その魔族は二体で一対だった。
彼らは同時に誕生した、いわば双子のようなものであり、常に共にあった。だから、夜遅くに暗闇に紛れ、女を襲うときも二体一緒だったのだ。
その日深夜二時過ぎ、とぼとぼと闇夜の街を歩く少女を彼らは襲った。少女はまだ幼く、こんな時間に出歩くような歳ではないはずだった。しかし、彼らはそんなことは気にしない。貴重な若い獲物に歓喜の声を上げた。彼らは少女を見つけるとすぐさま飛び掛かり、押し倒した。少女は全く抵抗しない。完全に怯えて固まってしまっているのか。その醜い体を少女の上へと覆い被せる。
彼らはまさにトカゲだった。這うように四足歩行をし、その長い舌で獲物を犯す。覆いかぶさった魔族は少女の胸を無理やりに揉みしだく。その胸は顔に似合わず大きかった。少女は呻き声を漏らすが、じっと目を閉じ、ただその行為に耐えている。魔族はその舌を少女の口の中へと押し込んだ。少女は苦し気に呻く。その細い舌は喉の奥まで容易く入り込み、蹂躙する。それでも、少女は必要以上に呻かず、抵抗しなかった。
もう一体の魔族は少女の足元へと入り込み、その股間へと舌を伸ばした。少女は処女ではない。そのことに魔族は少し落胆した。処女の魔力ほど旨いものはないのだ。しかし、それでも若い獲物には変わりない。魔族は舌を少女の秘所へと潜らせた。舌独特の動きで、その中を舐め回す。ざらざらとした舌の感触が少女の顔を歪ませた。その舌は膣を通り越し、子宮まで至る。子宮を中から隅々まで舐め尽した。魔族たちは、少女があまり反応を示さないこと以外には満足していた。だから早々にその中へと自らの精をぶちまけ、その新鮮な魔力を吸い取ろうとしたのだ。少女の子宮を舐めきった魔族は、その舌先から思う存分精液を撒き散らした。
瞬間、その魔族が急に呻き始める。そして、魔族は突然塵となって消え去った。もう一体の魔族は呆然としていた。何が起こったのかがわからない。しかし、自分の片割れともいうべき存在を失ったことに恐怖し、
また、それをもたらしたと思われるその少女に恐怖して、その場から逃げ出した。
少女は無言でよろよろと立ち上がる。そして少女−葵は無言でその魔族の後をつけた。

葵が闇の魔法使いにされてからどれほどが経ったのか、彼女は自覚していなかった。自分が一体どんな存在になってしまったのか、理解したとたん彼女は死を望んだ。人を襲い、その魔力を糧に生きる存在。今は我慢していても、魔力が枯渇し始めれば、自分の意思とは無関係に人を襲うのだ。しかし、彼女には死という選択肢さえまともに与えられてはいなかった。肉体を傷つけても、その魔力が無くならない限り死にはしない。だが、今のように魔族がその魔力を奪おうとして魔力を結合すれば、相手が消滅してしまうのだ。死ぬためには自分を上回る力を持つ者に襲われること。それが条件だった。
しかし、彼女の力は絶大だった。これまでどれほどの魔族に襲われたのか、彼女は覚えていない。そのどれにも魔法少女が駆けつけなかったことは、彼女にとって幸だったのか、不幸だったのか。なんにせよ、彼女はまだ生きていた。しかし、その魔力は少しずつ欠如し始めていたのだ。
彼女は焦り始める。早く死ななくてはならない。しかし、自分を殺せるものは現れない。そして、今日の魔族は二体だった。今まで一度たりとも複数の魔族が現れたことは無かった。葵は考えた。もし一体が目の前で消滅したならば、怯えて巣へと帰るのではないか、と。そして、そこには他の魔族がいて、そのうちの誰かが自分を殺してくれるかもしれない、と。少なくともこの考えのうちの二つはあっていた。自らの分身を失った魔族は逃げ出し、巣へと戻る。そして、そこには確かに他の魔族がいるのだ。
問題は、葵を殺すことが出来、そしてそれをするのかどうか、ということのみだった。

