魔法界。深い森の奥で密かに生活を営む子供達がいた。
「サラ姉ちゃん。帰ってたんだ。」
一人の少年が明るく声をかける。サラと呼ばれた少女は少年を振り返り、笑顔で答えた。
「うん。ただいま。」
そう言うと、森の中に不自然に立つ不恰好な小屋の中へと入っていく。
本当に小屋と呼んでいいものかもわからないそれは、辛うじて雨風を防げる程度のものだった。今にも崩れそうな、ただボロボロの屋根と壁があるだけの小屋。その中には十人ほどの人が住んでいた。どれも子供ばかりだ。
「あ〜、サラおねえちゃん。おかえり〜。」
中でも一番小さな少女が走りながらサラに近づき、足元にしがみ付いた。
「ただいま。」
サラは頭を撫でてやる。少女は満面の笑みを浮かべた。
「お帰りなさい。」
少し年長と見られる少年がサラに声をかける。
「どうでした?何かいい情報は…」
サラは首を横に振る。
「だめ。かなり望み薄って感じ…」
二人は共に俯く。サラたちは困難に直面していた。

ヴァイスの襲撃により壊滅することになる以前、闇魔法族の中に極一部ではあるが、光魔法族との共存を目指す者たちがいた。
闇魔法族は他者から魔力を奪うことで自らの力を高める。そのため、その犠牲となる光魔法族との対立は遥か昔から続いてきた。しかし、いつまでも対立をし続けていてはお互いの繁栄を阻害するだけだ。彼らはお互いのために共存の道を模索していた。
そもそもの対立の発端は、闇魔法族が生命力の源とする魔力を他者から奪うことでしか得られないことにある。光魔法族は闇魔法族に魔力を奪われないために戦う。そしてその光魔法族と渡り合うために、闇魔法族はより多くの魔力を必要とした。
悪循環だった。どこかで断ち切らなければ、いつまでもこの対立は続くだろう。
だから彼らは、十数人の子供達に夢を託した。魔力を奪わずとも、最低限の生活が出来るように子供達を育て上げようとしたのだ。子供達は親たちから魔力を与えられなかった。光魔法族たちを同じように、食物だけで生活をさせられていたのだ。普通の闇魔法族は、そのままでいればいつか魔力が枯渇することになる。しかし発達途上である幼い子供達の体は、自らを守るためその機能を変化させた。食物にはほんのわずかながら魔力が含まれている。その魔力を取り込むことを可能としたのだ。
それは、生活していく上で消費する魔力を補うことが出来る程度の些細なものに過ぎない。だが、それでも子供達は希望だった。光魔法族を傷つけずとも生きていける闇魔法族。それは共存の道への第一歩に違いない。
しかし彼らが共存の夢の実現を果たす前に、ヴァイスによって闇魔法族は壊滅させられることになる。
だが、彼らは小さな希望だけは守り抜いた。子供達をヴァイスの手からどうにか逃がしたのだ。

サラ達、十数名の子供達が闇魔法族の最後の生き残りだ。
子供達はヴァイスの襲撃から魔法で逃がされた森の中で、木の実や小動物、川の魚や水を糧としてひっそりと生活をしていた。頼れるものは自分達以外に誰もいない。そんな過酷な状況の中でも、子供達は必死に生き抜いてきたのだ。サラが最年長で、子供達のリーダーだ。杏と変わらない年頃のこの少女は、闇魔法族の生き残りとしての誇りを持って生きていた。
ヴァイスの襲撃から三年がたった今、ようやく安定した生活を送ることが出来るようになると、サラは自分達の一族を滅亡の危機に追いやったヴァイスへの復讐の思いを募らせ始める。しかし、サラたちはあまりに非力だった。他者から魔力を奪わずに生きていけることの代償に、多くの魔力を持ってはいない。魔力の使えないものよりは強いだろうが、ヴァイスに復讐することなど到底不可能だ。
サラはヴァイスを倒すため、光魔法族の協力を得ることを考えていた。しかし光魔法族の様子を探ると、それが極めて困難であることを知る。
戦う力を持っていた大人や男たちは皆ヴァイスに破れ、現在戦えるのはまだ幼い少女達のみ。今の光魔法族をまとめているのは魔法を使えない大人達だった。彼らは魔法を使えるものを憎んでいる。光魔法族の内部ですらそうなのに、闇魔法族との協力や共存など論外だろう。
サラは何か方法はないものかと、光魔法族の様子を探り続けていた。しかし、何一ついい方法は見つからない。
サラは苦悩の日々を送っていた。最年長の自分が、闇魔法族をなんとか存続させていかなければならない。しかし、この森の中でいつまで生きていけるかは分からない。サラ達の親の悲願であった光魔法族との共存を実現させることが、サラ達にとっても必要なこととなっていた。そのためには、何かが必要だ。何か、光魔法族に彼らを認めさせるチャンスがないものか。サラは今日も悩み続けている。


