅっ、ちゅっちゅっ。
口を吸い、舌を絡め、いつしか唾液が二人の口を結ぶ。
「ふふ」
舌を絡めながら、エステルはしなやかな脚をきゅっと閉じた。勃起したちんこが太ももに挟まれる。
「もうこんなにして」
潤んだ瞳で見上げるエステル。太ももに挟んだ硬い男根をしっかりと感じ取る。
「ぐりぐりして」
恍惚とした表情の大和に頼まれ、太ももをすりすりと擦り合わせ、挟んだ男根をぐりぐりすると、
「出る」
ぴゅっ、と白濁液が赤黒い先端から飛び出し、太ももを汚した。
「早っ」
「悪い。最近たくさんした後はすぐ出ちゃうんだ」
どうも最近早漏気味。リリムとリリスを連続で抱き、続けて射精することが多いせいだろうか。
「エステルの太もも、気持ち良い」
「はいはい」
裸で抱き合いながら、エステルは太ももに挟んだ男根をぐりぐりと擦り付けてくれる。
「うううぅん、いいよ〜」
恍惚とした真っ赤な顔で大和はぎゅっと抱き、腰をガクガク振ってエステルの太ももに挟まれた男根を抽出していく。
すぐにまたむくむくと大きくなり、硬さを取り戻していた。
「脚拡げて」
男根を挟んでいた太ももが開き、ゆっくりと恥ずかしげに開かれる。中央の付け根はうっすらと濡れそぼり、薄い陰毛が花びらのように咲いていた。
昨日まで処女だったのに、今はもうすっかり男を受け入れるようになっていて。
大和は貪るように、エステルの女を貫き、男を埋めていく。
「はうっ」
お腹の中に突き刺さる男根をしっかり見据えながら、エステルの声が上擦る。
「マ、マスター……はああっ、うんっ」
「痛い?」
「だ、大丈夫、です」
美しい眉をきゅっと曲げながら、エステルが汗を浮かべて喘ぐ。美麗なその顔が愉悦に染まる様に、挿れたばかりの男根がきゅっと熱くなる。
「はあっ……ああっ、はっ……」
正常位で結ばれ、大和はエステルの奥深くまで挿れながら、しっかりと抱きしめてやった。
汗を含んだ肌はそれでもすべすべで。体の外も内も一つになったようで、大和は挿入したままで動きをとめ、じっと抱き合った。
「あぁ……はあ……あ……あ、アァ、あああぁ……」
抱き合ううちに徐々にエステルの喘ぎ声が大きくなる。
エステルの肉壷がじゅっと熱い液に満ち、男根を優しく包み、しごいてくれる。
「はあっ。いいよ」
我慢しきれず、大和の腰がびくんびくんっと小刻みに震えだした。
「マ、マスター……がまん、しないでぇ……。どうぞ、お好きなように……アアッ」
「うん……。ナカに出してもいい?」
「ど、どうぞ……。お気に召すままに……。うんっ!」
ガクガクと結ばれた二人の腰が小刻みに揺れ、膣肉が男根を締め、同時に膣肉も抉られる。
「んんっ。んんんんぅ。んあっ!」
エステルの顔が爆発するように真っ赤になり、大和もまた頭の中を真っ赤に爆発させていた。
「んぅ! んんんんんあ〜!!!」
「くうぅ! でる! だす!」
どくんっと熱い精が膣内に射精され、部屋に絶叫が轟いた。
「ああ……アアアアアァーっ!!!」
エステルをしっかりと抱きしめ、奥の奥まで大和は精を放っていく。
その頃、レイズとワイツが隠れ家に使っている山奥の別荘では。
「へへっ」
びちゃ、びちゃとワイツが目の前の豊かな乳房を舐め、激しく腰を使う。
その度に天井から吊るされたリリスが揺れ、挿入されたペニスが精を放つ。
「あぁ……あ〜……」
とろんとした放心した表情で、射精を受けてもリリスは微かな喘ぎしか漏らさない。
その全身は濃い白濁液に染まり、イカ臭い異臭を放っていた。股からこぼれた精液が脚を伝い、ぽたぽたと床にこぼれている。
隣では、同じように天井から吊るされたリリムが、虚ろな瞳でうな垂れていた。放心しきった表情で、股から精液を流しているのも同じ。
「可愛いぜぇリリス」
虎男に進化したワイツは、自らの精液で白く染めたリリスの乳首をしゃぶり、飽きることなく精液を注いでいく。もうお腹はぱんぱんだが気にしない。
「リリス。お前は俺の嫁だからな」
「あ〜……」
言葉すら失い、壊れきった表情でただ揺さぶられるリリス。
