あたし、千巻 ありさ(せんかん ありさ)、小学6年生。正義の魔法少女マジカル☆アリサやってます。
そのきっかけは今年の四月。
友達の金城 智子(かねしろ ともこ)ちゃんと一緒に公園の前を歩いていたとき。
「ナイトメア☆リリム、ただいま参上」
いきなりの声。見上げると、ピンクの髪をツインテールにした女の人が滑り台に立っていた。
わー。なんだか悪の魔法少女って感じの女の子。あたしよりちょっと年上みたいだけど。
背中には小さな黒い羽が生えている。
「リリムの、小学生を襲っちゃおう作戦は始まったばかりなのですよ! そーれ、おいでませ触手さん」
その子が手をかざすと、にょろにょろと地面から何かがせり上がってくる。
「やーん。なにあれ」
思わず声に出して言ってしまう。
細長いにょろにょろした触手が幾つも絡み合ったような生き物。それが何体も公園に現れていた。
「そーれ、やっちゃいなさい!」
リリムが命令すると、触手がわらわらとやって来る。こっちに。
「智子ちゃん、逃げよう」
「う、うん」
あたしは智子ちゃんの手を引っ張ってすぐ逃げた。
智子ちゃんはおかっぱ頭にメガネをかけたおとなしくて優しい女の子。あたしの大事な友達。
「はぁはぁ」
公園から一直線に走って逃げる。あたしは平気だけど智子ちゃんはもう息が上がってた。
「がんばって」
リリムという女の人はもう見えなくなった。でも触手はまだまだ追いかけてくる。
「きゃっ!?」
と、智子ちゃんは転んじゃう。そこに、後ろから追いかけていた触手が一斉に飛び掛ってくるの!
「ダメ!」
その前にあたしは手を広げて立ちふさがった。智子ちゃんは大事な友達。
それに、あたしにはお兄ちゃんがいるんだもん!
無数に蠢く触手があたしの目前まで迫り−
「エンジェル☆ローラ、華麗に光臨」
きれいな声と共に周囲が白い光に包まれた。
「えっ?」
気が付くと、真っ白い空間にあたしはいた。
「死んじゃったの……?」
そんな。お兄ちゃんに会えなくなる。でも、お父さんとお母さんには会えるのかな?
「違いますよ」
くすっと笑うような声。さっきのきれいな声だ。
「だれなの?」
聞くと、目の前にすっごくきれいな女の子が現れたの。
金色の髪にすっごく白い肌の、美人な女の子。背中には小さな白い翼。
「天使……様?」
「私は魔法天使、エンジェル☆ローラ。今この世界は狙われています」
そしてローラと名乗った魔法天使は、あたしにとんでもない事を教えてくれた。
今この世界に魔界から百人の魔王の子供が侵略しに来てること。
その百人で一番功績を挙げた子供が次の魔王に選ばれること。
迷惑な話だよね。魔界で決めたらいいのに。
「ですが、天界はこの世界を見捨ててはいません」
だからローラちゃんたちが来たんだって。百人の魔法天使。
「ですが、あなたにも手を貸してほしいのです」
「え? あたし?」
「はい」
にっこりとローラちゃんが上品に微笑む。こっちが照れるような微笑。
「あなたには、その素質があります。何より人を思いやる優しい心が」
うーん。ちょっと考える。
お兄ちゃんは心配するだろうな。
でも。
何もしなかったら、お兄ちゃんも危ないんだ。
「やります」
あたしはすぐに覚悟を決めた。何よりお兄ちゃんのために。
「では」
ローラちゃんがあたしの手を握る。カッと熱いものが流れ込み、次に胸の奥からもっと熱いものが溢れてきた。
「なに……これ……」
熱に浮かされながら、あたしが聞くと、
「それがあなたの力。魔法の力です。自分を信じて」
「うん……」
そしてあたしは手を上げて叫ぶ。魔法の呪文を。
「マジカライズ!」
内側から光が溢れ……変化する!
そしてあたしは変身していた。
短い髪が長く伸び、ツインテールに結ばれた。ふわっと広がる緑のミニスカート。
そして手にはハートマークのバトン。
「さあ、お行きなさい。救いを求める人の下へ」
「はい!」
気が付くと、あたしは元の場所にいた。
前には触手の大群。後ろには倒れている智子ちゃん。
守らなくちゃ。あたしが!