カナタによって救出された杏は、絶望に打ちひしがれていた。
昨夜の陵辱は、ゲルドによるもののように苦痛を与えられるものではなく、その体はほとんど傷ついていない。魔力は奪われたが、それも数日すれば回復するはずだ。陵辱に対して快感を覚え、何度も達してしまったことへと不快感や羞恥の感情も確かにあった。
だが何よりも、魔族に犯され陵辱された苦痛に耐えながらも、ひたすらに探し求めていた葵。彼女の手で陵辱を受けたということが、杏の心を完全に打ち砕いた。
(私…なんのために戦ってたんだろう…)
葵を救うはずだった。それだけを思い戦ってきたのだ。しかしその葵は闇の魔法使いになっており、杏を攻撃してきた。そして拘束し、陵辱し、魔力を奪った。守るべきものからの陵辱。杏は戦う意味を完全に見失ってしまっていた。
治療部屋のベッドに横たわり、ただ天井を見つめる。その心の痛みに、眠ることも出来ず、悲しみに耐え続けることしか出来なかった。
「杏ちゃん…」
カナタは杏のそばにしゃがむと杏の手を強く握るが、杏はほとんど反応しない。何と声をかけていいのか分からなかった。杏の心を支えていたのは葵を救うという気持ちだけだったのだ。それを失った杏はもう戦いには戻れないかもしれない。今度こそ、杏の記憶を消して自宅へ帰すべきなのかもしれない。カナタは本気でそう考え始めていた。
本来、杏は巻き込まれただけなのだ。葵を救う。その目的があったからこそ、カナタ達に協力していた。葵が敵となった今、杏は戦う意味を見失った。カナタ達に協力する意味もなくなったわけだ。
「私…これからどうすればいいのかな…?」
天井をぼんやりと見つめたまま、杏は微かな声で呟く。その目からは涙が溢れ、溜まった涙は顔を流れ、耳を伝い、ベッドに落ちた。
カナタは杏の手を自分の胸に引き寄せ、包み込むように抱きしめる。その悲しげな瞳からは同じように涙が零れ落ちた。

三日が経っても、杏はベッドから起き上がれずにいた。食事もまともにしていない。まるで重病の患者のように、ベッドから動けず、カナタが必死に看護していた。それでも多少の会話は出来るようになったが、その表情はまるで感情が消え失せたかのようだ。カナタやカザミが話しかけると、頷いたり小さな声で返事をする。その程度のものだ。
「あの子はもう駄目かもしれないね。」
カザミはリビングでカナタと向かい合って座り、言った。
「前回は、あの子自身が決めることだと思った。でも、今回はそれすらも出来るような状態じゃない。」
カザミは厳しい表情だ。魔法の通じない相手。それは大きな脅威だった。さらにその状況で杏という戦力を失うことは大きな痛手だ。それでも、今の杏を戦わせることが出来るほどカザミは非情ではなかった。
「無理にでも記憶を消して家に帰してあげることがあの子にとっては幸せかもしれない。救おうとしていた幼馴染が闇の魔法使いになっていて、その上自分を襲ったんだ。あまりにも辛すぎる。」
カナタも頷く。そうするしかないだろう。
「でも、最後にちゃんと杏ちゃんの気持ちは確認しないと。私達が勝手に決めちゃ駄目だよ…やっぱり…」
「明日にでも決めよう。このままじゃ杏の心が持たないよ。一度心が壊れてしまったら、なかなか回復できるものじゃない。」
カザミは自分のことを思い出す。封印されていた記憶を取り戻してから、ぼんやりとではあるが、自分の治療の一年間の記憶も戻ってきていた。それは今の杏よりずっと酷いものだ。誰に話しかけられても全く反応できないような状態が長く続き、陵辱の記憶を封印してからもすぐには回復しなかった。
カナタもその一年のことは覚えていた。忘れられるはずもない。あれはカナタにとっての地獄だった。姉の見るに耐えない無残な姿。あれと同じことをまた経験することは絶対に避けたかった。
杏もこのまま悲しみに押しつぶされてしまえば、あの時のカザミと同じように正気を失ってしまうかもしれない。カナタの必死の呼びかけも、杏には届いていないようだった。今のうちに記憶を消し、杏を苦しませるものを取り去ってしまう以外に方法はないのか。

