その少女はカナタと名乗った。先程の戦っていた−そして敗北し、陵辱を受けた−カザミの妹なのだという。
「では、私達の住んでいるところへと帰ります。私の手を取ってください。」
そういってカナタは杏に手を差し出した。杏は少し不安を覚えながらもその手を取る。するとカナタは小さな声で何かをつぶやき始めた。次の瞬間、杏たちの姿はその場から消えていた。

次の瞬間杏が目にしたのはどこかの家の玄関であった。カナタはカザミを抱えたまま、靴を脱ぎ中へと入っていく。
「ついて来てください。」
言われるがままに後をついて行くと、リビングルームのような部屋に着いた。
「すみません、少しここで待っていて頂けますか。姉をこのままにはしておけませんから。」
そういうと、カナタはカザミを連れてを部屋を出て行った。一人リビングに残された杏は部屋を見回してみる。パッと見たところは普通の家と変わりない。あの娘たちも自分と変わらない生活をしているんだろうか、と想像した。一体これからどんな話を聞くのだろうかと思いを巡らせながら待つこと十数分、カナタが戻ってくる。

「お待たせしました。」
二人は部屋のソファに向かい合って座る。
「まずは、あなたの名前を教えていただけますか?」
カナタは本題に入る前にそう切り出した。杏の緊張をほぐすためかもしれない。杏は、そういえば自分の名前を教えていなかった、とそのときになってやっと気付く。
「私は芹川杏。…あなた達は一体何者なの?」
無礼を承知の上で、率直な疑問を告げた。カナタは気を悪くする様子もなく答える。
「私達は魔法使いです。あなた達からしたらファンタジーの世界の住人のように思えるでしょうけれど。」
魔法使い。その非現実的な言葉も、先程の出来事を考えれば信用せざるを得ないのかも知れないと思えた。
「私達はこの町を襲っている、さっきのような魔族たちと戦っているんです。」
「戦ってるって、二人だけで?」
この家には他に人のいる気配が感じられない。
「他にも仲間はいますが、この街にいるのは私達だけです。襲われているのはこの町だけではありませんから。」
そういうとカナタは少し考えるような間を置き、そしてまた話し出した。
「私達はこことは別の世界に住んでいました。そこには私達、光魔法族と闇魔法族が住んでいたんです。」
「光と闇…」
「今、一人の闇魔法使いと私達光魔法族は戦っているんです。もう3年になります。」
「一人?相手は一人なの?」
「そう、相手は一人。ですが、彼は魔族を使役しているので、実際には一人ではないとも言えますね。」
カナタは続ける。
「彼の名はヴァイス。本名は分からないのでこれは通称ですが。彼はたった一人で、私達の一族の全てを滅ぼすだけの力を持っているんです。」
たった一人で、一族を滅ぼす力…。杏には想像もつかない。
「彼は光と闇の魔法使いのハーフでした。これは前例のないことです。
彼らの一家はどちらにも属さず、身を潜めて暮らしていたといいます。しかし、三年前のある日、突然彼は暴走を始めました。最初に手にかけたのはその両親です。異変を察知した闇魔法使い達が数人その場へと向かいました。ですが、ヴァイスは彼らをもいともたやすく葬ってしまいます。」
「両親を…」
「そのことに怒った闇魔法族たちは彼を捕らえようとしました。しかし、彼はことごとくその者達を退け、ついには闇魔法族たちの集落へと乗り込み、滅ぼしました。闇魔法族は光魔法族に比べて数はずっと少ないのですが、それにしても恐ろしい力です。」
杏はその力の強大さよりも、自分と同じ種族を滅ぼす行為に恐怖を覚えた。
「何故彼はそれほど大きな力を持ったのか、推測に過ぎませんが、その一因は彼がハーフであることにあると考えられています。闇魔法族は大気中の魔力を自らの体に取り込むことは出来ない代わりに、他人から魔力を奪えば、その力はどこまでも増大します。一方、光魔法族は大気中の魔力を取り込むことが出来る代わりに、その力には限りがあります。彼はその両者の長所のみを受け継いだと考えられているんです。つまり、大気から魔力を自由に取り込み、際限のない力を手にすることが出来る。」
それは確かに脅威だっただろう。どちらの種族もが持つ足枷を彼だけは持たないのだ。
「彼は闇魔法族を滅ぼした後、光魔法族へとその矛先を向けました。多くの者が彼の前に倒れていきます。一月もせずに、光魔法族の主要な戦力は失われてしまいました。残されたのは私達のような幼いものだけ。もう全滅を覚悟するしかない、そんな時に彼は突如攻撃の手を止めます。」
カナタの顔が悔しげな表情に歪む。
「彼は私達に提案を持ちかけてきました。彼は人間界に魔族を送り込む。その手から人間を守ってみせろ、と。彼はそれをゲームと呼びました。そのゲームが続く間は、私達を滅ぼさずにいてやろうというのです。私達に選択権はありません。彼はその気になればいつでも私達など滅ぼすことが出来るのです。彼の目的が何であるかなど関係ありません。ただ、私達は生き残るために、彼を満足させるだけの戦いをしなければならないのです。」
ゲーム。あの出来事もゲームのうちだったというのか。杏はあの時の恐怖を一瞬思い出し、体を震わせる。
「それから三年。私達は少しずつ戦力を育て、何とか彼らと均衡した戦いを続けています。いつ終わるかも分からない戦いをずっと続けているというわけです。」

