夜空には暗雲が立ち込め、遠くではピカッと稲光。
 6月の梅雨の重苦しい空気は川近くの河川敷ではさらに湿気を帯び、夜になっても立っているだけで肌に汗が浮かぶ。
 その空気を裂き、マジカル☆アリサが駆ける。栗色のツインテールをなびかせ、
手にはハートマーク付きの魔法のバトン。
「きゃいーん」
 幾つもの赤い輝きがその手に立ち塞がる。虎や獅子ほどの大きさもある魔犬。
そもそも彼らの前に立ち塞がったのがアリサだ。
 アリサの細い華奢な体など一噛みで砕けそうな鋭い牙を光らせ、魔犬が殺到する。
「はっ!」
 走りながら真上に飛び、アリサは牙をかわし、
「マジカル☆シュート」
 バトンから放たれる赤い魔力の光線が魔犬を撃ち、じゅっと蒸発させていく。
 長い栗色の髪をなびかせ、アリサが華麗に着地したとき、全ての魔犬が消え去っていた。
「てめえ。よくも俺の手下を」
 がるるっと吠えるには、唯一残ったワイツ。銀色の毛並みの狼男。背中の小さな黒い羽が、
普通の狼男と違うことを物語っている。
 百人の魔王の子供の一人であり、魔王候補者のワイツ。
 爪と牙を光らせ、獣そのものの俊敏な動きで、アリサに飛び掛っていく。
 じっと睨みつけるアリサは、その場から動こうともしなかった。
「もらった!」
 巨大な手、刃物のような爪がアリサに振り下ろされ……すり抜けた。
「なにっ!?」
 たなびくツインテールすら掠めず、ワイツの爪が空を切る。その顎が下から殴られた。
「ぎゃっ!」
 爪をかして懐に飛び込んだアリサが、下から殴ったのだ。バトンで。
 ふわっとワイツの巨体が浮かび上がり、その腹にアリサはバトンを当て、
「マジカル☆シュート」
 魔犬を一層した魔力光線を零距離で放つ。
「ひぎゃーっ!」
 狼男の巨体が宙に飛び、河川敷の高い草むらに飛び込み、ごろごろと転がって行く。
「ふー」
 お腹に直撃を受け、ワイツが飛んで行った方向を相変わらずの鋭い視線で見つめ、
アリサはすたすたと歩みだす。
 自ら草むらの中に入り、アリサの小さな身を高い草が覆う。だが不思議と虫は寄り付かなかった。
全身から立ちのぼる殺気に恐れたように虫も寄り付かず、鳴き声さえ聞こえない。
 聞こえるのはさらさらと流れる川のせせらぎのみ。
「はー。はー」
 そして荒い息が微かに聞こえる。ワイツの息。
「てめえ!」
 草むらを突き破り、ワイツが牙を剥き出しに襲い掛かってくる。

 ガン!

 牙が噛み合う固い音だけが響く。

 噛み付く直前、再びアリサの姿が消えたのだ。
 慌てて下を見るがそこには誰もいない。
「上か!?」
 見上げても分厚い雲が見えるだけ。魔物は夜目が利く。
「後ろよ」
「!?」
 振り向こうとしたときには、アリサの魔法が放たれる。
「マジカル☆シュート」
「ぎゃーす!」
 背中に直撃を受け、草むらを飛び出し、元の広い原っぱに押し戻されていた。
「ぐっ……。うっ」
 背中からぶしゅーと煙を上げ、ワイツは四つん這いになった。お腹にも真っ赤な傷跡が残っている。
「ちきしょう……」
 地面に着いた手に草を握り締め、手の甲に汗がこぼれる。
 その狼の耳に小さな足音が響き、びくっと巨体が震えた。
「ちきしょう」
 再び呟き、よろよろと立ち上がる。震える膝をなんとか抑えつけた。
 −俺は魔王の子だ。魔王になるんだ。
 脳裏にレイズの勇姿がよぎる。魔界にいた時から、誰よりも強く、憧れだった腹違いの兄。
 だからこの世界に来たとき、真っ先に勝負を挑んだ。そして負けた。
 それはもう気持ち良いほどの完敗だった。これで死んでも悔いはないほど。
 だがレイズはこう言って、とどめは刺さなかった。
『お前はもっと強くなる。強くなったら、俺と戦え』
 それ以来、ワイツはずっとレイズにくっついている。強くなるために。少しでもレイズに近付くために。
「わおーん」
 吠えて、萎えた闘志に渇を入れる。
 こんな所で、こんな魔法少女に、負けていられない。
 強くなる。せめて、レイズの兄貴に認められるほどに。
「がおーっ!」
 ビリビリと空気が震えるほどの遠吠え。近くで聞いているアリサは耳がビリビリしながらもビクともしない。
「フルチャージ!」
 ワイツの牙が黄色く光っていく。魔力の光。
 それはレイズの必殺技をワイツなりに真似たもの。

