ババババババババ………

ヘリコプターの喧騒が近づいて来る。
「っ?!!!」
振り返るフィズの視界に入ったのは…四本の柱で天高く持ち上げられた美術館。
ヘリが来ても不思議はない突拍子もない風景。
そしてそのヘリは当然、問題の建造物に徐々に接近してくる。
…悲鳴を必死で飲み込む。
その付近をゆるゆる漂う胸パットの気球は飽くまで非常用の装備…
ヘリに積極されればその風圧でどうなることか……
だがフィズの飲み込まれた悲鳴は生命危機に対してではない。
恐怖したのは…ヘリの放つ光……サーチライトだ。
その光に照らされれば……映しだされるのは……生まれたままの姿………

(いや!……やだぁ!……もうこんなの………いやあぁ………もう…『Fizz』やめる!
 だから……もう許して……っ
 お願いだから……来ないでえ………っッ!!!)

音に、声にしないからこそ思考が爆発する。
あまりにも高空、だから今までは『視られる』という恐怖は薄かった。
それが一気にひっくり返された。警察かマスコミか…
誰であっても関係ない、視られる……撮られる………
このまま悠長に浮かんでいれば確実にだ。
そしてバッテリー残量の少なさ……
重力軽減と光学迷彩を同時に発動できないほどに消耗している=ゼロになるのも目前…
あまつさえ自由に行動出来ない今の状況……
落下を覚悟で光学迷彩を使っても気球までは隠せない。追尾は簡単だ。
考えれば考えるほどに万事休す…袋小路、行き止まり……
絶望の材料は余るほど揃っている。なのに。
さらにハバネロ級の決定的なスパイスが加えられる。

……ドクン!

(ふあああっ!……なっ………なにこれぇ…………っ……っ………あっッ!
 ふぁ………あ………ん………はぁ………は…………はぁ…………っ!)
フル回転していたエンジン…心臓にニトロをブチ込まれたようだ。
一瞬尿意すら忘れかける。チョロリと漏れて…また全身全霊で蛇口を絞る……が

(やあ……おしっこは……止めてるのにぃ…………っ!
 なにか……あふれて………っ…やぁ………ひぁ……………)
それは確かに尿ではない。じゅわっと股間を湿らせていく粘りのある液体……
熱くなっていく体温、荒くなる吐息、紅潮の意味を変える頬、背筋に走る……快感。
(うそ……嘘っ!………やだぁ………なんで………………あっ!………ま、まさか!)
迂闊にも虚空へ跳び出した時……『思わず息を飲んだ』
…充満していた媚薬ガスが流れでていた扉周辺……媚薬が凄まじく強力なモノなら……
(そんな………外へ………出てた…のにぃ…………んぁ!……ひぁう………っ)
志由には…そうとしか考えられない。そして…例え原因が何であろうと……
(ダメぇ……風が当たるだけで…………ぅ……あぅ……んっ!)
ビクビクと痙攣してしまうほどに電流に似た快感が突き抜けてしまう。
顔をのけ反らせ逸る気で気球を見つめる……
(お願い………早く………ここから………っ?!ッ?!……〜〜〜〜〜〜〜っッ!!)

見つめた気球の一つに模様が浮かび上がる……バイザーを被った少女のシルエット……

全身が強張る。毛穴まで絞めているような感覚……
胸の微かな膨らみの先端まで完全に勃ってしまう……

「ぅ………うあああぁああああぁん………っ!!……っ!!…ッッ!!!」

振り乱す頭、その勢いでバイザーが夥しい水滴…涙で濡れる。


まだヘリとは距離があるが…やや下、背後からフィズに浴びせられる光……
陽光に曝された吸血鬼の気分だ。羞恥が全身を焼いていく。
反射的に光学迷彩を作動させようとして…落下の警告が表示されるが
即座にコマンドを最優先させる……その一瞬のタイムラグさえ呪う志由……

途端に重力に捕われ…ぐんぐん落下していくフィズ。
気球のおかげで自由落下ほどの速度はないが流石にパラシュートほどは減速しない。
パワーアシストの付いたブーツさえ履いていれば無傷で済むだろうが…
今の志由では良くても骨折ぐらいしてしまうであろう速度。
だが…そんな事を考えられる心理状態ではない。

(………お尻………みられちゃった………っ
 絶…対…………みられちゃったよおぉ……………っ!)

