この街に新たな魔法少女が二人出現した。
 一人は、
「ナイトメア☆リリス〜、ゆっくりと〜参上です〜」
 五月の爽やかな朝。登校途中の僕と妹のありさは、間延びした声に盛大にずっこけた。
僕こと千巻 大和(せんかん やまと)は高校一年生。妹のありさは小学6年生。
「あ、あれ!」
 ありさが指差した先。公園の砂地の上に彼女はいた。
 見た目は中学3年生くらいだろうか。背中にサラサラ流れるセミロングのピンクの髪。
ふりふりのフリルがたくさん付いたピンクのドレス。そして背中には小さな黒い蝙蝠の羽。間違いない。魔界から来た悪の魔法少女。
「リリス〜バズーカです〜」
 相変わらずのんびりと間延びした声。だが呑気な声とは裏腹に、突如空中から出現したのは、ピンクのバズーカ。
「そ〜れ〜」
 肩に担いだバズーカをずどんと発射。ピンクの爆弾がふらふら〜と射出され−

 ずどーん

とピンクの爆発。あれ? アスファルトの道路に穴が開いてますよ? 当たると痛そう。
「わー」「きゃー」
 登校途中の生徒たちがたちまち逃げ惑う。四月にも化け物が襲ってきて休校になったりと、
この手の事件が頻発するようになったが、これは洒落にならない。
「そ〜れ〜」
 もう一発どかんと発射するリリス。
「生徒さんの〜登校を〜邪魔する作戦は〜成功です〜」
 頭を抱えたくなる。そのとき、
「待ちなさい!」
 鋭くかかる制止の声。誰もが振り向き、そして見た。
 公園の土管の上に立ち、黒髪をたなびかせる正義の魔法少女を。
「マジカル☆ナデシコ。淑やかに行きます」
 腰まで伸びる艶々とした黒髪に大きな赤いリボン。和風の美貌。着ている物も弓道着を思わせる魔法少女のコスチューム。年の頃は僕と同じくらいか。
 マジカル☆ナデシコと名乗った魔法少女は、キリキリと和弓の弦を引き絞った。
だが矢はない。と思ったら、弓に青く光る矢が生じる。
「マジカル☆アロー」
「そ〜れ〜」
 魔力の矢とバズーカが発射されるのは同時。ピンクの爆弾が空中で射抜かれて爆発し、ピンクの爆発が宙を彩る。
 ぽかーんと見ている僕の横で、さっとありさが駆け出そうとする。僕は慌てて手首を掴んで止めた。
「お兄ちゃん離して。あたしも」
「まあ待て」
 実は。妹のありさも、正義の魔法少女マジカル☆アリサである。小さい女の子を中心に人気急上昇中。
 戦いをじっと見ていることなど出来ない性格だ。変身して加勢するつもりだったのだろうが。
「今は、あの二人の実力を見せてもらおうか」

 互いに距離を取って、弓とバズーカをどかどかと撃ち合うナデシコとリリス。
 だが空中で矢と爆弾が相殺するだけで、なかなか埒が明かない。
「……早くしませんと、遅刻してしますわね」
 ボソッと呟くナデシコ。爆音の中、誰にも聞こえない小声だが、今の僕の耳は遠くでもよく聞こえる。
 なぜなら今の僕は呪いによって悪魔になってるから。その呪いを解くために奮闘中。
「魔力集束」

 きゅいーん

 ナデシコの弓に青い魔力の光が集まっていく。
「そ〜れ〜」
 のほほんとバズーカを撃ちだすリリスに、ナデシコはきっと弓を向け、

「マジカル☆アロー・ファイナルシューティング!」
 ぎゅいーん!

 今まで以上のぶっとい矢が和弓より放たれ、ピンクの爆弾をじゅっと蒸発させ、

 どかーん

「あ〜〜〜〜〜〜〜れ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
 リリスを直撃! 間延びした叫びとともにリリスは吹っ飛び、ぴかっと星になった。
「ふー」
 マジカル☆ナデシコは長い黒髪を風になびかせ、
「マジカル☆」
 弓をくるくると回し、決めポーズでぱちっとウィンク。そして颯爽と宙に飛び、何処ともなく消えるのだった。
「おー」
 思わず見惚れていると、
「お兄ちゃん、お兄ちゃん」
 赤いランドセルを背負ったありさが腕を引っ張ってくる。
「早くしないと遅刻しちゃうよ?」
 はっ。しまった。急がないと。

 小学校の近くでありさと別れ、僕は小走りになって高校を目指す。遅刻、遅刻〜。
 曲がり角を曲がると、

 ごっつん

「きゃっ」
「ご、ごめん」
 小さな悲鳴に、咄嗟に謝る。
「大和くん。おはよう」
 ぶつけた頭を押さえ、それでもおしとやかに挨拶してくる少女。
「撫子さん、おはよう」
 僕の同級生の華道 撫子(かどう なでしこ)さんだった。幼稚園のときからずっと同級生の幼馴染。
 腰まで伸ばした艶々とした黒髪に、和風の美貌。紺のブレザーの制服をきちっと着こなしているが、和服や弓道着もよく似合う。
優等生で性格も慎ましい大和撫子。それが撫子さん。
 と、その顔を見て僕は固まった。