「ナイトメア☆ファング・フルクラュシュ!」

 牙に魔力、脚に力を籠め、全力で駆ける。それでもレイズには遠く及ばないが、
今はマジカル☆アリサに届けばそれでいい。
 避けられないと思ったのか、それとも最初からその気がないのか、アリサはその場から動かない。
両手でバトンを突き出し、ワイツの牙を迎え撃った。

 ガシッ!

 魔力を籠めたワイツの牙がバトンに食い込み、そしてあっさりと砕け散った。
(勝った!)
 ワイツの瞳が勝利の確信に満ち−そして怯えた。
 アリサと目があったからだ。殺気を込めた瞳に。その殺気に身体が勝手に反応し、
一瞬だが動きが止まる。
 その一瞬に、アリサが動いていた。

「がはっ!」
 狼の顎が下から突き上げられる。アリサのパンチに。
 小柄なアリサが、ジャンプしながらアッパーカットを放ち、ワイツの巨体が宙に飛んだ。
 そしてアリサはすかさず膝を落とし、十分にバネを溜め、

「アリサちゃんキーック!」

 真下からの飛び蹴り! 右足が赤い光に包まれる。魔力を籠めた一撃。
「おごうぅ!」
 空中に飛び上がっていたワイツにさらにアリサの飛び蹴りが突き刺さり、深々と埋まっていく。
「くはっ」
 白目を剥き、さらに天高く爆発的に狼男の巨体が飛び、そして落下。
 地面にバーンと大の字に倒れ、背中を上にワイツは半ば埋もれていた。
しっかりと人形の穴が残るほどに。
 ビクッビクと巨体が小刻みに震え、横を向いた口からは泡が吹き出ている。
目は白目のまま。
 もはや虫の息のワイツを、アリサは冷たい眼差しで見下ろす。その手がゆっくりと
上げられ、ワイツの目に向けられた。バトンは砕かれてもうない。
目玉に指を突っ込んでとどめを刺そうというのか。
「智子ちゃん……。仇は取るよ」
 すっと人差し指がワイツの目玉に突き刺さろうとし、
「!?」
 不意に後ろを振り向き、そして跳んだ。
 さっとワイツから離れ、さっきまで自分がいた場所を睨む。
「良い反応だ」
 腕を組み、そこに蒼い虎男がいた。ワイツより一回り大きい。そして何より、
ワイツとは比べ物にならない魔力と闘気。その気にアリサは反応した。
「誰?」
「ナイトメア☆レイズ、とらとらと参上」
 名乗ると、レイズは虎の口をにやっと歪ませる。笑ったのだ。
「マジカル☆アリサと言ったな。なかなかの戦いぶりだったぞ」
 つまり最初から見ていたのだ。あれほどの魔力と闘気を隠したまま。
 じっとアリサの手が汗ばむ。いつも握っているバトンはすでにない。
「魔法少女といえば、魔法に頼りきりの小娘ばかりと思ったな」
 さっきのアリサの戦いぶりを褒めているのだ。油断なく身構えるアリサに虎男が言う。
「武器を壊されたな。今日はもう帰れ」
「えっ?」
 意外な言葉に一瞬アリサの目が丸くなる。だがすぐに戻った。ワイツを怯ませた殺気を込めた瞳に。
 そのアリサの殺気を、レイズは余裕で受け流す。
「あなたも、智子ちゃんの仇なんでしょ?」
「お互い、命張って戦ってるんだ。死ぬこともある」
 なんの感慨もなくレイズは言った。当たり前の事だと言う風に。
「そうだね……」
 レイズの言葉をアリサは否定しなかった。彼女自身、ワイツを殺そうとした。
「でも」
 素手でじっとレイズを睨み、
「智子ちゃんの仇は取らせてもらうよ」
 ハァと、つまらなそうにレイズはため息を吐く。
「戦いになったら容赦しないぞ」
「あたしもだよ」
「負けたらどうなるか分かってるのか?」

