杏に続き、カザミまでもが再び魔族に陵辱されてしまった。カナタはカザミの治療を終え、一人リビングまで戻ってきていた。
(二人ともあんな目に遭ってるのに、私は…)
カナタは自分だけが一人、安全なところにいることの罪悪感に悩まされていた。カザミたちが敗れ、魔力を奪われた時、その魔力を回復するためにはカナタが必要だ。だから、自分は危険を犯してはいけないのだ。理解はしている。魔族たちもカナタが回復役だということを承知しているのか、カナタを積極的に襲おうとはしていない。
それでも心は割り切れなかった。どうしても罪悪感を募らせてしまっていたのだ。カナタとカザミは姉妹であり、魔力的に深くつながっている。カザミの苦しみは魔力を通じ、かすかにカナタにも伝わってくるのだ。それが辛くて仕方がなかった。辛さは理解できるのに、何もしてあげることが出来ない。カナタは少しでも姉の負担を減らしたいという一心で杏に共に戦うよう頼んだ。そのせいで杏は処女であったにも関わらず、あのような凄惨な陵辱を受け、深く傷ついている。カナタは自分を責めた。自分の未熟さを、弱さを。しかし、それは何の解決にもならない。

カナタは台所に向かい料理を作っていた。今二人のために出来ることはこれぐらいしかない。しかし、昨日杏に届けた料理は杏に笑顔をもたらすことは出来なかった。杏はほとんど口に出来ず、膝を抱え、顔を伏せ、何も喋らないままだ。カナタは悲しみで胸が酷く痛んだ。耐え切れず床にしゃがみ込んでしまう。
(私…私…)
自分は一体どうすればいいのだろう。何が出来るのだろう。必死に考えるが答えは出ない。その瞳から涙がこぼれる。それは頬を伝い、床に零れ、いくつかの染みを刻む。カナタはそのまましばらく動けずにいた。体の力が抜けてしまったかのように動けない。十分ほど経ってから、ようやくよろよろと立ち上がる。しかし足に力が入らない。這うようにしてリビングのソファーまでどうにかたどり着き、横になった。
(今は、少しだけ眠ろう…)
答えの出ない問いから逃げるように、カナタはまどろみの中へと落ちていった。

カナタが目を覚ますと、もう外は暗くなっていた。日ごろの疲れが溜まっていたのもあったのだろう。すっかり寝入ってしまっていた。
(ご飯、持って行ってあげないと…)
魔力を奪われた直後はほとんど眠り続けるのが普通だ。カナタが急いで食事を作り、持って行ったときも、二人は眠っていた。持ってきた食事のトレイを二人が眠るベッド脇のテーブルへと静かに置く。ベッドにそっと腰を下ろし、二人を見つめた。その寝顔は決して安らかなものではなかった。悪夢を見ているかのように、眉をひそめ、怯えたような表情で涙を流す杏。荒く息を吐きながら、汗をかき、うなされているカザミ。カナタは起こさないように気をつけて二人の頭に手を当てる。その手から柔らかな光が漏れた。ささやかだが、気持ちを落ち着ける魔法だ。
(これが、私に出来る精一杯…)

そのとき、不意にカナタは魔族の魔力を感知した。それは昨日カザミを犯したイヴィルアイのものだ。イヴィルアイは昨日の戦いでかなり傷ついているはず。魔族は、魔法少女から奪った魔力をすぐには自らの力に還元できない。数日かけて、体を進化させるといった形で取り込むのだ。杏とカザミ。二人が今動けないのを知っているから、その隙にまた人を襲うつもりなのだ。カナタの心に復讐の炎が宿った。今、自分に出来ること。それは…。カナタが手をかざすと、急に部屋にカナタの魔力が満ち、その濃度はかなり高まった。
(これで3日はもつはず…)
カナタは戦いに赴く決意をしていた。万一自分が敗れても、二人の魔力は回復できる。魔族は自分を殺しはしないはず。それなら、なんとかここに帰り着けばいいのだ。カナタは唇を固く結ぶと、イヴィルアイのところへと自らを転移させた。

イヴィルアイは、今回は暗い路地裏で一人の女学生を襲っていた。昨日の傷がまだ癒えておらず、それを補うために魔力を得ようとしているのだろう。これはカザミから奪った魔力を完全に取り込む前に、イヴィルアイを倒すチャンスだった。カナタは渾身の力を込めて電撃の魔法を放った。イヴィルアイは油断していた。まさか今日魔法少女が現れるとは思っていなかったのだ。魔法はイヴィルアイを直撃する。体が吹き飛ばされ、その触手は女学生を取り落とした。
「貴様、なぜ現れた。お前は回復役ではなかったのか。」
その声から焦りが感じられた。
(いける!)
疑問に答えてやる必要はない。このまま一気にたたみ掛けるため、カナタは詠唱を始める。負けじとイヴィルアイも魔法を放つ。昨日のようにいくつもの魔法の雨が降り注いだ。カナタは戦闘向きの魔法少女ではない。致命的なのはスピードのなさと、シールド魔法がないことだ。長期戦になれば不利になるのは分かっていた。カナタは初めから全力で戦う。シールド魔法がなくても魔法を防ぐことは出来る。カナタはイヴィルアイの魔法の雨を、強力な風の魔法で全てかき消し、吹き飛ばした。
(向こうが数なら、こっちは強力な一撃で対抗するんだ。)
カナタは次々に高位の攻撃魔法を繰り出し、イヴィルアイを追い詰める。今のところ完全に優勢だった。このまま、終わらせることが出来れば…。イヴィルアイはこのままでは負けると思い、その攻撃を変化させた。その身に魔法を纏い、その触手を広く伸ばしながらカナタへと突進してきたのだ。触手に触れたビルは抉られ、倒壊する。あれに一度でも触れれば負けてしまうだろう。カナタは必死でその突進を避ける。突進が巻き起こした風が、カナタの長い髪を舞わせた。
(いつまでもかわし続けるのは無理。だったら…)
深く集中を始める。この一発でイヴィルアイを仕留めるつもりだ。カナタへと真っ直ぐに向かってくるイヴィルアイをカナタも真っ直ぐ見つめる。今持てる全ての魔力をつぎ込み、目の前の敵へと特大の浄化魔法を放った。
「いっけえええええぇぇぇ!!!」
爆発が起こる。周囲の建物は崩れ、大きな煙を撒き散らす。爆風がカナタを後方へ吹き飛ばし、背後に立つビルへと叩きつけた。煙が晴れたとき、カナタの前にイヴィルアイの姿はなかった。

