夜。人の姿は殆ど消え、外を出歩くものも少ない。
 もっとも、ゼロでは無い。いる事はいるが数少ない、という事だ。

 そして、その数少ない出歩いていた女性は、何かから逃げるように走っていた。
 時々振り返っては、荒い息を吐きながらまた走りだす。

 だがしかし、走っている間に息が切れ、速度が遅くなってきているのも事実だ。

 彼女が何故逃げているのか、そして彼女を追う者が、街灯の光の下へと現れた。

 それは、人のカタチをしていなかった。
 否、人型ではある。だが、赤黒い肌に3メートル近い巨体を既に人間とは呼ばないだろう。
 そう、それは俗に言う魔族だった。

 女性を追う魔族は、女性の走る速度が下がってきた事に歓喜を抱くような声を挙げた。
 
「ひっ……きゃああああああああああああっ!!!!!!!!!」

 それは咆哮と呼ぶに相応しく、女性を恐怖で転倒させるには充分過ぎる程だった。
 女性が転倒したのを見た魔族は再び雄叫びをあげる。獲物にありつけるという、嬉しさからかだろうか。

 そして、いざ、女性に襲いかかろうとしたその時だった――――――。

「去りなさい、ゲテモノ」

 空から響いたその声と共に、銀色の光弾が魔族の横っ面に直撃し、吹っ飛ばした。
「はっ……!」
 女性が顔をあげ、尻餅をついたまま慌てて後ろへと後退する。
 吹っ飛ばされた魔族が立ち上がった時、2発目が背中から直撃する。

 魔族が再び悲鳴をあげ、そして光弾が飛来した方向を見上げた。

 ビルの屋上。
 漆黒のドレスに身を包んだ銀髪の少女が、歪んだ笑みを浮かべて魔族を見下ろしていた。
「流石は魔族。体力が有り余っているのね」
 少女はそう言って笑うと、ビルの屋上から魔族に3発目を放とうとした。
 だが、魔族も愚かでは無い。その有り余る体力を使い、空高く飛び上がる。
 そのまま急降下で少女と同じビルの屋上へと着地した。

 元々広いビルの屋上では無い。少女と魔族の距離は数メートル。
 この距離ならば相手が魔法を放つより先に、自分が倒せると魔族も踏んだのだろう。
「甘いわね。この距離なら、倒されないと思ったの? シオン様を舐めて貰っちゃ困るわ」
 少女が、パチンと指を慣らす。

 同時にビルの影から更に無数の光弾が上空へと舞い上がり、ビルの上空で弾ける。
 魔族が動く。だが、魔族がシオンに辿り着く間も無く。

 無数の光の槍が、魔族をこれでもかとばかりに貫く。遠慮なく。容赦なく。
「ごめんなさいね。だけど、悪いのは貴方よ。だって、私の前に現れたんですもの」
 シオンはそう言って、光弾に貫かれながら絶命する魔族を見上げて笑った。
 しばらくの間、笑い続けた。

 そんな彼女を、1匹の小悪魔が見ていた事に気付きはしなかった。




 都市の郊外に、かつての遺産である廃墟の団地が無数に乱立していた。
 この団地は廃墟となった後、何故か私有地として買われている事になっており、他の一般人の侵入を許さない。