今度こそ幻影相手ではない、強敵と戦い、その結果の被害でもない。
ただの一般人、ギャラリーに生尻を晒したのだ。それも屋外で…
(こんなの……こんなの…………っ
 ……へんたい…だよ……わたし………変態…?!………やああぁ………ッ!)
落ちていく肉体と同様に堕ちていく精神……
相乗効果で志由の心に襲い掛かる絶望。
激しすぎる動悸も追い撃ちをかける。
興奮に応じてアドレナリンや様々なモノが分泌される。…伴って愛液も……
落下の風が容赦なく全身を嬲るせいもある。
もう志由は尿意と性衝動を押さえることだけで精一杯…ほかには何も出来ない。
気球のコントロールも…このまま落ちゆく先を思うことも……
…バイザーの生命保護優先プログラムのことを考える余裕も当然なかった。

漢との戦いでもそうであったように…フィズ=志由が自覚出来ない攻撃を受けても
…例えば遠距離からの精密狙撃などでもエアバリアは自動作動する。
同様に…負傷を避ける為に再び自動的に重力軽減に電力を回すのも当然なのだ。
それを避ける為には予めコマンド入力しておく必要があった…。

地上から30mほど…負傷しない速度まで減速できる限界高度で…それは起こった。
皮肉にも…大勢の観客がフィズを見失い探索するヘリを見上げて
気球の急接近に気付き凝視、ざわめき始めた頃だ。
バイザーに重力軽減発動予告のウインドウが表示された。
ひたすらに耐えるだけの志由は…理解するのに時間を要した。
(え………?  なに………?
 ………うそ…………うそ…………うそおおぉ…………っ!!)
反射、瞬時に咄嗟に両手で胸を隠し身を丸めるのと同時に重力軽減発動…光学迷彩消失…

「…こ、こうがくめいさいっ!………光学迷彩ぃいっ!!」

トサッと軽い落下音の直後にフィズの絶叫が響く。
幸い…と言っていいのかどうか…
フィズの落下先には観客がいて、その体がクッションになった。
でなければ気球を手放してしまった志由は重力軽減していても
相当なダメージを受けたはず…気絶していたかも知れない。
だが気絶しなかったことで…地獄の羞恥を…味あわなければならなかった。

胎児のように体を丸めた全裸の少女が突如空中に現れて落下するまで3〜4秒……
落下する気球の前振りを含め多くの人間が見上げていた。
全裸ゆえにその少女がフィズかどうか…バイザーまで視認出来たのは数人だったが…
皆、フィズを見るために集まっていたのだ。状況から考えてもフィズと決めてかかる。
さらに落着後の叫び…上を見ていなかった者にまで存在を報しめてしまった。
今や現場は阿鼻叫喚…馬が居れば目を抜かれただろう。
男女を問わず皆が皆、騒がしく周囲を探索している。
フィズが落着した場所を中心に人はどんどん集まる……
特にトラップで使用された立体映像の男たちと同類のような者達はカメラを手に血眼だ。


そしてフィズは…その騒ぎの中で微塵の身動きも取れずにいた。
呼吸…震え…目の瞬きすら止めている。
もし光学迷彩が効いてなければ人々に「これは人形だ」と思われたかも知れないほどに。
…最も全裸のフィズは例え人形だとしても視線の集中砲火を浴びただろうが。


叫びながらも無意識に地を蹴った志由は落着地点から数m離れたベンチの上まで跳躍…
重力軽減の効果があるうちに跳び速度を得てから
空中で重くなった為にそこまで跳べたのだ。
ベンチの上、本来は尻を置く場所に降り立てたことは真実に幸運だった。
この状況で座っている、座ろうとする者などいない。
…もし着地点が30cmズレていたら………
フィズを捜して激しく流動する人の波に揉まれていた。
見えない何かにぶつかった者は手探りででも正体を探ろうとするだろう。
そして消えられることこそフィズの証明…どこかを掴めれば離さない。
バッテリーが空になるまで捕まえられていた………いや、
わずかでも触れられた時点で志由は叫びを堪えることは出来なかった。
放尿し、喘ぎ、絶叫と共に志由の精神は崩壊してしまっていた。
そこまで追い詰められている。
それは今のフィズの姿勢、ポーズも物語っている。