そんなカザミ達の厳しい状況などお構いなしに、魔族の襲撃は起きる。
カザミは昨日まで、まだ戦える状態にまで回復しておらず、魔族の思うがままになっていた。そして今日も、魔族達は襲撃を続ける。カザミは覚悟を決めて立ち上がった。
「お姉ちゃん…行くの…?」
カナタは心配そうな顔で訊ねる。行ってほしくない。そう顔に書いてあった。
「行かないと。このままじゃもっと不利になっていくだけ。少しでもできることはやらないとね。」
「でも、またあの人が出てきたら…」
「一応、対策は考えてある。無理かもしれないけど、その時は仕方ないよ。少ない可能性でもかけてみるしかない。」
カザミはコスチュームを身にまとう。
「お姉ちゃん…」
カナタは不安そうに呟いた。
「そんな顔しないの。大丈夫。きっと勝って帰ってくるから。」
カザミは精一杯の笑顔で言い、戦場へと赴く。
カザミの消えたその場所を見つめながら、カナタは不安の中で必死にカザミの無事を祈った。


三日前、杏との戦闘を終えた葵は透に叱責されていた。
「なんだ?この結果は。」
「ちゃんと魔力は奪ったでしょう。何が不満なの?」
透は葵を睨み付ける。
「確かに奪った。だが、あまりにも手ぬるい。奴の魔力のせいぜい半分も奪ってはいないだろう。」
葵は図星を突かれた。確かに、葵は手を抜いていたのだ。妹にも等しい杏に対して、本気で責めることなど出来なかった。いくら快楽を与えて魔力を奪うとはいえ、限界まで魔力を奪えば相当な苦痛を伴う。それを杏に対して行うことはどうしてもできなかった。
「俺はお前に言ったはずだ。奴は厄介な力を持っている。殺してしまってもいいから、魔力を奪い尽くせと。」
「私は魔法少女であろうとも殺したくはないの。それに、あの子は…私の…」
「お前があの魔法少女と面識があろうがなかろうが、そんなことはどうでもいいんだ。お前は与えられた仕事を十分にこなせなかった。それ相応のペナルティは必要だろう。」
「ペナルティ…?」
葵の顔が恐怖に歪む。一体何をするというのか。
「簡単だ。俺はお前の協力との交換条件として魔力を供給すると言ったはずだ。お前の協力が不十分なら、俺はお前に魔力を供給しない。それだけだ。」
「ちょっと!それはないでしょう!」
葵は慌てる。魔力の供給を受けられないならば、昨日自分が杏にした行為も全て無駄になるのだ。
「まともに仕事をすればちゃんと供給してやる。次をちゃんとこなせばいい。簡単なことだろう。それに魔力が枯渇し始めれば、お前は自然と魔力を求め始める。そうすれば、無駄な気遣いなどしなくなるだろう。」
それは葵がもっとも恐れていることだった。自分が自分の意思を失い、魔力を求めるだけの魔物と化す。それを避けるために杏を襲ったというのに…。

それから三日間。葵は苦しんだ。杏との戦闘でかなりの魔力を消費していた葵は、魔力が欠乏し始めていたのだ。葵の心の奥底で、魔力を貪ろうとする魔物の心が蠢いていた。葵はそれを必死で押さえ込み、平静を保とうとする。
魔族は毎晩欠かさず街へ繰り出し、人を襲って魔力を奪っているが、魔法少女は現れなかった。魔法少女が現れ、葵がその魔力を奪わない限り魔力の供給は行われない。葵は焦っていた。
葵の中の、魔力を求める心は膨らみ続ける。そんな葵の脳裏に、先日の杏の姿が浮かんだ。葵に拘束され、その責めに悶える杏。芋虫の魔族に秘所を貫かれ絶頂に達した杏。あの杏の魔力を吸い尽くしてやりたい。その思いに気付くと、葵は必死でそれを振り払った。自分が杏を犯したいと願っている。そんな事実をかき消してしまいたかった。このままでは駄目だ。なんとしても次現れる魔法少女を倒し、魔力を限界まで奪わなければならない。非情になるのだ。人の心を保つために。
その夜、ついに魔法少女が戦場に現れた。杏ではない。葵は心を決め、その魔法少女の魔力を奪いつくすための戦いへと向かった。