透はなんとも複雑な心境でいた。
その支配下にあるゲルドは二度の魔法少女陵辱を果たし、更なる進化を遂げた。しかし一方で、先日魔法少女を陵辱したイヴィルアイは、翌日には撃破されてしまった。最初の陵辱により透のもとへと魔力は届けられたが、透が自らの魔力を注ぎ込んだイヴィルアイが撃破されてしまっては、結果的に大した収穫とはいえない。
そして、魔法少女杏。彼女がイヴィルアイを撃破したときの力も悩みの種であった。以前ゲルドが彼女を倒し、陵辱したときはあのような力は見られなかった。おそらく、彼女はあの驚異的な力を使いこなしてはいないだろう。だが、その力を奥に秘めていることは確かだ。それは大きな不安要素であり、彼らにとっての脅威だった。彼女の魔力量は凄まじく、その質も一級品だ。それは前回の陵辱ではっきりしていた。すぐに倒してしまうのは惜しい。何度でも繰り返して彼女の魔力を搾取したいところだ。しかし、不安の芽はすぐに摘んでしまうというのも一つの方法だろう。魔法少女は三人。回復役の一人はうかつに傷つけられないとして、もう一人は殺しても差し支えは無いはずだった。しかし、ゲルドを下手に出撃させて、撃破されてしまっては元も子もない。決断を下しかねている彼は、結局、低級の魔族を街に放ち、普通の人間を襲うことで地道に魔力を集めていた。
そんな彼のもとにまた一つ問題が転がり込んでくる。それが彼にどう作用するのか、それを決定するのは彼自身だ。

透達が住処としていたのは街外れにある廃工場だった。弱いが、結界が張ってある。魔法少女達に簡単に察知はされないはずだ。実際、察知されたところで大きな問題ではない。弱っているとはいえ、透の力は絶大だ。今、その次に力をもつゲルドと共に戦えば、魔法少女が三人いたところで、蹴散らせるだろう。
そこへ、魔族が駆け込んできた。先ほどの魔族の片割れだ。
「何があった。今夜は魔法少女達は現れていない。何から逃げることがある。」
透は尋ねてから気がつく。この低級魔族は言葉を喋れないのだ。辛うじて理解はできるようだが。この魔族からは何の情報も得ることが出来ない。しかし、透がその謎に悩まされることは無かった。
答えがあちらからやってきたからだ。この廃工場へ。廃工場の入り口に、なんともこの場に似つかわしくない少女が立っていた。少女はその場を埋め尽くす魔族と、その中に一人存在する男の姿に怯え、戸惑っているようだった。
戸惑っているのは透も同じだ。何故ここに少女がいるのだ?おそらく今の魔族を追いかけてきたのだろうが、結界を越えることはただの人間には出来ない。そもそも、人間の足では魔族に追いつけるはずも無いのだ。
どちらも、しばらくは何も喋らなかった。しかし、そのうち少女が苦しげに声を絞り出した。
「あなたは魔法使い?闇の、魔法使いなの?」
透はその言葉の内に秘められた意図を掴みかねた。魔法使いのことを知っているのなら、ただの人間ではないはず。魔法少女だろうか?しかし、四人目は確認されていないはずだ。
「こちらこそ聞きたいな。お前は光の魔法使い、魔法少女なのか?」
少女は唇を固く結び、そして言い返す。
「質問に質問で返すなって教わらなかったの?」
透は、お前がしているのは、それにさらに質問で返しているものだ、と言いかけたが飲み込む。
「お前は、自分がそんなこと言える立場だと思っているのか?」
透が手を上げると、魔族たちは一斉に今にも飛び掛らんばかりの姿勢を取る。
葵は、あれだけの魔族に犯されれば死ねるのだろうか、と想像した。しかし、無理だろう。同時に相手できるのはせいぜい二、三体といったところだ。その全てに同時に射精させたところで、おそらく彼女の力が発動し、全て塵と化すだろう。可能だとすれば、あの中心にいる男。彼ならひょっとしたら…。
彼女は透に向かって語りかけた。
「あなたが闇の魔法使いなら、私はあなたと同じ。でも、私はあなたに殺してもらいたいの、私自身を。」

