天井から伸びた縄に両手首を縛られ吊り下げられたアンバームーンに、
飯綱はその肢体を上から下まで嘗め回すような視線を向けた。
その嫌らしい視線に身震いし、なんとか打開策を考えようとする。
空中に浮いた形になっているということは、地面を蹴ることができない。
自然と『月』の能力はほぼ無効化されてしまっているということだ。
唯一の活路、それは。

「いい格好ですよ、ミス・アンバームーン。
 さしずめ蜘蛛の巣に捕らえられた美しい蝶といったところか。
 ……おっと、あまり近づくと蹴りをお見舞いされてしまうかな」
「レディの扱いがなっていないようね、ミスタ・飯綱。
 それにその禍々しい姿、今晩の趣向が仮装大会なんて初耳よ」

精一杯の皮肉も、この状況を打破する唯一の希望を見透かされてしまっては、
いつもの余裕たっぷりな声には程遠い。

「さて、それではあまり近づかないようにして楽しむとしようか。
 『吊るされた男』の能力ならそれが可能なのだからな」

そう言うと、どこからともなく現れた縄がアンバームーンの体に
シュルシュルとひとりでに動いて絡みついた。

「くゥッ! い、痛ッ! な、なにを……」

体を揺らして抵抗しようとするも、縄は器用に彼女の体に絡みつき、
いつしかアンバームーンの『亀甲縛り』が出来上がっていた。

「フハハハハッ! これはいい! 今をときめく美しい女怪盗が、
 こんな恥ずかしい格好を私の前に晒しているとはな!」


確かにそれは扇情的な光景だった。
抜群のプロポーションを誇る女怪盗の体を荒々しい縄が彩り、
大きな胸を変形させ強制的に突き出させている。
さらにミニスカートを巻き込んではいるものの秘部には縄が食い込み、
美しい顔は苦痛と羞恥に歪んでいる。
その顔の中心にある怪盗のマスクさえ、今となってはどこか怪しく、
官能的なアクセサリーのようにも思えるのだった。

「はぁッ……こ、こんな……ことぐらいで……きゃあッ」

必死で耐える彼女だったが、シュルシュルと近づいた縄が
亀甲縛りの上から下半身を覆うミニスカートを力強くたくし上げた。
単にスカートの下の黒タイツが露わになるだけでなく、ますます股に
食い込む縄の感触に、アンバームーンは体をよじらせて呻くのだった。

「ふむ……ヒップのラインも芸術的だ。しかも黒タイツというのがまた男心を
 くすぐられるよ。ひょっとして普段から男を誘っているんじゃないか?」
「……そ、そんなわけ……はぁッ……ないでしょッ……くぅンっ」
「さて、それでは次はその大きな胸の感度を調べてみようか」
「な、なにを……する気……はうっ」

突如床から生えた何本もの縄が、再び縒り合わさって綱となり、
そうしてできた二本の綱がいっせいに彼女の両胸を触り始めたのだ。
優しく撫でるように、強く揉みしだくように絶妙な強弱をつけて綱は動き、
それはまるで意志をもった蛇のようだった。

「くっ……はぁッ……はんっ……あ、悪趣味の極みね……」
「気に入ってもらえたようで嬉しいよ、ミス・アンバームーン。
 それじゃ、もっと楽しんでもらえるようにしてあげようか」

パチンッと飯綱が指を鳴らすのを合図に、胸をまさぐっている二つの綱とは
別の縄が、シュルシュルと背後から伸び、アンバームーンの胸の谷間から服の中へと潜り込んだ。

「きゃぁうッ……だ、だめっ……」

服の中へと入り込んだ縄はブラのフロントホックを引きちぎり、
単なる布切れと化したそれを服の外へと投げ捨てた。

「しまったな、体を縛っていると少々脱がせるのに骨だよ。
 やっぱり脱がしてから縛るべきだったかな、ふはははははっ」

いつの間にか胸を責めていた綱の先端はそれぞれの縄に分離し、
まるで人間の指のような形状となって本格的に揉みしだきはじめた。
それに加え、先ほどブラを取り去った縄は再び服の内部へと侵入し、
覆い隠す物のなくなった乳首を愛撫しはじめる。
一方で、亀甲縛りの一部分である股に食い込んでいる縄もまた振動をはじめ、
秘部を絶妙なポイントで刺激している。