カザミは異空間が破られた時、さして驚きはしなかった。葵が来るであろうことは分かっていたのだ。
冷静に、そこで人を襲っていた魔族に止めを刺し、それから葵のほうへ向き直る。
「あんたが葵?」
真っ直ぐに葵を見つめ、カザミは問いかける。
「………」
葵は何も答えない。非情になれ。そう自分に言い聞かせていた。会話をしてはならない。杏が今どのような状態にあるのか。それを聞いてしまえば自分は戦えなくなる。そうなれば自分は魔力を得られず、本能のままに人を襲うだろう。そうなってしまったら、杏の魔力を奪ったことさえも無駄になるのだ。もう後戻りは出来ない。ただひたすらに、自分に用意された道を、魔法少女と戦うという道を突き進むしかなかった。
葵は無言のまま魔法を繰り出す。杏に対して使ったものと同じ水の鞭だ。どうせ相手は自分に何も出来はしない。
「いきなりね…!」
カザミは苛立ちを含んだ声で呟く。自分の幼馴染をあんな目にあわせておいて、何も思っていないのか。そう考える間にも、無数の水の鞭はカザミへと迫っていた。
しかし、カザミにも策がないわけではない。その両手から大きな炎を生み出し、葵へと向けて放った。葵を包む込むほど大きなその炎は、葵の立つ地面を抉りとる。だが、それでも葵に届くことはなかった。葵は傷一つ負っていない。
だが、カザミの狙いは他にあった。葵の繰り出した水の鞭。それは大量の水を凝縮してできたものだ。大量の水はカザミの放った炎により瞬時に蒸発し、辺りを蒸気で満たしていた。
「くっ…どこにいるの…!?」
葵は視界を完全に蒸気で塞がれた。カザミは悟られないまま葵から距離をとる。
カザミの作戦は至ってシンプルなものだ。魔法が効かないならば、魔法で攻撃しなければいい。カザミは自らの体に強化の魔法をかけた。おそらく拳を強化して攻撃しても、葵の体に触れる直前にその効果は失われてしまうだろう。だからカザミはその足に魔法をかけた。蒸気の霧が晴れた瞬間、カザミに出しうる最大の速度で葵へと突撃するのだ。魔法の効果は失われても、そのスピードを殺すことは出来ないはず。ならばその勢いでぶつかれば、生身の体でも葵に傷を負わせることはできるはずだ。きっと葵は魔法が効かないということで油断している。二度は通じないだろう。一撃で決めなければならない。
(私の全身全霊をかける…!)
この勝負に勝たなければ、形勢は圧倒的に不利になるはずだ。杏が去るならば、カザミが唯一の戦力だ。今勝たなければ、きっと次はもっと不利な状態で戦うことになる。
問題は、カザミの体がどこまで持つかだった。生身の体で魔法使いに体当たりをするのだ。ただでは済まないだろう。
(でも…やるしかない!)
カザミは覚悟を決める。視界が晴れ、葵の姿を視認できたのと同時に全力で葵へと突き進んだ。葵はまだカザミに気が付いていない。カザミは凄まじい勢いで加速し、その右腕を大きく振りかぶった。
葵がカザミの姿を捉えた時には、カザミはもうすぐそこまで迫っている。葵にカザミの意図を理解し、防御をするだけの時間はなかった。
「うああああああああああああぁぁぁぁ!!!!」
カザミは叫び声を上げながら、全力で右腕を振り下ろす。鈍い衝突音が辺りに響いた。