 思い出す。ナイトメア☆ヤマトに負けて、無惨に陵辱されたことを。
 すっごく痛くって、それ以上に悔しくて悲しくて。
 ヤマトはお兄ちゃんだったけど。もしまた同じことされたら−。
 かすかにツインテールが揺れ、そして止まった。
「負けなきゃ、いいんだよね」
 アリサの手が固く握られ、レイズに向けられる。勝てばいいのだ。
「良い答えだ」
 ニッとレイズの口元に笑みが浮かんだ。
 勝てばそれでいい。強ければいい。それは魔界の掟。
「その前に」
 レイズは不意に宙を見上げ、
「出て来い。いるんだろ」
「どうも」
 声がして、夜空から悪魔が降り立つ。
「ナイトメア☆ヤマト、邪悪に参上」
 アリサとワイツと戦ってる途中にヤマトは到着していたが、黙って見ていたのだ。
レイズと同様に。
「ナイトメア☆リリム、ただいま参上」
「ナイトメア☆リリス、ゆっくりと参上です〜」
 さらに二人の美少女がヤマトの背後に降り立ち、びしっとポーズを決める。
特に意味は無い。
「ほう」
 ヤマトを見て、レイズはかすかに目を細めた。
 一方のヤマトは、アリサ同様に緊張している。

『ワイツは大したことないけど、レイズは厄介よ』

 エステルの言葉が思い出される。こうして目の前にして実感できた。圧迫感が半端じゃない。
「はわわ〜。ご主人様、レイズお兄様ですよ」
 後ろのリリムも、声こそいつもの調子だがやはり緊張しているらしい。
「レイズお兄様〜。このご主人様が、リリムのご主人様ですよー」
 訂正、やっぱりいつものリリムだ。
 すりすりとリリムがヤマトの腕に抱きつくと、リリスも、
「リリスも〜」
と反対側の腕に抱きつく。
「あ〜。レイズちゃんだ〜」
 そして今頃、レイズの存在に気付いたらしい。
「相変わらずだな。服従の呪いにかかっても」
 どうやらヤマトの事情を知ってるらしい。レイズは腕を組みながら、腹違いの妹二人を見ていた。
 魔王の百人の子供は百人とも母親が違う。
 このレイズがリリスやリリムの兄だとはにわかには信じられないヤマトだった。
倒れているワイツとも腹違いの兄弟。
「ちょっと二人とも!」
 兄に抱きつくリリムとリリスを、キッとアリサは睨む。殺気が今はこの二人に向けられていた。
「あー。アリサ」
 そんな妹に、ヤマトは悪魔の姿で、
「今のうちに逃げるのがいいと思うんだけど」
 どうにもレイズには勝てそうな気がしない。なんというか、プロとアマチュアの差を感じる。
「だめだよ。あいつらは智子ちゃんの仇なんだよ」
「でもなー」

「ナイトメア☆ヤマトと言ったな」
 会話が聞こえたのかレイズが口を挟む。
「お前は逃がさないぞ。戦ってもらう」
「なんでー?」
「強そうだからだ」
「そんな、僕は、悪魔になりたての新人ですから」
「やりゃ分かる」
 その虎の目がアリサに向けられ、
「なんなら、そっちの小娘をヤってもいいんだぞ」
 ヤる、というのが、殺すのか犯すなのかは判然としない。だがヤマトの瞳がガラッと変わった。
「あいにくと、妹に手を出す男は許さない主義でね」
 腕に抱きつくリリムとリリスを引き離し、ヤマトが前に出る。
「アリサ、お前は下がってろ。バトンが無いだろ」
「大丈夫だよ。殴るから」
 小さな拳をぎゅっと握るアリサ。バトンが無いとマジカル☆シュートや、
最大の必殺技であるマジカル☆スパークが使えないのだが。
 そして壊れたバトンはすぐには直せない。
「リリム、リリス、援護よろしく」
 前を見たまま、ヤマトは後ろの二人に呼びかける。
「はい」「わかりましたー」
 リリムがぎゅっと手を握り、リリスがピンクのバズーカを構える。この二人は前に出してもあまり役に立たない。
「やる気になったか」
 爛々とレイズの瞳が輝く。その爪がしゃきーんと長く伸びた。
「見せてもらうぞ。悪魔になった人間の力を」
 しゅっ、と虎の巨体が前に跳ぶ。
(早い!)
 一瞬でヤマトと間合いを詰め、目前に迫っていた。
「くっ」
 振り下ろされる爪を、こちらも爪を伸ばして受け止める。