杏はその途方もない話を理解するのに苦戦していた。疑問に思うことはたくさんあったが、一番気にかかっていることをたずねた。
「最近この街で、失踪事件がたくさん起こってるらしいの。それはやっぱりそのことと関係があるの?」
カナタはうなずく。
「全てがそうかは分かりませんが、大抵が魔族に襲われたものでしょう。私達二人だけでは魔族を完全に抑えることは出来ていません。」
杏の心に絶望感が影を落とす。それでは葵は…。
「だから、あなたにお願いしたいことがあるんです。」
突然自分が話題に上がったとこに、杏は少し驚く。
「あなたの力を貸してほしいんです。」
「私の…力…?」
先程自分に起こったことを思い出す。何かに触れたとたん光に包まれ、自分の様子が変わっていた。確かに今の自分には何か特殊な力があることを感じることが出来る。今になって、ずっと何かを手に握っていたことに気がつく。杏はその手を開き、そこにあるものを見つめた。丸く透き通った宝石のようなもの。何かのアクセサリーだろうか。
「それは、魔力を呼び覚ます触媒です。」
「触媒?」
「私達は普段は魔力を温存するため、その力を封印しています。
 それを再び開放するきっかけとして使われるものです。」
「それに私が触って、何が起こったの?」
「あなたには潜在的に魔法を扱う素質があったんだと思います。
 あなたの中に急速に魔力が流れ込み、あなたは魔法使いになったんです。光の魔法使いに。」
自分が魔法使いに…。確かに今の自分は以前の自分とは違うとしか思えない。体に不思議な力が満ち溢れているのを感じる。認めざるを得ない。

「私に、あなた達と一緒に戦えっていうの?」
「強制する気はありません。ただ、私達は人手不足なんです。そして、魔法の扱う素質を持つ人はそう多くいません。もしあなたがその力を貸していただけるなら、とても心強いんです。」
自分には素質がある。ならば、その力を役立てる義務があるのではないか。杏のなかの正義感はそう訴えかける。しかし…。
「でも、負けたらさっきみたいなことになるんでしょう…」
杏は必死に震えを押さえながら言う。だが、声も体もその震えを隠せてはいなかった。カナタは俯いて答える。
「はい、その危険性は高いと思います。だから、本当に強制することは出来ないんです。協力していただけない場合は、記憶を消して、自宅へ帰っていただくことになります。魔族に襲われつつも、なんとか命を取りとめた人と同じように。」
突然の長期欠席の原因がそれなのだと杏は気がついた。自分の学校にも、被害者がいるのだ。
「カナタちゃん…あなたもあんな目に…?」
カナタは俯いたまま首を横に振る。
「いえ、私の役目はサポートで、実際に戦ったことはないのでそれはありません。でも、その恐ろしさは分かっているつもりです。」
その答えに杏は少しだけ胸をなでおろした。目の前にいる、この少女までもがあのような目に遭うことは想像したくもない。