「やった…」
カナタは魔力をほとんど使い果たした脱力感に襲われながらも、晴れ晴れとした気分で呟いた。ビルの壁に背中を預け、ズルズルとその場にへたり込む。魔族を倒した。やっと自分は姉の役に立てたのだ。安堵感がカナタを包む。
ふと、カナタの衝突でビルに入ったヒビが長く伸びる。次の瞬間、カナタがもたれていた壁が勢いよく弾け飛んだ。カナタは吹き飛ばされ、ゴロゴロと地面を転がる。崩れた壁の奥にはイヴィルアイの姿があった。カナタの浄化魔法を貫けないと判断したイヴィルアイは、瞬時に、身に纏う魔法をシールド魔法へと転化させ、防御に専念したのだ。それでも完全に防ぎきることは出来なかった。触手のいくつかは千切れ、目も多くは潰れて、青紫の毒々しい血液が流れ出している。
「貴様ああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」
イヴィルアイは激怒し叫んだ。その傷口から溢れた血液が周囲に散らばる。カナタは心は一転、絶望に支配された。自分にはもう魔力が残っていない。自分は姉と同じようにこの魔族に陵辱を受けてしまうのだ…。


しかし、イヴィルアイは頭に血が昇り切っていた。カナタを陵辱することよりも、その怒りを撒き散らすことしか頭にない。怒りに任せその触手でカナタを捕らえると、思い切り地面に叩き付けた。
「ぐぅっ!!」
カナタは先程ぶつけて痛めた背中をしたたかに打ち、その痛みに呻き声を上げる。イヴィルアイはカナタを上から見下し、触手でその体を何度も何度も打ち据える。
「ああっ、やぁぁっ、い、痛っ…」
触手はカナタの胸を、腹を、足を、股間を、時には顔までも殴りつけた。再び傷口から溢れたその血液はカナタへと降り注ぐ。強烈な酸のような性質を持つその血液はカナタの皮膚を蝕み、鋭い痛みを与える。カナタのローブは破られ、溶かされ、もうその役目を果たしてはいなかった。カナタの起伏のない胸を覆い隠すものは何もなく、その小さな蕾が外気に晒される。イヴィルアイはそれを見ようともせず、攻撃を続ける。触手の一本がその蕾を強烈に打ち据えた。
「あああああああぁぁぁぁっ!!!」
カナタはそのピンク色の乳首がもがれてしまったかと思うような痛みに襲われた。その攻撃が一旦止んだとき、カナタの体は既にボロボロになっていた。その体は全体的に赤く染まり、所々は青く痣となっていた。全身に擦り傷のような痕ができ、血が滲んでいる。カナタは朦朧とした意識の中で呟いた。
(ごめんね、お姉ちゃん。私、また足手まといになっちゃた…)

イヴィルアイはまだ落ち着きを取り戻したわけではなかった。触手での攻撃を止めると、今度は魔法でカナタを執拗に責めはじめる。カナタの顔に球体に固まった魔法の水が押し付けられた。
「苦しいだろう。全部飲み干さないと窒息してしまうぞ。」
カナタには抵抗が出来なかった。苦しさからの解放を求め、一心不乱にその水を飲み下す。全て飲み終えると、息つく間もなく次の水が顔を覆う。それを三度繰り返し、やっとカナタはまともに呼吸をすることができた。カナタは胃の強烈な膨満感に苦しんだ。そんなカナタの鳩尾を、イヴィルアイは思い切り殴りつけた。
「う、うえぇぇぇぇっっ…」
カナタは飲み込んだ水を全て吐き出し、苦しげに呻く。
「はぁっ、はぁぁっ、は、はぁ…」
イヴィルアイは、今度はカナタの全身に魔法で水をかける。それは痛みもなく、呼吸を阻害するでもない。
(一体何…?)
カナタにはその目的が分からなかった。しかし、すぐに身をもって知ることになる。カナタの体を強烈な電撃が駆け抜けた。水の滴ったその体は電気を酷く通した。
「があああああああっっっ!!!!!」
辛うじて形を残していたローブの背中や腕の部分、下着すらも焼け焦げ、カナタはもうほとんど全裸の姿でいた。その体は所々黒く煤けている。
イヴィルアイはさらに休みなく魔法を放ち、カナタを痛めつける。氷結魔法が身を凍りつかせ、炎がそれをまた焦がした。その攻撃がついに終わった頃、カナタは無惨な姿で床に転がり動かない。イヴィルアイはやっと冷静になり、カナタの陵辱にかかろうとしていた。