「マジカル☆アリサ、ちゃきちゃき行くよー」
くるくるとバトンを回し、あたしは呪文を唱える。魔法はもうあたしの中にあった。
「マジカル☆シュート!」
赤い光がバトンから放たれ、触手は一瞬で消し去っていく。
すごい! すごいよマジカル☆アリサ。
「わあ」
振り向くと、後ろでぽかんと智子ちゃんが口を開けていた。
「早く逃げて」
「で、でも……ありさちゃんが」
そっか。智子ちゃんにはあたしの正体が分からないんだ。
「ありさちゃんはあたしが助けたわ。だからあなたも早く」
「は、はい」
立ち上がり、よろよろと智子ちゃんは走って行く。
ごめんね。すぐに行くから。
「よーし」
あとはあのリリムとかいう悪い魔法少女だけ。
公園に行くと、リリムは「はーっはっは」と高笑いして、大きな胸を揺らしていた。
むー。小学生だから胸で負けるのは仕方ないよね。
それにしても許せない。あんな気持ち悪い触手で、小学生を襲うなんて。
怒りがあたしに力を与え、赤い光が全身を包む!
「マジカル☆スパーク!」
全身を包んだ赤い光が球となってリリムに飛び−
どっかーんと炸裂!!
「あーれー」
吹っ飛んでいくリリム。
「ふえーん。小学生なら大丈夫と思ったのにー。次は幼稚園児を襲うですよー」
お空の彼方に飛んで行き、ぴかーんと星になりリリム。悪い子は懲らしめられる運命なのよ。
バトンをくるくる回し、勝利の決めポーズ。
「マジカル☆」
ぱちっとウィンク。うん決まった。
「ありがとうローラちゃん」
どこかで見ているはずの天使のローラちゃんにお礼を言う。そうだ。智子ちゃんを安心させないと。
変身を解き、あたしはすぐに智子ちゃんの所に向かった。
「智子ちゃーん」
「あっ、ありさちゃん。良かった」
これが、あたしの魔法少女としての初仕事。初めての戦い。
ここから全てが始まったんだ。
でも。
正義の魔法少女は大変だよー。
悪魔に負けてエッチなことさんざんされたり。すっごく痛かったの。
その悪魔があたしのお兄ちゃんで、おまけにあのリリムを下僕にしてたり。
もう、お兄ちゃんたら、へんたいなんだから。
でもね。あたしはそんなお兄ちゃんが大好き。
だって、ありさはお兄ちゃんのお嫁さんになるんだもん!
月日が経つのは早いものでもう6月。
梅雨に入ってずっと雨だったけど、今日は久しぶりの良いお天気。
体育も校庭でかけっこです。
あたし走るのは得意。一番でダーッとゴールを駆け抜けた。
「いっちばーん」
後ろを見ると、一番後ろは智子ちゃん。
「智子ちゃんがんばれー」
せっせと走って智子ちゃんもゴールイン。一番最後に。
ハァハァと息を吐きながら、メガネをかけた顔であたしを見上げ、
「ありさちゃん、はやーい」
「へへー」
得意気に笑って見せる。運動はあたしの勝ちだけど、勉強は智子ちゃんの勝ちなんだよ。
「はーい。みんな集まって」
先生がクラスのみんなを集める。体育はもう終わり。どうして楽しい時間はすぐに過ぎちゃうんだろ。
「もうすぐプール開きがあります」
もうそんな時期なんだ。水泳も大好き。
お兄ちゃんもあたしのスクール水着姿が大好き。
「スクール水着の準備をしておくように。去年のスクール水着はもう小さくなってるかもしれませんので、お家に帰ったら、きちんと確認してください」
『はーい』
スクール水着か。去年のは着れるかな? あたしも背が伸びたし。
ちゃんと確認しておこっと。
「はーい。次の授業があります。教室に戻って」
チャイムが鳴って、体育は終わり。
「行こう、智子ちゃん」
「うん」
体育館にある更衣室で女子だけで着替えする。もう6年生だもんね。お兄ちゃんなら見られても平気だけど。
上着を脱いでると、
「あーりさちゃん」
後ろから抱きつかれた。
「きゃっ!」
「わー。胸大きくなった?」
友達の美奈ちゃんだ。あたしより短いショートヘアの女の子。後ろから胸を触ってくる。
「やーん、やめてよ」
すぐに手を離してくれるけど、