爪先立ちの『気をつけ』の状態から両腕を肘から曲げ肩の横辺りに手がある……
…その小さな胸も、極薄の陰毛も、可憐なヒップも一切隠していない。
…………
……
着地した瞬間。
(ひゃああああう!…出ちゃう………おしっこ………もれちゃ…………ッ!)
本能が勝手に両手を動かした。
放出を止めようと尿道口を押さえたのだが……次の一瞬で両手は肩まで跳ね上がる。
(ふひぁあああああぁ!………らめえぇええッ!!)
手は尿道口のみならず性器全体を押さえてしまった。
その際の全身を貫く電撃が手を肩まで上げさせたのだ。
限界の数倍を軽く超越する羞恥に…性感も数倍に増幅されていたのだ。
そのまま股間を押さえていたら…間違いなく自慰を始めていた。
手を上げたのも本能……精神崩壊を避ける為、理性を保つ為の行動…
そして守られた理性が今の微動だに許さない硬直を命じる。
手で股間を押さえずに放尿を止める唯一の手段だ。
志由は考えて行っているわけではないが……
新陳代謝を極力抑えることと動かないことで尿道口に綻びを作らない点で有効な方法だ。
まさに気絶の一歩手前、志由の桁並外れた羞恥心の成せる荒業だが……
…そんな状態を長く継続させられるはずもない。
1分以上も保った現時点で僥倖だ。
…決壊は秒読み段階に入った。

思考までも止めていた志由だが…
決壊を前に何とか事態を打破できないかと知恵の悪あがきを再開する。
が。…もうモジモジと太股を擦り合わせるだけで尿は漏洩してしまうのだ。
愛液に至っては何もしていなくても太股を一筋、二筋、雫が這っていく。
躯は変わらず微動すら出来ない。
そんな状況で志由が何も出来るわけがない。

(たくさん…こんなたくさんの…ヒトの前で………
 オトコのヒトも女のコも…たくさん…いるよぅ………
 カメラ持ってるヒトも…いっぱい………
 こんな……とこで…………あ……ひあ!…あのヒト…こっち見た…………っッ!)
志由の半径30m以内に5、60人はうろうろしている。
フィズの姿は見えなくてもたまたま見た方角の先に志由がいることなどままある。
それだけのことなのに…光学迷彩が効いていることも忘れて戦慄した。

ブルッ………抑えていた反動…一際大きく身体が震え…………


ぷしゃあッ!

(ふひあっ……………あっ…………ぁ……………)

躯の震え、動きと同調して尿が噴き出した。
飛沫がベンチとその下のコンクリートを濡らす。
最後の全力制止…一応は止まった、止められたが…これまでで最大量の放出…
その壮絶な開放感……身体は勝手にGOサインを出す。
叫ばなかったのは先程まで通用していた無我の境地を呼び戻すためだが……
(止まって………止まって………………止まってぇ………………っ!)
心臓までは止められないように生理現象をこれ以上留めるのは無理だった。

ぷしゅ!……チョロ、チョロロ………シャアアアアァァ…………………

(あ………あ…………ああ…………ぅ…………あああ……………)
思考が真っ白になっていく。
突き抜ける爽快感、紅蓮に燃え盛る恥辱、
気絶したいのに…それすら凌駕する………性的な快感。
志由は…生まれて初めてのオーガズムへ向けて…高く…高く昇天していく。
立ったまま失禁しながら……尿を漏らす、ただそれだけで………
…ベンチとコンクリートを叩く水の音に気付いた男が志由のほうへ振り返っても……
減速できないどころか加速する。

(みてりゅ……あのヒト………知らないヒトに…みられてりゅ………ッ!
 し、志由が……おもらし…してりゅとこ…………
 おしっこ…してるとこ……みられてるぅぅッ………ッ!)