「どうしたの? 大和くん」
「ああ、いや。相変わらず美人だなーて」
「もう」
 照れくさそうに笑う仕草もまた可憐で。
 しかし僕が見惚れた理由は別。撫子さんが先程の正義の魔法少女、マジカル☆ナデシコにそっくりだったからだ。
 長い黒髪に赤いリボンを付けて、同じ服を着せれば完全に同じだろう。世の中には似た人がいるもんだ。
「急がないと、遅刻するよ」
「は、はい」
 たたっと駆け出す僕に、撫子さんも付いてくる。それにしても、優等生の撫子さんが遅刻すれすれなんて珍しい。何かあったのかな?

 その日はなんとかギリギリセーフ。
 かつて悪魔に襲撃され窓ガラスを割られた校舎も、今は元通り。
 あっという間に昼休み。教室はいつも以上にざわついていた。明日からのゴールデンウィークをどう過ごすか話し合っているのだろう。
 自分の机でお弁当を広げてると、撫子さんがやって来た。
「いい?」
「どうぞ」
 わざわざ自分の椅子を持ってきてちょこんと横に座る。
「わ。ありさちゃんのお弁当? 可愛い」
 僕の弁当をちらっと見て、撫子さんが目を細める。僕の弁当はいつも妹が作ってくれている。いや弁当だけでなく3食全て。
 7ヶ月前の事故で両親が他界して以来、家の家事は全てありさが引き受けていた。僕がそういうの駄目なもので。
 両親が亡くなったときは撫子さんにもいろいろとお世話になった。ありさとも小さいときから仲良くしてもらってる。
「ありさちゃん、最近はすっごく大人っぽくなったよねー」
「そ、そうかな」
 自分の弁当を広げながら言う撫子さんの言葉に、僕はドキッとなった。
「ええ。なんだか、大人になったっていうか。気付かない?」
「う、うーん。家のこと頑張ってるからじゃない?」
「すごくがんばってるよね」
 そして撫子さんは遠い目をして、
「私もあんな妹ほしいな……」
「僕のお嫁さんになれば妹になるよ」
 なんとなく呟いただけだが、
「え? えええ? ご、ごめん、そ、そういうことじゃなくて……」
 なぜか手をあわあわ振って、赤くなって撫子さんは言い繕う。
「あ、撫子さんのお弁当も美味しそう。自分で作ったの?」
「うん。お母さんに教わりながら」
 よし、なんとか会話を逸らした。
 しかし……やっぱりありさは大人っぽくなってるのかな。経験を積むと、女の子は女になっていくのか……。
「はぁ」
「どうしたの?」
「ううん。なんでもない」
 禁断の関係は幼馴染にだって話せない。というか、撫子さんが知ったら卒倒しちゃうよ。
「そ、それにね」
「ん?」
「大和くんも……大人になったみたいで」
「あー」
 ごほんと咳して僕は両手を合わせ、
「いただきまーす」

「いただきます」と撫子さんも手を合わせる。
 同じ机でお弁当を食べる僕と撫子さんを、周囲のクラスメイトは微笑ましく見ていた。

 何事もなく放課後。
「大和くん」
 帰ろうと準備すると、撫子さんが話し掛けてくる。
「一緒に、いいかな?」
「うん。ありさを迎えに行くけどいい?」
「もちろん」
 にっこりと笑顔で撫子さん。それから並んで校庭に出ると、部活動の準備をしている生徒の姿があちこちで見られた。
「大和くんは何か部に入らないの?」
「いや。特に入りたいとこもないし。撫子さんは?」
「わ、私も別に」
「そう? でも、弓道とか華道とか得意じゃない」
「そんな」
 にこやかに微笑する撫子さん。いいなー。おしとやかで。
「それに……いろいろと忙しいし」
「え? 何かしてるの?」
「う、うん。ちょっとね」
 離し難そうに撫子さんは目を逸らす。ま、いろいろあるんだろう。僕も悪魔になったことは秘密だし。
 校門を出て、まずはありさを迎えに小学校に向かう。僕も撫子さんも無言で歩いていく。
 なんだろう? 下を向いた撫子さんがモジモジとしている。何か話そうとしているように。
「あー」
 こういうときは男から話さないと。
「明日から、連休だね」
 五月のゴールデンウィーク。今年は何しよう?
「……大和くんは、何か予定あるの?」
 意を決したように撫子さんが聞いてくる。なんでこんなことで緊張してるんだろう?
「いや。特にないけど」
「そ、そそそそそ、それじゃ……」
 撫子さんは耳まで真っ赤にして、
「え、ええ、映画でも観に行かない?」
「いいよ」
 あっさり僕が言うと、撫子さんは心底ホッとしたように胸を撫で下ろす。なんでそんなに安心するんだろう?
「それじゃあさ」
 丁度いい。映画のついでに、
「一緒に買い物に付き合ってくれない?」
「か、買い物!?」
 なんでそんなビックリするんだろう?
「うん。映画観たらさ。どっかで食事して、買い物に付き合ってくれないかな」
「わ、私で良ければ……」
 赤い顔で下を俯き、なぜだか「よし」と頷く撫子さん。
 どうしたんだろう? ただ映画観て、食事して、お買い物するだけなのにすごく嬉しそう。
 サー、と春の風が流れ、撫子さんの長髪とスカートを揺らし。ふわっと甘い香りを僕に届けてくれる。
 爽やかな撫子さんの匂い。清楚な女子高生の香り。
 撫子さんも女っぽくなったんだな、とふと感じた。
 話してる間に小学校が見えてきた。