「だれか好きな人に揉んでもらったとか?」
そんなことを言ってくる。
「もー」
本当は美奈ちゃんの言うとおりかも。最近はお兄ちゃんに揉んでもらってるから。
それに……。
「きゃー」
「なに赤くなってるの? ははー。思い出してんでしょ」
「そんなんじゃないよー」
本当はそうだけど。
ああ、みんなにもあたしがお兄ちゃんと結ばれたって教えてあげたいよ。
「でも、ありさももうすぐブラだね」
と言う美奈ちゃんはもうブラジャーをしていた。クラスの半分ぐらいはブラジャーをしてるんじゃないかな。みんな早い。
「うーん。あたしはまだいいかな」
「えー」
と言われても。なんだか、お兄ちゃんはしないほうが好きみたいなんだもん。
口は開きながら着替えしてると、すぐに話題は移る。
「そうだ、聞いた?」
「何?」
美奈ちゃんはうふふと笑って、
「また出たんだって。トイレのおしっこ飲み」
「えー」
今この小学校には噂がある。
放課後の女子トイレでおしっこしてると、便器の奥から水のようにどろっとした手が伸びて、
「おしっこ飲ませろー」と言うんだって。
それでおしっこ飲ませると、手はすぐ引っ込んじゃうの。
単なる噂じゃなくて、実際に被害に遭った女子生徒もいるって話だけど。
「女の子だけ狙うなんてへんたいだよー」
その『おしっこ飲み』が狙うのは女子のおしっこだけ。へんたいさんだー。
「ねえ、智子ちゃん」
着替え終わった智子ちゃんに聞くと、
「う、うん」
妙に神妙な顔で頷く。メガネの奥の瞳は何か思いつめてるよう。
「どうしたの?」
「うん……。あの、四月に怪物が襲ってきたことあるじゃない」
そう。この小学校は四月に化け物に襲われ、休校になったことがある。
特に保健室なんか壁も壊されて、室内もメチャクチャになって。警察のパトカーも何台か壊されたんだって。
ひどいよね。誰だろう、そんなひどいことをしたのは。
「その怪物の仲間じゃないかって?」
美奈ちゃんが聞くと、智子ちゃんはうんうんと頷いた。
「大丈夫だよ。また化け物が出たら、正義の魔法少女がやっつけてくれるから」
ぐっと握り拳を作ってあたしはみんなに言う。そう。ここに正義の魔法少女がいるんだから。
「そう……だよね。魔法少女がいるんだし」
メガネをかけた目を逸らし、それでも智子ちゃんは考え込んでるようだった。
何か迷ってるようにも見えた。
着替えを終わって教室に向かうと、
「きゃっ」
階段の途中で智子ちゃんがこけた。考え事してたみたいで。
「いたーい」
「わっ。血が出てる」
膝をすりむいて血が出てる。痛そう。メガネの奥の目に涙が滲んでいた。
「保健室行こ。先生にはちょっと遅れるって言ってて」
あたしは智子ちゃんの手を握って、保健室に連れて行く。
四月の化け物騒ぎで壊れ、突貫工事で修理した保健室。そこだけ真新しい。
「松坂先生」
「はーい」
ドアを開けると、保険医の松坂 明美(まつざか あけみ)先生がいた。
すっごく美人で若い先生。茶色の髪を後ろで一本に束ねている。
「智子ちゃんがけこんで怪我したの」
あたしが説明して、智子ちゃんを前に出す。
「はい。そこ座って」
椅子に座った智子ちゃんの怪我した脚をきれいに消毒し、絆創膏を貼ってくれた。
「はい。これでいいわよ」
「ありがとうございます」
立ち上がる智子ちゃんはもうすっかり笑顔で。
「あ、ありさちゃん」
「はい」
「胸、出てきたんじゃない?」
もう。松坂先生まで。
「そろそろブラジャーに変えたら? 先生が一緒に行くから」
「いえ結構です」
家は八ヶ月前に両親が事故で死んで、お兄ちゃんと二人暮し。その事情を知ってるから、
松坂先生はいろいろと親切にしてくれる。
女の子にはいろいろとあるしね。お兄ちゃんには相談できないこともあるの。
あれとかあれとか。
でもブラジャーを買うんだったら、お兄ちゃんと一緒がいいな。
「ありさちゃんは、大和くんの妹さんだったわね。お兄さんは元気?」
