葵は透のもとで力の使い方を学んでいた。
他者の魔力を消滅させる能力。それを自在に操ることが出来ればこの上ない力となる。しかし、そう簡単にはいかない。あまりに強大な力であるため、操るためにはそれ相応の魔力が必要となる。
だが、透は葵に必要最低限の魔力しか与えなかった。その能力を完全に使いこなされては困るのだ。他者の魔力を自在に消滅させることが出来るようになってしまえば、自殺も可能となる。葵の能力を利用したい透にとって、それはあってはならないことだ。だから、必要最低限の魔力で必要最低限の使い方を覚えさせることにしていた。
これまでの葵の能力は、無理矢理葵の魔力に割り入り魔力を吸収しようとするものに対してのみ発動するものだ。これは魔族に襲われたときにその身を守る能力でしかなく、魔法少女たちを倒すための役には立たないだろう。
葵はもう一段階上の力を要求されていた。

「きゃああああああぁぁぁっ!!!」
葵を透が放った炎の魔法が襲う。その威力はさほど大きなものではなかったが、それでも葵に苦痛を与えるには十分なものだった。
もう一段階上の能力。それは敵の魔法を無効化するというものだ。魔法少女にとってこれほど厄介なものはないだろう。魔法障壁は攻撃を防ぐごとに削られていくが、葵の能力は衰えるということを知らない。魔族は肉弾戦を行うことも出来るが、魔法少女にそれはできないはずだ。この能力を身に付ければ魔法少女に対しては無敵だと言えた。ゲルドは魔法少女たちに敗れた。しかしそれも大した問題ではなくなるのだ。しかし、その習得は困難を極める。葵はすでに幾度と無く透の魔法にその身を貫かれていたが、その能力を発揮することは出来なかった。
それでも今、葵は必死でその能力を習得しようとしている。今葵の心を満たしているのは、普通の人間に戻れるかもしれないという微かな希望だった。一生人を傷つけながら生きるぐらいなら、と死を望んだ葵。しかし、彼女もただの幼い少女には変わりなかった。元の生活に戻りたい。その思いに心は埋め尽くされ、魔法少女だけを標的にするという条件をつけ、彼女は人を傷つける覚悟を決めた。
魔法少女はそう簡単に死にはしない。そして、しばらくすれば奪われた魔力も回復するのだ。だから問題が無い。透が告げたその理由で、葵は自分に言い聞かせた。彼女は多くを望んだわけではない。ただ普通の生活に戻りたいだけだったのだ。突然不幸に巻き込まれた少女が、自分の生活を取り戻すために人を傷つけようと決心した。それを誰が責められるだろう。

次に透の手から放たれた氷の刃は、葵が身を守るように突き出した手に触れることなく溶け、消滅した。葵は自らの些細な希望を手にするための力を習得したことに喜びを覚え、一方で人を傷つけることにいまだ躊躇いを感じていた。
そして透は自らの計画が一歩進んだことに満足し、笑みを浮かべた。


−私は森の中を一人歩いている。目線が異様に低い。これは幼い頃の自分なのだと気が付いた。
 右手には何かを握り締めている。そういえば三歳になるかどうかの頃、いつも何かを大事にしていた気がする。あれは何だっただろうか。
 私は自分の行く先を知らない。この鬱蒼と茂った森の中を一人彷徨っていたのだ。
 私は自分が泣きじゃくっていたことに気づく。幼い少女にとって、このような森で迷子になることはとてつもない恐怖に違いなかった。
「あら、どうしたの!?」
−驚いたような声が聞こえる。女の人の声だ。二つの影が私の前に現れる。それが誰であるのかなど関係なかった。
 ただひたすらに心細く、恐ろしい思いに心を支配されていた私は、その影に飛び込み、泣き付く。
 するとその影は、私の頭を優しくなでてくれる。
 これは一体何の記憶だっただろうか…。