 この四月に正義の魔法少女と悪魔が激戦を繰り広げた場所。今ではすっかり元通り。
「お兄ちゃーん」
 校門で待っていたありさが手を挙げ、
「撫子……お姉ちゃん……」
 隣にいる撫子さんに気付き、露骨に顔を険しくする。
「こんにちわ。ありさちゃん」
 にっこりと笑顔で話しかける撫子さんに、ありさはちょっと身を引き、
「こ、こんにちわ」
 なんだろう? ありさが撫子さんを警戒してるような。今までそんなことはなかったのに。
「お、お兄ちゃん」
 撫子さんの反対側に回り、ありさがぎゅっと僕の手を握ってくる。
 暖かくてすべすべの妹の手。僕もしっかりと握り返す。
「行こう」
 手を握ると、それまでの不安な様子が嘘のように、勝ち誇った顔でありさは歩き出す。
 仲良く手を繋ぐ僕たち兄妹を、撫子さんは一歩後ろで見ていた。
「それじゃ。大和くん、ありさちゃん」
「うん。ばいばーい」
 家は近所でもすぐ隣というわけではない。別れ道で分かれると、ありさは嬉しそうに撫子さんに手を振った。
「じゃ。また明日」
「はい。明日」
 僕が言うと、少し嬉しそうに撫子さんも手を振る。
 撫子さんが見えなくなると、
「明日? 明日、学校休みじゃないの?」
 ありさが刺々しく聞いてきた。
「うん。明日、撫子さんと約束があるから」
「えー!?」
 そんな驚かなくても。
「そんなぁ。あたしだってお兄ちゃんと……」
「一日ぐらいいだろ」
「ぶー」
 口を尖らせながらも、手はしっかり握って離さない。そうしながら我が家に到着。
「ご主人様ー」
 ただいまを言う間もなく、玄関を開けると同時に抱きつかれた。胸に柔らかな膨らみが当たり、
目の前ではピンクのツインテールが揺れている。
「リリム、寂しかったですぅ」
「ああ。ごめん」
 よしよしとピンクの髪を撫で、横でふーと鼻息荒くしているありさに苦笑い。
「ほーら」
 リリムを抱っこして階段を上がり、自分の部屋へ。相変わらず軽い。
「ええっ!? リリスお姉様が?」
 制服を脱いで着替えてる間、朝見たことを話すと、リリムは羽をばたつかせて飛び上がる。
目は僕の着替えを注視したまま。
「ああ。知ってるのか?」
「はい。リリスお姉様はリリムのお姉様です」
 ああ、やっぱり。
 今この世界には魔界より百人の魔王の子供が侵略しに来ている。そして一年の期限の間、
もっとも功績を挙げた者が次の魔王となる。
 このリリム、そしてあのリリスのその中の一人。

