一方、その頃。

「……で? 向こうに行ってからの1月で何回抱かれましたの?」
「そ、そこまで言わなきゃいけないの……?」
「当然ですわ♪」
「ふええええっ!?」

一美の家では、にやにや笑った一美が、里緒を質問責めにしていた。
そんな一美に、里緒はただただ真っ赤になってあわあわするだけだった。

「わ、わかんないよう……」
「……ふむふむ、つまり、分からない程抱かれたって事ですわね♪」
「にゃううううっ!」

そう、にやにや笑いを崩さずに言う一美に、里緒は真っ赤になる。
すると、一美は急に笑いを納めて、口を開いた。

「……まあ、冗談はこれくらいにして……、里緒、聞いていますわね? 『レインボーキャット』の事」
「うん、知ってるよ。私じゃない、私の事は」

そう、ころっと空気を変える一美と里緒。
もしこの場に涼人がいたら目を白黒させたに違いないが、これが、一美と里緒のいつもの空気だった。

「里緒。里緒はこれでいいんですの? ……『レインボーキャット』を騙る人を放置していて」

そう言う一美に、里緒は首を横に振る。

「……その騙る人が、私と同じだったら、復讐の為に怪盗になるしかなかった人だったら……。
 私は、そのままにしてたと思う。ううん、悪人からだけ盗む人でも、私はそのままにしてた。
 でも、この人は、違うんだよね……」
「ええ、少なくともそう考えている人は数人の仲間を引き連れて銃を乱射したりはしませんわ」
「だったら……私は許せないよ。『レインボーキャット』の、誇りにかけても、私は偽者を倒したいな」

そう言った里緒に、一美は微笑んだ。


「……里緒が、そうおっしゃるのを待っていましたわ」
「ふえ?」

そう言った一美に、里緒はきょとん、と首を傾げる。
そんな里緒を見て、一美はにっこりと笑って、言った。

「また、いつでも動けますわよ? 『レインボーキャット』は。
 スーツも保管してますし、武装だってそうですわ。……里緒の決心次第で、いつでも予告状は出しますしね」

そう言った一美に、里緒はくすり、と微笑む。
そして、一美に向き直ると、くすくす笑いながら、言った。

「あいかわらず、用意いいね、一美」
「当然ですわよ。私は『レインボーキャット』のサポートをして来たのですわよ?
 この程度、しておかなかったら私はサポート役失格ですわ」

そう言ってにっこり笑う一美を見て、里緒は思わず吹き出す。
そして、飛び付くように一美に抱き付くと、口を開いた。

「やっぱり、一美は私の1番の親友だよ! 私がやりたい事をやらせてくれる、私をいつも助けてくれる!」
「り、里緒?」
「だから、私の助けが必要な時はいつも言ってね? 助けられるだけじゃ、親友として恥ずかしいもん!」

そう、にっこりと笑いながら擦り付いてくる里緒を見て、一美は少し慌てる。
……そして、ふっ、と微笑んだ。

「(……私は、里緒といるだけで十分癒されていますし、助けられているんですわ。
 私が里緒を助けようと決心したのも、今の里緒と同じ理由なんですわよ)」

そう考えると、一美は今度は苦笑する。

「(……でも、涼人さんも大変ですわね。こんな無防備な里緒とずっと一緒にいて、理性を持たせなければならないなんて……)」

実際は、理性を持たせる事無く、2人きりの時にそうなったら涼人は即襲っているのだが。
しかし、そんな事を知る由も無い一美は、涼人を僅かに気の毒に思った。

「えへへ〜一美〜」
「もう、里緒ったら……」

しかし、すぐにその感覚を頭の中から追い出すと、久し振りの親友同士のスキンシップに全神経を集中させた。


と。

「……何……、やってるんですか? 2人とも……」
「……あ」
「ふにゅ?」

突然そんな声が聞こえ、一美と里緒が振り向くと、そこには引き攣った笑みを浮かべる涼人の姿があった。
目が合って、思わず一美と里緒はその顔に笑みを浮かべると、

「え、えっと……、邪魔しちゃいましたね、後はお2人でごゆっくりー」
「ち、ちょっと、涼人さん!?」
「涼人君! ち、違うの! これは、その……、とにかく違うの!」

そう言って涼人は開けたドアを閉じようとして、絶対に変な誤解をされていると思った一美と里緒は慌てて涼人に飛び付いた。

「涼人さん、これは違いますわ! その……、親友同士のスキンシップなんですわ!」
「そう……なんですか?」

閉じさせないように扉を押さえながら一美がそう言うと、涼人の動きがようやく止まる。
と、そんな涼人にすがりついていた里緒が、続けて口を開いた。

「そ、そうだよ! 私が、その……」
「?」

何かを言いかけて口篭もる里緒を見て、涼人は思わず首を傾げる。
と、何故か俯いて真っ赤になっていた里緒が、決心するように顔を上げて、言った。

「わ、私がね、す、好きなのは、涼人君しかいないんだよ?」
「―――っ!?」

恥ずかしがりやでそう言う気持ちはいつも口に出す事の無い里緒のその言葉に、涼人は思わず赤くなる。
もちろん、そんな言葉を言った里緒はそれ以上に真っ赤になっていて。
そのまま2人が真っ赤になったまま立ち尽くしていると、

「……ごほん」
「「っ!!?」」

……横合いから咳払いの音が聞こえて、涼人と里緒は思わず飛び上がった。
すると、完全に2人に忘れ去られていた一美がにやにや笑いながらそこに立っていて。
涼人と里緒は改めて真っ赤になった。


