杏は心地の良い暖かさの中で目を覚ました。
「杏ちゃん!杏ちゃん!」
カナタの声がする。何とか目を開くと、その顔が見えた。無惨に敗れ、陵辱を受けた杏を、カナタは涙を零しながら介抱していた。
杏の頭はまだ十分に覚醒していなかった。だから、おかしなほど冷静に自分の状況を把握していた。自分は魔族に敗北して、犯されたのだ。処女を奪われ、魔力を奪われた。酷い倦怠感に襲われていることに気付く。喋ることもままならない。自分がいるのはカザミたちの家の一室なのだと見当がついた。この部屋に入ったことはない。一体何の部屋なのか。
「ここはね、傷ついた体と、魔力を癒すための部屋なの。」
杏の疑問を先取りしたようにカナタは答える。先程から杏を包む暖かい感覚はこの部屋が持つ魔力によるものなのだろう。倦怠感はあるものの、赤く腫れ上がったはずの胸や、酷く傷ついたはずの秘所など、陵辱の爪痕は残されていなかった。痛みは感じない。
「体はもう回復魔法で癒したの。後はしばらくこの部屋で休んでいたら、少しずつ魔力も元に戻るはずだよ。」
前回カザミが陵辱された後、三日ほどあまり姿を見せなかったのはこの部屋にいたからなのだろう。

しばらくすると杏の頭は覚醒し始める。突如、あの陵辱の記憶が蘇った。
「私…私…」
杏の体は震え出す。あの時の恐怖が再び杏を苦しめ始めた。陵辱による苦痛や恐怖は想像を遥かに超えた凄惨なものだった。杏の目から涙が溢れる。肩を抱き、子供のように怯え始めた。
「嫌…私、穢されちゃった…。魔族が、私の中に…」
覚悟はしていたはずだった。それはただ覚悟をしたつもりでしかなかったのだと気付く。
「ごめんなさい。私が止められなかったのが悪いの。なんとしてでも止めるべきだった…」
今にも暴れだしそうな杏をカナタは必死で押さえる。強く抱きしめる。
「私が馬鹿だったんだ。人を助ける力があるなんて勘違いしてた。私に力なんてない。誰も助けることなんて出来ない。自分一人を守ることも…」
杏は悲痛に叫ぶ。カナタは杏を抱きしめながら、強く首を横に振った。
「違うよ、杏ちゃんは襲われていた人を助けた。杏ちゃんが命を救ったんだよ。」
カザミとカナタが駆けつけたとき、杏は無惨な格好で倒れていたが、そこから少し離れたところにいた女性は大きな傷も負わずに済んでいた。記憶操作を施し、先程カザミが家へと連れ帰った。杏の心を覆う絶望感の中を、ほんの少しだけ安堵が流れた。
「杏ちゃんは自分を犠牲にしてまで人の命を救ったんだよ。
 それは誇れること。だけど、お願い。もうこんな無茶はしないで…」
カナタは杏に負けずに泣きじゃくった。杏に協力を頼んだのはカナタだ。飛び出すのを止められなかったのも。そして、サポートの役目のために、その後を追うことが出来なかった。カナタは強い罪悪感を抱いていた。二人はしばらくそのまま抱き合い、泣き続けた。

夜が明け、部屋が明るくなりだす頃、杏はやっと少しだけ落ち着きを取り戻していた。そのときになって初めて自分が全裸でいることに気付く。カナタの説明によれば、少しでも早く魔力を回復するため、服を着ない方がいいのだそうだ。
少しだけ、魔力に関する説明も加えた。魔力には2つの種類があるという。体の奥深くに眠る生命力の根源をなす魔力と、魔法などの形で外へと放出可能な魔力だ。魔族たちが奪おうとするのは前者だ。そちらの方が圧倒的に多い。後者は、前者の魔力の量に応じて、体の浅いところに蓄積されるものなのだ。後者は何もせずともすぐに回復するのだが、前者は集中した治療を行わないとなかなか回復しない。だからカナタが作り出した、魔力濃度の濃いこの部屋、この空間で治療をする必要がある。
「ごめん、やらなきゃ行けないことがあるから、もう行くね。」
そういうとカナタは立ち上がり、ゆっくりと部屋を後にした。一人部屋に残された杏は、戦いを続けることに迷いを抱き始めていた。杏の心は昨日の陵辱により酷く傷つき、挫けそうになっていた。