 すぱっ。

 受け止めたその爪がさっさりと切り裂かれた。そのまま胸を切り裂かれ、血が飛び出す。
「お兄ちゃん!」
 横からはしっとアリサが素手で殴る。レイズは避けようともせず、脇腹にアリサの拳が叩き込まれた。
「軽い」
 魔力を籠めた一撃なのだがレイズは平然としている。
「離れろ」
 黒い翼を広げてヤマトは上空に飛び、アリサに呼びかける。言われるままアリサが下がると、
「デビルサンダー」
「電撃〜」
「そ〜れ〜」
 上空のヤマトが角から電撃、後方のリリムも手から電撃、リリスはバズーカを発射。
 突っ立ったままのレイズに、どかーんと攻撃は命中するが、
「利かんな」
 レイズは平然と立っている。電撃は両肩両膝の青い宝玉に吸い込まれ、バズーカの弾丸は命中して爆発したが青い毛並みに火傷一つ付かない。
「ご主人様〜。あれ魔力吸収石ですよ」
「なに!?」
「魔法攻撃を吸収しちゃうんです。でもいっぱい溜まると赤くなるはずです」

 リリムの説明を上空で聞いて、ちっとヤマトは舌打ち。格闘が得意で、遠距離からの魔法攻撃も吸収する。
 なんと厄介な。
 リリスのバズーカの弾丸は吸収しないようだが、レイズには全く利いていない。
警察の拘置所の壁も壊す威力なのに。レイズの体は単純に頑丈に出来ているらしい。
「どうすりゃええねん」
 真下のレイズを見ながら考え込むと、しゅっとその巨体が消えた。
「戦闘中にのんびり考えてる暇はないぞ」
 背中から声。同時にぐさっ、と翼が切り裂かれる。
「ぐわー!」
 キリキリ舞いと回転しながら落下するヤマト。
「きゃっ」
 その下にいたアリサが思わず避け、ヤマトは頭から地面に落ちる。
「いたた」
「あっ。ごめーん」
 すぐ立ち上がるヤマトに謝るアリサ。さっきのレイズの言葉を思い出し、
ヤマトはすぐに周囲を警戒する。
 レイズはまだ宙に浮かんでいて、ゆっくりと降りてきた。
 視界にレイズを納めながら、ヤマトはちらっと背中を見る。右の翼が半ばから切り裂かれていた。
 これでは飛べない。魔物の翼は大きさに関係なく魔法で空を飛ぶための必需品なのだ。
レイズも小さな黒い羽で飛んでいる。
 それにウィングカッターも使えない。技の一つを封じられた。
(どうする?)
 今度はすぐに決断する。レイズの言ったようにのんびり考えてる暇などない。
「フォームチェンジ」
 ヤマトの左腕が黒い闇に覆われて一回り大きくなり、黒がねの大砲に変化。
「ナイトメア☆ヤマト・キャノンフォーム」
 この相手に格闘戦を挑むのはあまりに無謀。なら遠距離からの砲撃しかない。
 リリムの説明だと魔力吸収石にも限界はある。天使の<聖なる加護>だって打ち破れたのだ。
「リリス、僕と合わせろ」
「はーいー」
 ドカンと魔力弾を撃つヤマトに合わせ、リリスもバズーカを発射。
「ふん」
 巨体に似合わぬ素早い動きでレイズは左右に動く。悪魔の目でも追いきれぬほど。
 ヤマトとリリスの同時砲撃をかいくぐりながら、一瞬で間合いを詰め、ヤマトの眼前で爪を振り上げた。
「リリム、シールド」
「シールド」
 ヤマトの背後にいたリリムが呪文を唱え、赤い光がヤマトを包む。レイズの爪を受けると、
一瞬でシールドは消えたが、一瞬で十分。
「この距離なら!」
 ドカンと大砲を発射。
「むっ!」
 リリスのバズーカと違いヤマトの魔力弾は魔力吸収石に吸い込まれる。
だが至近距離の一撃にレイズの身が衝撃に震えた。
「アリサちゃんキーック!」
 そこに即頭部に魔力を籠めたアリサの飛び蹴り。
「あたしがいるのも、忘れないでよ!」
 忘れたわけではない。ヤマトの砲撃に、動きが止まったのだ。

 ドカン!
 至近距離からのもう一撃に、魔力吸収石が青から赤になる。
「よし!」
 ぶしゅーと黒い蒸気を上げ、大砲が前後に伸びてフルバレルへと。

「ナイトメア☆キャノン☆フルバースト!」

 砲身が伸びた砲門から今まで以上の特大の魔力弾が発射。この至近距離。逃げ場は無い。
あのエンジェル☆リーシャのように。
 強大な魔力弾を目前に、レイズの口元が緩み、牙が青く光った。