杏はベッドの上で目を覚ました。ぼんやりとはっきりしない意識の中、そこが治療部屋なのだということにどうにか気付く。横を見るとカザミも少し離れたベッドの上で眠りについていた。
「痛っ!!」
起き上がろうと思い左腕に力を込めたとき、鋭い痛みが杏を突き抜けた。杏の左腕は折れたままだった。その理由を思い出すことをきっかけに、杏は徐々に記憶を取り戻していく。自分はゲルドと戦い、見事打ち倒したのだ。自らを苛む悪夢を、その手で見事取り去った。
少しずつ杏の胸に達成感が、喜びが溢れていく。
(私、あいつを倒せたんだ…)
しかし魔力の消耗が激しかったためかひどい体のダルさで起き上がることは出来ず、横になったまま身を休めていた。
しばらくすると、カナタが部屋に入って来る。
「あ!!杏ちゃん、目が覚めたんだ!」
満面の笑みを浮かべ、杏のベッドまで駆け寄って来た。杏の無事な方の手を強く握り締めると、泣きそうな声で呟く。
「よかった…。お姉ちゃんがあの状態で帰ってきたから、本当に心配したんだよ?でも、やったね。あいつを倒したんだ!!」
ゲルドは杏にとって、因縁の相手だったと言える。初めて戦闘を目の当たりにし、震え上がった相手。そして杏の処女を奪い、魔力を奪った最初の相手。それを自らの手で打ち破ったことは大きな意味を持つように思えた。
「でも、ごめんね。その腕、すぐには治せなかったんだ。あまりにもボロボロになりすぎてて、完治にはもうちょっと時間がかかると思う。」
カナタは申し訳なさそうに言う。
無理も無いだろう。杏の腕はゲルドの渾身の一撃を受け、おそらく粉砕されていた。完治するだけでもありがたいというものだ。
「ううん、ありがとう。カナタちゃん。」
だから杏は首を横に振り、カナタに感謝の気持ちを伝えた。
「カザミちゃんの調子はどうなの?」
「お姉ちゃんは、二、三日はここで治療しなきゃ駄目だと思う。かなり深い部分の魔力まで爆発させちゃったみたいだから、魔力を奪われたのと同じような状態なの。」
確かに、あの限りなく自爆に近いような攻撃は凄まじかった。あれが無ければゲルドには絶対に勝てなかっただろう。
「今、何時ごろなのかな?」
「まだお昼前だよ。杏ちゃん。ご飯食べれそう?」
「うん…。とりあえず少しだけでも食べておきたいかな。」
杏は大して空腹を感じていたわけではなかったが、あまりの体のダルさに、少しでも栄養を取りたい気持ちだった。あまり関係は無いのかもしれなかったが。片手で食事をするのは結構面倒だということに気付く。苦労しながらも何とか食べ終えた頃には、多少疲れも取れていた。この部屋の魔力のおかげだろう。
「もう起きても大丈夫かな?」
杏はカナタに聞く。
「うん、杏ちゃんが起きられるなら別に起きてもいいけど…。ほんとはゆっくりしてた方が治りも早いよ?」
カナタは少し心配そうだ。
「ほら、モニカちゃん。あの子の話し相手になるって約束したでしょ。ずっと一人じゃ可哀想だし。それに…」
「それに?」
「ここでずっと横になってるのって結構退屈なんだよ?」
杏は笑いながら言う。するとカナタも少し笑顔になった。
「じゃあ左腕に治療の魔法かけるね。この部屋から出ても効くように。あ、でも何で固定したほうがいいかな…どうしよう?」
カナタがそう言うと、杏の頭にすぐ閃いたものがあった。
「じゃ、あれにしようよ、あれ!」
カナタはわからず、首をかしげる。

かくして、家の中を歩く杏の首からは三角巾がぶら下げられていた。
小学校の頃、ちょっとした事故で腕を折り、同じように三角巾で腕を吊るして登校してきた子がいたことがある。その子はしばしの間クラスの注目を集めた。代わり映えのしない日常に舞い込んだ小さな変化に子供たちは群がったのだ。そんなことがあり、杏はその頃のささやかな憧れのようなものを未だに少し抱えていた。もちろん本人からすれば面倒であっただろうし、そんな変化もすぐに日常へと変わっていったはずだ。