 この魔界の動きに、天界も百人の魔法天使を派遣。魔法天使は素質ある少女を魔法少女にすることもある。
妹のありさや、あのマジカル☆ナデシコのように。
「わー。リリスお姉様がこの街に来てるんですか〜」
 手を合わせてキラキラ瞳を輝かせるリリム。
「同じ魔王候補のライバルだろ? 襲ってくるとかしないのか?」
 魔王になるのはただ一人、最終的に残った一人が自動的に魔王になる。
一年の期限の間、魔界に帰ったら失格という以外は、特にルールはないそうだ。
つまり他の魔王候補、リリムの兄弟が攻めて来る可能性も十分あるわけで。
「大丈夫ですよ。リリスお姉様とは仲良しさんですから」
「そうなのか?」
「はい。リリスお姉様のお母様と私のお母様は、姉妹なんです」
「へー」
 道理でリリムと似てると思った。ピンクの髪なんかそっくり。
「ん? でも父親は魔王で同じなんだよな」
「はい。そうですよ」
 未だに信じ難いことだが、このリリムも魔王の娘。魔界のお姫さま。
「しかし姉妹ともどもとは。さすが魔界の魔王」
「そうですか? お父様には私も含めて百人の子供がいますけど、母親は全員違うんですよ?」
「う〜ん」
 思わず唸る。百人の母親に百人の子供。魔王恐るべし。
「で、そのリリスはどんな奴だ?」
 バズーカを使うところは見たが、他の能力もあるなら聞いておきたい。
「はい。リリスお姉様は、目が二つ、鼻が一つ、口が一つ、耳が二つに、腕が二本、
脚が二本、おっぱいが二つ、羽が二つあります」
「うん、よく分かった」
 リリムに聞いた僕が馬鹿だった。
 着替えも終わったし、外に出かけよう。
「ご主人様〜。今日は何するんですかー?」
「ふふふ。今日のはとっておきだぞ」
 リリムを引き連れて階段を降りると、
「お兄ちゃーん。あんまり悪さしちゃダメだよー。すぐにあたしが止めに行くからね」
「はいはい」
 念押しするありさに返事して、僕は外に出る。もちろんリリムも一緒。
 てくてく歩いて公園に来ると、
「ではリリム。今日の作戦を説明する」
「はい、ご主人様」
 びしっと敬礼するリリム。
 魔王に選ばれるためには一年の間に功績を積まねばならない。つまり悪事だ。
リリムの手伝いで僕も悪事に付き合うようにしている。というか、最近はもっぱら作戦立案も僕の担当。
そこまで付き合う必要もないんだけどね。処女を奪ってご主人様になった代償ということで。
「今日の作戦は、『落ちてるお金を拾って、交番に届けない大作戦』だ」
「ええっ!? 拾ったお金は交番に届けないといけないんですよ!」
「ふふっ、そうだろう。だが交番に届けない! 落とした人が困っててもだ!」
「はわ〜。ご主人様、極悪人ですー。悪い子です−」
「ふふ。そうだろう、そうだろう」
 我ながら自分の極悪非道さに惚れ惚れする。
「というわけで、『落ちてるお金を拾って、交番に届けない大作戦』開始ー」
「おー」
 手を振り上げ、リリムと一緒にがさごそと地面を這いつくばってお金を探す。
 ちなみに今の僕は人間の姿のまま。この作戦に悪魔の姿は不要だろう。

 がさこそ がさこそ

 道端の草むらの中を探してると、
「あー!」
 声に振り向くと、リリムが一円玉を掲げていた。
「見つけましたー」
「よーし、それはリリムのものだ。交番に届けちゃ駄目だぞ」
「はーい」
 にこにこ笑顔で自分のピンクの財布に一円玉を入れるリリム。作戦は順調。
「よし場所を変えよう」
「はい」
「自動販売機とか、コインロッカーの下によくお金が落ちてるんだぞ」
「わー。ご主人様、物知りですー」
 というわけで、自動販売機を見かけては、重点的に捜索。
「落ちてないなー」「そうですねー」
 しかしなかなか見つからない。ひょっとして同業者にもう拾われたんだろうか。
「あー。リリムちゃんだー」
 そうして街中を歩いてると、母親と手を繋ぐ小さな女の子が声をかけてくる。
 最近はリリムも街の人気者になってきた。もちろん一番人気は正義の魔法少女のマジカル☆アリサなんだが。
「リリムちゃんは、わるものなんだよー」
「まあ、そうなの」
 手を繋ぐ母親にリリムのことを教えてやる幼女。うんうん、なかなか知名度が上がってきたじゃないか。
「ばいばーい」
 手を振る幼女に、リリムもにこにこと手を振る。僕は人間の姿なので眼中になし。
悪魔の姿だったらどうなんだろう? ナイトメア☆ヤマトの人気もちょっと気になる。
 そんなこんなで『落ちてるお金を拾って、交番に届けない大作戦』を続けていると、
「あっ、ご主人様ー」
と、また草むらの中からリリムが拾う。今度は茶色の財布。
「なんだか、いっぱい御札が入ってますよー?」
「なに!?」
 見るとあらビックリ。財布の中に、ぎっしり万札が詰まってるじゃありませんか。
「こ、これもリリムのですかー?」
「も、もちろん」
 家は両親が他界しているが、遺産を残してくれたのでお金には困っていない。
こんな拾ったお金なんかいらないんだからね。
「うーん。どこ落としたかのー?」
 ふと見ると、腰の曲がったお婆さんが、困ったように何かを探している。
老眼鏡をかけたよぼよぼの目で。
「お婆さん、どうしました?」
 すぐに声をかけるリリム。悪の魔法少女のくせにどこかお節介なところがある。
 お婆さんはピンクの髪のリリムにちょっとだけ驚いたものの、話してくれた。
「いやね。財布を落としてしまって。今月の年金が入ってたんじゃが」
「これですかー?」
 すぐに茶色の財布を差し出すリリム。
「おお、これじゃこれじゃ。ありがとう。本当にありがとう」
 財布を渡すリリムに、お婆さんは何度も何度もお礼を言い、手まで握る。
 ……まあ、いいか。『交番に届けない』だから、落とした本人に渡すのは。
「ご主人様ー」

