「涼人! 来たぞ、奴からの予告状だ!」
「っ!」

そう何故か笑いそうな大山から言われ、涼人は椅子から立ち上がる。
そして、大山に、正確には大山が持っているカードのようなものに視線を移した。

「……それが?」
「ああ、奴が送って来た予告状だ」

そう言う大山に、涼人は何故か信じられないような表情でそのカードを見詰め……、次の瞬間、思い切り吹き出した。
見ると、大山もそれにつられたのか、我慢出来なくなったのか吹き出していて。

「何ですか、何なんですかそれは! あいつら、全然『レインボーキャット』の予告状がどんな物だったのか、分かっちゃいない!」
「ああ、まさかここまで子供だましの予告状送って来るとは思っていなかった!」

そう、文字通り笑い転げる涼人と大山。
2人が笑い転げるのも無理は無い。レインボーキャットの予告状は、虹色のカード。
それに、どうやったのか、猫のような形をした透かしが入っていて。
しかし、この予告状は、猫のような形をした透かしどころか、ただの白いカード。
しかも、本物はタイプ打ちなのが、これは定規を使ったと思われるサインペン書き。
……つまりが、子供のいたずらとしか思えないような予告状だった。

「……全く、受け取った時は笑いを堪えるので精一杯だったぞ……」

そう、ようやく笑いの発作から解放された大山が言うと、涼人もくすくす笑う。
そして、一転して真剣な表情になると、口を開いた。

「……で、それが、それらが、予告状なんですね」
「ああ。だが……3枚あるんだ」

そう言う大山の手には、確かに3枚の予告状があって。
そんな大山に、涼人はにっこりと笑って聞いた。

「それ、同じ日、同じ時間に盗みますよ、って事でしょう?」
「あ、ああ」

その大山の答えを聞いて、涼人はにっこりと笑い、言った。

「……やっぱりね。後3回盗んだら捕まる。だったら一気に3回やればいい……。予測通りだ」


「おい、それはどう言う事だ?」

そう言う大山に、涼人はにこにこした笑みを崩さないままで口を開く。

「単純ですよ。小原さんとセシリア王女から向こうの首領とおぼしき女の人のデータは取ってあるんです。
 そこからプロファイリングしてみたんですよ、その首領の性格を。
 すると、高飛車、もしくは勝気。つまりは、挑発に乗りやすい性格であろうと判断出来たんです。
 そして、後3回盗む前に捕まえるって言えば、一気に3回盗んでやろうじゃないかと考えると踏んだんですよ」
「……成る程な。そして、向こうはその涼人の誘いに乗った。そう言う訳か」

その涼人の説明に、納得したように頷いて大山は言う。
そんな大山を見て、涼人はさらに笑みを深い物にして、口を開いた。

「ええ。その3回って言葉自体が、偽者を捕まえるための罠とは知らずにね」

そう言って、涼人は大机の上に地図を広げ、ある一点を指差す。

「その3箇所って、ここでしょう? 大山のおじさん。江口邸、樋口邸、そして福岡記念美術館」
「あ、ああ」

そう、半ば呆然と大山は涼人の問いに返す。
この距離からは、カードのデザインは読み取れても中に書かれてある内容までは読み取れないはずだから。
しかし、涼人はそんな大山を見てくすくす笑うと、口を開いた。

「単純ですよ。僕が言ってくれとお願いした3回……、その言葉自体がここに追い込むための罠だったんですから。
 フルシアさんから貰った目録で調べたんです。レイザル王国の美術品の所有者が集中してる場所は無いかって。
 そして、ここが出て来たんですよ。3つの所有者が隣接している場所が。
 ここ以外に、3つの所有者が隣接している場所は無いですからね、3箇所から同時に盗もうとすると、ここしかないんです。
 ……えっと、予告された日時はいつですか?」

そう言われ、呆然としていた大山は我に返った。

「あ、ああ。今週の日曜、午後9時だ」
「分かりました。もう下調べは済ませてありますから、ゆっくりと罠を仕掛けるだけですよ。
 ……絶対に、逃がさない。絶対に一網打尽にしてあげますよ。
 こう言うのはあまり言いたくはないんですけど、ICPOに所属していると言う誇りにかけて」