それでも少し浮かれた気分になってしまうのは、杏がまだ子供だという証拠かもしれない。ただ年齢的にもまだ子供なので、歳相応とも言えるだろうか。
とにかく、杏はその姿でモニカの部屋へと向かった。この姿にはもう一つ意味があったのだ。モニカとの話題を作ること。もっと言えば「モニカが杏に興味を持つための何か」を作ることだ。少し怯えさせてしまうかもしれないが、おそらく普通のままで行っても怯えてしまうのではないか。それならせめて何か印象に残るものを、と考えたのだ。
杏はモニカの部屋の前まで来ると、軽く扉をノックした。
「モニカちゃん?ちょっとお話がしたいんだけど、入ってもいいかな?」
返事はなかなか聞こえてこない。しかし、少しすると微かに「はい」という声が聞こえてきた。杏はゆっくりとドアを開け、部屋に入る。
モニカは薄いカーテンごしに入ってくる光の明かりだけが照らす薄暗い部屋で、ベッドの上に膝を抱えるようにして座っていた。杏の三角巾で吊るされた腕を見ると、少し驚いたような表情を見せるが、それは次第に心配そうなものに変わる。杏の考えは正しかっただろうか。杏には判断が付かなかった。
杏はベッドの隣に置いてあったキャスター付きの椅子に座り、モニカと向かい合う。
「一応、初めましてかな?私の名前知らないよね」
モニカは抱えた膝に顔をうずめる様にして頷いた。怯えているとまでは言わないが、かなり緊張しているのが杏にも伝わってくる。
「私は杏っていうんだ。よろしくね。」
杏はモニカに小さく笑いかけた。普段の杏の調子で話しかけると、モニカはついてこれないだろう。だから、杏は少しでもモニカに合わせるような調子で話しかけた。
「ほら、この部屋にずっと一人でいたら退屈でしょ?もしモニカちゃんがよければ、私が話し相手になりたいなって。」
それを聞くと、モニカはまた少し驚いたような顔になる。そして膝に顔をうずめると、小さな声で呟いた。
「…わたしと話なんかしても、面白くないよ…?」
その声は拒絶するためのものではなく、本当に言葉の通り信じきっているといった響きだった。自分と話をしようとする人間がいることが信じられないような、そういった気持ちが滲んでいる。
「まだちゃんと話してないからわからないんじゃない?私は、モニカちゃんとお話したいなって思うよ。」
杏はやさしく語りかける。モニカは恐々と膝に埋めていた顔を少しだけ上げて杏を見た。
「でも、誰もわたしと話したがる人なんていなかったよ。みんな、わたしを避けてた。みんな、わたしのこと嫌いなんだ。」
そういうとまた顔を埋めてしまう。杏はカザミとカナタのことも思い出して、少し切ない気持ちになった。
「それは違うと思うよ。みんなはね、ちょっと怖がりなんだと思う。話したいけど、その勇気が無いんだよ。」
少なくとも、カザミとカナタはそうだった。自らに火の粉が飛んでくるのを避け、モニカに手を差し伸べることが出来なかったのだ。そして今も傷つくことを恐れ、モニカと触れ合えないでいる。
「モニカちゃんをいじめるような人たちもいたかもしれない。でもね、それはモニカちゃんが悪いわけじゃないんだから。ここでは、誰もモニカちゃんをいじめたりしないよ。それに、少なくとも私はモニカちゃんのこと嫌いじゃないからね。」
こんなありきたりの言葉は彼女の胸に届くだろうか。杏には疑問だったが、今思いつく言葉はこれぐらいしかなかった。
モニカは何も答えない。杏を見ることもしなかった。そろそろ潮時か。そう思い、杏は立ち上がる。
「ま、今日は挨拶だからこれぐらいで帰るね。また明日も来るよ。もし私と話したいと思ったらさ、いつでもあの鈴ならしてね。」
