「セイント・ニードル!」

 昨夜に引き続き魔法少女舞さんは邪悪な魔物と戦っていた。今夜のステージはせっかく誘致したのに地方に移転してしまって使われていない廃工場。
 ギャラリーが一人もいないせいなのか、魔法少女は見栄えはするが魔力を浪費する『セイント・ビーム』を使わずに、地味だが的確な攻撃で魔物を倒していった。

(雑魚ばっかりだから大丈夫かな、やたらと数は多いけど)

 正義の魔法少女舞さんも、魔力を売ってる俺も普段は普通の高校生で同じクラスだ。今日の昼間も舞さんの体調が悪そうだったので様子を見に来たのだ。明日から期末試験なので教科書とノートを持参してだが。
 冷静に最小限の魔力で戦っている魔法少女に安心した俺は結界の中で教科書とノートを広げて勉強を始めた。今はしがない魔力売りだが、一流大学から一流企業への就職という希望があるのだ。

(ん?)

 試験勉強に疲れた俺は教科書から目を離して戦いを眺めた。
 視界を埋め尽くすほど大量の雑魚、魔法少女舞さんは簡単なシールドを張り、地道に効率よく魔物を倒しては経験値を稼いでいた。

(そろそろ引き上げた方がいいよ)

 倒しきれない雑魚が蠢き、足の踏み場もない。行き場を失った雑魚は自己融解を始め、複数の雑魚が一体化して雑魚から小物に進化していった。雑魚をちまちま倒すよりも効率的に経験値を稼げるが、シールドを維持したまま撤退するタイミングが難しい。
 大した修行も才能もなく魔物と戦える魔法少女だが、キスをしたとたんに全ての力を失う。キスした相手が普通の人間なら問題は無いのだが、例え雑魚でも魔物に唇を奪われると魔法少女の魔力は魔物に吸い取られ、魔物がレベルアップしてしまう。

「セイント・ショット!」

 雑魚が一体化した小物に少し強力な魔法を放つ魔性少女舞さん。次々と生まれたばかりの小物を倒していくが、この調子で魔力を使うと補充が必要になってしまう。

(僕もだけど、舞さんも期末試験なんだから早く帰ろうよ)

 魔法少女としては遅めのデビューをした舞さんが焦る気持ちはわかるけど、無理はいけない。しかも期末試験前だというのに他の魔性少女さんたちが団体で予約を入れてるのだ。
 魔力だけでなく体力も消耗するセルフ方式は一日に2人、頑張っても3人が限界なのだ。

 お客様が来ないで無駄に体力を浪費する日と、お客様が集中して体力がきつい日。元手が要らないとはいえ商売は難しい。
 完全に撤退するタイミングを失った舞さんは気力と魔力を振り絞って魔物を倒している。

 諦めた俺は上得意のお客様に応援要請メールを送った。彼女ならば携帯に添付されたGSP情報ですぐさま瞬間移動してこられるだろう。

「ホーリー・エンジェルのリーダー、安田美姫参上!」

 俺の商圏では最大の実力と人気を誇る正義の魔法戦士のチーム『ホーリー・エンジェル』のリーダーが一人で現れた。期末試験を翌日に控え、他のメンバーに負担をかけないように一人で現れたのだろう。
 名乗りを上げつつもしっかりとシールドを張り、戦況を把握した美姫様は優雅な仕草でマジック・アイテム『セイント・ホイップ』を取り出すと舞さんをサポートするように聖なる鞭で雑魚と小物を掃討していった。

 カラフルで露出度の高いコスチュームを好む魔法少女が多い中で、美姫様は膝が隠れるほどの一見普通のセーラー服のコスチュームをまとい、裾も乱さずに優雅に、そして確実に敵を倒していった。
 魔力と体力を消耗した舞さんは加勢に安心してへたり込んでいた。
 人間大に一体化した小物をを残した美姫様は最後の一体にはとどめを刺さずに、舞さんを助け起こし、

「大丈夫かしら? 最後の敵よ」
「う、うん。セイント・ビーム!」

 残り少ない魔力を振り絞って放たれたビーム。たよりないビームに被せるようにして美姫様のビームが放たれて最後の敵は消滅した。