一人の男が夜の道を歩いていた。彼の名は馬木 透(まぎ とおる)。身長は少し高いが、取り立てて変わったところのない大学生だ。少なくともこれまでは。切れかけの電灯がいくつか灯るだけの薄暗いトンネルを通り、家路を行く。

何かがおかしい、と思ったのは5分後のことだ。トンネルの終わりが見えないのだ。振り返ると入り口は遥か遠くに霞んでいる。それなのに前に出口は見えてこない。こんなに長い筈はないのに。困惑しながらも先へと進むと、正面に男が立っていた。透をジッと、睨み付けるかのように見つめている。まだ若いように見えるが、全身を黒く包んだ服と帽子のためはっきりとはしない。恐る恐る前へと進み、近づいたとき、男は透に話しかけてきた。
「今の生活に飽きてはいないかい?」
意外に高い声で吐き出された言葉は不可解なものだった。怪しい事この上ない。こういった類の質問を投げかけてくるのは大抵ろくなものではないだろう。そう考えた透は無言で、足早に立ち去ろうとする。しかし、男は透の手首を急に掴んだ。透は驚きと恐怖でその手を振り解こうとするが、ビクともしない。すさまじい力で掴まれている。男は静かに続ける。
「YesかNoで答えてくれればいいんだ。」
この男には逆らえない、そう透は理解した。何故かは分からない。そして、嘘をつくことも躊躇われた。全てを見透かされてしまいそうな気がしたのだ。だから、透は答えた
「…Yes、だ」
それは本心だった。大して代わり映えのしない人生には飽き飽きしていた節があったのだ。大学の単位やら就職活動やら、先のことを考えることにもうんざりしていた。
男は満足そうに頷いた。かと思うと、突然透の頭を鷲掴みにした。突然の出来事、そして力の強さに透は呻くことすら出来なかった。
「それなら、新しい人生を与えてやろう」
そう言うと、男の手から青白い光がぼんやりとあふれ出し、透の頭に流れ込んだ。透の頭は焼けるような熱さに包まれた。そしてそれは上半身、下半身へと流れて行き、体全体を包み込む。あまりの衝撃に、透の意識は遠のいていった。

透が再び目を覚ました時、そこはまだ先程と同じトンネルの中だった。しかし何かが違う。いや、全てが違うように感じられた。一体それは何故なのか。答えはすぐに分かった。全ては透自身の変化によるものなのだ。あまり良好とはいえなかった視界は遥か遠くまで見渡せると思うほどに冴え渡っている。また、聴覚・触覚など、あらゆる感覚が全て研ぎ澄まされているのを感じた。辺りを見回すと男はまだそこに立っていた。
「気分はどうだい?」
男は言う。気分は最高だった。今ならどんなことだって出来そうな気がした。これまで生きてきて、ここまでの万能感は経験したことがなかった。透が何も言わないうちに男は答えを察したようだった。そして透に告げた。
「君は今魔法使いになったんだよ」
普通に聞けばなんとも馬鹿馬鹿しい台詞でしかないだろう。しかし、今の透にはその言葉を信用することが出来た。今の自分の状態は少なくとも普通ではない。何か自分の知らない力が働いていたとしてもおかしくなかった。そして何より、今なら魔法すら使えるという自信があったのだ。
「手を前に出して、念じてみな。そうだな、炎でもイメージしてみるといい」
透は男の言われるままに従った。男への不信より何より、自分に何が出来るかという好奇心が強かったのだ。手を突き出し、炎のイメージを頭に浮かべる。すると次第に手のひらに何かが集まるような感覚があった。次の瞬間、透の手から火柱のような勢いの炎がほとばしった。透の心を満たしていたのは驚きよりも、恐怖よりも、興奮であっただろう。自分は今までとは違う「何か」になったことは確かだった。
男の方を振り返ると、男は少し驚いたような顔をしていた、そして何かを考えるような表情へと変わる。
「凄い、これは凄いよ」
透は興奮したまま男に話しかける。
「ああ、確かに凄い」
男も応じる。
「だけど、これじゃ少しバランスが取れないな」
男の言葉が透には理解できなかった。バランス?一体何のことだ。そう思った瞬間、透の胸に先程とは違った種類の熱さが広がった。
「がああああぁぁぁぁ!」
透は叫びながら地面をのた打ち回る。何かが透の胸に小さな穴を穿っていた。男は透を押さえ、その穴に手を当てる。すると、透をとてつもない脱力感が襲った。先程までの万能感を支えていたものが身体から抜け落ちていくような感覚。次第に痛みは引いていったが、透の体は先程からは程遠い状態になっていた。喉の渇きのような感覚。透は何かに飢えている。食欲ではない。これは一体何なのか。
「…何なんだ、一体…」
透は息も切れ切れといった状態で男に問いかける。男は無表情のまま答えた。
「説明するより、こっちの方が早いだろう」
男はそういうと再び透の頭に手を当てた。透は恐怖を感じたが、体は逃げてくれない。先程のような熱はなかった。ただ、透の頭の中には知識が入り込んできた。自分は一体どのような状況に置かれているのか、それを急速に理解した。
男は魔法使いなのだ。しかし、頭に「闇の」が付く。透はその魔力を体に注入されたのだ。すなわち、透も「闇の」魔法使いになったということだ。闇の魔法使いの力の源、そして生命力の源は魔力だ。しかし、闇の魔法使いは大気中にあふれる魔力を直接取り込むことが出来ない。だから人を襲い、魔力をその身に取り込むことで魔力を高める。そんな存在なのだ。今、透が飢えているのは魔力なのだ。先程の男の行動は透の魔力を奪うものだった。透の魔力は尽きかけている。今すぐに魔力を取り込まなければ、遠からず死に至るだろう。
男は口元を歪めた。
「獲物が欲しいだろう?用意してやったよ。存分に喰うといい」
魔力が尽きかけていても、その視力は変わっていないらしい。遥か遠くに見えていたトンネルの入り口から女性が歩いてくるのが見えた。透と同じく大学生ぐらいだろうか。彼女もこの異常な空間に迷い込んでしまったのだろう。透の理性はほとんど働いていなかった。本能の赴くがまま、その女性に襲い掛かった。