そう言ってにっこり笑う涼人を見て、大山は涼人の本気を出させてしまった偽者に、深い同情の念を抱いた。


「里緒、来週始めにはフランスに戻る事になると思うよ」

戻って来るなりそう言った涼人に、里緒は目を丸くする。
そんな里緒に、涼人は笑って口を開いた。

「日曜、午後9時に来るって予告状が来たんだ。そこで絶対に捕まえ切れる。そんな確信があるんだ」

そう言った涼人に、里緒は納得したように頷いた。
涼人がこう言う風に自信たっぷりに言う時は、大抵その予告通りになるから。
すると、涼人が苦笑して、天井を見上げた。

「……泊めてくれてる一美さんには悪いけれど……、こんな豪華な家は、僕には似合わないからね」
「あはは……、たまに泊まるくらいならいいけど、毎日毎日は、私達庶民の感覚じゃ、ね……」

その涼人の言葉に、そう言って里緒も苦笑する。
日本に来てから、涼人と里緒は一美の家に下宿していたのだが、どうやら資産家の家は2人に合わないようだった。

「僕は、元々最低限の機能さえあればいいからね。ここまで至れり尽せりだと……、ちょっと、ね」
「あはは、何て言っていいのか分からないけど、嫌なんだよね」
「不足点は何もないんだけど……、逆に何もないのが不足点って言うか、何と言うか……」

そう言って、涼人はにっこりと笑って、里緒に向かって言う。

「それに、さすがに他人の家でしちゃう訳にも行かないしね」
「ぁぅ……」

そう言われて、里緒は思わず真っ赤になる。
日本に来てから今日で約2週間。その間、涼人は1回も里緒を抱いていない。
いつもなら最低でも2日に1回は抱いているのに、である。

「ずっと自重してるけど……、さすがにそろそろ限界だからね。
 ……フランスに戻った時、覚悟しておいてね♪」
「うにゅぅぅ……」

そう満面の笑みを浮かべた涼人に言われ、里緒は真っ赤になった顔を一気に真っ青にする。
そのまま真っ赤になったり真っ青になったり忙しい里緒を見て、涼人はくすくす笑う。
と、その時、涼人の懐にある携帯電話から着信音が響いた。

「あ、はい。……大山のおじさん? ちょっと、待ってください」

そう言って、涼人は少し里緒にすまなそうな視線を送ると、部屋から出た。


すると、それと入れ替わりに一美が部屋に入って来る。
そして、扉が閉まったのを確認すると、一美は里緒に向かって口を開いた。

「里緒。涼人さんから聞きましたか? 明日、『フェイク・キャット』が現れると」
「……『フェイク・キャット』?」

そう言った一美に、里緒は思わず首を傾げる。すると、一美は苦笑して、口を開いた。

「偽者の事ですわ。あんなのを『レインボーキャット』とは呼びたくありませんもの」

そう言うと、一美は真剣な表情になって、口を開く。

「涼人さんから、『フェイク・キャット』について何かお聞きしておりませんか?」
「えっと……、今回で絶対捕まえるって、だから来週始めぐらいにはフランスに帰る事になるだろうって」