 お婆さんに感謝されて戻ってきたリリムは、手にひらひらと千円札を持っていた。
「お婆さんから、お礼にもらっちゃいましたー」
「ああ。リリムは良い子だなー」
 いい子いい子とピンクの髪を撫でると、リリムは「えへへー」と無邪気に笑った。
 リリムが魔王になったら、魔界はどんな国になるんだろう。見てみたい気もする。

 お婆さんからもらったお金で、飲み物を買ってちょっと休憩。
 僕はコーヒーでリリムもコーヒー。僕と同じのがいいらしい。
「はー」
 公園のベンチに腰掛けて缶コーヒーを飲みながら、しみじみと青い空を眺める。
 横では、ちょこんと座っているリリムがなぜか顔を赤くしていた。
「どうした?」
「こ、ここですよね」
「えっ?」
「ご主人様に……その、襲われたの」
「そうだったな」
 ここ湖の上公園は、僕がリリムの処女を奪った場所。座ったベンチに手を置いて、
「ここで、リリムの処女を奪ったんだよな」
「もう。痛かったんですから」
「ごめんごめん」
 今でこそ服従の呪いで従順なものの、あのときのリリムは本気で嫌がって泣いていた。
当然だけどね。今呪いが解かれたら、リリムは僕をどう思うんだろう?
 考えながらコーヒーを飲むと、リリムもおそるおそる缶コーヒーを口につけ、
「やーん、苦ーい」
 吐き出した。缶コーヒーぐらいで苦いのか?
 ぺっ、ぺっとはしたなく唾を吐きながら、
「ご主人様、よくこんなの飲めますねー。これ毒じゃないんですか?」
「いや普通に飲めるから」
「じゃあ飲んでください」
 リリムのコーヒーを受け取り、ごくっと飲む。なんだ美味いじゃないか。
「あ……」
 するとまたリリムが頬を紅に染める。
「なんだ?」
「だって……間接キス……」
 そんなことか。
「キスぐらい毎日してるだろ?」
 リリムをこっちに向かせて、ちゅっとキス。コーヒーの味がした。
「苦い?」
 聞くと、
「苦いけど……ご主人様だから……」
 口に手を当て、そんなことを言う。こっちが恥ずかしいじゃないか。
 ベンチの上で顔を赤らめてもじもじと腰を振るリリムを見ていると、なんだか胸の中にもやもやが溜まってくる。
腰までむずむずしてきた。
 飲み終わった二本の缶コーヒーをゴミ箱に捨て、ぎゅっとリリムを腕の中に抱いた。
幸い今は誰もいない。
「ご主人様ぁ……」
 夕暮れ迫る春の公園で。僕の腕の中で、リリムの切ないため息が漏れる。
 ずささ、どさっ。

 いきなり何かが落ちる音に、僕もリリムも飛び上がってしまう。
 音がした後ろを見ると、木の枝とともに、ピンクの髪にピンクのドレスの少女が倒れていた。
「リリスお姉様!?」
 どうやら今朝ナデシコに吹っ飛ばされたリリスは、今まで木の枝に引っかかっていたらしい。
それが今落ちたのだ。
「なんだか、どこかで見た光景だな」
「はい。すごく見に覚えがあります」
 ならばやることも変わらない。
 リリスは草むらの上で「うーん」と目を回して唸っていた。フリルのたくさん付いたドレスもボロボロで。
「リリム。だれも来ないように結界張れるか?」
「は、はい」
 リリムはその場でくるっと回転し、
「おにさん、おにさん、とーりゃんせー」
と呪文を唱えると、ぱっと黒い闇が四方に散る。
「これで、誰も近寄れませんよ」
 よしよし。
 倒れているリリスに近付くと、目を覚まさないのを確認し、ゆっくりと持ち上げた。
軽い。そして暖かい感触を腕に、芝生へと運んでいく。
 そこはマジカル☆アリサの処女を奪った場所。今はもうその痕跡もないが。
 持ち上げたとき以上にゆっくりとリリスを降ろす。その可愛い容姿をじっと見下ろした。
 実の姉妹で母親同士も姉妹というだけあって、リリムに良く似た可愛い顔。
リリスのほうがやや大人っぽい。
 ドレスの下の胸は豊かに膨らみ、微かに上下している。セミロングの髪をすくって鼻に寄せると、甘い香りがした。
 ドクン、ドクン。股間に血が集まり、みなぎるのを感じた。
「ご主人様ー。どうするんですか?」
 不安げにリリムが聞いてくる。
「決まってるだろ」
 僕は首元のドレスに手をかけ、