「ナイトメア☆ファング・フルクラュシュ!」

 大きく開いた口がフルバーストの魔力弾に噛み付き−

 ばしゅっ、と噛み砕き、魔力弾を掻き消した。
「なにっ!?」
 驚くヤマトの左腕の大砲がぶしゅーと黒い煙を上げて前後に縮んで元に戻る。
フルバーストはそう連発できる技ではない。必殺技とはそういうものだ。
「ふー」
 魔力弾を噛み砕いた口からもふしゅーと黒い煙が上がっている。レイズはこきこきと首を回して鳴らし、
「なかなかの一撃だったぞ」
 フルバーストは噛み砕き、アリサの蹴りもあまり利いていないらしい。
 両肩両膝の宝玉は赤から青に戻っていた。溜め込んだ魔力を今のフルクラッシュに注入したのだ。
「くっ」
 大砲を向けるヤマトだが、すかさずレイズは砲門を掴む。砲門を下に向け、
「武器に頼りすぎだな」
 ガッ!
 爪が大砲にめり込み、半ばから切り裂いた。
 ボトッと落ちた大砲が黒い闇になって蒸発し、左腕は元の悪魔の腕に戻る。
だがその左腕は肘から先が無い。
「ぎゃあああああーっ!!!」
 左腕から盛大に血を噴き出して叫ぶヤマト。
「痛がる暇があったら反撃しろ」
 レイズの爪がぐさっとお腹に突き刺さった。硬い悪魔の皮膚装甲を突き破って。
 長い爪を引き抜くと、一緒にずるっと腸がこぼれる。大腸だろうか小腸だろうか。
「がっ……。ああっ」
 どろっと口から血が溢れ、残った右手が無意識にお腹を押さえた。
 あっという間に手がまみれ、こぼれた腸がぷるるんと揺れる。自分の内臓を見ながら、ヤマトは前のめりに倒れていた。
「お兄ちゃん!」
「ご主人様ぁ!」
 近くで上がった悲鳴がどこか遠くに聞こえる。
 なんとか顔を上げ、霞んだ目でヤマトは見た。

 アリサが泣きながらレイズに殴りかかり、逆に殴り倒される。
 リリムが泣きながらレイズにすがりつき、蹴り倒される。
 リリスが泣きながらバズーカで殴りかかり、自分で転んで動かなくなる。

 魔法少女3人が倒されるシーンを、ヤマトは呆然と見るしかなかった。

「貴様……。よくも、アリサとリリムと……リリスまで……」
 血を吐き続けながら、ヤマトが呻く。だが地に突っ伏したまま起き上がる力もない。
「リリスは勝手に転んだだけだろうが」
 足元に倒れる魔法少女3人を見下ろすレイズ。3人とも目立った外傷はなく血も流れていない。
 なんだかんだで血を出さないように気絶させたらしい。
「レイズの兄貴!」
 そのとき、ひょっこり起き上がったワイツの声が響く。
 ようやく目覚めたワイツは、倒れているヤマトと魔法少女3人を見比べ、
「さすがレイズの兄貴! もう片を付けたのか」
 つまらなそうにふんと鼻を鳴らすレイズ。
「おおっ。リリスがいる」
 ワイツはリリスに気付くと早速近寄り、そのピンクの長い髪に鼻を寄せ、くんくんと匂いを嗅ぐ。
「んー。やっぱ良い匂いだぜ。リリムも一緒か」
 リリスの体臭を嗅ぎながら、同様に倒れているリリムに目を向ける。二人とも腹違いの妹。
「兄貴、こいつらどうします?」
「お前の好きにしろ。そっちの魔法少女もな」
「へい!」
 喜色満面、ぱたぱたと尻尾を振るワイツ。名残惜しそうにリリスから離れ、
アリサの側に立つと、長いツインテールを摘み上げ、
「さっきはよくもやってくれたな」
 可愛い顔の前で、しゃきーんと狼の爪を光らせる。
「やめろ……。やめろぉ!」
 その様子を見て、倒れたままのヤマトがずるずると前に動く。血をこぼしながら、
右手一本で前に這いずって行く。
 その背中に、レイズの太い脚が乗せられた。
「ぐはっ!」
 引き裂かれた翼の上から踏みつけられ、ヤマトの前進が止まった。
「よーく見ておけ」
 レイズと倒れているヤマトの視線の先、ぐったりと気を失うアリサに、ワイツの爪が向けられる。
「やめろ……頼む、やめてくれ……」
 悪魔の瞳からぼとぼとと大粒の涙がこぼれた。
 ザッ、とワイツの爪が一閃し、アリサの胸を覆う赤い布がはらっと落ちる。
その下の淡い膨らみが晒された。
「へへっ」
 べろっと大きな口で舌なめずりし、その舌が小振りの乳房を舐めた。
「よくも痛めつけてくれたな。お礼に可愛がってやるぜ」
「んっ……」
 アリサの眉がきゅっと寄り、目がうっすらと開く。
「きゃああっ!?」
 そして気付いた。胸が晒され、狼の舌に舐められていることに。
「や、やだぁ! お兄ちゃん!」
「アリサ……」
 叫ぶ妹を見上げ、ヤマトは悪魔の姿で泣くことしかできなかった。レイズは
そんなヤマトを冷たく見下ろしている。
「これが負けるってことだ。妹が辱められるのをよく見ておけ」
「くそ……」
 妹の命が助かったのはホッとした。だがその代わり、穢される妹を見せ付けられようとしている。
「くそおおっ……。ちきしょう……ちきしょー……」
 ぼろぼろとこぼれる涙が口からの血に混ざり、地面に落ちていく。