「ひっ!」
女性の顔が引き攣る。それも当然だろう。男がとても人とは思えぬ速度で自分へと向かってきたのだ。透は女性を押し倒すと、服の上から強引に、乱暴に胸を揉みしだいた。
「い、痛っ、痛い痛いぃぃ!」
透の力は以前とは比べ物にならないほどに強くなっていた。本人はそれを自覚していないものだから、胸を握り潰さんばかりの勢いだった。苦痛の表情をする女性のことなど気にもかけず、透は魔力を求めて唇を貪るように奪う。
「ん゙、ん゙ん゙ん゙ん゙っっ!」
女性は痛みと不快感、恐怖に耐え続ける以外に術がなかった。透の力は常人のものとはかけ離れたもので、ただの女性がどうにかできるものではない。透は脱がすのももどかしいとばかりに服を引き千切り、その豊満な胸をあらわにする。既に青く痣が浮かんで痛々しいそれに、透は無心にむしゃぶりつく。
「や、やめ、やめてっ…」
何を言おうと透の耳には届いていない。魔力を吸い尽くし、自らの死を回避すること以外は何も頭になかった。胸に吸い付いていても魔力が得られないことを察した透は女性を掴み、うつ伏せになるように床に打ち据える。
「ぐっ…!」
女性は息をするのも苦しそうにもがいていた。痛みでまともに体が動かないようだ。透はショーツもスカートも一緒に千切り捨て、女性の秘所をあらわにする。当然ながら、これまでの行為で濡れているはずもないそこに、いつしか反り立っている剛直を躊躇いもせず突き入れた。
「あああぁぁぁぁっっ!!」
女性はあまりの痛みに大きな声で叫ぶ。魔力の影響もあるのか、それは常人のものより一回り大きかった。透はそんなこと気にするはずもない。勢いよくピストンを始める。
「ああ、あっ、あっ、あぅ、ああぁぁぁ!!」
女性の秘所からは鮮血が漏れていた。それは破瓜によるものなのか、どこかが切れたのかは定かではない。まさに獣のように、透は後ろから女性を突き続ける。次第にその勢いは早くなっていく。それにつれて、女性の叫びは弱々しいものへと変わっていく。
「うううぅぅぉぉぉ!!!」
透は叫び声をあげ、女性の膣に精を放つ。
「いやあぁぁぁぁぁ!!!」
女性の声が一段と大きく響いた瞬間、透は自分の体に魔力が注がれていくのを感じた。透の体に注がれていく魔力が途切れたとき、女性は小さく呻いてその場に倒れた。動く気配はない…。