「ふあッ! ……はんッあっぁう……くぅ……あぁンッ」
「いい声がでてきたじゃないか、ミス・アンバームーン。
 乳首も立ってきているみたいだし、こりゃ本当に楽しんでいるみたいだな」
「……だ、……ふぁうッ……誰が……うぅぅ……はぅ……」
「ふははは、否定できないか! こりゃあいいや。
 美女怪盗アンバームーンは縄責めがお好き! クククク……」

飯綱は葉巻をふかしながら、面白い見世物を見るかのように眺めていた。
時たま彼が投げかける言葉責めが、アンバームーンを次第に追い詰めていく。

(くッ、悔しいけど今は耐えるしかないわね。油断させて何とか奴をこちらに
 近寄らせることができればまだ逆転の余地はある……えッ? きゃあッ!!)

彼女の思惑を嘲笑うかのように、天井から伸びた縄が彼女の膝に絡みつき、
強制的に両膝を上へと持ち上げる。
結果、亀甲縛りの上M字開脚というこれ以上ないほどの恥辱的な格好を
憎き敵の前に晒してしまうことになった。
そしてそれは同時に、最後の望みであった起死回生の一撃を放つことも
叶わなくなるという、絶望的な格好でもあった。

「おや、表情が変わったよミス・アンバームーン。
 まさか私が易々と蹴られてやるとでも思ったのかな?」
「……な、なんの……ふぅっ……ことかしら……はぁ、はぁ……」
「ふははは、自分の格好を見てみろ、強がっても無駄だ。
 そうだ、もう少しいい格好にしてあげれば減らず口も叩けなくなるかな?」

そう言ってパチンッと指を鳴らした彼は、隣の部屋まで縄を伸ばす。
やがてシュルシュルと戻ってきた縄にはハサミが握られていた。

「便利だろう? 私みたいなものぐさには堪えられないね。
 さて、それではご開帳といこうか」
「あっ!……あっ……ああああ、や、やめて……ああっ」

ジョキジョキとハサミを走らせ、コスチュームの胸の部分だけを円く切り取る。
濃紺色の丸い布切れが二つ、ヒラリハラリと床に落ち、美しい胸が露わになる。
次に飯綱はハサミの矛先を黒タイツに向け、股の部分を同じように円く
切り取ると、その部分だけ白いパンティが姿を見せた。

「やっぱり黒タイツの下には下着を穿いているんだな。……おや?
 なにやら湿っているように見えるんだが、気のせいかな?」
「……嘘よ! そんなわけ……あぁッ!」

ジャキッ! ジョキジョキッ!
飯綱はパンティに手を伸ばすと、何回かハサミを走らせた。
単なる布の切れ端となった下着は、パラパラと床へと散った。
これで胸と秘所を覆い隠す物は何もなくなってしまった。
しかも全裸なのであればその肉体そのものに好色の目は向くのに対し、
今の格好は怪盗のコスチュームの胸と股の部分だけが
切り取られているため、アンバームーンというものに官能的なイメージが付与される。
それはこれ以上ないぐらい恥ずかしく、また屈辱的なことだった。
好色な視線が両親の仇となれば、なおさらである。

「い、飯綱ぁーー!!」
「ほう、その格好で凄むのか? 胸も大事な所も丸見えのその格好で?
 ふふ……少し味見をさせてもらおうかな」
「あぅっ……い、いや……それは……ふあぁぁぁっ!」

ジュルッ! ピチャピチャ、ジュルルルッ!
M字状態になっている両腿を両腕で抱え込むと、飯綱は秘所に
音を立ててむしゃぶりついた。
腿を抱え込んだ先の両手で、胸を執拗に愛撫することも忘れない。