いきなり松坂先生がお兄ちゃんの事を聞いてくる。
「せ、先生、お兄ちゃんを知ってるの?」
「ええ。この学校に赴任してきたとき、6年生だったから」
初耳。松坂先生は何か思い出したように、「ふふっ」と笑っている。
「お兄ちゃんは元気です。それじゃ」
急に不安になって、あたしは智子ちゃんの手を取って保健室を出て行った。
「また来てねー」
松坂先生の上機嫌な声が背中にかかる。
むー。
なんだろう。この不安な気持ちは。
放課後。
「ばいばーい」
さっさと帰る人に、まだおしゃべりしている人もいる。
あたしはランドセルに教科書を入れて、帰る準備をしていた。
1年生のときからずっと使っててもうボロボロの赤いランドセル。6年にもなると、
ランドセルを使ってる子はほとんどいないけど、あたしは卒業するまで使うつもり。
だって、お父さんとお母さんが残してくれた大事な物だから。
帰りはいつも校門までお兄ちゃんが迎えに来てくれる事になっている。
「あ、ありさちゃん」
智子ちゃんが遠慮がちに声をかけてきた。
「何?」
「あ、あの……。その。お、おトイレに……」
「うん。一緒に行こう」
ニコッと微笑んで、あたしは智子ちゃんの手を取った。
トイレにお化けが出る噂があるんだもん。一人は怖いよね。
教室にランドセルを置き、智子ちゃんもバッグを置いて、トイレへと。
「ごめんね」
「いいの。友達じゃない」
智子ちゃんと一緒に女子トイレに入っていく。ここまで来たら、あたしもしたくなっちゃった。
「じゃあね」
「う、うん」
不安そうな顔の智子ちゃんと別々の個室へ。さすがにここまで一緒には入れない。
お兄ちゃんならトイレも一緒でいいけど。
じゃー
「ふー」
あー、おしっこ出るとすっきりしちゃうのはどうしてだろう。じゃーとおしっこするが気持ちいい。
お兄ちゃんにエッチなことしてもらうのはもっと気持ちいいけど。
にゅろん。
何かがあたしのお尻を撫でる。そうそう、お兄ちゃんもこんな感じ……
「ええっ!?」
びっくりして、声を出そうとして……ぬるっとした半透明の手があたしの手を塞いだ。
「もがが」
「ふー。やはり女子小学生のおしっこは美味じゃのう」
便器の奥に何かが潜み、あたしのおしっこを飲んでいる!
「もがが」
その『何か』が便器から半透明の手をにゅるーと伸ばして、口を塞いでる。
やーん、なんか汚い。
じゃーと出るあたしのおしっこを飲み干し、そいつが便器からにょろにょろと這い出てきた。
最初は細長い水の棒みたいだったけど、にゅるにゅるとあたしの目前で蠢き、
人の形になった。水で構成された半透明の化け物。
「ナイトメア☆ドロイド、どろっと参上」
口の無い水の顔でそいつはそう名乗った。目も耳も鼻も無い。
やっぱりリリムちゃんやリリスちゃんと同じ、魔王の百人の子供の一人なんだろうか。
「もがが」
相変わらず水の手で塞がれ、声が出ない。鼻は塞がれてないから息は出来るけど、
これじゃ変身も出来ないよー。
「ふふふ。おしっこのお礼に、お前に気持ち良いことをしてやろう」
水の体からにょろーんと幾本もの水の手が生えてくる。やーん、気持ち悪い。
その水の手が、あたしの服のボタンを外そうとするの!
「もがー! もががー!」
だめー! あたしに触っていいのはお兄ちゃんだけなんだから!
「もがー! もががー!」
脚を上げて蹴飛ばしてやったけど、脚が水の体を通り抜け水しぶきが飛ぶだけ。
「なかなか元気な娘じゃないか。どんな味か愉しみだぞ」
口の無い水の化け物、ドロイドが嫌らしく言う。でもどうやって声を出してるんだろう。
不思議。でも、この怪物の父親は魔王だけど、母親はどんな魔物なんだろう。
リリムちゃんが、魔王の百人の子供は、百人とも母親が違うと言っていた。
「もががー!」
とかやってるうちに、ボタンが外されちゃう! いやー!
「ま、待ちなさい!」
そこにかかる声。ドアがばーんと開いて、黒いリボンがドロイドを包む!