杏が横に目を向けると、窓ガラスに自分の姿がうつっていた。いつもと変わりない。その茶色がかった髪の跳ねた癖も、子供から大人への過渡期のようなその顔も確かに普段の杏のものだ。ただ、普段は大きく開かれた目は、今は不安げに細められている。そして、自分の着ている服。膝上数センチ、といった感じのスカート。上半身は体にぴったりと張り付くようなノースリーブの服の上に、肘ほどまでの袖の、薄い上着のようなものを羽織っている。この服だけがいつもの杏と見た目で大きく異なる点だった。
「この服は?」
カナタに尋ねる。
「魔力を開放したとき、その人は大抵自分に最適な姿へとその服を変化させます。魔力を封印すれば元の姿に戻るはずですよ。」
自分に最適な姿…。確かに、カナタとカザミでは服装が随分違う。カナタはいかにも魔法使い然としたワンピースのローブのような姿だ。一方、カザミはミニスカートに、肩ぐらいまでの上着といった軽装だった。服装は違うものの、2人は同じ特徴的な薄いブルーの髪をしていた。カナタの髪は長く背中までストレートに垂れていて、カザミの髪は耳に掛かるかどうかといったショートだ。ただ、顔の印象はあまり似ていないように思えた。今目の前にいるカナタは、丸くやわらかそうな顔をして、そのたれ気味の目からは暖かな印象を受ける。対してカザミはスッと細い顔立ちをしているし、その目は何処か鋭い。その差は、もしかしたら年齢だけではなく、経験してきたものの差かもしれない。カザミは今日のような思いををどれぐらいしてきたのだろう。

「一つ聞きたいんだけど…」
杏は恐る恐る切り出した。
「何ですか?」
「魔族の被害にあった人って大抵知ってるの?」
「はい。私達以外にその人たちのことを処理してくれる人はいませんから…。」
杏は葵のことをたずねた。その容姿や失踪したときの状況など、知る限りのことを伝える。
「私の知っている中に、その人はいません。亡くなったわけでも、記憶を消して、家に帰したわけでもありませんね。もしかしたら、私達の戦いとは無関係なのかもしれません。あるいは…」
「あるいは?」
「今もまだこの戦いに巻き込まれているのかもしれません。推測に過ぎませんが。」
それを聞いて、杏の心は決まった。生きている可能性がある。それなら葵を探さなければならない。助けなければならない。自分にその力があるのなら、他の選択肢はないはずだ。杏は決意を胸に、どこにいるとも知れない葵のことを想った…。

二日前、葵は塾を出てまっすぐ家へと向かっていた。いつもと変わらないはずの道、その途中で突然葵は不思議な空間に捕らわれる。ただでさえ暗い夜道だったが、街灯の光さえも闇にかき消されそうになっていた。周囲の音は消え、不気味な静寂が漂う。
葵は怖くなり駆け出すが、見えない壁にぶつかり倒れてしまう。地面に強く打ち、痛む尻を擦っていると、突然重力が消えてしまったような錯覚に陥る。葵は急な浮遊感を覚えた。少しして、自分は足を掴まれて宙吊りにされているのだと気付く。しかし、一体何に吊られているのか。ここはかなりの高さだ。大人でもここまで吊り上げることは出来ないはず。辛うじて自分の足を掴んでいるものに目を向けることが出来た葵は絶句する。そこには気味の悪い紫や緑色からなる触手のようなものがへばりついていた。力の限り叫ぶが、その声は誰にも届かない。ただ一人を除いて。その触手を伸ばしている生き物の本体の隣にはヴァイスが立っていた。楽しげに頬を緩ませている。
「やぁ、お嬢さん」
ヴァイスは軽い調子で語りかける。葵は何も喋ることが出来なかった。この異常な世界で平然としているヴァイスを理解することが出来ない。
「君は素晴らしい魔力の持ち主のようだ。君には僕に協力してもらいたいんだよ。」
葵にはその意味が分からなかった。ヴァイスも特に伝える気がないのだろう。突然触手は葵の全身に絡みついてきた。
「い、いやあぁっ。」
両腕、両足を拘束され、胸や首筋、太ももにまで触手は絡み付いてくる。恐怖、嫌悪感、気持ち悪さで葵の心は一杯だった。制服ごしに葵の体を触手がぬるぬると這い回る。次第に制服のすそから中へと入り込むものも出てきた。
「ひっ!」
妙に湿った触手が股間や胸元といった敏感な部分へと侵入することで、葵の恐怖は頂点に達する。おぼろげながら、触手の意図を理解してしまった。その整った顔が恐怖に歪む。触手から滴り落ちる液体で、その綺麗な黒髪もドロドロになってしまっている。