そう、一美の問いに答える里緒に、一美はぐっと厳しそうな表情を浮かべる。
そして、そんな一美を見て、里緒も真剣な表情になって、口を開いた。

「……日曜日しか、ないよね?」
「そうですわね。少し、厳しいかもしれませんけれど、それしかないのなら……、やるしか、ありませんわね」

そう言った一美に、里緒はそんな一美の気をほぐすように微笑みかける。

「大丈夫だよ! 今までずっとやれたんだから、今回もやれるって!」
「そう……ですわね。そう願いたい、ですわね」

その里緒の励ましに、一美は何とか笑みを浮かべる。
そして、ちらちらと入って来た扉に視線を送って、里緒に言った。

「今は、いつ涼人さんが戻って来るか分かりませんし……、詳しい打ち合わせは、明日やりましょうか」
「そうだね。涼人君には、知られたくないもんね」

そう言って頷く里緒。
すると、その瞬間脳裏に何かがひっかかるような感じがして、里緒は首を傾げた。

「……里緒? どうかなさいましたの?」
「何か、忘れてるような気がして……」

そう言って里緒は首を傾げるが、やがてぶんぶんと首を横に振る。

「駄目! 思い出せない!」

……そう、里緒は思い出せなかった。レインボーキャットになったら、おしおきだと言う事を。


「日曜……か」

そう言って、小原はぐっと拳を強く握る。
震える程強く握っている拳を見て、セシリアはきょとん、として、小原に声をかけた。

「小原様? どうかなされましたの?」
「あ、いえ……」

そう、セシリアの問いに小原は答えるものの、握った拳は開かずに。
そして、小原は俯くと、呟くように口を開いた。

「せめて、現場に立ちたかったな、と思いまして……」
「!」

その言葉を聞いて、セシリアは思わずその場に立ち尽くした。
医師の診断結果は最低でも3ヶ月の入院が必要。そして、まだ小原入院してから半月少ししか経っていない。
つまり、小原が今現場に出る事は不可能だった。

「小原、様……」

小原のその言葉を聞いて、セシリアは思わず俯く。
そして、そのまま小原の胸に飛び込んだ。

「わっ!? セ、セシリア王女!?」

そのセシリアの行動に、小原は思わず真っ赤になって慌てる。
しかし、すぐにセシリアの身体が震えている事に気付いた。

「セシリア……王女?」
「ごめ……なさ……っ、ごめんなさ……っ!」

ぎゅうっ、と小原の服の胸元を掴み、ぐすぐすとべそをかくセシリア。
そんなセシリアに気付き、小原は慌てるが、すぐにふっと微笑んで、セシリアの頭をぽんぽんと叩いた。

「……あ……」
「何で、謝るんですか?」

そう、微笑みながらセシリアに言う小原。
そんな小原を見て、セシリアはいたたまれないような表情になって、口を開いた。


「だって、私のせいで、小原様にこんな怪我を……!」

そう叫ぶように言うセシリアに、小原はもう一度微笑む。
そして、そのままぎゅっとセシリアの肩を抱いて、口を開いた。

「多分、涼人君ならこう言うだろうね。『でも、こんな怪我しなかったら、あなたと会えなかった』」
「え……?」

小原にそう言われ、セシリアはきょとん、と目をぱちくりさせる。
そして、そんなセシリアを見て、小原は続けた。

「涼人君が言うような事しか言えないのが恥ずかしいけれど……、でも、私も同じ気持ちですよ、セシリア王女」

そう言った小原の言葉を聞いて、セシリアの目頭にまたみるみるうちに涙が浮かぶ。
そんなセシリアを見て、小原はもう一度微笑むと、セシリアの顔を自身の胸に押し付けた。

「泣くんなら、いくらでも泣いてください。私の胸で良かったら、いくらでも貸しますから」
「う……え……、ふえええええっ!!!」

そう小原が言うと、セシリアはぎゅうっと小原の服を掴んで号泣する。
そんなセシリアの頭を撫でながら、小原はセシリアにばれないように苦笑した。

「(どうやら……、捕まっちゃったかな? セシリア王女に)」

そう小原が考えていると、

「王女、申し訳ございませんが、もうそろそろお出になりませんと……」

そう言って、フルシアが病室の扉を開けて、そんな状態の2人を見て、

「……今日の予定は全てキャンセルしておきます。お楽しみを」

そう言って、開けた扉を閉じた。

「ちょっ、フルシアさん!?」
「はい!」

慌てて小原はそんなフルシアを引き止めようと声をかけるが、セシリアは満面の笑みを浮かべてそんなフルシアに答える。
結局、その日1日中、小原はセシリアにくっ付かれて、小原は精神的に瀕死状態になった。