「いやぁ! お兄ちゃん! お兄ちゃーん!」
「へへっ。お兄ちゃーんかよ」
 べろっと乳房を舐める舌を止め、ワイツは薄ら笑いを浮かべ、
「あの、トモコって女の子も、ママ、ママーッて泣いてたぜ」
「くぅ……! こんな、こんなぁ!」
 智子ちゃんの敵討ちに来て、返り討ちに遭い、大好きなお兄ちゃんの目の前で穢される。
「こんなのって……ないよぉ! いやだああぁぁぁーっ!!!」
「そうそう」
 か弱い力でもがくアリサを腕に抱き、ワイツはその柔らかさを存分に堪能し、
「お前ら正義の魔法少女はな。そうやって、犯されて泣き叫んでればいいんだよ」
 そして、小柄なアリサを押し倒し、覆い被さっていった。
「やだぁ!」
 狼の毛皮に全身を包まれ、おぞましさに鳥肌が立つ。
「いやぁっ!」
 べとっと大きな狼の舌が頬を舐め、首をなぞり、また小さな胸をしゃぶっていく。
 淡い膨らみはもう唾液でべとべとで。
 ぺちゃ、ぺちゃと、音を立ててざらつく狼の舌が小さな乳房を揉むように舐め、
先端の桃色の乳首を転がし、刺激をもたらす。
「やだっ! やだぁ! お兄ちゃん以外はいやだぁっ!」
 ツインテールをぶんぶん揺らし、おぞましさに歪んだアリサの顔が左右に揺れる。
だがそんなことで、ワイツがやめるはずもない。むしろアリサの悲鳴を心地よく聞きながら、
小さな胸を味わっていた。
「いやぁ! お兄ちゃん!」
 叫びながら頭を振ると、その兄と目が合った。
 レイズに踏みつけられ、泣きながらヤマトもこちらを見ている。
「いやああっ!」
 その兄の目と合った瞬間、アリサの胸がドクンと高鳴り、お腹の奥の子宮がキュンと疼いた。
「はぁん!」
 舐められる乳首がツンと勃起し、ワイツにもはっきりと伝わる。
「やああっ! いや、いやいや、いやいやいやいや、嫌ーっ!」
 泣いている兄の目を見ながら、アリサは熱く火照った体を悶えさせる。
 そう。アリサの体は火照り、自然に喘いでいた。
「やぁ……! どうして、どうしてぇ!」
 犯されているのに、智子ちゃんの仇なのに、お兄ちゃんに見られているのに。
「うがあああっっ! はああっんっ! あぐううぅ!」
 ワイツの体の下で腰がビクンと飛びはね、尖った乳首は固くしこる。
「いやっ! だめ、ダメーッ!」
 必死に自分の体に呼びかけるが、一度火が点いた青い体は止められない。
 兄の手によって開発されたアリサの幼い青いからだ。今その青い肉体を、狼が貪り、
兄以外の男でも敏感に反応することをアリサ自身に教えていた。
「やめて……やめてえええぇぇぇっ!」
 泣き叫ぶアリサの声を聞きながら、どうにも出来ない自分にヤマトもまた泣いていた。
「やめろ……。もう、やめてくれ」
 口ではそう言いながら、決してやめてくれないことを心が理解していた。
 ヤマト自身、どんなに頼まれてもやめなかったから。
 これは報いだろうか。
 魔法少女を、魔法天使を、無惨に陵辱し、嬲ってきた、その報い。

 違う。
 妹が、アリサが犯されているのは、負けたから。弱いからだ。
 強くなればいい。そうすれば誰にも妹は傷つけさせないで済む。
 涙を流すヤマトの瞳に、暗い炎が灯る。強くなる意志、そして復讐の決意。
 その暗い瞳を見下ろし、レイズがニヤリと口を歪めていた。