葵の、歳の割に大きな胸に、制服の上から絞るように触手が絡みつく。
「い、いたっ」
その締め付けに痛みを覚えた。同時に、太ももに絡みついた触手は先が口のように開き、足の付け根の辺りをその舌で舐め回す。そこには快感のようなものは一切なかった。くすぐったいというものですらない。ただ、気持ち悪かった。恐ろしかった。逃げ出したいのに体は完全に拘束され、動くことさえままならない。葵には体を這う触手の侵攻を止める手立てはなく、されるがままの状態だ。
「や、やめてっ、お願い!」
そのような懇願が通用するはずもなく、触手はむしろその行動を活発にさせる。手足を縛る触手はそれを各々の方向へと引っ張り、葵は引き裂かれそうな痛みに苦しむ。
「いっ、ああぁぁ」
胸へと絡みつく触手はどんどん増えていき、葵の胸は制服の下でボコボコと波打っていた。そのうち制服の継ぎ目がほどけ始め、まるで爆発するかのように弾けとんだ。胸を包むブラジャーも今はズレ落ちており、桃色をした乳房の先端が見えている。そこに触手が噛り付く。
「痛っ、ひゃ、あぁぁぁんんぅ…」
触手の口の細かな歯が葵の胸に刺さり、口の中の細長い舌は乳首にまとわりつくようにしている。もう片方の乳房にも別の触手が噛り付き、両方が葵の胸を上下左右へと引っ張り回す。
「痛い痛いいいっ!!やめてぇぇっ!!」
衝撃で歯は乳房に食い込み、その傷口を広げる。葵は鋭い痛みに苛まれた。乳房からは細い鮮血の筋がいくつか出来ていた。胸の揺れに吊られ、歪な軌道を描いている。

その痛みに耐えているうちに太ももを舐め回していた触手が葵のショーツを掻き分け、秘所へと迫る。気付いた葵は慌てて足を閉じようとするが、触手に引っ張られた足は思うように動かない。成す術もなく、触手の秘所への侵入を許す以外に道はなかった。その触手はあまり太いものではなかった。この2日後に行われることとなる陵辱に比べたら易しいものだろう。しかし、葵は未経験であったし、魔法少女のような強靭な肉体も精神力も有してはいなかった。
「いや、いやあぁぁぁぁぁ!!!!」
だから、触手がついに挿入されたとき、葵はその痛みと絶望で絶叫した。触手はその細さを利用し、するすると奥へと入り込み、波打つように葵を刺激する。
「や、あ、あ、ひっ、やぁぁ」
快感といえるのかどうかは分からないが、得体の知れない感覚が葵を満たしていた。だがそれも乳房の痛みでかき消されてしまう。今、乳房に噛り付いた触手は乳房を潰しては引っ張っていた。その歯の隙間から、触手の口からあふれた液体が滴っている。その液体がまた、乳房の傷口を刺激する。ヒリヒリと染みる痛みで乳房は熱をもつ。もう少し痺れかけている。
葵の秘所にまた他の触手が迫っていた。いくら細いといえ、2本も入ればそれは人間の男性器のサイズを上回る。しかし、その触手は1本ではなかった。3本の触手が同時に侵入を試みていた。少しの間周囲を撫で回し、おもむろに突入する。合計4本の触手が葵の膣内に侵入しようとしていた。無論、可能なはずがない。
「ぎゃああぁぁぁっっっ!!」
葵はあまりの痛みに叫ぶ。処女膜は裂け、血が滲む膣壁を4本の触手が無理やり刺激する。
「ああっっ、いっ、かはぁっ、む、むり…っ」
それでも触手は動きを止めない。どんどんそのスピードを上げる。するとやがて、触手の本体から出た体液が、触手の中を通り抜けるのが見えた。まるでボールがホースの中を移動するような有様だ。不幸なことに、葵にもそれが見えていて、自分の大事な何かを失うカウントダウンを自らしなければならなかった。それが触手の口まで届いたとき、一斉に白濁した液体が葵の胸を、腕を、足を、顔を、腿を、膣内を、そして子宮を汚す。
「いやああああぁぁぁぁぁっ!!!!!」
その瞬間、触手魔族は葵の魔力の源へと強引に割り入り、自らの魔力と葵の魔力を結合させる。魔族このようにして獲物の魔力を奪い取るのだ。