「ぐぐっ」
リボンが水の腕を全て切断し、あたしを解放してくれる。ホッとしたあたしが見たのは。
「マジカル☆トモコ、おとなしく行きます」
トイレにすっと立つ魔法少女。あたしもはじめて見る人だった。
年齢はあたしと同じくらい。黒い艶々したおかっぱの髪に大きな赤いリボン。おとなしそうな可愛い顔。
ひらひらフリルのいっぱお付いた黒いドレス。ゴスロリ調て言うのかな。そんな感じ。
手に持った黒いリボンが長く伸び、ドロイドの水の体をぐるっと包んでいた。
でも中から膨れ上がってて、今にも溢れそう。
あれ? でもこの子、どこかで見たような……。
「だ、大丈夫?」
震える声で、それでもしっかりとマジカル☆トモコは聞いてくる。
「うん。大丈夫」
答えながらあたしは気付いた。マジカル☆トモコは智子ちゃんにそっくりなんだ。
メガネを外して同じ格好させたら本当にそっくりだろう。世の中には似た人がいるんだね。
すっごい偶然。
あっ、そういえば智子ちゃんはどうしたんだろう。確か隣にいたはず。
「早く逃げて」
リボンで必死にドロイドを押さえ込みながら、トモコがあたしに呼びかける。
本当に智子ちゃんそっくり。声まで同じ。
「待って。智子ちゃんが、友達がまだいるの」
「そ、その子ならもう助けたから」
そっか。それなら安心だね。
「ありがとう」
お礼を言ってあたしはトイレから走って出て行く。もちろん逃げるためじゃない。
背後では、リボンの隙間から水が溢れ出し、ドロイドが今にも逃げ出そうとしていた。
待っててね、マジカル☆トモコ。
廊下に飛び出すと、周囲に誰も居ないのを確認し、手を挙げて呪文を唱える。
「マジカライズ」
しゃらーんと魔法の赤い光があたしを包み、髪が伸びてツインテールになる。
魔法のコスチュームになって、手には魔法のバトン。玩具会社の人が子供用のバトン玩具を鋭意製作中。
よし。
さっと変身したあたしはすぐトイレに戻る。そこでは、
「きゃあっ!」
トモコのリボンが破られ、ドロイドがその水の体を出したところだった。
「マジカル☆シュート」
そこにすかさずあたしが魔法で攻撃。赤い光がドロイドに命中し、水の体の表面をじゅーと蒸発させた。
「マジカル☆アリサ、ちゃきちゃき行くよー」
くるくるバトンを回して名乗ると、二人目の魔法少女にドロイドはさすがに怯んだ様子。
「きゃー! アリサちゃんだー!」
そしてマジカル☆トモコは瞳をキラキラ輝かせている。
「あ、あの。私、マジカル☆アリサのファンなんです!」
「あ、どうも」
ファンと言われて、つい手を握ってしまう。
「きゃー!」
あたしと握手して、トモコちゃんは本当に嬉しそう。いや、でも、同じ魔法少女なんだし。
「これからよろしく! さあ、一緒にナイトメア☆ドロイドをやっつけましょう、
マジカル☆トモコ」
「はい。マジカル☆アリサ!」
あたしがバトンを構えると、トモコちゃんも一緒にリボンを向ける。
いいなぁ。仲間って。
「げげっ」
トイレの奥まで後ずさりしたドロイド。二人の魔法少女にあきらかに動揺しているみたい。
顔なんてないから感情は分かりにくいけどね。
「女の子のおしっこを飲むなんて、いけないへんたいさん。今日こそ正義の魔法少女が
おしおきだよ。八つ裂きにして、内蔵引っ張り出して、目玉えぐってやるんだから」
「げげ」
あたしの言葉に、やっぱりドロイドは怯えたみたい。内臓や目なんてあるのかな。
「あ、あのー。いつもそんな感じなんですか?」
なぜだかトモコちゃんも怯えているような。おそるおそる聞いてくる。
「へんたいさんは嫌いだから。いつもはこんなんじゃないよ」
お兄ちゃんならいいけどね。お兄ちゃん以外のへんたいさんは皆殺し♪
「さあ。観念なさい」
「ぐぐ」
トイレの奥までドロイドを追い詰める。さあ、とどめはどうしよう。
水の体にバトンを突っ込んでぐるぐるかき混ぜてやろうかな。
なんてあたしが考えてると、ドロイドが背中の窓を水の手でさっと開ける。
そして、
「あっ」「逃げた」
あたしとトモコちゃんが駆け寄るよりも早く、窓から飛び降りちゃう。ここは3階だけど、水の体なら関係ない。
ドロイドが開けた窓から下を覗くと、水のかたまりがプールの方向にうにょうにょと這いずっていた。
幸いなことに生徒や先生の姿はない。
「待ちなさーい」
あたしも窓から飛び降り、ひゅっと風を切って3階の高さから着地。魔法少女に
変身したら、運動能力もすっごく良くなるの。
あれ? でもトモコちゃんが来ない。
「上を見上げると、3階の窓からこっちを見下ろすトモコちゃんと目が合った。
とっても青ざめた顔をしている。
「トモコちゃんも追いでよー。魔法少女ならこれぐらい平気だから」
「でも……」
「大丈夫」
手を広げてあたしはトモコちゃんを待ち構える。
なんだか友達の智子ちゃんと怖がりの性格まで同じ。
「早くしないと、逃げられちゃうよー」
「ご、ごめんなさいー。やっぱり怖いー」
窓から顔を引っ込めちゃうトモコちゃん。あらら。
少し待ってたら、裏口のほうからトモコちゃんが走ってきた。階段を走って降りてきたみたい。
「ごめんなさいぃ……」
今にも泣き出しそうなトモコちゃんに、あたしはくすっと笑ってみせる。
「いいよ。慣れてないうちは、仕方ないし。それより早く追いかけなきゃ」
「は、はい!」
トモコちゃんと一緒にプールへと走っていく。
びゅーん。魔法少女に変身するとすっごく早く走れる。トモコちゃんも早く走れるのが嬉しいらしくて、笑顔になっていた。
金網のフェンスを飛び越え、プールの側に降り立つ。今度はトモコちゃんも一緒にジャンプした。
「上手、上手」
「えへへ」
言葉を交わしながら、油断なく周囲を観察。
プール開きを間近に控え、水がいっぱいのプール。しーんと静まり返っていて誰も居ない。
あのナイトメア☆ドロイドの姿もなかった。
「気を付けて」
「はい」
姿は見えないけど、このどこかにいるはず。慎重に、慎重にあたしとトモコちゃんはプールへと近付き−
急にそのプールの水全体が持ち上がり、大きな波のように被さって来た!
