「いらっしゃるんでしょう? こちらの方をお願いしますわね」

 精も根も魔力も尽き果てた舞さんを横たえた美姫様は、結界の中に身を潜めている俺に声をかけると瞬間移動の呪文を唱えて消え去った。
 魔性少女としての人気と実力を兼ね備え、心優しく正義感が強く、見目麗しい美姫様。
 このような方にこそ、格安のセルフ方式で魔力を売って差し上げたいのだが、美姫様は魔力の支払はいつも値札通りに正価を支払われる。

 強大な魔力を誇る俺だが、魔法は使えない。そして体力も普通の高校生だ。横たえられた舞さんを助け起こすのは控えめな胸もあってなんとかなったのだが、抱きかかえると充分に成長した腰回りが邪魔だ。
 なんとか抱き上げた。せっかく美姫様がなおしたスカートの裾が乱れてしまったが、戻すにはもったいない・・・じゃない、手が足りない。瞬間移動の魔力を籠めておいたアイテムをポケットから取り出すそうとすると舞さんの体を落としそうになった。
 端から見れば右手で舞さんのおっぱいをさわり、左手はお尻を、視線は太ももの付け根に釘付けに見えるだろうが、体を支えつつ気を失っている舞さんの体調を気遣っているだけだ。

(うん、大丈夫。心臓は動いてるし、太ももの血色はいい)

 俺は舞さんを抱き上げた体勢のまま瞬間移動の魔法を発動させた。
 店に戻ると美姫さんが待っていた。低いソファに行儀良く座り、すらりとしたふくら脛を綺麗に斜めに揃え、あくまでも自然に膝の上に置かれた手が俺の視線をブロック。

「私は後でよろしいので、こちらの方を先に」
「方法とか支払いとかを決めませんと・・・」
「私がお支払いしますので、よろしくお願いします」
「かしこまりました、安田様」

 お嬢様は立ち上がる仕草まで優雅だ。ゆったりと立ち上がっただけなのに細く豊かな黒髪が踊るようにして煌めいた。
 そのまま、さりげなく捲れ上がったままの舞さんのスカートを直し、俺が舞さんをソファに横たえると頭の下にクッションを入れた。

「随分無理されたようだけど、大丈夫かしら?」

 凛としたお嬢様が心配そうに首をかしげる仕草。ああ! もっと心配させたい! できれば俺の心配をして欲しい!

「ぎりぎりで3単位、余裕を見ると4単位ですが。如何いたしましょうか?」
「4単位でお願いします」

 自分でも、自分のチームでもない魔法少女のためにあっさりと4単位と仰いますか!

「畏まりました」

 美姫様に深く一礼をし、舞さんにも軽く頭を下げて魔力を補充する。
 お安いセルフ方式とは違って、寝ている舞さんに手のひらを向けるだけである。急速に4単位を補充する必要もないので少しずつ手のひらから魔力を放射し、舞さんに注ぎ込んだ。
 1単位くらいで表情があどけなく、2単位で顔色が普通に、3単位を注ぎ込んだ頃には穏やかな表情で寝返りをうち、短めのコスチュームがきわどく捲れ上がった。
 真摯な表情で正義の魔法少女のために魔力を注ぐ俺、そんな俺を信用してか、美姫様はコスチュームの裾を直さずに施術する俺を興味深そうに見つめていた。

 スースー

 ソファの背もたれに顔を押しつけて舞さんは規則正しい寝息を立てていた。

「では、美姫様。どうぞ」
「よろしくお願いいたします」

 立ったままの美姫様への魔力の補充はすぐに終わり、美姫様は舞さんの寝息と顔色を確認してから瞬間移動の呪文を唱えた。

「そろそろ起きていただけますか?」

 狸寝入りしていた舞さんは、俺に見えないように涙を拭ってから俺に問いかけた。