 それ故か、乱立している廃墟には奇妙な住民ばかりが生息していた。
「………る〜ど〜さ〜ま〜ルード様〜、ただいま戻りました〜」
 深夜。1匹の小悪魔が、窓から廃墟の1室へと足を踏み入れた。
 部屋の奥にいる黒髪の青年が、ゆっくりと顔をあげた。
「なんだ、帰ってきたのか。何かあったか?」
「はい。89番地区に送り込んだ魔物が今夜だけで3人やられました」
「……なに?」
 ルードと呼ばれた青年が、テーブルの上から地図を取り上げる。
 上に89番と書かれた枠の下に、赤い印が相当な数がある。ルードは赤い印を3個増やすと、使い魔を振り向いた。
「あの地区には幾ら魔物を送り込んでも足りないようだな………この前、俺が魔法少女とやらを駆除したばかりじゃないか」
「今度もまた別の奴です………黒魔法少女シオンとか言う奴?」
 使い魔の言葉に、ルードが顔をあげた。
「なにっ!? それは本当か!?」
「は、はい。見た感じ間違いないですけど。どうしました、ルード様ー」
「アイツのせいで俺の妹がコテンパンにやられた事がある」
 ルードの言葉に、使い魔が呆れたような顔をあげる。
 だがしかし、ルードはそれには気付かずに電話をかけ始めた。
「あー? 司令部か? 50番地区から100番地区の制圧を任されているルードだが」
『はい、こちらはアロマ・オエのアジア制圧担当司令部です。何でしょう、ルード様?』
「おい……。85〜88番までの地区に投入している戦力を半分に減らせと指令を出せ」
『は?』
「それで、減らした分の戦力は全部89番地区に叩き込め」
『あ、あのー。ルード様。何でそんな事をする意味が?』
「バカヤロウ、緊急事態だ。出たんだよ、2代目の黒魔法少女がな!」
 ルードの小さな叫び。

 それは、秘密結社アロマ・オエのアジア制圧担当司令部をマグにチュード7を越える激震として走り抜けた。
『い、今、アジア制圧担当司令部を出します!』
「早くしろよ」
 電話担当の悲痛な叫びと共に、ルードは小さくため息をつく。
「しっかし、また黒魔法少女は出るとはねぇ……俺達も呪われてるのかなぁ」
 その呟きは、誰にも聞かれる事は無かった。




 黒魔法少女。
 魔法少女とは少しばかり異なる存在である。
 この世界にも魔法少女は意外と沢山存在し、日夜様々な悪と戦っているが、黒魔法少女はその中で、ある意味恐ろしい存在である。
 例えばAという魔法少女にはBという敵が存在し、そのB相手に戦う。
 だから同じ街に別のCという魔法少女がいてDという敵と戦おうとも全くもって関係ない。敵によって倒し方がバラバラだから、という理由もあるが。
 だがしかし、黒魔法少女は違う。
 何が敵であろうと、何が相手であろうと戦う。敵として現れれば戦って倒す。
 時としては俗に言う悪だけでなく、魔法少女ですら自身の邪魔であれば倒してしまう。
 街を破壊する事も躊躇わず、一般人がどうなろうと大して気にしない。魔法少女が心配する横でだ。

 だから、黒魔法少女は悪側からも正義側からも恐れられる存在なのである。

 魔法少女ジュリーソフィアは、レインボー・バーニングファイヤーという訳の解らない悪の組織と戦っている。
 それは単に精霊の世界から魔法少女として選ばれたからに過ぎないのだが。
 そして今、レインボー・バーニングファイヤーという組織は壊滅しつつあった。魔法少女ジュリーソフィアの手によって。
「待ちなさい! 貴方達はもう、お終いです! 引きなさい!」
 ジュリーソフィアの宣言と共に、ステッキが怪人の顔面に向けられる。
「こ、これまでなのか……」
「諦めるなと言っておろーが! このPr.トラコドンがどうにかするっつーてんねん!」
「アンタそう言っても今まで成功しなかっただろーに!」
「じゃあっかしい! 失敗は成功の母って言うでねーか!」
 追い詰められた怪人と悪の天才科学者、Pr.トラコドンがそんな会話をしている時でも、ジュリーソフィアはステッキを手に、じりじりと迫る。
「(今、倒せば長い戦いが終わる……だけど…………)」
 この時、ジュリーソフィアの中で何故か葛藤が生まれた。
 本当にこのまま終わらせていいのだろうか?
 潔く消えようとしているのに、無残にトドメを刺しても構わないのだろうか?
 そんな葛藤が、ジュリーソフィアに最後の攻撃を躊躇わせた。