「杏、どうだった?」
カナタが部屋から出てリビングへと向かうと、そこにはカザミが待っていた。
「うん…やっぱりすごく辛そうだった。当たり前だよね。あんな目に遭ったんだから…」
カナタは悲痛な表情で下を向く。カザミはその肩を優しく抱いてやった。
「あんたは自分を責めちゃ駄目だよ。あんたは自分のやるべきことをちゃんとこなしたんだから。ここであの異空間を維持してくれなければ、あたしの所にも別の魔族がやってくる可能性があったんだ。」
杏の元へと魔族がやってこれたのは、それが魔族の作り出した異空間だったからだ。カナタには一晩で二つの異空間を作り出すだけの力はなかった。そして、異空間を作り出すためにはこの家にいる必要がある。杏を追ってこの家から出て行けば、カザミの戦う異空間は消滅してしまっていたはずだ。カナタがこの家を出なかったのは苦渋の決断だったとはいえ、正しい判断だったといえる。
「やっぱり、杏ちゃんは私達に関わるべきじゃなかったのかな。いっそ、今からでも…」
「私達には仲間が必要だよ。それに、もし戦いをやめるとしても、それはあの子が決めることだから。」
カナタは頷き、カザミの胸に顔をうずめる。少しの間そのまま2人とも動かなかった。
「よし!」
カナタは急に顔を上げ、小さく声を上げる。両手は小さくキュッと握り締められている。
「昨日の後処理が終わったら、頑張ってご飯作るよ。辛いときはおいしいもの食べるのが一番!きっと杏ちゃんも笑ってくれるよね。」
家の家事なども全てカナタの仕事だった。カナタは自分に言い聞かせるように言い、部屋を出て行く。その顔には笑顔が浮かんでいた。無理をしているようだが、それでもカザミはその笑顔に心が癒された。

その日、カザミは杏の姿を見なかった。あえて杏のもとを訪れようとはしなかったからだ。
(一人でゆっくり考えて結論を出した方がいい)
(それにしても…)
昨日、杏のもとへと更なる魔族が姿を現したのは驚きだった。魔族は基本的に群れることはない。チームプレイなどという考えはないはずだ。深く考えず、行き当たりばったりといった具合に魔力を貪る。他の街ではいつもそうだったはずだ。しかし、低級の魔族が同時に複数の場所で現れたり、と思ったら高位の魔族が二日連続で現れたりと、今までになく戦術のようなものを感じることが出来た。
(誰かが統率している…?)
ヴァイスは一人のはず。本人が統率しているのかとも思ったが、ヴァイスは他の街も見回っているはずだ。一つの街に限って統率するというようなことがあるだろうか。カザミが思いを巡らせているとき、不意に魔力の発現を感知した。
(これは、また高位の魔族…!)
昨日のゲルドの魔力とは違う。また別の高位魔族が現れたのだ。カザミは一瞬そこへ向かうかどうかを迷った。先日の敗北の恐怖はまだ拭い去れてはいなかったのだ。しかし、頭を振り迷いを振り払う。決して相手に出来ないほどの魔力ではない。カナタにサポートを頼み、魔族のもとへと向かった。しかしその途中で思わぬ人物と出くわすこととなる。
「ヴァイス…!」
カザミの行く手にヴァイスが待っていた。