 ビリリッ

 一気に引き裂く。
「きゃっ」
 失神してるリリスに代わってリリムが悲鳴を上げた。
 腰に辺りまでピンクの布地を引き裂いて手を止める。下着は身に付けていない。
輝くような白い乳房がぽろんとこぼれ、ぷるるんと震えた。
 華奢で小柄な割にはかなり大きい。リリムと同じくらいか。
「わ、わわわ〜」
 後ろでリリムが泡食ってるのがはっきりと分かる。
「リ、リリスお姉様も、襲うのですかー?」
「無論」
 魔力を高めるには魔法少女を犯すのが一番手っ取り早い。魔王の呪いを解くためにはたくさんの魔力が必要だった。
「でも、でも〜。処女だったら、呪いにかかっちゃいますよ〜」
 人間が魔王の子供の処女を無理に奪うと、呪いにより悪魔化する。そして奪われた者は服従するようになる。
 今の僕とリリムのように。
 今の僕は悪魔だが、それでも人間に分類され、やっぱり呪いはかかるらしい。
「ま、そのときはそのときで」

 そして。未だ目を覚まさないリリスにそっと唇を寄せる。目覚めのキスだ。
 リリムがごくっと唾を飲み込む音まではっきりと聞こえた。

 ちゅっ。

 何度触れても女の子の唇は柔らかい。そして美味。
 唇を重ねながら、舌まで挿れ、ちろちろと歯を舐めた。
「んっ……」
 リリスの眉がきゅっと寄る。僕はキスしたまま、思いっきり胸をつかんだ。
「!?」
 ぱちっとリリスの垂れ気味の目が開く。そしてキスする僕と目が合った。
「!!」
 叫ぼうとしたのだろう。だが口をキスで塞がれ声が出ない。
 口を離してやると、

「きゃあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

 悲鳴までどこか間延びしている。
「あっ。リリスお姉様、目が覚めました」
「リリムちゃん?」
 ゆっくりと上半身を起こし、僕とリリムが上から見下ろしているのに気付いたようだ。
「あのー。ここどこなんでしょう〜?」
「地球の日本」
「リリスお姉様、気絶してたんですよ」
 正直に教えてやると、
「そうだったんですか〜。どうもご親切に〜」
「いやいや」
 身を起こそうとするリリスにがばっと抱きつき、再び芝生の上に押し倒す。
うわー、リリスとっても柔らかい。
「きゃっ〜。あ、あの〜」
「いいからいいから」
 言いながら、破いた胸に手を伸ばし、直接乳房を揉む。やっぱり柔らかい。
「きゃん〜。ど、どうして服が破れてるんですか〜」
 ようやく気付いたか。もみもみと豊かな胸を揉むたびに、指に合わせて形を変えていく。
「やめてください〜。エッチなのはいけないと思います〜」
「いいからいいから」
 胸を揉みながら、ちゅっとキス。ぽっとリリスの頬が紅くなった。
「あ〜れ〜。はじめてですのに〜」
 キスもはじめてか。処女確定。
 リリスのか細い肩を押さえ、上からじっと見下ろす。
 ドレスを破かれ乳房を晒し、うるうると目を潤ませるピンクの髪の少女。
「可愛いなー」
 声に出して呟き、キスしようとすると、顔を横に向けられた。
「やめてください〜。こんなことは、いけません〜」
 間延びした拒絶の声。なんだか力が抜けそうになる。
 でも。乳房の頂点の桜色の乳首。今度はそこにちゅっとキス。甘い香りが口いっぱいに広がる。
「やん〜」
 ちゅっちゅっと乳首に口を付ける度、ふるふる震える豊かな胸。
「やめてください〜。リリムちゃん〜」
 横で見ているリリムに助けを求めるが、
「ごめんなさいリリスお姉様。リリムは見も心もご主人様のものなんです」
 リリムは身を抱きしめてもじもじするだけだった。
「リリム。両手押さえて」