次の瞬間、葵は遥か後方まで吹き飛ばされていた。建物をいくつも突き破り、その幾つかは音を立てて崩れだした。
一方、カザミの右腕は粉々に砕けていた。それだけではない。体中がガタガタで、まともに立つこともできず、地面に膝をついていた。
「…や…やった?」
葵を倒すことが出来たのだろうか?少なくとも無傷ということはないはずだ。しかし、まだ油断は出来ない。次の動きを起こすため、カザミは自らに簡易の治療魔法を掛ける。しかし、消耗はあまりにも大きい。右腕は使い物にならないだろう。杏の砕けた腕は治療部屋の一日で何とか完治したが、おそらくこの怪我はそうはいかない。

瞬間、遠くで爆発が起きた。葵が吹き飛ばされた方向だ。
何が起きたのか。そうカザミが思いを巡らせる間もなく、目にも止まらぬ速さで伸びてきた水の鞭がカザミの体を拘束する。
「あああああぁぁぁぁっっ!!!!」
砕けた右腕を締め付けられる激痛に、カザミは叫び声を上げた。
爆発で起きた煙幕の中から葵が姿を現す。その様子は何処かおかしい。葵はかなりのダメージを受けていた。服はボロボロに千切れ、体中から血が流れている。その傷を癒すため大量の魔力が消費された。すでに欠乏し始めていた魔力。そこに大きな傷を負ったことで魔力がさらに欠乏し、葵は魔力に飢えていた。
必死で自分の中から湧き上がる感情を抑えようとする。そうしなければ、今目の前にいる魔法少女の魔力を無理矢理食い尽くしてしまうだろう。快楽を与える、などと悠長なことは言っていられない。魔族ですらここまではしないだろうというほどに、無抵抗の獲物をボロボロに陵辱し、命を奪うはずだ。
しかし、自分を失うわけにはいかない。そうならないために、自分はここまで苦痛を耐えてきたのだ。杏を傷つけたのだ。葵はどうにか衝動を押さえ込む。顔中から脂汗を流し、地面にしゃがみ込んだ。
なんとか立ち上がると、水の鞭に拘束されたカザミに目を向けた。両腕を後ろで縛られ、胸を反るような体勢でひざまずかされたカザミは、右腕の痛みに苦しんでいる。
「…ごめんなさい。あなたの魔力も奪わせてもらいます。」
そう呟くと、地面に向けた手のひらから魔族を出現させた。以前、芋虫の姿をしていた魔族は、全く違う姿へと進化していた。ゼリー状の軟体生物。スライムといえば分かりやすいだろう。ブルーの色をした、およそサッカーボール大のスライムだ。スライムはボトリと地面に落ちる。その形は変幻自在のようだ。地面に衝突し飛び散った破片が一所に集まり、また元の姿に戻る。
葵には、杏の時のように自らが主導してカザミを陵辱する余裕がなかった。そんなことをすれば、すぐに欲望に耐えられなくなるだろう。
「…やって。」
そう小さくスライムに呟くと、葵はカザミから目をそらした。これから起こる陵辱の刺激に耐えなければならないのだ。正視していたら到底堪えられないだろう。