「やあああっ! はんっ! あうんっ! やだぁ!」
 固くしこった乳首を舌でしゃぶるたび、ビクンッと胸が震え、腰が浮かび上がる。
 小さいくせにずいぶんと敏感なアリサに、ワイツも目をギラギラさせて、獣欲を高めていった。
「へへっ。ずいぶん感じてるじゃねえか」
「感じて、なんか、ないもん……」
 涙目で反論するが、真っ赤に染まった顔では説得力がない。全身に汗が浮かび、ワイツの毛皮を濡らしていた。
 ぐったりとなったアリサからワイツが離れると、夜の空気がさっと流れ込み、火照った体を冷やしてくれる。
 だがそれも一瞬。
 アリサを見下ろすワイツがさっとズボンを脱ぐと、毛に覆われた狼のペニスが飛び出す。
もう勃起し天を向く野獣の性器。
「ひっ!」
 その大きさと猛々しさが目に飛び込み、アリサの目が露骨に怯えた。もう最初の威勢の良さはない。
「へへっ」
 自分を仇と狙い、痛めつけてくれた魔法少女が泣き叫び、怯える。それがたまらなく愉快で、ペニスもビンビンに震えた。
「そーら」
 長い爪がふわっと広がる緑のミニスカートを切り、はらっと落ちる。
「きゃっ!」
 咄嗟に隠そうとするが、手も動かせなかった。レイズに殴られた際に魔力も注入され、動きを封じられているのだ。
「ほー」
 スカートの下、ピンクのパンツを珍しそうにワイツは眺める。
 魔界にパンツを履く習慣はない。トモコと違うピンク色の下着が珍しいのだろう。
 だがすぐに興味は中身へと移ったようだ。パンツに爪がかかる。
「だめっ! これ、お兄ちゃんからもらったんだから!」
 お兄ちゃんからもらった大事なパンツ。それをワイツはあっさりと爪で引き裂く。
「いやあああっ!」
 大事な部分を見られる 事よりも、お兄ちゃんからもらったパンツを破かれ、
アリサは泣き叫んだ。兄との絆まで一緒に切られたようで。
 お兄ちゃんのモノが何度も出入りしているが、アリサの割れ目はぴったり閉じたピンクのままで、毛も生えていない。
 その割れ目を、ワイツはべろっと舌で舐めた。
「いやぁっ!」
 気持ち悪さに震えるアリサの腰。
「なんだ、もう濡れてるじゃないか」
 アリサの股間からは、汗とは別の匂いと味がした。甘酸っぱい愛液の味。
「いやああっ! イヤーっ!」
 力の限りアリサは叫ぶ。泣く。それしかできないから。見ているお兄ちゃんに、
嫌がっている事を示すように。アリサは決して、お兄ちゃん以外に犯されて悦ぶ女の子じゃないと教えるように。
「お兄ちゃん! お兄ちゃーん!!!」

「アリサ……」
 狼男に覆い被さられ、泣き叫ぶ妹をヤマトも泣きながら見ているしかない。
 決して目は逸らさなかった。今日この日のことを決して忘れないように。

 ワイツの手が爪を立てないように腰をつかむ。そしてアリサをぐるっと引っくり返し、
後ろを向かせた。
 そのままお尻を持ち上げると、四つん這いの姿勢にさせる。丸いお尻を見下ろし、
ワイツのハッハッという荒い息をアリサは背中越しに聞いていた。
「やめてぇ……」
 まるで犬のようなポーズ。狼男には相応しいかもしれない。
 そして小さなお尻に、ぐにっとぶっといモノが突きつけられた。
「ひっ!」
 熱く固い肉棒の先端がお尻を撫で、持ち上げたアリサの秘所へと向けられる。
「いや……あぁ……」
 それが何なのか経験としても知っており、アリサの目からさらに涙がこぼれる。
「こんな……智子ちゃん……お兄ちゃん……」
 智子ちゃんの仇も討てず、兄の目の前で、