「はい」
 僕の命令に嬉しそうに、リリムは上からリリスの両手を押さえる。
「ふえーん。リリムちゃん〜」
 リリムのか細い力でもリリスはほどけないようだ。とうとう涙をこぼす姉に、
リリムは申し訳なさそうな顔をするものの、手は離さない。
「どうだ? 妹に拘束されて、人間に犯される気分は?」
「ふえーん。えーん」
 ぽろぽろと熱い涙が両目から溢れる。でも容赦しない。
 リリムが押さえてくれるおかげで僕の両手が空く。その手でスカートの裾をつかんだ。
 びりっ、と下から引き裂くと白い素足が見えてくる。そして脚の付け根には何も履いていない。
 リリム曰く、魔界にはパンツを履く習慣はない。
 スカートを腰まで引き裂くと、上からの破れと繋がり、ドレスは左右に開いた。
 股間を隠すものはもう何もない。すらっとした縦筋には、うっすらと産毛のようにピンクの陰毛が生えている。
リリムは生えていなかったが、やはり姉ということだろう。
「あ〜ん〜。見ないでください〜」
 白く細い脚が、晒された股間を隠すようにきゅっと内股に閉じる。手を入れて押し開くと、
簡単に開いた。本当にか弱い力。
「い〜や〜」
 ぽろぽろと泣きながら、首をゆっくりと左右に振るリリス。嫌がる様子もゆっくりしたものだ。
 その泣き顔を見ていると、むらむらと何かがこみ上げ、股間が熱くなった。
 じゃーとチャックを降ろすと、ぽんと肉竿が勢いよく飛び出す。
「ほーらほら」
 揺れるちんこを見せ付けると、
「きゃあ〜〜〜〜〜。象さんは、ダメですよ〜〜〜〜」
 間延びした悲鳴を上げるリリスに、姉を押さえつけたまま顔を紅く染めるリリム。
 しかしリリスのあそこはまだ乾いたまま。少し濡らそう。
 股の間に顔を寄せ、ちゅっと舌を伸ばす。
「はん〜」
 舌先にザラザラした薄い陰毛の感触。その奥に熱い肉の割れ目を感じた。
縦筋に添ってぺろっと舐めてみる。
「あん〜。ダメ〜、ダメですよ〜」
 小さく甘い吐息とともに、腰が振動するのが直接伝わってきた。
「や〜。や〜。や〜」
 ぺろぺろと舌を上下するたび、腰がビクッビクと反応し、喘ぎが漏れた。舌の先端にじゅっと潤いを感じる。
「ふー」
 顔を上げると、リリスの股間は僕の唾液と内側からの蜜液でぐっしょりと濡れている。
乳房の上の乳首もピンと尖っていた。その乳首を指で突付いて、グリグリと回す。
「やっ……やめてくださいです〜」
 泣きすする姉に、リリムは両手を押さえたまま赤い顔でごくっと喉を鳴らしている。
リリムも興奮しているのだろう。僕の股間もビンビンに溢れんばかり。
 暴れる肉竿を手で押さえ、腰を割り込ませると、
「だめ〜。だめですよ〜」
 じたばたもがくのが最後の抵抗。
「リリム、電撃」
「は、はい」

 手を押さえたままリリムが電撃を流し、
「きゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
 全身をバタバタさせ、リリスはすぐにおとなしくなった。リリスに触れているこっちにもビリッと電気が来たが。
ああ、ちんちんがビリビリに痺れる。
 ぐったりと力の抜けた股を拡げ、ビリビリ痺れても勃起を保ったままの肉竿を、
ぐいっと花弁の入り口に突き立てた。
「だめ……だめですのに〜……」
 性器が触れ合う感触に、リリスの頬を熱い涙が伝う。その涙にぐっと胸が熱くなり、
一気に腰を突く。

 ぐにっ、と肉ヒダを分け入り、そして貫く感覚。

「あああ〜〜〜〜〜〜〜〜!」
 リリスの背筋がわずかに浮かび、眉をきゅっと寄せた。手を押さえているリリムにも汗が浮かんでいる。
 腰を突くたびに、どすんどすんと肉の壁を掘り進み、肉竿が固く熱い秘肉に包まれる。
 ぐっ、ぐっと分身を埋め込まれた裂け目からは鮮血が一筋流れていた。
「アア……アアアァ〜……」
 リリスのぱくぱくと開く口からよだれが漏れ、大きく見開かれた瞳からは今まで以上の涙が溢れる。
「いや……いやです〜……いや〜……」
 絶望的な悲鳴が耳に心地いい。しっかりと腰に手を置き、ずんっと奥まで貫いた。
「ひいいいぃぃ〜」
 白目を剥くリリスとは裏腹に、肉竿をぎっちりと埋め込んだ僕は性の快楽に酔いしれていた。
ギチギチに狭いリリスの膣を抉るたびに肉ヒダが震え、さらに締め付けてくる。
「い、いた……痛いです〜」
「そうか、痛いか」
 ぐりっと腰を回転すると、肉竿が硬い膣肉をかき回し、こっちまで痛いほど。
「ひいいぃ〜〜〜〜!」
 さらなる激痛にリリスは嫌々と首を振り、涙がぽたぽたと芝生に落ちた。
背中の黒い小さな羽がぱたぱたと揺れている。
「許して……ください〜〜〜〜」
「うっ」
 懇願するリリスの泣き顔に見惚れ、股間の奥が熱く唸った。

 どぴゅっ、と性の衝動がリリスのナカで爆発した。

「ああ……アアアアアァ〜〜〜〜〜」
 リリスの悲痛な、それでも間延びした絶叫を聞きながら、僕はリリスの膣内で果て、
心行くまで精を放った。
「ああ……アアアァ……」
 熱い奔流をお腹の中に受け止め、全身を緊張させていたリリスがぐったりとうな垂れる。
 同時に、僕の中に熱いものが流れ込んできた。リリスの魔力だ。
 さらに、

 !