「ぅ〜……」
「あ、あはは……」

真っ赤になりながら、ただただ俯いてうめくだけの里緒と、苦笑している涼人。
すると、そんな2人を見た一美が、まだにやにや笑いながら言った。

「……どうやら……、フランスでも里緒は里緒で、涼人さんは涼人さんのようですわね♪」
「な、何よそれぇ……」

そう言った一美に、里緒が真っ赤な顔をしたまま聞く。
すると、一美はにやにやとした笑みを崩さないままで口を開いた。

「里緒は好きな相手には本当に純情ですし、涼人さんは冷静に見えてこと里緒の事になると冷静さを失う、と言う事ですわ♪」
「!!?」
「か、一美さん……?」

そう言った一美に、里緒は飛び上がって、涼人は怪訝そうな表情をする。
そんな2人を見て、一美は口を開いた。

「里緒は昔から私に涼人さんとの恋愛相談をしておりましたし……、
 涼人さんも里緒が連れて行かれた後、マシンガンを持っていらっしゃる相手に襲いかかっていましたし♪」
「あ、あうあうあうあう……!」
「一美さん……言ってる事は間違ってないですけど……」

そう一美が言うと、里緒は真っ赤になって口をぱくぱくさせ、涼人は赤くなって頬をぽりぽり掻く。
そんな2人を見ながら、一美は何故か少し落ち込むような素振りを見せると、言った。

「……私にも、里緒にとっての涼人さんみたいな運命の人が、出来ればいいのですけれど……」

その口調が、とても真摯で、とても真実味があって。
涼人と里緒は思わず顔を見合わせて、慌てて一美に言った。

「だ、大丈夫ですよ! きっと一美さんにもいい相手が見つかりますって!」
「そ、そうだよ! あ、そうだ! 涼人君が空港で言ってた小原さん! 確か、かっこいいって言ってたよね、一美!」

そう言った里緒に、涼人は何とも言いがたい表情になって、言った。

「……ごめん、里緒。さっき病院で、小原さん王女様に迫られてたんだ……」
「……」

その言葉を聞いて、一美はとどめを刺されたようにその場に膝を突いた。


その頃。

「小原様ぁ……♪」
「ですから、あの、王女!?」

セシリアにぴっとりとくっ付かれ、小原はわたわた慌てる。
まだ背中の銃創が完治していない身体では、セシリアを突き放す事も出来ず。

「で、ですから離れてくださいって!」
「嫌ですわ、私は、小原様の看病をするためにここにいるんですのよ?
 ……それと、私の事は「セシリア」とお呼びくださいな♪」

しかし、言葉だけでは完全に暴走モードに入っているセシリアは止められなくて。
そのままぴっとりとくっ付いてくるセシリアに、小原は真っ赤になった。

「(な、何だかいい匂いするし、何か無茶苦茶柔らかいしー!)」

パニックに陥る小原。
今まで女性経験が無いとは言わない、いや、むしろモテる方だったが、ここまで無防備に貼り付く女性はいなかった。
すると、くっ付いたままのセシリアが、さすがに少し赤くなりながら、口を開いた。

「あ……あの……、一目惚れですけれど、私は、真剣ですので……。
 ……私のはじめて、好きにしていただいても結構なんですわよ……」
「!!?」

そう言われて、小原は思わず硬直した。
すると、そんな小原の顔に、セシリアも自分の顔を寄せて……、

「んっ……」
「んむ!?」

触れるだけの口付けをされて、小原は一瞬何かを堪えるような表情をして……、
そのままセシリアを抱き寄せた。

「小原……様?」
「あー……もう! そんな顔されて、そんな行動されて、我慢できる訳が無いでしょう!?」

きょとん、としているセシリアにそう諦めたように言うと、今度は小原からセシリアに深く口付けた。


「んはっ……、はふ……ふあぁ……」

ある程度セシリアの口内を荒らして小原が口を離すと、セシリアはくたぁ、と小原の上に崩れ落ちる。
そんなセシリアを見て、小原は笑みを浮かべ……、セシリアの肩を押して、その身体を起こさせた。

「お、はら……さま……?」

きょとん、としているセシリアを見て、小原は笑みを浮かべると、口を開いた。

「はじめて、なんでしょう? そんなのは、こう簡単に捧げるものではありませんよ。
 ……それに、あなたは確かに一目惚れをしているんでしょうけど、私はまだ貴方の事をよく知らないんですよ?」

そう小原に言われて、セシリアは思わず固まる。
すると、そんなセシリアを見て、小原はくすり、と笑って、言った。

「そんなに長い間待っていてくれとは言いませんよ。
 ……この事件が終わるまで、それまでには、答えを出しますから、それまでは、その……」

そう、しどろもどろになりながら言う小原に、セシリアはくすり、と笑って、口を開いた。

「……分かりました。小原様の答えはとても誠実なものですから。私、待ちますわ」

そう言ったセシリアに、小原はほっとしたような表情を浮かべる。
と、そんな小原を見て、セシリアはぎゅっと自分の服の裾を掴んで、口を開いた。

「あの……、1つだけ、お教えいただけますか?」
「え? あ、はい」
「私に、その、迫、られた時……、どう思われましたか?」

そう、顔を真っ赤にしながら聞いてくるセシリアに、小原は思わず吹き出す。
すると、セシリアは今までの顔の赤さとは違う理由で顔を赤らめた。

「わ、私は真面目に聞いているのですよ! 何故笑うのですか!」
「わ、わ、すいません、すいません!」

そのままぽかぽかと叩いてくるセシリアを、小原は慌てて宥める。
それが、2人にとっては大真面目な事だとしても、傍から見る限りでは、それはいちゃついているようにしか見えなかった。