昨日カナタがモニカに渡した鈴のことだ。鈴には少しだけ魔力の込められている。この家の中ぐらいならどこにいても鈴の音を感じることが出来るはずだ。
そう言って部屋を出ようとした時、モニカが自分から話しかけてきた。
「…あの…」
いつの間にか顔を上げている。杏は振り向き、モニカを見つめた。
「腕…大丈夫?」
杏は思わず笑みを零した。自分のことを気にかけてくれたのだ。
「大丈夫。すぐに治るしね。それに、これは勲章みたいなものだから。」
杏は明るく答えた。
「勲章…?」
モニカは不思議そうに訊ねる。
「そう。凄く強い敵がいたんだ。それに、因縁のある敵。でも、私はその敵を倒せた。この傷はその時に出来たもの。これは、本当に私が勝ったことを証明する傷なんだよ。」
杏は少し無理をして、その傷ついた左腕でガッツポーズを取った。やはり痛んで、少し後悔する。
「…なんか、男の子みたいだね。」
モニカは少しだけ笑みを浮かべた。初めて見るモニカの笑顔。それだけで杏の心は幸せに満ちた。
「あははっ、そうかも。」
杏も少し笑う。
「そうだ!部屋でじっとしてても暇だろうから、今度本でも買ってきてあげるよ。」
「本?」
「そう。暇つぶしにはなるでしょ?」
カザミたち魔法少女は杏たちとは違う言葉、文字を使っている。しかし、魔法によってお互い理解できるようになっているのだと杏は以前聞いていた。モニカも杏と会話が出来るということは、その魔法をかけられているということだろう。きっと本も読めるはずだ。
「…うん。ありがとう。」
その言葉を聞けただけで、杏は多少の疲れを押してここの部屋を訪れたことに意味があったと感じた。
「じゃあ、またね。」
その言葉を残し、杏はモニカの部屋を後にする。初めての会話としては上手くいった方だと杏は思った。これから少しずつでも彼女の心を開かせてあげられるだろうか…?そう思いながら杏は治療部屋へと向かう。さすがに疲れはまだ取れていないし、腕も痛む。今日一日は横になっている必要がありそうだった。


(カナタちゃんの魔法って凄いんだなぁ)
杏はそう思わずにはいられない。その日の夜には杏の疲労感はすっかり取れていたし、腕の痛みもほとんど引いていた。カザミは一度目を覚ましたが、ゲルドを無事倒したことを聞き、安心して今はまた眠りについている。
しかし、突然魔族の反応が杏の感覚を揺すぶった。低級のものばかりだ。幾つかの場所に同時に出現している。
杏は迷わなかった。もうほとんど戦いに支障が無いほどに回復している。カザミは戦える状態ではないのだから、自分が行かなければならない。
杏はコスチュームを身にまとうと、部屋を飛び出した。
「杏ちゃん!ほんとに大丈夫?」
カナタが心配そうに言う。
「大丈夫!今、すっごく調子がいいから。低級の魔族ぐらいだったら楽勝だよ。」
そう言い、杏は魔族のもとへと向かった。

実際に今夜、今の杏に敵うような魔族はいなかった。杏は次々に魔族を倒し、襲われた人を助ける。一人で今夜活動している全ての魔族を倒して回れるほどの勢いだった。
そして今、杏は最後の魔族を相手にしていた。
(やっぱり今日は調子いい)
そう心の中で呟き、最後の浄化魔法を放とうとしたその時、異変が起きる。杏の視線の先、異空間の壁に風穴が開いていた。
(なんで!?簡単に破れるものじゃないはずなのに!)
杏は警戒して魔族から離れ、身構える。相手は下級の魔族とは桁違いの力を持っているはずだった。ゲルドをも上回っているだろう。
そこに現れた影は小さかった。そして、人の形をしていた。杏はその姿に衝撃を受ける。
「…葵…ちゃん?」

衝撃を受けたのは葵も同じだった。
(なんで!?何で杏ちゃんがいるの!?)