 心臓を突き刺すような激痛。呪いだ。

 処女を無理矢理奪った人間を悪魔にする呪い。それがまた僕を襲う。
「ご主人様ー」
 心配そうなリリムの声。もうリリスを解放し、僕の肩を支えてくれる。
「大丈夫だ」
 苦しそうに呻き、まだ挿入したままの分身を引き抜いた。ぱっくり割れたリリスの女性器からどろっと白濁液がこぼれてくる。
「ふー」
 魔力の吸収も、呪いも終わったようで、深く深呼吸。
 リリスの瞳を覗き込むと、光を無くした虚ろな瞳に、徐々に光が戻ってくる。
「リリス。僕はお前の何だ?」
「はい〜。リリスの、リリスのご主人様です〜」
 どうやら服従の呪いにかかったようだ。さっきまでは本気で嫌がっていたのに、
今では瞳を活き活きと輝かせている。
「そうか。僕は千巻 大和。よろしくな」
「よろしくです〜」
 リリスに手を伸ばして上半身を起こし、ちゅっと優しくキス。拒むことなく、
リリスは目を閉じてキスを受け入れた。
「ごめんな、ドレス破って。リリム、直して」
「それなら〜、自分で〜」
「駄目だよ。リリスは僕に魔力を奪われたんだから。
 吸収された魔力は一晩ゆっくり休むと回復する。
「はい。リリスお姉様は休んでてください」
 リリムが手をかざし、
「こっぺぱん、こっぺぱん、元通り〜」
 呪文を唱えると、あら不思議。破れたドレスが元通りに綺麗になった。
「わーい。これでリリスお姉様と一緒です」
 ぎゅっと抱きつくリリムを、リリスは不思議そうに眺め、
「あら、リリムちゃん〜。こんばんわ〜」
 のほほんとリリスは言う。
 周囲はもう暗くなっていた。さて、帰るか。

「ただいま〜」「ただいまです」「たーだーいーま〜」
「お兄ちゃん、遅かったじゃない」
 玄関まで来たありさはびしっと身を固めた。
「お、お兄ちゃん。その人は……」
「ああ、ナイトメア☆リリス。今日から僕の下僕だから」
「はーいー。リリスと〜、申します〜」
 ゆっくりと、ゆっくりと頭を下げるリリス。そして家に上がろうとする。
……靴を履いたまま。
「ストップ! 靴は脱いで」
 慌てて言うと、リリスは片足を上げたまま、首を傾げ、
「は〜い〜」
 こっちに倒れてきた。
「いいか。日本の家に上がるときは靴を脱ぐんだ」
 仕方ないなー。僕が靴を脱がせ、ようやくリリスは家に上がる。
「おーせーわーにーなーりーまーす〜」
 ビキッと固まっていたありさが、ようやく我に返った。
「マ、マジカライズ!」
 いきなりその場で変身。短かった栗色の髪が長く伸び、ツインテールに結ばれる。
「マジカル☆アリサ、ちゃきちゃき行くよー」
 魔法少女のコスチュームに身を包み、手にしたハート付きのバトンを突きつけた。僕に。
「お兄ちゃん! また、こんな!」
「わー、待て待て」

 僕は手をぱたぱた振り、
「家の中は中立だって言っただろ。話せば分かる、話せば」
「もう! またエッチなことしたんでしょ。へんたい!」
 ああ、妹の「へんたい!」は耳に心地いい。
「わ〜」
 変身したアリサにリリスは目を丸め、
「ご主人様〜。正義の魔法少女です〜」
 今更気付いたのか!
「はい、リリスお姉様。私の宿敵のマジカル☆アリサです」
 なぜかリリムは嬉しそうに説明。
 リリムとリリス。一文字違いでキャラかぶってる姉妹。
 ピンクのツインテールが妹のリリム。ピンクのセミロングが姉のリリス。よし覚えた。
「まあ、その辺の説明はおいおいするとして」
 僕はキーッと睨むアリサに笑いかけ、
「ご飯にしよう」
「もう」
 ぷりぷり怒りながらも、アリサは台所に向かっていく。変身したままで。
「あ〜。お手伝いします〜」
 リリスが後に続こうとすると、
「いい? リリスちゃん」
 バトンを突きつけ、アリサが言う。いきなりちゃん付けかよ。
「お兄ちゃんはね、あたしの作ったご飯が大好きなの。『美味しい、美味しい』
って言って全部食べて、おかわりまでするの。
 だからお兄ちゃんの食べるご飯はあたしが全部作るの。分かった? 分かったら、3べん回って『わん』と鳴きなさい」
 その場でゆっくりと三回回り、「わん」と鳴くリリス。
「よろしい」
「ご主人様〜」
 台所に向かうアリサと、こちらに泣き付いて来るリリス。
 なんだか、前にも見た光景。
「わーい。これでリリスお姉様とずっと一緒です」
 リリムは無邪気にわーいわーいと喜んでいる。
 はぁ。これからどうなるやら。

 とりあえず。
 明日の黄金連休初日は、撫子さんとお出掛けだ。

(おしまい)