 ずぶっ

 狼の先端が、幼い割れ目を貫き、衝撃ととともにアリサを突き刺した。
「イヤアアアアーッ!!!」
 痛みはそれほどでもない。ヤマトに、悪魔のペニスに処女を奪われたときがよっぽど痛かった。
 だが。
 心の痛みはあの時以上。
「いやああああっ! お兄ちゃん! おにいちゃああああんっ!!!」
 処女を奪われる以上に、好きな人と結ばれた後で、他の男に犯される方が残酷かもしれない。
 しかもその好きな人の前で。
「いやあああーっ! イヤアアアアアアアーッ! お兄ちゃん! お兄ちゃん!」
 四つん這いで背筋を仰け反らせ、溢れる涙がポトポトと落ちる。
「くうぅ! いいぜぇ!」
 狼のペニスがずっしりとお腹に刺さり、埋まり、小さなお腹を内側から突いていく。
「はがああっ! ひうっ、ひうっ、ひううううぅっ!」
 ぐっと手が草を掻き毟り、アリサは痛みと衝撃に耐えた。だが心の痛みは耐えようもない。
「お兄ちゃん! ごめなさい! ごめんなさい! お兄ちゃん! お兄ちゃん!」
 見ている兄に必死に謝り、ツインテールを揺らして泣き続ける。
 お兄ちゃん以外の男に犯され、身体を奪われ。体の痛み以上に、アリサは胸が張り裂けるように悲しかった。
「いやあああーっ! お兄ちゃん! お兄ちゃん! お兄ちゃん!」
 必死に兄を呼んで、ただ泣きむさぶ。
 その揺れる白い背中と栗色のツインテールを見ながら、ワイツはガンガンと腰を叩き付けた。
「ひぎいいぃ!」
 小さなお尻が縦横無尽に揺れ、内側を抉っていく。使い慣れた幼い膣は狼の
ペニスをぎゅうぎゅうに締め付け、大きく裂けた割れ目からはじゅっじゅっと淫らな音が漏れていた。
 野太い狼のペニスを挿入されながら、血は流れていない。

「あがああぁ……がああああーっ! いや、いやあああっ!
 お兄ちゃん! お兄ちゃんお兄ちゃん! ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさい!
 お兄ちゃんぅ! ごめんなさあああぁーい!」
「おおう!」
 泣き叫びながらアリサの幼膣は太い狼のペニスをぎちぎちに締め付け、もはやワイツの頭は真っ白になり、電撃が走った。
「うおおおっ!」
「いやあああああっ!」
 ドクンッと膨大な量の射精が放たれ、アリサの細い背筋が仰け反り、そして硬直した。
「アアァ……アアアアアアアーッ!」
 断末魔のような悲鳴とともにドクドクと狼の精が幼い子宮に溢れ、たちまち太ももまで流れ、細い脚を白く染めていく。
 そして射精の勢いに押されるように、ずるっとペニスが抜け、ぱっくり割れた秘裂からドロドロッと白濁液がこぼれた。
「ふー」
 射精の爽快感に獣欲を満たすワイツ。その身に、アリサからの魔力が流れ込んでくる。
「ア、アアァ……」
 ぐったりとうつ伏せで倒れ、虚ろな瞳で股間から精液を流すマジカル☆アリサ。
 その魔力がワイツに奪われ、ぴかっと光り、変身が解除される。
 長い栗色のツインテールが短髪になり、服装はパジャマへと変わっていた。
ただしビリビリに引き裂かれ、ほとんど全裸。
「ありさ……」
 犯され、魔力を奪われた妹を見届け、ヤマトはただ泣いていた。こちらはまだ悪魔の姿。
 左腕が肘から吹き飛び、内臓がはみ出す重症。今人間の姿になったら死にかねない。
悪魔の強靭な生命力だからこそ、まだ意識があるのだ。
「ふー」
「あ、あぁ……」
 ズボンを履きながら、虚ろな瞳で横たわるありさを見下ろすワイツ。これからどうしてくれようかという風に。
「帰るぞワイツ」
 その思考をレイズの言葉が止めた。
「こいつどうします?」
「放っておけ」
 ヤマトを踏みつけていた足をどけ、レイズが言う。
「悔しかったら強くなれ。強くなったら俺と戦え」
「ああ……。そうするさ」
 血を流しながらヤマトは言ってのける。瞳はまだ暗い怒りを失っていない。
 その瞳にニッと笑い、レイズは空へと飛んだ。暗雲からは今にも雨が落ちそう。
「あっ、待ってくれよ」
 まだ失神しているリリムとリリスを両肩に抱え、ワイツも後を追って飛び上がる。
 連れ去ったリリムとリリスをどうするのか。ひとつしかない。
「ありさ……」
 悪魔の姿で片腕で這いずり、ヤマトは虚ろな瞳で放心したありさに寄る。
「ちきしょう……」
 その頬にぽつんと雨が振り、たちまち大降りになっていく。
 妹は穢され、リリムとリリスは連れ去られた。完全な敗北。
 穢された妹を片手で抱きしめ、悪魔の絶叫が雨中に響く。
「ちきしょおおおおおおおおおおぉぉ!」

(つづく)