葵は新しい能力を習得し、魔法少女を倒すだけの力を得ていた。だから透は葵に出撃を命じたのだ。葵は直接魔力を吸収することは出来ない。そこで低級の魔族を放ち、それを倒しに来た魔法少女を襲うことにした。葵の体に触れた魔法は消滅する。だから、異空間をものともしないのだ。現れるはずが無いと思っていたところから現れる敵に魔法少女は動揺するだろうという考えもあった。
しかし、その動揺は予想以上だった。葵も、まさか魔法少女が杏だなどとは夢にも思わなかった。二人は幼馴染なのだ、自分の妹同然に育ってきた杏が魔法少女のはずは無かった。葵は、先日この街の少女が魔力を覚醒させたという話を思い出す。あれが杏だったのか、と思い至った。
葵は苦悩する。無理矢理自分に言い聞かせ、襲うことを正当化していた魔法少女。それが杏なのだ。妹を陵辱して魔力を奪う。そんなことが出来るのか。
しかし、葵に選択肢は無い。透は初の戦いの望む葵に告げていた。この戦いに勝利しなければ魔力の提供はやめる、と。それは葵の魔力の枯渇を意味し、同時に葵が無差別に人を襲ってしまうということでもある。大勢の他人と妹同然の魔法少女。簡単に天秤にかけられるようなものではなかった。だが、元の生活に戻るためには透に従うしかない。その思いが葵を突き動かしていた。

「なんで!?なんで葵ちゃんがここにいるの!?」
杏は泣きそうな顔で叫ぶ。ずっと捜し求めていた葵と再会できた。しかし葵は闇の魔力を身にまとい、この異空間へと入り込んできたのだ。杏は完全に混乱していた。
「ごめんね、杏ちゃん。私はあなたの魔力を奪わないといけない。そうするしか道が無いの…」
葵は辛そうに、なんとか言葉を吐き出した。言葉にすることで自分を納得させようとしているのだ。それしか道が無い、仕方ないのだと。
そして葵は手をかざし、魔法を発動させた。水が無数の鞭のように杏へと迫る。
杏は何とか水の鞭を交わすが、全く余裕が無かった。葵が自分を攻撃している。そのことに絶望的な悲しみを覚え、動きが鈍っていた。
しかし、気を取り直す。葵はそうするしか道が無いといった。事情があるのだ。それなら、自分がその事情から葵を解放してやらなければならない。自分は負けるわけにはいかないのだ。たとえ相手が葵であっても、それは変わらない。杏は心を決め、葵との戦いに臨んだ。杏は葵に魔法を放つ。水の魔法を使う葵とっての弱点である雷の魔法だ。
だが杏の魔法が葵へと一直線に飛んできても、葵は一切回避しようとしなかった。杏が驚きの表情を見せる。
(何で避けないの!?)
しかし、その疑問はすぐに別の疑問へと変わる。杏の放った魔法は、葵の目の前で消滅したのだ。魔法障壁で防いだのではない。ただただ消えたのだ。
(魔法が消滅した!?なんでそんなことが…)
杏は当惑する。魔法が効かないなら、一体どうやって倒せばいいというのか…。

葵は自分が負けないということが分かっていた。杏がどれほど魔法を放とうとも、その魔法が葵に触れたとたん消滅してしまうのだ。だから葵は杏を極力傷つけずに捕らえ、動きを奪うことのみに集中していた。杏の幾度も放つ攻撃を避けることさえ必要としない。ただその場に立ち、水の鞭で杏を拘束することだけを考えればよかった。
杏は葵が敵として現れたこと、そして魔法が通じないことで完全に混乱していた。勝負の結果は火を見るより明らかだった。
杏が葵に拘束されるまで、五分とかからなかった。杏に痛みは無いが、体中を水の鞭が拘束していて一切身動きが取れない。
「くっ…」
杏を拘束する水の鞭は杏を葵の眼前まで連れてくる。杏は悲しげな表情で葵を見つめた。
「葵ちゃん…どうして…?」
その顔、その声を聞き、葵の決意は揺らぐ。それでも止める訳にはいかなかった。
「ごめんね…杏ちゃん…」