透は耳を疑った。自分を殺して欲しい?
「何を言っているんだ、お前は。そんなに死にたいのなら、勝手に死ねばいいだろう。」
葵にはそういった答えが返ってくることが分かっていた。当然の反応だろう。
「私は死ぬことが出来ないの。ヴァイスという男に魔力を注ぎ込まれ、魔法使いにされた。怪我では死ぬことが出来ないから、魔力を吸い尽くされるしか死ぬ方法は無い。だけど…。」
葵は先ほどここへ逃げ帰ってきた魔族をちらりと見て、続けた。
「半端な魔力の持ち主が私の魔力を奪おうとすれば、消滅してしまう。あの魔族の片割れみたいにね。」
透もその魔族を見た。確か、あの魔族は二体で一対だったはず。もう一体は見当たらなかった。魔力を奪おうとすれば消滅する。そんなことがあり得るのだろうか。透は疑いの目を向ける。だが、悩む必要は無い。本当なのかどうか、検証してみればいいのだ。
「おい!」
透はその魔族へと呼びかけた。魔族は怯えた目で透を見る。
「その女を犯してやれ。それでお前が消滅するかを確かめてみよう。」
魔族は躊躇った。自分が死んでしまうかもしれないのだ。
だが、透は冷たい声で言い放つ。
「逃げ帰ってきた者を生かしておくほど俺は寛大ではない。今すぐ俺に殺されるか、最後に女を犯して死ぬか、選べ。」
死なない、という可能性もあるかもしれないが、おそらく無いだろうと透は考えていた。
魔族は、どうせ先に待つものが同じならばと、最後に快楽を求めた。舌を長く伸ばし、葵の首に絡ませる。そして自分のもとまで強引に引っ張った。そして、先程と同じように、その舌を葵の喉へと滑らせた。葵はその異物感にえずく。吐きそうになるが、その胃に内容物は何も無い。食事を必要としないからだ。魔族はすぐに射精へと至った。その短い最後の快楽を味わい、葵の喉で果て、そして塵となって消えていった。

葵の言うのは本当のことだったと透は知る。葵は苦しげに咳をし、立ち上がった。
「お願い、私を殺して。あなたなら出来るんじゃないの?」
確かに、透なら出来るかもしれない。ここにいる中で可能性があるのは透だけだろう。しかし、確実に出来るとは限らない。今、そんなリスクを犯すわけにはいかなかった。
「出来るかもしれないが、わざわざそんなことをしてやるほどお人よしではない。」
その言葉を聞くと葵は絶望に沈んだような声になった。
「お願い!私を殺して、なんなら、ここにいる全ての魔族に私を犯させてからだっていいの!」
そんなことをすれば、透の戦力は全て失われてしまう。そんなことにも気が回らないほど葵は必死になっていた。
「何故だ。何故、死を望む。死なない体、そして魔力。お前はお前の思うとおりに生きればいいだろうが。」
そう、透がそうしたように、全てのしがらみから解放され、思いのままに生きるのだ。実際、透は今だヴァイスにはめられた枷をつけたままではあるのだが。
しかし、葵は首を横に振る。
「私は、人を襲って生きる魔物になってまで生きていたくはないの。でも、魔力が枯れ始めれば、誰彼構わず襲い掛かってしまう。そうなってしまう前に、私は死なないといけないの。」
必死にそう語る葵を見て、ヴァイスは衝撃を受けた。
そんな考え、透には無かった。人を傷つけようが、なんだろうが、自分が生きて行けるならそれでよかった。必死で生にしがみ付き、なんとしても生き抜いてやると心に誓った。自分とは正反対な考えをしたこの少女を目にして、透の心は大きくぐらついていた。