スライムは指示を受けると地面から勢いよく跳ね上がり、カザミの体へとボタボタと降り注いだ。
「いやぁぁっ!!」
顔と胸に降り注いだスライムの気持ちの悪い感触にカザミは思わず声を上げる。
スライムはカザミの肌をズリズリとナメクジのように這い回る。その体液のせいか、スライムに触れられた部分の服が溶け落ちていく。そのため、カザミの服は胸の部分だけが不自然に消失し、胸が露出していた。
「や…ふっ、ふむぅぅっ!!」
顔にこびり付いていたスライムは、カザミの口の中へと入り込んだ。舌にまとわりつくその感触にカザミは吐き気を催す。
「ひぁっ、うぇ…っ」
スライムはカザミの舌を揉むように刺激し続ける。そして一部は喉の奥へと進んでいった。
「お、おぇぇぇっ…」
スライムは膨張して喉を埋めるようなサイズになり、奥まで入り込んでは戻り、入り込んでは戻り、を繰り返す。喉の奥で体液を分泌し、胃の中まで直接流し込む。これは杏の時と同じ強烈な媚薬だ。これだけではない。肌にこびり付いた体液もそうだ。口から、胃から、肌から吸収された媚薬は、カザミの感覚を鋭敏なものにしていく。
胸に張り付いたスライムは、露になったカザミの胸を締め付けるように揉みあげた。
「ひぁ!!やらっ!!やめへぇぇ!!!」
胸の皮膚から直接吸収された媚薬に、カザミの胸や乳首はあまりにも過敏になっている。まだ乳首を強く責めてはいないのに、カザミは切なげな声を出す。
「はっ…はっ…ふぅぅんっ!!!」
乳首を締め付けられると、カザミは体はビクンと跳ねた。しかし、スライムはその特性を生かして更なる快感をカザミに与える。
「へ…な、なひ…?ひゃっ!!」
スライムはその一部をカザミの乳首の乳管の中まで潜り込ませた。極細の膣の中をペニスが行き来するかのように、乳管の中で動き、カザミを刺激する。
「ひゃぁぁぁぁっっっ!!!!!」
勢いよく体を震わせて叫んだ衝撃で、口の中を犯していたスライムが飛び出す。口元からブルーのゼリーがよだれのように滴った。
「ふわぁぁぁぁぁっっっ!!!!いやっ!!!そんな、強すぎるっ!!!!しげ、きがぁぁっ!!!!」
スライムは常に媚薬の効果を持つ体液を撒き散らしている。だから、乳管の中からも媚薬を送り込み、カザミの乳首をさらに敏感にさせた。
本来自分の子供のために母乳を出すべきところ。そこに逆から魔族に入り込まれ、刺激されている。カザミはそのおぞましさと、あまりに強い快感に身を震わせていた。
「やっ!!!だめ…あたし…もう…!!!や…や…いやあああああぁぁぁぁっっ!!!!!」
カザミは一段と大きく体を震わせる。乳首の中に挿入された快感から絶頂に達してしまった。その事実にカザミはショックを受けた。こんな、魔族のおぞましい行為で自分は快感を得てしまった。そして、少しの間をおいて、魔力が奪われていく脱力感が襲ってくる。
「ぁぁぁ……」
カザミは呆然としている。これまで何度も魔族に陵辱され、無理矢理イかされていた。それでもそれらは快感よりも不快感の方が強かった。だが、今カザミは魔族に陵辱されているのに快感を覚えてしまった。それは媚薬のせいでもあるのだろうが、カザミを打ちのめすには十分だった。
(あたしは…こんな魔族に快感を覚える女だってこと…?)
カザミはそれまで、苦痛を与えることを目的とした陵辱ばかりを受けて来たため、快楽を与えられる陵辱には耐性がない。自分がなんとも忌まわしいもののように思え、抵抗することも忘れ、自分への失望の気持ちに沈んでいた。

そんなカザミの体を徐々に下へ下へと這っていたスライムは、カザミのショーツを溶かし、クリトリスへと覆いかぶさるように飛びついた。
「ふっ…くぅぅぅぅぅぅっっっ!!!!!」
最も敏感な性感帯への刺激にカザミは震え上がる。まだ触れられていなかったにもかかわらず、体に吸収された媚薬と乳首への挿入のせいで、それは勃起していた。
「やめて…これ以上は…あたし、もう耐えられなくなる…」
普段の毅然とした態度からは想像も付かないほどに弱々しく、女々しい。カザミは媚薬がもたらす快感に戸惑い、自分を見失いかけていた。
スライムがクリストリスを刺激しない間も、分泌される媚薬が染み込み、その感度は飛躍的に高くなっていく。
突然、スライムはクリトリスを押しつぶしてしまいそうなほどに圧迫した。
「くあああああああぁぁぁぁぁぁぁんっっっ!!!!!」
突然のとてつもない刺激に、快感に、一瞬にしてカザミは絶頂まで駆け上る。痛いほどに圧迫されたはずなのに、それらは全て快感へと昇華されていた。
「ふぁぁ……」
また襲う脱力感に、カザミはもう一切の抵抗を忘れてしまった。快楽に見も心も任せてしまおう。どうせ抗うことなど出来ない。それなら苦しい思いをするよりも楽しんでしまえばいい。カザミの心は折れかけていた。