触手魔族が葵の魔力を吸収したのを見計らって、ヴァイスは触手魔族の本体へと手を当てる。その触手を介して、ヴァイスは自らの魔力を葵の中へと注入していった。すると、突然触手魔族の動きが止まる。そして突然消滅してしまった。触手に吊られていた葵はそのまま地面へと放り出される。
何が起こったのか、瞬間、ヴァイスも十分に理解できなかった。葵が逆に魔族の魔力を吸い取ったのかとも思ったが、その気配もない。ただ、触手魔族の魔力がなくなっただけのようだ。数秒後、ヴァイスはある結論にいたり、邪悪な笑顔を浮かべていた。倒れている葵のもとへと近寄ると話しかける。
「おめでとう。これで君も今日から魔法少女だ。」
闇の、魔法少女である。しかし葵にはまだそれを理解する余裕がない。
そしてヴァイスは葵の額に指をかざし、知識を注入する。そして数分後、葵は自らの状況を理解し始めた。ヴァイスと同類存在になってしまったのだ。あるいは、自分を犯したあの触手魔族と。
「嫌、嫌嫌嫌あああぁぁっ。誰かをあんな目に合わせるぐらいなら、自分が死んだ方がましよ。」
ヴァイスはショックを受ける葵に容赦ない言葉を浴びせる。
「君の体は外傷では死に至ることはない。そのように僕の魔力が作り変えてしまったからね。本当はそれだけだったんだが、予想外のことが起きた。」
葵はまだ半分放心状態である。
「君には特殊な能力があるようだ。魔力を結合した相手の魔力を消滅させる能力。まったく、面白いな。ということは、どういうことか。君は体を傷つけたところで死ぬことはないし、魔力を奪われて死のうとすれば、逆に相手を死なせてしまう。このままだと君は一生誰かを殺し続けて生きることになるな。」
魔力が欠乏し始めれば自分の意思とは無関係に人を襲うようになってしまうだろう。先日の透のように。

葵は絶望に打ちひしがれた、自分は自分の意思とは関係なくただ人を傷つける化け物になってしまったのだと思った。死ぬことさえ出来ない。もう何の希望も残っていない…。しかし、ヴァイスはある方法を教える。
「だが、どうしても死にたいなら方法がないわけじゃない。」
「な、なに、教えて!お願い。私はこんなまま生きていたくない。」
「君の力を打ち消すほどの魔力の持ち主に犯され尽くせばいい。君の能力も歯が立たないような魔力の持ち主ならば、君を殺すことができるだろう。」
そういってヴァイスは葵から離れ、いつの間にか消えていた。葵は今聞いたことと、先程注入された知識を思い出し、自分のするべきことを考えた。
(死ぬしかない。このままでは無闇に人を殺してしまうだけだ。)
そして葵は自分を殺してくれるものを探して闇夜を彷徨い始めた。自分の魔力は強大で、それを上回る魔族などそうそういないことなど知らずに。