葵は杏の胸に顔を埋め、涙を流す。いくら謝ったところで許してはもらえないだろう。しかし、葵にはこうするほかないのだ。葵は杏から離れ、後ろに下がると、体内に取り込んでいた魔族を分離する。小さな魔族が葵の手の中に現れた。芋虫のような体に、幾つかの細い管を持っている。見るからに貧弱で戦闘には向きそうにないが、身動きの取れない杏には抵抗のしようも無い。
「ごめんね。だけど、痛い思いはさせないから…」
葵はそう言うと、芋虫を杏の胸の辺りに置く。杏は気持ちの悪い虫が顔に迫る嫌悪感に顔を背けるが、芋虫の管は思いのほか長く伸び、杏の口へと侵入してきた。
「むぁっ!!や、やめぇっ…!!」
細い管が何本も束になって杏の喉へと入ってくる。杏は舌を圧迫され、舌足らずな言葉で叫んだ。すると、管の何本かが杏の舌に巻きついてくる。
「ひぁっ!!ひあっ、ひあああぁぁっ!!!」
舌に巻きつかれ、引っ張られ、喉の奥へと侵入される。もう杏の叫びはまともな言葉にはなっていない。管はしばらく杏の舌を弄び、喉を刺激すると、突然液体を杏の口内に撒き散らした。
「うぇっ!!!ふううぅぅっ!!!」
口内に溢れた液体に杏はむせ返る。液体は精液ではないようだ。苦味はないが妙に甘ったるく、それがまた不気味で吐き気を誘った。杏の口を犯していた管は芋虫の中へとまた収納される。やっと舌が自由になった杏は葵に問いかけた。
「何…私に何を飲ませたの…?」
精液ではない。一体何だというのか。
「それは媚薬。杏ちゃんに痛い思いをさせないためにはどうしても必要なの。」
葵は申し訳なさそうに言う。これまでの陵辱のような酷い苦痛を味わわせずに魔力を奪うには、杏を性的に興奮させなければいけない。これまでのように苦痛で弱った体に強引に精をぶちまけて、こじ開けるように魔力を奪うのではなく、杏の魔力を自ら外に開かせることで魔力を奪うのだ。痛みを伴わずに魔力を奪うためには少なくとも数回の絶頂を必要とする。これまでまともな性行為をしたためしもない杏は、そう簡単に絶頂を味わうこともないだろう。そのためには媚薬が必要だった。未経験の少女ですら気を失うほどの快感を味わえるようになうほど強力な媚薬が。この芋虫の姿をした魔族はその能力に長けていた。そういった特殊能力を使うことで、魔法少女を極力痛めつけずに魔力を奪う。それが葵の出した結論だった。
「び…媚薬…?」
杏はその意味を理解すると、羞恥心に顔を赤らめた。自分がこんな魔族を相手に快感を覚えてしまうのか。自分が自分でなくなってしまうような、そんな恐怖を感じる。気付くと、葵の体はいつのまにか少し火照っていた。間も置かず、葵の股間は妙に疼き、下着に覆われていない胸は勃起した乳首が服に擦れて言いようの無い感覚を覚える。
杏は自らの体の変化に戸惑った。これほど極端に性的興奮を覚えたことは杏にはまだなかったのだ。媚薬のせいとはいえ、魔族を前にしてこんな風にだらしない姿を晒すことに酷く恥ずかしさを覚えた。しかも、姉同然に育った葵の目の前でなのだ。葵が杏をこのような状態にさせていることに大きく動揺していた。
「なん…でっ…葵ちゃん…こんなの…恥ずかしいよ…」
もう杏の顔は真っ赤だった。それは羞恥心からなのか、それとも火照って上気しているからなのか。それとも両方だろうか。
葵はそんな杏を見て辛そうな顔を見せるが、それでもその意思を変えることは無い。
「大丈夫。そのうち平気になるから。魔族に犯されても、快感が杏ちゃんを苦痛から守ってくれる。」
そう、葵がそうであったように。葵は幾度と無く魔族に犯された。魔族が媚薬を使ってくることは滅多に無かったが、葵はいつからか快感を感じ始めていた。それは防衛反応だったのだろう。繰り返される苦痛を避けるために、体が快感を感じさせることで葵の心を守ろうとしたのだ。
快感は苦痛を和らげてくれる。だから魔法少女を犯すことが避けられないならば、せめて快楽を与えることで魔力を奪ってやりたかった。