ざっぱーん
「きゃああっ!」
耳に聞こえてきた悲鳴はあたしかトモコちゃんのものか。気が付けば、水の中にあたしはいた。プールの中に引きずり込まれた!?
「もががー」
口の中に水が入ってくる。苦しい。もがいてみるけど、ちっとも進まなかった。
水泳は得意なのに。変だよ。この水、普通じゃない。
見ると、トモコちゃんも同じように水の中に閉じ込められていた。苦しそうにもがいているけど、あっちも動けないみたい。
「ふふふ。我が体内へようこそ」
どこからともなく声が聞こえてきた。ドロイドの声。
「もがー。もががー」
どこ? どこにいるの?
「お前たちはもはや我が体の中。決して逃さぬ」
声は直接頭の中に響いてくるみたいで。
まさか!?
プールの水全部がドロイドになっちゃったの? するとここはプールの中?
「もががー」
ああ、息が苦しい……。なんだか、頭がボーッとしてきちゃった。
お兄ちゃん……
「おっと。気絶したら面白くない」
ごぼっと急に顔が水の外に出る。顔だけプールの上に出されたんだ。
「がはっ。ごほごほ」
水を吐き出して、精一杯空気を吸う。はー、空気ってこんなにおいしいんだ。
トモコちゃんも同じように顔を出して、息を吸っていた。よかった。でも体はまだプールの水の中。
そしてコンクリートに固められたように体は動かない。これじゃバトンも使えないよ。
うーん、うーん。
力を入れてみたけど、やっぱりダメ。少しも動けない。
「トモコちゃん大丈夫?」
「は、はい……。けど、動けないの」
やっぱりトモコちゃんも動けないみたい。
「ど、どうしよう?」
涙目になってトモコちゃんが聞いてくる。そんなことあたしに言われても。
でも、何か考えないと……。
ぷるん
「きゃああっ!」
お尻を撫でられたような感触につい悲鳴が出ちゃう。ううん、撫でられたんだ。
水の中に半透明の『手』が何本も現れている。手は自在に水の中を移動し。
あたしのお尻を撫で、胸まで触ってきた。
「や、やだ。やめてよ」
むにむにと小さなおっぱいが揉まれ、むず痒い感触がしちゃう。やだ、お兄ちゃん以外にこんな……。
「きゃああっ! やだ、やめて! やめてください!」
見れば、マジカル☆トモコにも手が群がり、黒いドレスの上からべたべた触っている。
トモコちゃんはもう目から涙を流し、ふるふるとおかっぱの髪を振っていた。
「いやぁ! ママ! ママァ!」
トモコちゃんの胸が触られ、長いスカートの中まで手が潜り込み、白いパンツの上から股間をまさぐる。
「やんっ!」
あたしのスカートも水の中でたくしあげられ、同じようにパンツの上から手が触ってきた。
「きゃああっ! やだ、やだやだっ!」
お兄ちゃんに触られたときを思い出す。違う! お兄ちゃんはもっと気持ちよかったもん。
「やぁ……いやぁ……!」
水の中で、もみもみと胸を揉まれ、パンツの上から股間を撫でられているうちに、
頬が熱くなった。
感じてるの? あたし。お兄ちゃん以外にされて。
「やめて! 許して! ママァ! 助けて!」
泣き叫ぶトモコちゃんの声がぼんやりと聞こえる。ごめんね。助けられなくて。
トモコちゃんのドレスの下のパンツが脱がされ、股間をまさぐる水の手が細長い形になった。
「えっ?」
見下ろすと、あたしもパンツを脱がされ、手が細長い形に変形する。
これ……お兄ちゃんの股間に付いてるのと同じ……。
ちんこ!