一方のリリムはただの性欲処理。ワイツだけでなく、召還される魔犬の相手すらさせられた。
「まだまだ可愛がるからな」
ずっと犯し続けてるのにもかかわらず、ワイツの性欲は衰えることを知らない。
犯されて続け、目は虚ろになり、壊れ、放心し、天井から吊るされるリリスとリリム。
カーテンさえない窓から朝日が差し込んでいる。その窓に蝙蝠の影がよぎった。
陵辱には一切参加することなく、レイズはじっと玄関前の木の下で座禅を組んでいた。
座禅を組んで瞑想する蒼い虎男。
その目が開き、森の木々の間に舞う蝙蝠を見据える。
「今日は、やけに蝙蝠が多いな」
それも微かに魔力を含んだ蝙蝠。誰かの使い魔だろうか。
虎の口がニッと歪む。戦いが近いのを察知して。そして再び、座禅を組んで瞑想に入る。戦いが始まるのを待ち望みながら。
異変があったのは、太陽が真上に来る頃。
バリバリ、と空から雷鳴が轟く。快晴だというのに。
「ナイトメア☆デカルト、どらっと参上」
そして木を薙ぎ倒しながら、赤いドラゴンが舞い降りてきた。ドラゴンといっても圧倒的な程に大きいわけだはないが、それでもレイズの二倍程度の大きさ。
「デカルトか」
予想もしなかった相手に、レイズがのっそりと立ち上がる。
「ナイトメア☆レイズ、とらとらと参上」
一応名乗り、虎の爪をしゃきーんと伸ばす。
「リリムとリリスがここにいるな」
意外な言葉に、レイズは目を細めた。
「確かにいるが。あの二人に何のようだ?」
「我が主が求めている。連れて行くぞ」
「主だと?」
レイズは爪を構えたままで疑問を発する。だが実の所どうでもよかった。戦えれば。
「お主には関係ないこと。さあ、リリムとリリスを渡してもらおう」
「断るといったら?」
「力づくで頂く」
「なら、断るしかないな」
これが『リリムとリリスを渡したら戦う』だったら、レイズはすぐに引き渡していだだろう。そういう虎だ。
「笑止! 我が電撃、受けてみよ」
ばさっとデカルトの大きな赤い翼が電撃を帯び、バッと宙に舞う。静止状態からの凄まじい瞬発力。
ばさばさと突風が吹き荒れ、木の枝を揺らしていく。
ばりばりと雷鳴を轟かせながら空を飛ぶデカルトを見上げ、レイズの口が開く。
「ジェットレイズ!」
背中の小さな黒い羽がばさっと大きく肥大化し、色も蒼くなる。
そして一気に空へと飛んだ。
ジェットレイズ。レイズの空中戦形態である。
赤き雷竜と空飛ぶ蒼い虎が空中で激突する頃。
「なんじゃー」
別荘の扉が開き、ワイツが飛び出した。さすがに気付いたらしい。
「レイズの兄貴!」
兄貴が戦ってる。虎に進化した力を見せ付ける良いチャンス。だが戦いに割り込むと、兄貴怒るしな。
なんて考えてると、新たな魔力が近付くのに気付いた。
「誰だ!」
そのワイツの声に、三つの影が空から降りてくる。
「ナイトメア☆ヤマト、学校休んで邪悪に参上」
「マジカル☆アリサ、学校休んでちゃきちゃき行くよー」
「ナイトメア☆エステル、美麗に参上」
学校休んだヤマトとアリサ、それに箒にまたがるエステルである。
エステルの使い魔の蝙蝠がこの場所を見つけ、駆けつけたのだ。
ベッドでごろごろとエステルと裸ですごしていたヤマトが、びしっと指差して銀の虎男に言う。
「誰だお前!」
「ナイトメア☆ワイツ、とらっと参上」
「えっ? ワイツ? 狼じゃなかったっけ?」
「そうだ。俺は虎だ。虎になったんだ!」
「なんでー?」
以前のワイツは狼だった。その頃よりも一回りも大きい。
「魔力を集めたおかげで進化したんだよ」
「えー。Bボタン押してキャンセルしろよ」
「誰がするか!」
「むー」
進化したワイツを眉をひそめて見ながら、ヤマトは僕も魔力を集めれば進化できるのかなと夢想していた。
「リリムとリリスはどうした」
「抱いたぜ。たっぷりとな」
単刀直入なワイツの言葉に、ヤマトもアリサも一様に眉をしかめる。
「抱いたって……妹だろ?」
「だからどうした。俺はな、リリスを嫁にするんだよ」
「妹を? 嫁に?」
「そうだ」