カザミの股間を責めているスライムは、そのまま膣へとは進まず別の二箇所の穴へと狙いを定めた。
「え…?え…?」
カザミは信じられない。アナルへと向かったスライムの行動は予測の範囲内だった。しかしもう一方。それはカザミも経験したことのないものだ。
「うそっ!?そんな!!違う、そこは…」
カザミが言葉を言い終える前に、スライムはカザミのアナルと尿道にズブズブと入り込んだ。
「うあああああっ!!!」
乳首への挿入に続いて襲う未知の刺激にカザミは叫び声を上げる。排泄のための器官。それを二箇所同時に犯されているのだ…。
「いやっ!!やだっ!やだよぅ…お願い!やめてぇ!!!」
カザミはまるで小さな子供のように首を振り、助けを求めている。
そんな言葉にスライムが耳を貸すはずがなかった。むしろ、嫌がるカザミの声に意気込み、その動きを活発化させる。アナルに侵入したスライムは奥深くまで入り込んでは一気に飛び出さんばかりに戻ってくる。尿道のものも、カザミのそれが未開発であることなどかまわずに、激しく中から圧迫し、刺激を与える。
「ふぁっ!!!くぅぅっ!!!何で…何で…気持ちよくなっちゃうの…?嫌だよ…あたし…こんなの…」
アナルと尿道からの刺激にさえ快感を覚え始めたカザミは戸惑っていた。排泄器官で卑しくも快感を覚える自分が嫌になる。
それでも、襲ってくる快感は止まることを知らない。
「やっ…だめ、きちゃだめ…あたし…あたしぃっ!!」
スライムは速度を速める。スライムの出す体液が小さな水音を起こした。そして、カザミはまた絶頂への階段を一気に駆け上がる。
「うぅぅぅぅぅんっ!!!やっ、はあぁぁぁぁっ!!!くっ…あああああああああああああぁぁぁぁん!!!」
カザミの体がビクビクと震える。その目はあまりに強い快感で、まるで酩酊しているかのように蕩けている。
「あたし…イっちゃった…お尻と…おしっこの穴で……」
カザミはショックのためか、快楽に溺れてしまったからか、完全に退行してしまっていた。
尿道からスライムが零れ落ちると、それを追うように黄色に光る液体が漏れ出し、地面に広がっていった。
「や…出て…る…おしっ…こ…」
もうカザミの心は限界に近い。

そして、やっとスライムは本来の性交の器官である秘所へと向かった。
いきなり、小さな球状に固まったスライムの一片が、膣内を掻き分け一気に子宮まで突き抜けた。
「ああああああああああぁぁぁぁっっ!!!」
唐突に体の最奥を突かれ、カザミは大きな衝撃を受ける。
さらに別のスライムが蓋をするように膣内へと侵入した。勢いをつけて前後に動き始める。
「んっ!はっ!やぁっ!!くぅんっ!!!」
もうカザミからは甘い声が出るようになっていた。抵抗することをあきらめ、快楽に身を任せたのだ。それは賢明な判断であるともいえる。苦痛から逃げるのは人間の防衛反応として当然のことだ。
「はっ!?な、なにっ!?」
子宮内に侵入していた球状のスライムは子宮の中で活発に動き始めた。子宮内をまるでボールのように跳ね回る。
「やぁぁっ!!!かはぁっ!!!くうぅぅっ!!!」
それは子宮を内側から強く刺激する。過敏になっているカザミにとって、その強すぎる快感は痛みにも似たものになり始める。
ふと、膣内を動くスライムにも変化が現れ始めた。
「ああああぁぁぁっっ!?」
棒状になって膣内を犯すスライムは、その表面を大きく波打たせた。
前後へとこすり付けられるものだけでなく、膣壁をごりごりと突かれるような刺激が加わり、更なる快感をカザミに与える。
「やあぁぁぁっ!!だめっ!!強すぎるぅっ!!!もう無理、無理だよぉっ!!!!!」
子宮内を跳ね回るものはその勢いをより早く、強くし、膣内を犯すものはより大きく、深く波打った。
「いや…いや…もうっ…駄目な…の…っ!くっ…ふ…くぁぁぁぁあああああああああああああっっっっ!!!!!」
カザミの体が今までで一番大きな勢いでガクガクと波打つ。そして、それに比例するように多くの魔力が奪われ、脱力する。

杏の時はこれで終わりだった。しかし、今の葵にはそれ以上が求められている。葵の中には躊躇いがあった。それでも、ここで止める訳にはいかない。でないと、魔力を供給してもらえないのだ。葵のこれまでの行為の一切が無駄になってしまう。
葵は震える手をグッと握り締め、スライムに指示を出した。
「続けて。」