「なんだ、もう濡れているじゃないか。義賊の女怪盗だというから
 どんなものかと思ったが、とんだ淫乱女だった、というわけだ」
「……はあぁぁぁ……くぅ、悔し……あぁうン!……や、やめて……」
「ははは、怪盗ともあろう者が標的に懇願か? 情けないなアンバームーン。
 ふむ、思った通り処女ではない、か。淫乱女なら当然だな。
 何人の男をここにくわえ込んできたんだ? あ?」
「……うあぁ……はうぅ……ぅくっ」

飯綱はある程度舐めると一度秘所から離れ、さらに一本虚空に綱を出現させた。
その綱は空中を蠢くと、アンバームーンの口へと潜り込んだ。

「んむゥッ! ふむむ……」

ちゅぼッ! じゅぶッ!
綱は怪盗の口で出し入れを繰り返し、卑猥な音をホールへ響き渡らせた。
無理やりに犯された口からは涎が一筋こぼれ、しずくが裸の胸へと落ちる。

「んー、テクニックはいま一つだが、なかなか気持ちいいよ。
 もう少し舌を使ってくれると申し分ないんだがなぁ」

ニヤニヤと下卑た笑いを浮かべると、飯綱は再び秘所を責めはじめた。

ぬぷっ。

「ーーふぅッ!?」

今度は指を挿入させ、わざとピチャピチャと音が聞こえるように動かす。

「聞こえるかアンバームーン。これは何の音だ?
 ふははは……義賊が悪の資産家にこんなことをされて感じるなんてなぁ。
 アイドル扱いしている世間が知ったら大騒ぎだろう」

(……そうよ、憎い両親の仇なのに……なんで私……感じて)

「んむッおむっ……ゲホッゴホッ!」

秘所へ出し入れされる飯綱の太い指は一本から二本に増え、三本になった。
ジュブジュブと音を立てる指の間からは、愛液の雫が糸をひいて床へこぼれ落ちる。
意識が飛びそうになるのを必死でこらえるアンバームーンの頬には
いつしか涙が筋を描いていた。

「そろそろイきそうなんだろ?
 遠慮なく標的の前でイキ顔を晒せよ、アンバームーン!」
「ふあぁぁぁあぁぁ! あぁうッ! はぁあうッ!」

指使いがますます激しくなり、アンバームーンの顔が歪む。


「あぁぁぁああああぁぁぁっぁぁっあーーーーッ!!」

じゅばっじゅばばばっじゅばーッ!

秘所からは愛液が勢いよくほとばしり、女怪盗は絶頂に達した。


「……ふはは、イッたか。イッたな? ふははっははっ!
 とんだ淫乱怪盗さんだよ。敵にアソコをほじくられて昇天とはな!」
「……ふぁ……はぁ……はぁ」

怪盗アンバームーンは縄に体を預け、ぐったりとして息を切らせていた。
目を瞑り、時折ビクッビクッと体を痙攣させるその姿は、飯綱の指摘を
体全体で肯定しているかのようだった。

「休む暇は与えないぞ。次は私も気持ちよくなる番だからな」

虚空にあった綱が再びアンバームーンの口に侵入し、強制フェラを繰り返す。
今度はアンバームーンが能動的に動き、舌を使って舐めまわした。
飯綱はしばしその感触を楽しむかのように目を瞑り、気持ちよいのか
時たま小さく呻き声をあげる。
彼はおもむろに上着を脱いで床に投げ捨てると、ズボンのチャックを下ろす。

(……さっき、この綱をくわえている時、飯綱は確かに「気持ちいい」と言った。
 舌で刺激を与えた時の彼の反応……間違いない、神経を繋げている)

琥珀色の目が自分に向けられていることに気づいた飯綱は、
何を勘違いしたのか、誇らしげに自分のモノをそそり立たせた。

「だいぶ従順になったじゃないか。そうか、コレが欲しくて堪らないか。
 そう焦らなくてもじきに……うあぁぁァああアあぁぁッ!!」

がぶっ!