「へんたいだ。へんたいがいるよお兄ちゃん」
と言ったのはアリサ。将来の目標はお兄ちゃんのお嫁さん。
「ああ。実の妹を抱くなんて、最低の変態だな」
と言ったのはヤマト。実の妹のありさを何度も抱いている。
「はっ。魔界ではな、妹と結婚するのもありなんだよ」
そのワイツの言葉に、ヤマトとアリサはぞくぞくと背筋を震わせた。
「うーん。魔界いい所だな……。いや、しかし、でも」
「……! だ、だめだよ。そんなのだめ」
なにやら凄い葛藤があるらしい。しばらく悩んだあと、ふーと大きく深呼吸してようやく落ち着いた。
「とにかく。リリムとリリスは返してもらうぞ」
ばりーんと遠くから雷の音。デカルトの雷鳴だ。レイズとデカルトが戦っているのに、ヤマトたちも気付いている。
今がチャンスということだ。
「この前のように簡単に行くと思うなよ」
ワイツがしゃきーんと虎の爪を光らせる。進化して図体がでかくなっただけではない。
全能力が大幅に向上している。それが進化。
「アリサ、エステル。手を出すなよ」
ずいっと一歩前に出るヤマト。
「お兄ちゃん。そいつ智子ちゃんの仇なんだけど」
できれば自分の手で仇は討ちたい。
「ああ。智子ちゃんの分も任せとけ」
その兄の悪魔の背中がすっごく頼もしくて。アリサは仕方なく譲ってやった。
「でも元気だよね」
朝からエステルさんとエッチなことしてたのに。
ありさが参加しなかったのは体力温存のため。小学6年生の未成熟な幼い体には、交尾は負担が大きい。だから泣く泣くじっと我慢していたのだ。
それなのに、お兄ちゃんもエステルさんもけろっと平然としている。
あたしの精力つけなくちゃ、と思いながらアリサはバトンを握り締め、兄の悪魔の背中を見守った。
「行くぜ」
ワイツが前かがみになったかと思うと、さっと前に出た。
早い。銀の暴風の如く、一瞬にしてヤマトの懐に飛び込み、胸に爪痕を刻む。
飛び散る鮮血。もう少し踏み込みが深かったら、確実に仕留められた。
「くっ」
ざっと後退し、ヤマトは胸に刻まれた爪痕を見下ろす。
「やるようになったな」
確かに以前のワイツとはスピードが桁違いだ。
「へへっ。エステルも抱かせてもらうぞ。それにアリサもな。今度はたっぷりと可愛がってやる」
「それは無理」
キラッとヤマトの目が光った。怒りで。そして己の中の呪いに呼びかける。
エステルの処女を奪ってかかった悪魔になる呪いに。
「フォームチェンジ!」
叫び、右腕が闇に包まれる。そして一回り腕が大きくなった。
「がおー」
右肩に獅子の顔が生え、獰猛に吠える。そして五本の指が鋭い鉤爪に変化し、長く太く伸びた。
「ナイトメア☆ヤマト・ライガーフォーム!」
「がおー!」
名乗ると同時、右肩の獅子も気高く吠えた。
「なにぃ!」
カッと活目してワイツはヤマトの新フォームを見た。
一回り大きくなった右腕。肩には獅子の顔が付き、指が全て長い鉤爪へと変化。ワイツやレイズの爪よりもさらに大きい爪。
「へっ。だがな」
大きいということはそれだけ取り回しも難しいということだ。スピードで圧倒すれば。
「行くぜぇ!」
銀の風となってワイツが突撃してくる。
カキン。ワイツの爪を、ヤマトは簡単に弾いていた。右腕の巨大な爪で。
「なにっ」
「遅い」
そして今度は目の前のヤマトの姿が消える。
「どこだ!」
「こっちだ」
後ろから声。振り向くより早く、左腕が落ちた。
「ぎゃああああーっ!」
ヤマトの爪で切り落とされたのだ。進化したワイツでもまるで見えない超スピード。そしてパワー。
「わあ。お兄ちゃん早ーい」
「なかなかのスピードですわね」
口に手を当てるアリサと、腕を組んでいるエステル。二人とも感心した口調だが、目はしっかりとヤマトの動きを見ていた。
「どうした?」
左腕を切り落とされ、だらだらと血を流しながら悶絶するワイツを見据え、ヤマトは右腕を振り上げる。その指は根元から爪。
「レイズは痛がる暇があったら反撃しろと言ってたぞ」
「ちくしょう! ちくしょおおおぉぉ!」
俺は虎だ! 虎になったんだ!
