月明かりの下、ビルの屋上に二つのシルエットがある。
「どう、柳(やなぎ)ちゃん。なにか感知した?」
 少女がたずねた。
 夜の闇に、翼にも似た黒いマントがひるがえる。
「見つけましたわ──東の方向にディアヴォロの反応がひとつ」
 もう一人の少女が答えた。
 手にした水晶球に《敵》の姿が映っている。
 異形の、魔物の姿が。
「じゃ、行こうか」
 身の丈ほどもある巨大な杖を背に担ぎ、彼女は夜の街へと踏み出した。


        *


 ──目の前にいる男は、人間ではなかった。

 浅野詩織(あさの・しおり)は恐怖に身をすくませて後ずさった。
 全体的なシルエットは人間によく似ている。醜い男の顔だち。
 だが背には翼があり、腰から伸びるのはトカゲにも似た尻尾。ぼろ布のようなものを申し訳程度
に体に巻きつけている。
 異形の、有翼人種。
「服を脱げ」
 男が命令した。醜い表情には欲情の色が浮かんでいる。
(ぬ、脱げ、って……)
 詩織は魅入られたように立ち尽くした。
 恐怖で、思考が完全に停止している。
 男の黄金の瞳で見つめられると、抵抗しようという気力が根こそぎ消えていくのだ。




(駄目……こんなの……)
 お下げにした黒髪が激しい羞恥で震える。
「脱げ」
 男がもう一度命令する。
 ブタのように小さな瞳が、鋭い眼光を放つ。
 詩織の、眼鏡の奥の瞳が揺れた。

 抵抗──できない。

 詩織は震える手つきで、聖メイヘム高校指定の濃紺のセーラー服を、続いてプリーツスカートを
脱ぎ捨てた。さらに下着までをすべて取り去ると白い陶磁器のような裸身があらわれた。
 運動には縁がない手足は細くしなやかで、人形のようだ。
「ほう。なかなかいい体してるじゃねえか」
 男がじろじろと裸身を見つめると、詩織は激しい羞恥を覚えた。年頃になってからは親にも見せ
たことのない、オールヌードだ。
 いくら相手が人外とはいえ、恥ずかしいことに変わりはない。
 男はその場に跪くと、桜色の乳首を汚らしい唇で吸いたてる。ぬめぬめとした感触が乳首を這い
回るおぞましさに歯を食いしばって耐えた。
「よーし、そろそろ犯してやる」
 乳首をたっぷりと吸い付けると、男は立ち上った。
 詩織をその場に押し倒すと、男の手が彼女の両足を大きく割り開く。
 ごくり、と詩織は息を飲んだ。これから何が行われるかは、今どきの小学生でも分かることだろ
う。
 とうとう処女を失ってしまう。
 薄いヘアに縁取られた肉の割れ目を目にした男は、ペニスを完全に怒張させた。
「ほう、もしかしてお前、男を知らねえのか」
「…………」
「どうなんだよ」
「し、処女……です」
 割れ目の縁を男の指でいじくられると、詩織は恥ずかしさに耐えてうなずいた。




「じゃあ、いただかせてもらうぜ。
 どうせいつかは誰かにあげちまうんだ。さっさとこんなもん失くしたほうが、身も心も自由にな
れるってもんだぜ」
 白磁色に輝く裸体にがっしりとした肉体がのしかかってくる。すえた匂いを放つ肉棒が未通のホ
ールに押しつけられた。
 詩織はきつく目を閉じて、唇をかみしめた。
 下手に抵抗して殺されるよりマシよ……
 必死で自分に言い聞かせる。
 詩織は、聖メイヘム高校でもトップクラスの成績を誇る優等生だ。
 今日も、塾に通っていて帰りが遅くなった。そして帰宅する途中、人通りの少ない路地で男に襲
われたのだ。
(どうして……どうして私がこんな目に……)
 理不尽だった。
 何も悪いことなんてしてないのに。
 子供のころから勉強一筋で真面目に生きてきたのに。
「へっへっへ、入るぜえ」
 男は容赦なく一気に押し込んだ。膣の入り口が、すさまじい圧迫感とともに押し広げられる。男
根がズブズブと音をたてて、詩織の胎内に侵入していく。
「はっ、ああっ、嫌あ……」
 詩織はたまらず悲鳴を上げた。
 だが魔人は容赦しない。ぐいぐいと腰を押し込んでくる。
 そして──
「そうら、奥まで挿れるぞ!」
 みちっ、と裂ける感触とともに、男のペニスが肉孔いっぱいに収まった。清らかな女子高生の処
女が醜い魔人に奪われた瞬間だった。
「嫌ああ……」
 男の猛りきったモノが奥まで届いているのが分かり、詩織は両手で顔を覆った。
「抜いて、抜いてください……」
 もう自分は処女を失ったのだという絶望感が、詩織の心を完全に打ちのめしていた。