葵は心を決め、芋虫をどかすと杏の服に手をかける。上着を上へとずらし、杏の小さな胸を露にした。杏は羞恥に悶える。
「やだっ!!!やめてよ、葵ちゃん!!見ないで、見ないでえぇっ!!!」
杏は必死で首を振るが葵は目をそらさず、逆にその手で杏の胸に触れる。
「ひゃぁっ!!」
杏の体はまるで電気を流されたかのように脈打つ。それほど感度の強くないはずの乳房に触れただけで、杏は強い刺激を感じていた。
葵はそんな杏の胸を、乳首の周囲をぐるりと回るように舐めまわした。
「やっ!!やだっ!!!」
葵の舌の感覚が、鋭敏になった杏の肌を刺激する。葵に胸を舐めまわされているという事実が杏の羞恥心を掻き立てた。そして、葵の舌は杏の乳首へと到達する。まるでアイスを舐めるかのようにやさしく舌で舐め上げた。
「ひやぁぁあああっ!!!」
杏をこれまで感じたことの無い快感が襲った。元々クリトリスの次に敏感な性感帯である乳首は、媚薬によってあまりにも過敏になっていた。
葵はそのまま乳首をやさしく噛み、引っ張る。そのたびに杏の体はビクビクと脈打ち、杏は声を上げた。
「あっ!!やだっ、んぅっ…、や…やめっ!!やめて…っ、葵ちゃ…んんんんっ!!!!!」
杏は快感に対してあまりにも無防備だった。前回のゲルドの陵辱はただ苦痛を感じただけだったのだから、まともに快感を得たことはこれまでなかったはずだ。だから、葵の胸への愛撫による快楽に抗えるはずも無い。葵が少し強めに乳首に歯を立てると、杏は一際大きく身を振るわせた。
「や、やだっ、なんかっ…おかしいよっ…ふぁっ…や、やあああああああああああっっっっ!!!!」
杏は生まれて初めての絶頂を味わった。まともに愛撫を受けたのも初めてだというのに、乳首だけで達してしまう。これも媚薬のせいだろう。
杏は半分放心状態だった。幼い頃から姉同然に育ってきた葵。その葵に乳首を愛撫され、初めての絶頂に至ったことに酷くショックを受けていたのだ。
「はぁっ…はぁっ…は、うぁああああっ…」
肩で息をしていた杏を、急に脱力感が襲う。杏の体へと浸透した媚薬が、杏が絶頂に絶頂に達したことで流れだした魔力を奪い、芋虫へと送り込んでいるのだ。しかしその量は大した量ではない。まだ一度の小さな絶頂でしかなく、杏の持つ魔力のほんの一部しか奪われてはいないかった。
だから、葵はさらに杏を責め立てる必要がある。もっとたくさんの魔力を奪わなければならない。

葵は水の鞭を動かし、杏の足を開かせた。スカートの影から杏の下着が覗く。
「や、やだっ!やめて、ねぇ、葵ちゃん。お願いだから…」
その悲しみに満ちた懇願に、葵は胸が痛む。それでも止める訳にはいかない。葵は杏の下着を破り取った。
「やああああぁぁぁっ!!!」
秘所が外気に晒される恥ずかしさに、杏は叫び声を上げる。葵に自分の大事なところを見られている。そして、これから葵はそこもまた愛撫するつもりなのだ。
杏の恐れていた通り、葵は杏の秘所に手を伸ばした。以前、ゲルドの陵辱によって裂かれたその割れ目はもうその傷痕を全く残しておらず、きれいなままだ。葵は左手で割れ目を広げ、右手の指を中にやさしく挿入する。葵の細い指に膣内を刺激され、杏は声を上げた。
「やっ…やだよぉ…葵ちゃん…も、もうやめ、てぇぇっ…」
心では拒みつつも、どうしても抗えない快感に身を震わせながら、杏は力なく葵に懇願する。しかし葵は聞き入れない。
「大丈夫。快楽に身を任せれば楽になるよ。痛いことはなにもないから。」
そう言うと葵は指を抜く。杏の膣内に溢れた愛液に塗れたその指を、今度はクリトリスへと向かわせた。
「ひゃうっ!!あ、ああああああああああっっ!!!!!!」
葵が杏のクリトリスを軽くつねった瞬間、杏は二度目の絶頂を迎える。