「負けられるかよ!」
ワイツの牙が闇を放つ。魔力の闇。
「ナイトメア☆ファング・フルクラッシュ!」
そして魔力を籠めた牙で噛み付いてきた。ヤマトはそれを右腕の爪でカキンと受け止める。
−砕けろっ!
渾身の力と魔力、そして意地を込め、ワイツは噛み付き−
ばきっと牙が折れた。
「ぎゃあああーっ!」
必殺技で噛み付いたのに逆に牙が折れ、ワイツは口を押さえてうずくまる。
「もう終わりか?」
だらだらと口と左肩から血を流しながら、ワイツは怯えた目で見上げた。
「ひっ、ひぃ!」
ヤマトの右肩の獅子の顔がじろっとこちらを睨んでいる。ヤマト本人の目は空に注がれていた。
ばりばりっと雷鳴が青い空に轟いていた。あちらもそろそろ頃合か。
「デカルトサンダー!」
空に静止するデカルトが全身から放つ電撃を避けようともせず、ジェットレイズは真正面から突っ込んでいく。
「うおおおっ!」
ヤマトのデビルサンダーとは比べ物にもならない猛烈な電撃。たちまち両肩両膝の魔力吸収石がいっぱいになり、赤くなる。
吸収しきれない電撃が蒼い毛皮を焦がす。だが同時にレイズはデカルトの懐に飛び込んでいた。
「デカルトカッター!」
至近距離まで迫ったレイズに、デカルトは頭部の刃のように鋭い角を振り下ろす。
だがレイズの姿が瞬時にして消え、角は空を切る。
「どこだ!?」
「こっちだ」
背中から声。同時に翼に亀裂が走った。
「ぎゃあああっ!」
デカルトの大きな背中に回り込んだレイズが翼に爪を立てたのだ。
バランスを失い、落下するデカルト。その背中にしがみつきながら、レイズは溜め込んだ魔力を牙に深く首筋に噛み付いた。
「ナイトメア☆ファング・フルクラッシュ!」
本家本元の虎の一撃。デカルトは地に落ちるよりも早く、絶命し、黒い闇になって消えた。
「ひいいぃ!」
左腕と牙を失ったワイツが背中を向けて逃げ出していく。頭からはリリスのことも完全に消えていた。
「ライオトルネード」
ヤマトの右肩の獅子が口から竜巻を吐き出す。竜巻はワイツを捕らえ、空中で固定した。
「行くぞ」
「がおー」
獅子が吠え、爪にばちばちと闇が集まり、黒く染めていく。
ヤマトの巨体がふわっと浮き上がり、竜巻に固定したワイツに突っ込んでいった。
「ナイトメア☆クロー・フルスラッシュ!」
「ぎゃああああーっ!」
五本の闇の爪がワイツを切り裂き、闇に帰す。
「智子ちゃん。仇は取ったよ」
闇となって消え失せたワイツを見て、アリサはきゅっとバトンを握った。
「ほう」
丁度そのとき、ジェットレイズが大きな青い翼を広げて空から舞い降りる。
地上に降りると、翼は縮んで元の小さな黒い羽になった。
「ワイツを倒したか」
微かに目を細め、抑揚のない声でレイズは呟いた。戦って死んだ戦士に同情はいらない。
「その右腕。なかなか面白い」
ライガーフォームになったヤマトを見て、レイズはニヤッと口元を緩ませる。
ワイツが死んだことはすぐに忘れ、強敵が出現したことを喜んでいた。
「お前も、あのデカルトとかいうのを倒したようだな」
右腕の爪をわきわきと動かし、ヤマトが腰を落とす。
ワイツを倒した直後のヤマトと、デカルトを倒した直後のレイズ。条件は互角。