「どうだった?」
息を切らす透にの後ろから、男の声がした。
「まぁ、ただの人間だから、大した量じゃないだろうけれどね、一度で吸い尽くしちゃうし」
動かなくなった女性を見下ろしながら言う。生きているようには見えない。
「これから君はこうやって人の魔力を奪いながら生きていってもらうよ」
男は透を見つめながら言う。
「君の魔力には『穴』を作らせてもらった。何もしなくてもそこから魔力が零れ落ちていくだろう。少なくとも、それを補うぐらいの量は奪わないと、そのうち死んじゃうからね。」
透は男を睨む。
「なんでこんなことをする必要があるんだ。」
男は静かに答えた。
「僕らには、正確に言うと君には、敵がいるんだ。」
要領を得ない。
「敵がいるなら、何故戦力を削るような真似をするんだ。不利になるだけだろうが。」
男は微笑みながら言う。
「さっき言っただろう?バランスが取れないんだよ。君は力がありすぎたんだ。今の彼女らでは相手にならない。」
「どういうことだ?」
「これはね、ゲームなんだ。ゲームバランスはちゃんと調整しないと駄目だろう?」
男は当然のことを話すような口調で言う。
「ふざけるなよ、ゲームだと?人を勝手にこんな体に変えやがって、それでするのがゲームだってのか。」
そして、そのゲームのために透は苦痛を味わい、人を一人喰い殺したというのか。
「そうだよ、ゲームだ。君も、相手の娘たちも、僕の作ったゲームの中で命がけで戦ってもらうことになるね。そして、君達はそれを拒否することは出来ない。君達に人権なんてものはないんだからね。」
透は怒りに任せて怒鳴り返そうとした、しかし、体が全く言うことをきかない。
「ほら、動けないだろう?僕は指一本動かさず、君を殺すことだって出来るんだ。絶対的な力の前では、ただただ従うことしか出来ないんだよ。」
悔しいが男の言う通りだった。男は全く動かなかった、それなのに透は喋ることすら出来なくなっている。この男が思えば自分などすぐさま切り捨てることが出来るのだ。この男の言うことに従うしかないということを透は悔しくも理解した。

「さて、ルールは簡単だ。結構自由なもんでね。」
男は軽々しくいう。人の命を扱うゲームだというのに、だ。
「今この街には君の敵、光の魔法使いが何人かいるはずだ。まぁ、どれも小さな女の子ばかりだからね、魔法少女ってところかな?相手を倒してしまえば勝ち。それだけだ。簡単だろう?」
もっとも、ゲームバランスを調整したわけだから、実行は簡単ではなくなっているのだろう。
「ただし、単純に倒してしまえばそれでいいというわけではない。相手はここにいるのが全てではないからね。魔法少女はただの人間に比べれば莫大な魔力を持つけれども、数人の魔力を奪ったぐらいでは、君は大した力をつけられやしない。もうちょっと強い娘達が何人か一度にかかって来たらそれでアウトだ。」
男は親指で首を切るような仕草をする。
「彼女らは、僕らと違って、大気中の魔力を取り込むことができるんだ。だから、死なない程度に魔力を奪い、逃がす。そして回復したところでまた奪うんだ。」
「自由に魔力を取り込めるんだったら、俺なんかじゃ歯が立たないんじゃないのか。」
「彼女達の取り込める魔力には限界がある。相当な修練を積まなければ、その限界はなかなか上がらないんだよ。一方、僕らには限界がない。肉体が持つ限りはね。だから、上手くやれば、彼女たちなんて目じゃないってわけだ。」
自由に魔力を取り込めるが、限界がある。自由に魔力を取り込めないが、限界がない。これが光と闇の魔法使いの絶対的な差であるようだ。
「この街にいる魔法少女を全て倒し、増援が来ても返り討ちに出来るぐらいの力をつければ君の勝ちってわけだ。」

「まぁ、今の状態で直接彼女らと戦ったら負けるだろうからね。最初は魔族と契約を結ぶといい。さっき君に送った情報の中に彼らとの契約のこともあったはずだ。後で思い出してみなよ。」
透が少し記憶を辿ると、確かにいつの間にか魔族のことが知識として頭に入っていた。知らないはずのことを知っている、なんとも奇妙な感覚だった。
「これで説明は全部だよ。何か質問はあるかい?」
文句なら山ほどあったが、ここで言ってどうなるものでもないだろう。
「なんでこんなことしてるんだ?何の意味があるんだよ。」
透は一番の疑問をぶつけた。男は不思議そうに首を傾げてから答える。
「楽しいからだよ。当たり前だろう?」
透は聞いたことを後悔した。必要のない質問だったようだ。
「じゃあ、もういいね。後は好きにやりなよ。僕は傍観してるからね。」
そういうと、男は背を向けた。しかし、歩き出す前にもう一度透の方へ向き直って言った。
「ああ、僕の名前を教えてなかったね、ヴァイスっていうんだ。よろしくね。」
それだけ言うと、男はもう一度背を向けた。そして、透が瞬きをした一瞬でその姿は消えていた。透はいまだ困惑していた。この一連の出来事が本当に現実なのかどうか判断しかねていた。ただ、死ぬぐらいならその魔法少女とやらをさっきの女同様に喰ってやるほうがずっといい、と考えていた。