アンバームーンが自らの口を汚していた綱を思い切り噛むのと、
飯綱が絶叫して股間を押さえるのとは同時だった。
床に倒れ込んだ飯綱は、股間を押さえたままごろごろと転げまわり、
意識が離れたせいかアンバームーンを捕らえていた縄は解けて消滅した。

「不注意にもほどがあるわね、ミスタ・飯綱。
 今こそ悪事の報いを受けるときよ」
「お、おのれぇぇェェエエエッ!!」

よろよろと立ち上がる両者。
拘束が解かれたアンバームーンは余裕の表情を取り戻したのに対し、
飯綱の目は血走り、隠していた獣性が剥き出しになっている。

「覚悟ぉーーッ!」
「オオオヲヲヲヲォォーーーーッ!!」

おのおの気合を発して前に出る。
アンバームーンは再び必殺の跳び膝蹴り。
飯綱は縄を自らに巻きつかせて強化を図っての突進。

二つの影が交わった刹那。

「ぶげぇッ!」

飯綱は白目を剥き、胃液を吐き出した。
彼の腹部には、今度こそアンバームーンの膝が食い込んでいる。
崩れるように倒れた飯綱の体を光が包み、背中に忽然と『吊るされた男』の
カードが姿を現した。

「気絶したから本体と分離したのね。これでようやくお暇できる」

怪盗はタロットを拾い上げると、ピクリとも動かない飯綱を一瞥した。

「悪いけど、舞踏会はこれでお開きにさせてもらうわね。
 カボチャの馬車が迎えに来てしまっているの」

そう言うと、奪い返したカードを懐にしまおうとして、
自らの衣装がもはや裸同然であることに気づき、慌ててしゃがんだ。

「……ドレスの魔法はとっくに切れてたみたいだけど」


「ふえ……えぐ……」

自宅のリビングで、香織は一人泣いていた。無理もない。
盗みに入った相手、しかも両親の仇である相手に
恥辱を与えられてしまったのだから。
結局ボロボロになった衣装では帰ることができず、変身を解いて
飯綱家の召使の格好に着替えて電車で帰ってきたのだ。
泣き出したいのを電車では必死でこらえ、とぼとぼと歩いて
自宅まで帰ってきた瞬間、堰を切ったように涙が溢れ出した。

両手首にはくっきりと縄の跡が残っていて、それを見るたび
加えられた陵辱を思い出して吐きそうになる。
その後で、親の仇の前で絶頂に達してしまった自分への嫌悪感が襲う。

(私……あの時確かに……感じていた……)

ソファで自らを抱きしめるかのようにして震える香織。
……ファサッ。
そのとき、香織の背後から毛布がかけられた。

「お嬢様、お茶が入りましたよ」

神崎が気を遣って毛布と温かい紅茶を持ってきてくれたのだ。
毛布に包まり、レモンティーを一口啜ると柑橘系特有の酸っぱい香りが
ようやく気持ちを落ち着かせてくれた。

「これは酷い……奴に陵辱されて……あ、いや、その……」

手首の縄の跡に目をやった執事が目を見開き、その後「陵辱」という
直接的な言葉を発してしまったことに気づいて口ごもる。
香織は厳しい表情でしばらく考え込むと、ポツリと言った。

「ううん、いいの、本当のことですもの。
 私、アイツに汚されてしまったの……怪盗失格ね」
「いいえ、そんなことはございません。何があろうと肉体でのことです。
 その内奥にある心さえ折れなければ、恥じることなどありません。
 それに、それに、こうして無事に帰って、きて」

何とか元気づけようと言葉を紡いだ神崎だったが、
しだいに彼女を心配する気持ちが涙となって溢れ出したようだった。

(……このままじゃいけない。今回はなんとか盗んでこれたけど、
 魔力を引き出した人間相手では『月』のカードだけでは限界がある。
 複数のカードを持っていかないと……次は……)

難しい顔で考え込む香織をよそに、神崎はテレビの画面に釘付けとなっていた。

「しかし……アレの方がよっぽど陵辱のような気がするのですが」

そこには。

全裸に亀甲縛りを施され、胸に『露出狂』と書かれた紙を貼られて
往来に投げ出された飯綱昇の姿が報道されていた。

〜『吊るされた男』奪還完了〜
残りカード枚数…五枚