「なんでこんなところに…」
カザミはヴァイスを睨み付けながら言う。
「いたっておかしくないだろう?ここも襲わせてるんだしね。」
「ここの魔族、あんたが指揮をしてるの?」
カザミは先程の疑問を真っ直ぐにぶつける。
「いや、僕は指揮なんてしないよ。そんな面倒なことをしたいとは思わない。傍観者だからね。」
「じゃあどうして…」
「それを教えてあげようと思ってね、やってきたんだよ。」
ヴァイスは軽い調子で続ける。
「この街ではね、二人の人間に僕の魔力を注ぎ込んで、魔法使いにしてあげたんだ。魔族を統率してるのはそのうちの一人だよ。」
「なんで急に?これまでこんなことしたことなかったのに。」
この街に何か理由があるのかとカザミは勘ぐった。しかし、意外な答えが返ってくる。
「カザミさん、君がいるからかな。」
ヴァイスは笑顔で話す。
「君にはもっと苦しんで欲しい。絶望して欲しいんだ。それが見たかった。魔族にも作戦があればもっといい戦いになると思ってね。」
「私…?」
カザミは戸惑っていた。自分がいるから?絶望させたいから?
「何で私?あなたが襲った魔法使いなんていくらでもいるでしょ。」
「確かに君の『初めて』は美味だったけどね。それだけじゃないのさ。僕は君のことが少し気になるんだ。君のことを知りたい。どんな声で泣き、叫び、絶望に染まっていくのかをね。」
カザミは寒気を感じた。光魔法族全体が総力を挙げて戦っても勝てなかった人物。そんなヴァイスが自分を狙っている…?
「君は僕にとって少し特別なのさ。あの時のことは僕にとってはとても重要なことだった。もしかしたらカザミさん、あなたには些細なことだったかもしれないけどね。」
それだけいうと、ヴァイスは急に姿を消した。一人残されたカザミは困惑していた。ヴァイスとの出会い…。それは三年前のことだった。しかし、今はそんなことを考えている場合ではない。魔族を倒しに行かなければ。カザミは再び目的地へと急いだ。

そこにいた魔族はゲルドのような人の形はしていなかった。黒く、大きな球形の体に無数の目と触手、そして大きな口を持っていた。その標的はバスの乗客のようだった。旅行でもしていたのだろうか、学生の集団のようだ。その魔族、イヴィルアイはその無数の触手で同時に複数の女子学生を襲っていた。いくら普通の人間とはいえ、あれだけの人数からの魔力を吸収したなら脅威になるだろう。
カザミはその体へと氷結魔法を放った。するとイヴィルアイは炎の魔法を放ち相殺する。
「やっと来たか。待っていたぞ。」
低く地を揺るがすような声がする。イヴィルアイは掴んでいた人間を下ろすとカザミに向かって魔法を放った。1つではない。炎、氷、雷の3つの魔法が同時に、別々の方向からカザミを襲う。カザミは何とか反応し、それらを全てシールド魔法で防ぐことに成功した。
(魔法を得意とするタイプか…)
カザミは唇を噛む。高速で移動し、接近して魔法を放つタイプのカザミにとってはやりづらい相手だった。
(でも、落ち着いて戦えば決して倒せない相手じゃない。)
同時に放つ魔法は脅威だが、その一つ一つの威力は大したことはなかった。魔法障壁を作り出せば、それらを防ぎながら攻撃をすることも可能なはずだ。だが、魔法は次から次へと絶え間なく襲ってくる。カザミは魔法を上手く避けながら魔族に確実に魔法攻撃を当てていくも、その威力は十分ではなかった。
それでも、カザミは互角以上の戦いをしていたと言える。イヴィルアイは次第に傷つき、焦りを見せ始める。余裕をなくし、限界まで魔力を消費しながら魔法の雨を降らせる。それら全てを避け、防ぎつつ攻撃するにはかなりの集中力が必要だった。しかし、カザミの脳裏には先程のヴァイスの言葉が何度もよぎっていた。イヴィルアイは集中力を欠きながら倒せるような魔族ではなかった。
ついに1発の氷結魔法がカザミの足を捕らえ、カザミはバランスを崩した。その1発が戦いの行方を決めた。それをきっかけに、次々と魔法がカザミを襲う。カザミの体はいくつもの属性魔法に体を打ち抜かれ、ついに打ち落とされた。地面に叩きつけられたカザミに、イヴィルアイは低い笑い声を上げながら近づく。