最初の絶頂を迎えたあと、さらに刺激に敏感になっていた杏はクリトリスへの刺激に耐えることが出来なかった。媚薬は今も少しずつ杏を蝕み、快感を増加させ、快楽への抵抗力を削いでいる。
「あ…あ…」
杏は二度目の絶頂と再び襲った脱力感に呆然としていた。
しかし、葵は再び杏のクリトリスを摘み、刺激し始める。
「ひぁっ!!やだっ!!今はだめえええぇっ!!!」
絶頂でさらに過敏になった杏を葵は容赦なく責め立てる。葵はクリトリスに顔を近づけると、舌を這わせた。
「ふあああぁぁぁぁっ!!」
杏は凄まじいまでの快感に苦しみさえ覚えた。自分を保っていられなくなってしまうのではないかという恐怖させ感じる。
「やぁっ、ふっ、くあああぁ…はぁぁっ!!」
葵は歯も立て、さらに責めを激しくさせた。杏の足はガクガクと震えだす。またもや快感の波がすぐそこまで押し寄せていた。
「いやっ、はぁっ、ひぃんっ!!!ひあぁあああああああああぁぁぁぁぁっ!!!!」
三度目の絶頂はそれまでよりも強いものだった。杏の体を拘束している水の鞭ごと大きく揺れるほどの大きな震えを起こし、杏の秘所からは液体が噴出した。
「はぁっ…ふぁ…あぁぁぅ…」
潮吹きを伴う激しい絶頂感に杏は悶えていた。頭が真っ白になり、まともに思考をめぐらすことが出来ない。
葵は杏への責めの仕上げにかかろうとしていた。

葵は地面でおとなしく出番を待っていた芋虫型の魔族を手に取る。そして、少し躊躇いながらも、それを杏の膣内へと押し入れた。
「やっ!やああああぁぁぁぁぁっ!!!!」
連続した絶頂でさらに過敏になっている膣内に更なる刺激を加えられたことと、芋虫に侵入された嫌悪感に杏は大きな声で叫ぶ。
芋虫は杏の膣内をもぞもぞと動き、杏に奇妙な刺激を与えた。
「くあぁっ!!!やだ…、うごか、ないで…っ!!!」
杏はもうどんな刺激でも快感を感じるようになってしまっていた。それが気持ちの悪くなるような芋虫でもだ。
芋虫は悶える杏に、更なる刺激を与えた。その管を伸ばし、クリトリスや陰唇へと貼り付けたのだ。さらに子宮内にも管を伸ばし、先端からもう一度媚薬を大量に放った。
「いやあああっ!!!ふわああああぁああああんっっ!!!」
杏はもう羞恥を感じる余裕もなく、拘束されながらも快感に悶えていた。目はどこを見ているのかはっきりしない。口はだらしなく開かれ、唾液が滴っている。
そして芋虫はクリトリスや陰唇に伸ばした管を支えにして、膣内を勢いよく移動し始める。奥へと侵入しては膣口まで引き返す。杏の秘所はクチャクチャと音を立てた。
「あああっ!!!あっ、あっ、あああっ!!!はっ、はぅううっ!!!!」
だんだんと勢いがつき、それにしたがって杏の悶える声のペースも速まる。最後の絶頂がもうすぐそこまで迫っていた。葵はもう一度杏の胸に手を伸ばし、少し強めに刺激し始める。乳首を抓り、引っ張り、押しつぶす。
「やだぁっ!!!おかしい…わたし…こんなんじゃないはずなのに…っ、おかしくなっちゃうよぉぉぉっ!!!」
芋虫は急に動きを止めると、その口から杏の子宮へと大量に精液を吐き出した。一体その小さな体のどこに詰まっていたのか。
「くぁぁぁっ!!!!!や……っ!!うあああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!!」
それは勢いよく杏の子宮を突き、その衝撃でついに杏は最後の絶頂を迎えた。同時に杏の中から大量の魔力が流出する。杏の体から一切の力が抜け落ちた。
葵は杏をゆっくりと地面に下ろし、拘束を解く。地面に転がる杏は完全に意識を失っているが、それでも体は悶え、痙攣を続けている。
それを見る葵の心に罪悪感が押し寄せてくる。その苦しみから逃れるように、彼女は無言でその場を去った。
後に残されたのは無意識で悶え続ける杏のみである。カナタが救助に駆けつけたときはもう指一本動かしてはいなかった。ただ、その瞳からは一筋の涙が流れていた。