カザミは朦朧とする意識の中で聞こえた言葉に耳を疑った。
(続ける…?まだ…?)
カザミはもう限界だ。先ほどの絶頂はもう快感だけではなく、苦痛をも含むものとなっていた。
(これ以上続けてイかされちゃったら…あたし…壊れちゃう…)
そんなカザミの心を推し量ることなどない。スライムは葵の指示にただ従うだけだ。未だカザミの膣内に、子宮内に留まっていたスライムは、その活動を再開する。
「やあぁぁぁっ!!!無理っ!!!無理だよぉぉぉっ!!!これ以上はイけないっ!!!おかしくなっちゃうぅぅっっ!!!」
それはもうただの快感ではなくなっていた。限りなく苦痛に近い。媚薬と繰り返す絶頂で過敏になった感覚が焼き切れてしまいそうなほどに刺激される。しかも、胸やクリトリスを覆っていたものまでもがその活動を再開させた。再び乳首の中へ侵入し、クリトリスを再び強く締め付ける。
「うわああああああぁぁぁっっ!!!!いやあああぁぁぁっ!!はああああああああああああああああぁぁぁぁっっっ!!!!!」
加速度的に強まっていく刺激に、カザミはもう達してしまう。だが、まだ始まったばかりだ。
そして、またもや子宮内のスライムが変化を見せた。
「いやああぁぁぁぁっ!!!もうやだっ!!!何するの!?お願いだからやめてよぉぉぉぉっっっ!!!!」
カザミの叫びが子宮内にいるスライムに聞こえているのかは定かではないが、なんにせよその変化を止めることはなかった。
スライムは風船のように膨らみ、子宮を内部から圧迫し始める。子宮全体が膨らまされ、裂けてしまいそうなほどの快感が襲って来た。
「うぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!やあぁぁぁぁぁっ!!!!苦しいっ!!苦しいよぉっ!!!!」
カザミはもう快感に悶えているのではなかった。ただただ、子供のように恐怖の中で泣きじゃくるのみだ。
「ふわぁああああああああああああああああああっっっっ!!!!!!」
「く、ぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいいっっ!!!!」
「はうぅぅぅぅぅぅぅぅぅんんっっっ!!!!」
「あぅ…っ、くぅ…、っっっっっっっっ……!!!!!!!」
カザミが絶頂に達するたびに魔力はどんどんと奪われ、カザミの命が削られていく。絶頂のたびに上げる悲鳴も、次第に弱々しくなっていった。

(これ以上やったら死んでしまう…)
葵はカザミの悲鳴に刺激される欲望を抑えながらも、カザミが死んでしまわないようにと終わりの時期を見計らっていた。葵の中の魔物は、もっと続けてしまえと葵に囁く。死んでしまうまで魔力を貪れ。その快感に酔いしれろ、と。しかし、葵はその言葉を振り切る。ここで負けてしまうわけにはいかない。
「次で終わりにして。」
そうスライムに叫ぶと、スライムはその動きを一段と大きくした。クライマックスが近づいている。
「はっ…はっ…はっ…はっ…はっ…」
カザミはもうすでに、スライムに揺すられるリズムで呼吸をしているのが精一杯だった。その目には何も映っていない。
子宮の中で風船のように膨らみ、縮みを繰り返していたスライムは、最後に一際大きく膨らんだ。カザミの腹も中から圧迫されて少し膨らむ。
そして、まるで本当の風船が針を刺されたかのように弾け飛んだ。
「うぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっ!!!!!!!」
凄まじい衝撃がカザミを襲い、その衝撃で最後の絶頂を迎えた。しばらくの間痙攣を起こしたあと、ぐったりとして動かなくなる。
葵は殺してしまったのかと不安になるが、カザミからは魔力がまだ微弱ながらも感じられた。カザミが生きていることを確認すると、葵は一刻も早くここを離れたいとばかりに、逃げるようにこの場から去っていった。


水の鞭の拘束を解かれ、地面に倒れるカザミ。その無残な姿の横に小さな影が現れた。
カザミを救出に来たカナタだ。カナタの祈りは届かなかった。カザミは凄惨な陵辱を受け、ボロボロになってしまった。
杏もほとんど再起不能の状態だ。カナタの心は絶望に支配されていた。
カザミのそばに膝をつき、抱きかかえる。その体を強く抱きしめたまま、カナタは大きな声で泣き叫んだ。