水の手がちんこの形になって、あたしとトモコちゃんの股間に突き刺さろうとしてるんだ!
「くくくっ。そーら、挿れてやるぞ」
ドロイドの哄笑が聞こえてくる。今やこのプールの水全てがドロイドの体。
あたしとトモコちゃんはその水の体の中で弄ばれ……エッチなことされてるんだ。
「やああっ! やめてください! お願いだから、もう許して!」
おかっぱの髪を振り乱し、トモコちゃんが泣きながら懇願する。
でもあたしは知ってる。決してやめてくれないことを。
「お兄ちゃん……」
股間に硬いモノの感触がする。水のちんこが入ってこようとしてるんだ。
「きゃああああああぁぁぁーっ!」
トモコちゃんも同じ感触をしてるんだろう。必死に叫んでいた。
「お兄ちゃん……!」
そしてあたしが想うのはお兄ちゃんのことだけ。
悪魔でへんたいで、でもあたしのお兄ちゃん。
「お兄ちゃん!」
強く想う。あたしを抱いていいのは、お兄ちゃんだけなんだから。
動けないなら……!
あたしは動けないままで、体内に向けて魔力を凝縮していく。
赤い魔力の光があたしを包み、じゅっと水のちんこや手が蒸発していく。
そしてあたしを拘束するプールの水そのものも。
「マジカル☆スパーク!」
ゼロ距離でのマジカル☆スパーク!
どっか〜ん
「きゃ〜!」
爆発音、そしてトモコちゃんの悲鳴。
「はぁ、はぁ」
息をつきながら、あたしはプールの底に膝を付いた。水はもうほとんど吹き飛んでいた。
「トモコちゃん!」
すぐ横で、赤い顔でトモコちゃんが倒れていた。目には涙。
「大丈夫!?」
「う、うん……」
すぐに立ち上がるトモコちゃん。そして涙を拭いた。
そうだ。あたしたちは正義の魔法少女。泣いてる場合じゃない。
「げ、げげっ……」
プールの底の中央、わずかに残った水溜り。その水溜りが人の形になった。
ナイトメア☆ドロイドの本体。
「トモコちゃん!」
「うん。マジカル☆リボン」
しゅっとトモコちゃんの手から黒いリボンが伸び、ドロイドを包み込んで拘束。
「今度は逃がさないわ!」
エッチなことされて、トモコちゃんも怒ってるようだ。はー、本当にやばかった。
黒いリボンにぎゅーんと魔力が流れていく。
「マジカル☆リボン・ファイナルフラワー!」
ドロイドを拘束したままリボンが持ち上がり、ぱっと花びらの形になる。
そしてドロイドを黄色い光の花が包んだ。
「マジカル☆シュート」
同時にあたしもバトンから赤い光を放射。
「ぎゃー!」
黄色い花の光と赤い光がドロイドの水の体を包み、どたっとプールの底に倒れる。
そして、ナイトメア☆ドロイドの水のかたまりのような体のが黒い闇になり、
風に流されていった。
そっか。魔物は死んだらこうなるんだ。死体も残さないで闇になって消え去る。
リリムちゃんやリリスちゃんも死んだから、こうなっちゃうのかな。お兄ちゃんにべたべたくっつくあの二人をぶち殺すのが、今から楽しみ。
「やったね。マジカル☆トモコ」
「はい。ありがとう、マジカル☆トモコ」
ニコッと微笑みあい、トモコちゃんとそっと手を握る。ちょっとやばかったけど、
なんとか勝てた。それも二人が力を合わせたから。
「ね。あれやろうよ」
「あれ?」
「うん。あれ」
「は、はい!」
嬉しそうな顔で頷くトモコちゃん。
あたしはバトンを、トモコちゃんはリボンをくるくる回し、
「「マジカル☆」」
ぱちっと二人同時にウィンク。誰も見てないけど、お約束ってことで。
それからトモコちゃんと顔を見合わせ、クスッと笑う。
なんだか不思議。トモコちゃんとはずっと前から友達みたい。
あっ、いけない。お兄ちゃんが迎えに来るんだ。
「ごめん、あたしこれで」
さっと飛び上がり、プールから出て走っていく。
「あ、あの……。ありがとう、アリサちゃん!」
後ろからトモコちゃんの声が聞こえてきた。
また一緒に頑張ろうね。マジカル☆トモコ。
裏庭で変身を解いてほっと一息。
教室に戻る途中で智子ちゃんと会った。
「あっ。智子ちゃん」
たたっと駆け寄り、手を繋ぐ。なんだかマジカル☆トモコと同じ感触。