「がおー」
右肩の獅子が吠え、レイズと睨み合う。獅子と虎の視線がぶつかり、空気が震えるようだった。
アリサとエステルも一言も発せず、固い表情で見守るのみ。
「がおー」
「行くぞ」
獅子が吠え、先にヤマトが動く。
黒い巨体が突風のように突進し、蒼き虎を呑み込まんとする。
がきんっ。
ヤマトの巨大な爪とレイズの虎の爪が交差し、レイズの蒼い巨体がずずっと後ずさった。
パワーでヤマトに押されているのだ。爪を合わせたまま、踏ん張る足がずりずりと土を盛り上げ、後ろに下がっていく。
「なるほど。大したパワーとスピードだ」
左腕の爪でヤマトの爪を受け止めながら、レイズは右手を振り上げる。
「だが左ががら空きだ!」
変化してない左腕。その付け根にざっと爪が突き刺さる。
飛び散る血。同時に、ヤマトは右肩から体当たり。
「がおー」
右肩の獅子の顔がばくっと噛み付く。レイズの左肩に。
「ぬおっ」
さっと後ろに跳ぶレイズ。左腕がだらっと下がる。ヤマトの左腕も同じように血を流して垂れ下がっていた。
「痛がる暇があったら反撃しろ、だったな」
それは前回の戦いでレイズが言った言葉。ヤマトはそれを実践してみせた。
左肩を爪で突かれながら、レイズの左肩に噛み付くことで。
「ふふっ」
「ははっ」
レイズとヤマト、二人の口がニヤッと笑い、
「ふはははははははっ!」
「はーはっはっははっ!
すぐに大きな笑いとなる。二人の哄笑が山奥にこだまする。
ともに左肩からだらだらと血を流しながら、心底から笑っていた。見ているアリサとエステルは目を点にして呆れている。
「面白い! 面白いぞ小僧」
笑うだけ笑うレイズにヤマトが訊ねる。
「ところで。お前はリリムとリリスを犯ったのか」
「はっ。犯るわけないだろ。妹だぞ」
「なにぃ!」
愕然とするヤマト。妹だから抱かない犯さない。それは当たり前の常識。
しかしそれを、まさか魔物のレイズに言われるとは。
「お前……まともなんだな」
「普通だろうが」
言うとレイズは背中を向けた。
「逃げるのか?」
「決着は着けるさ。相応しいときにな」
「そうだな」
ヤマトも悟った。いつか、そのときが来ると。
「また逢おう。強くなっておけよ」
青い翼を広げ、ジェットレイズになって空へと飛んで行く。蒼い虎が青い空へと。
「またいつかな」
その姿を見送りながら、ヤマトはライガーフォームから元の基本フォームに戻った。
右肩の獅子の顔が消え、腕が元の大きさになり、巨大な爪に変化した指も元通り。
「お兄ちゃん!」
ばっとアリサが駆け寄り、血を流す左肩にバトンをかざす。
「ライブ」
回復の呪文。血が止まり、傷が癒えていく。
「やったね。お兄ちゃん」
「ああ」
「やったよ」
アリサは空に呼びかける。天国の智子ちゃんに。そして兄の手を取り、
「さ、帰ろうか」
「ええっ!? まだ駄目だよ。リリムとリリスを連れて帰らなきゃ。こら、腕を引っ張るんじゃない、まだ痛いんだから。
て、なんで本当に帰ろうとしてるの! 連れて帰るってば! こら、今度は包丁持ってどこ行くの! 今のうちにとどめ刺そうとかしちゃ駄目! 包丁は没収します! 没収!」
(つづく)