「おお、きついぞ! 俺のを締め付けてくるぞ!」
 男が興奮したように叫んだ。肉厚の唇が詩織の純潔な唇を奪い、口の中にぬめぬめとした舌が侵
入した。
「むむ……」
 生まれて初めてのキスに、詩織は苦しげに喘いだ。
 と、同時に男の体が胎内で動きだした。屈辱と羞恥で煮えたぎりそうな下肢を犯しながら、男は
ぷるんと弾む乳房に吸いついてきた。
(む、胸なんてなめないで!)
 乳首を唇と舌で散々になぶられる。連動してジン……と下半身全体に甘い痺れが走った。
「な、なんなの、これ……!?」
 処女を貫かれた下半身が熱く、だるくなりはじめている。
(そんな、こんな男を相手に……)
 セックスの快楽とは認めたくなかった。だが、どうしようもなく気持ちよかった。
 顔も知らない男に無理やり犯されているのに。
 人間ではない存在に、純潔な体を汚されているのに。
「ひぁぁぁっ!」
 尻の肉を掴まれ、激しく腰を揺さぶられた。たくましいモノに奥まで串刺しにされる。鮮烈なエ
クスタシーが詩織の背筋を突き抜けた。
「イ、イクぅぅっ!」
「へっ、初体験でイッちまったか。この淫乱娘が」
 男がぐったりと四肢を投げ出した娘を見下ろす。
「俺もそろそろイキそうだ。どこに出すと思う、小娘?」
「まさか、中へ……? や、やめて……中だけはやめてください!」
 詩織の必死の懇願にもかかわらず、男のピストンは加速度を増していく。
 もし……もし、この男の子供を身篭ることになったとしたら……
 人間ではない存在の赤ん坊を妊娠してしまう。それは普通の女子高生にとって絶望と言う言葉す
ら生ぬるい、絶対的な恐怖だった。
「お願い、お願いですから、外に出して……」
「俺たちはこうしてハメあった仲だろ。仲睦まじく中出しといこうぜ。
 う……く……んん……」
「嫌、嫌です……やめて……やめて……」
 詩織は必死で男を押しのけようとするが、男はがっしりとつかんで離さない。
「そんなに嫌がるなよ。そうら、イクぞ! んっ、ううっ……」
 邪悪な笑みを満面に浮かべると、男は詩織の膣にドクドクと射精した。




「あ……、う……」
 お腹の奥が熱い精液で満たされていく感覚に、彼女はショックで打ちのめされた。
「ん……、んく……」
「ふう、処女の味はやっぱ極上だな」
 満足しきった顔で、彼は哀れな少女の秘孔から肉棒を抜き取った。どろりとした白い精液が彼女
の股間から滴り落ちている。
「嫌あ……」
 詩織は敗北感で顔を覆った。
 と、そのときだった。

「バスターフレア!」

 夜の冷気に、凛とした声が響き渡る。
 暗闇を赤く染めて飛来したのは、巨大な火球。直径数メートルクラスの炎の弾が、まっすぐに男
に向かってくる。
「!」
 男は素早く反転すると、両腕を交差させ、虚空に印を描き出した。
「ディスコード」
 しゃがれた声で唱える。
 同時に彼の前面に半透明の壁が出現し、火球を弾き散らした。コースをそらされた火球は地面に
炸裂し、盛大な爆炎をまきちらす。
「火炎の魔法──誰だ!」
 男が怒鳴った。
 詩織は弱々しく上体を起こした。
(な、なんなの、一体……? 魔法、って……?)
 目の前で繰り広げられた、すさまじい超常戦闘に呆然となった。
 火球が飛んできた方向に視線を向ける。月明かりの下、ひとつのシルエットが浮かんでいた。
 ──美しい少女だった。
 背中まである真紅の髪が風にたなびいている。勝気そうな美貌がまっすぐに魔人を見据えている。
 すらりとした肢体を包む、黒いレオタードのような衣装。はためくマントの色も、衣装と同じ黒。
右手に掲げているのは、巨大な銀色の杖。
「て、てめえは……!」
 男の顔が驚愕に引きつる。
 美しき魔法少女は凛とした口調で言い放った。
「あたしは鳴滝春菜(なるたき・はるな)。お前たちを滅ぼすもの──」