「大丈夫だった? さっきね、トイレで化け物に襲われて、魔法少女のマジカル☆トモコに助けてもらったの」
「う、うん。あたしもね。マジカル☆トモコに助けてもらったの」
「そうなんだ。よかった」
「あ、でもそのあとね。今度は、マジカル☆アリサにも助けてもらったの」
「へー。すごいじゃない」
と言いながら、あたしは内心『あれ? 智子ちゃん助けたっけ?』と首を傾げていた。
まあ、いいや。
「行こう」
教室に戻って、ランドセルを背負うと、
「それじゃあ、また明日。ばいばーい」
「うん。ばいばい」
智子ちゃんと別れて、校門へ走っていく。
「お兄ちゃーん」
校門ではやっぱりお兄ちゃんが待ってていた。
「あっ!」
でももう一人。お兄ちゃんの横に、長い黒髪の女の人がいた。
お兄ちゃんと小さいときから友達の撫子お姉ちゃん。優しくて美人であたしも好きだけど。
最近はすっごくお兄ちゃんと仲が良い。こうして二人で並んじゃって。
「お兄ちゃーん。とう」
と、あたしは走りながらジャンプして、
「ありさちゃんキーック!」
飛び蹴りを繰り出す。撫子お姉ちゃんの顔面に。
めきっ
見事に撫子お姉ちゃんのきれいな顔に蹴りが命中。あたしが着地すると同時に、
鼻血を出しながらぶっ倒れた。いい気味。
「な、撫子さーん!? こらありさ! いきなりなにするんだ!」
「いいから、いいから」
「よくなーい!」
というお兄ちゃんの腕を引っ張って、あたしは学校を後にする。
「ご、ごめんね撫子さん。あとでちゃんと叱っておくから」
ふーんだ。お兄ちゃんとべたべたする撫子おねえちゃんが悪いんだよ。
撫子お姉ちゃんは鼻血を出しながら、よろよろと立ち上がり、手を振っていた。
べーだ。
「こらー!」
家に帰るや早々、お兄ちゃんはこつんとあたしの頭を小突く。軽く。
「あーん。お兄ちゃんがぶったー」
「いきなり撫子さんを蹴るからだろ!」
「なによ、最近は撫子お姉ちゃんといちゃいちゃしちゃって。付き合ってるの?」
「う……!」
びくんっとお兄ちゃんが震える。
「ああっ! そうなんだ!」
「それはともかく。蹴っちゃだめ」
「うん。これからは包丁で刺す!」
「包丁も駄目!」
「じゃあ、金属バットで殴る!」
「金属バットも駄目ー!」
言い合うあたしとお兄ちゃんを、リリムちゃんとリリスちゃんがニコニコ笑顔で見ていた。
ふーんだ。あなたたちもそのうち刺してやる。
そんなこんなで自分の部屋に。
「あ、そうだ」
スクール水着を引っ張り出して着てみる。用意しておかなきゃ。
「やっぱり小さくなってる」
本当はあたしが大きくなったんだけど。
着られないことはないけど、あちこちきつい。特に胸。去年より成長したってことかな。
「お兄ちゃん」
スクール水着を着たまま、お兄ちゃんの部屋に。
「こ、こら、ノックぐらいしろ」
「あーっ」
お兄ちゃんは全裸で部屋の中央に立っていた。ベッドにはリリムちゃんとリリスちゃん。
やっぱり二人とも全裸。
「またエッチなことしようとして!」
「て、なんだその格好は!?」
「あ、これ?」
くるんと一回転して、
「もうすぐプール開きだから、スクール水着の準備だよ」
言いながら上目遣いで甘えた視線をお兄ちゃんに送る。甘えんぼビーム。
「でも小さくなっちゃった。見て見て。乳首がこんなにくっきり」
「う、うん。新しいの買おうな」
ごくっと唾を飲み込んで、お兄ちゃんが胸元を覗き込んでくる。
もう本当にへんたいなんだから。でも大好き。
「お兄ちゃん」
あたしは裸のお兄ちゃんに飛びつき、首に手を回して、
「大好き」
ちゅっとキス。お兄ちゃんもあたしを受け止めてくれる。
「今日は去年のスクール水着でしよ。破いてもいいよ」
こくこくと頷き、お兄ちゃんはあたしを抱っこしてくれた。へへ。
リリムちゃんとリリスちゃんがぶーと口を尖らせるが無視。お兄ちゃんはあたしが一番なんだから。
「お兄ちゃん」
大好き。
でも、マジカル☆トモコちゃんのことは秘密。教えたら、すぐエッチなことしそうだもん。
それにしても、マジカル☆トモコちゃんの正体は誰なんだろう?
(つづく)