 その時、ジュリーソフィアにも生き残ったバカ幹部2人にも予想もしない出来事が起こったのである。

「2代目の黒魔法少女が現れただとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!」

 隣りから聞こえてきたその盛大な叫びが、3人を見事にその場に引っ繰り返した。

 …………要は、悪の組織レインボー・バーニングファイヤーの隣りに秘密結社アロマ・オエのアジア制圧担当司令部が入居していたのである。
 そしてこのニュースは隣りにまで染み渡り、ジュリーソフィアもその場に仰天し、尻餅をつけさせたのだった。
「な、何なの……今は……」
「今のウチだ! 逃げるが勝ち!」
 Pr.トラコドンと怪人が慌てて逃げ出したので、それに気付いたジュリーソフィアがステッキを突き付けようとした時だった。

 壁が崩壊し、隣りとの壁が取り払われる。

 穴の開いた壁。隣りは、秘密結社の司令部。
 その前でステッキを片手に呆然としている、魔法少女ジュリーソフィア。

「………あー。前向きに対処しよう。それより諸君」
 電話の受話器をようやく置いた司令官は、部下達を見渡した後、ジュリーソフィアを見た。
「……来客のようだ」




 ルードが司令部に到着した時、ちょうど司令官が顔を出した。
「3つの地区の戦力を半分にさせても尚、不安が残るとは君らしいな、ルード」
「心配性なもので」
 ルードの言葉に、司令官が少しだけ笑う。
「まぁ、君も50の地区を任される部隊長だ。それぐらい慎重なのが良いよ」
「まぁ、そうですね。ところで……何かあったのですね?」
 ルードがそう口を開いた時、司令官はその通りとばかりに口を歪めて笑った。
 ついてきたまえ、とばかりに先導して先を歩く。

 司令部はやたらと広いせいか、誰もが迷うらしい。
 だがしかし司令官はまったく迷った様子も見せず、1つの扉へと辿り着いた。
「君からの電話の最中に隣りにいたらしくてね。面白いものを捕まえたよ」
 扉を開けると、天井から鎖で縛られた人影がぶら下がっていた。

 魔法少女ジュリーソフィアだった。
「ほう、これはまた面白いものを」
「情報料として好きにしていい」
 司令官が出ていくと同時に、ルードがジュリーソフィアを睨み、無理矢理顔をあげさせた。
「起きろ」
「……………」
「………まだ、寝た振りをするか」
 ルードはジュリーソフィアを拘束している鎖を外すと、拘束から外れた彼女が床に倒れ込もうとする。
 だがしかし、ルードはそれを腕で掴んで阻止した。
「………顔は好みだが、スタイルはどうかな……」
 ここで、初めてジュリーソフィアが反応した。
 ルードの腕の拘束から逃れようともがく。だがしかし、ルードの腕を掴む力は強烈なのか、あっという間に阻止する。
「暴れるなよ」
 ジュリーソフィアの衣装に手をかける。
 少し勿体ない気もするが、胸元から下まで一気に引き裂いた。
「!!!!!!!!」
 その下から現れた下着だけでも隠そうとする彼女の腕を振り払い、ブラを無理矢理もぎ取る。
 そのまま、乳房を揉む。

「なかなか心地よいな」
「い、いやぁっ……! やめ、強いッ……」
「生憎と、俺は強く揉む派なんでね。やめないな」
 ジュリーソフィアの悲鳴に対して、更に乳房を強く掴む。何度も何度も。
 少しばかり繰り返した所で、ジュリーソフィアのパンツに目を付けた。
「まだ、濡れてないかな?」
「…………」
「答えろ。答えないと助けるものも助けんぞ」
「………………」
「ふむ、そんなに性奴隷になりたいか? この淫乱娘め」
「い、淫乱じゃないっ……!」
 ここで初めてジュリーソフィアが言葉を返した。
 その言葉に、ルードが顔を歪める。

「ほう、それならば……楽しませて貰うとするか」

 その表情に残酷な笑みをたたえながら。
 狂宴は、ここから始まるのだ。