イヴィルアイはその太い触手をカザミの全身に強く絡ませた。
「力を温存されていたら困るからな、念のため動けないようにしておくか。」
そう言った次の瞬間、カザミの体を電撃が駆け抜ける。
「やああああああああぁぁぁ!!!」
先程までの複数同時に発動していた魔法とは威力の桁が違う。以前ゲルドの放った雷よりも遥かにその威力は大きい。カザミの体は完全に痺れ、身動きが取れない。服の一部は焼け焦げ、黒く染まっている。その様子に満足したイヴィルアイは触手でカザミを持ち上げ、尻をその無数の目の前に向けた。
「私に歯向かうことは大きな罪だ。罪を犯したものには罰を与えなければならないな。」
その罰はきわめて古典的なものだ。イヴィルアイはその触手で思い切りカザミの尻を打ち据えた。
「くううぅぅぅっっ!」
鈍い音がし、同時にカザミの叫び声が響く。さらに一撃、もう一撃と触手で何度もその尻を責め立てる。触手の鞭の波が止んだ時には、スカートは破れ果て、カザミの尻は真っ赤に染まっていた。電撃による痺れは取れ始めているのに、尻を中心とした下半身はさらに酷く痺れている。
「この程度でその罪を償えると思うなよ。」
言いながら、イヴィルアイはカザミの腫れ上がった尻を触手で撫で回す。
「い、痛っ、痛ああああぁぁっ!!」
その反応にイヴィルアイはその大きな口を歪めて笑う。
そして次にその触手の行き先をカザミのアナルへと定めた。

太い触手がカザミのアナルへと近づき、その周辺を刺激し始めた。
「嫌、嫌っ、そこは、そこはやめてぇぇぇ!!」
懇願むなしく、触手はアナルへの侵入を始める。ズブズブとその奥へと入っていく。
「く…い、いや…」
気持ちが悪い。その感覚がカザミを包んだ。尻穴を埋め尽くす異物感に吐き気のような嫌悪感を覚える。触手は一旦奥深くまで入ると、勢いをつけて引き抜かれた。
「やあぁぁぁぁぁぁっっっ!!」
腸壁を勢いよくこすられ、鋭い痛みが走る。その痛みも引かないうちに、また触手が侵入を始めた。傷ついた腸壁を幾度も幾度も行き来する触手に、カザミはただ耐えていた。だが、その様子を不満に思ったイヴィルアイはさらに別の触手をアナルへとあてがった。その触手がアナルに触れるのを感じたカザミは凍りついた。
(まさか、そんな…嘘でしょ…?)
カザミの想像通り、カザミのアナルへと2本目の触手が侵入した。
「うああああっぁぁああああ!!!」
カザミは痛みに大きな声で叫んだ。1本でも痛みがあったのに、2本目の触手が入ると、それは激痛としか言いようがなかった。
「やめて、やめてええぇぇ!!!!」
イヴィルアイはその声に満足したようだ。そして次はさらに別の触手をカザミの秘所へと向かわせる。

2本の触手がカザミの秘所へとその先を埋める。さすがになかなか入らないようだ。しかし、それでもイヴィルアイはそれを強引に膣へと押し進める。
「あああっっっ、ああああああっっっ!!!」
膣口が裂けてしまうのではないかと思うほどの痛みと共に、2本の触手が入り込んだ。前と後ろに2本ずつ、合計4本もの触手を体内に挿入され、勢いよく揺すられる。
カザミはもう呆然としていた。なんとか意識は保っているが、もう限界だった。目の焦点は既に合っていない。痛みすらも届いていないのかもしれなかった。突如、全ての触手が同時に精を吐き出す。
「あああああぁぁぁぁっ!!!いやああああ!!!」
魔力が失われていく感覚と、前と後ろの両方の穴へ同時に射精される恐怖にカザミは叫ぶ。触手が吐き出した精はカザミの全身を真っ白に穢した。カザミが地面へと落とされた後も、触手の射精は止まず、カザミに白濁液が降り注ぐ。
カザミは水溜りのように溢れた白濁液の中に倒れたまま気を失った。