凄まじい羞恥の津波……志由はなす術もなく…その悦楽に流されていく。
光学迷彩はまだギリギリ機能していた。フィズのそれはハイスペック、
迷彩表面が濡れようとも瞬時に水滴までカバーするため
尿と愛液が伝いびしょ濡れの太股から足先も完全に不可視だ。
しかし。フィズの体表ではない空中…放物線を描く尿の奔流は誰の目にも見える。
街灯の明かりで雫の一滴一滴が光り輝く。
その不思議な現象の答えを男は近くの男に尋ねる。
「おい、…なんだアレ?」
その声に二人、三人…視線の数が増えていく。

(ひぁ………ひああ…………みんなが………みてりゅよお……………
 わらひが………おしっこ……おもらし…してりゅとこ………っ
 ………はぁ…ぅ………キモチ………ぃ…ぃ……………?
 はぅ……くふあ………………っッ!)

志由が自然にその頂きに昇り詰めようとするその時……電力切れの警告音が響く。
『バイザーの』光学迷彩は解除されてしまった証拠だ。そして響く誰かの叫び。
「…フィズだっ!!」

(ん…っッ!…〜〜〜〜〜〜〜ッッ!!………ぁ…きゃあああああぁあ………
 …………………………………………っ……っッ!!!)

名を呼ばれた瞬間…絶頂の高みから更なる忘我の極みへ飛ばされる。

果てしないエクスタシー…一抹の理性も…最後の断末魔を残し消え去った……………


「あ……………あ…………は…ぁ………♪
 ん………はぁ………んぅ…………ぁ………………///」

絶頂…余韻…絶頂………それを繰り返す志由は…甘い喘ぎを声にしていた。
近くにいれば完全に聞こえる音量だ。
色を失った瞳はもう何も映していない。
糸が切れた操り人形のようにベンチにM字に座る…
いまさらながら和式の放尿スタイルになって尿に濡れた性器や足に当たる風の冷たさに…
ほてりを醒ますような快感に身を任せる。
…そんな状態だ。
観客が群れをなして『離れていく』ことにも気付けるはずもない。

男が叫んだ対象…その『フィズ』は『失禁した志由』のことではなかった。
…棒高跳びなら届きそうな空中に突如現れたフィズを見て指で差し示し叫んだのだ。
全裸ではないが…スカートやドレスの肩が破れて非常に際どい衣装のフィズ。
相変わらず何層ものペチコートに阻まれ下着も露出していないが…
今にも見えそうなチラリズム…エロさ全開…苦悶の表情…
いつもの精彩を欠きフラフラと空中を漂っていくフィズの『幻』を群集は追っていった。

『後始末』を一応終えて追い付いたクマのぬいぐるみの仕業…
ピーチが投影するホログラムのフィズはその役目を充二分に果たした。
もう少し行列を行進させて観客が疲れた頃合いを見計らい消す算段。
フィズ、志由自身の体も光学迷彩をピーチが発動、その存在を消していた。
「……さて……どうしようかなぁ………?」
…呆れ半分、途方に暮れ半分でピーチは独り言を呟いた。

志由の動きは広域センサーでチェック、そのバイタルもバイザーを通じて把握していた。
(…まさか…視られる、視られると思っただけで…こんなにHになっちゃうなんて……)
そう、媚薬ガスは効いていなかった。
ピーチは機能回復後、すぐに換気作業を行ったのだ。
元々二階の一部…フィズの進路にだけ散布されていたガスだ。
…短時間でかなり薄くなっていた。
それでも万全を期して、志由が発情しないように外へ急がせたのだが…
非常口で呼吸を確保するだけでよかったのだ。
まさかブラ一枚で虚空へ身を躍らせるとは思ってなかった。
それに…性に臆病な志由が視られて発情するとは思ってなかった。
(ううん……もともと感じやすいコだから……逆にHが怖かったんだ……)
自分で制御できないほど強い性欲を…無理矢理封じ込めてきたことになる。
ふとしたきっかけで炸裂しても不思議ではない。
溜めに溜めたぶんだけ強烈に発情した………今になって理解る事実。
そして凄まじいが故にこれ以上の刺激は危険だ。
「人前で失禁しイき果てた」…こんなことは誰にも知られたくないはず。
たとえそれがAIであってもだ。仲間であるピーチであってもだ。
他者に事実を認識されることで志由自身も深く事態を認識、傷ついてしまう。
ピーチも格下のAIにイかされまくった事実は志由にだけは知られなくない。
大好きな志由にだからこそ……
…『志由が好き』
その気持ちを自覚できたのが今回得た最大の報奨…ピーチはそう考える。
こんなことで二人の関係をギクシャクさせたくない。
(やっぱり…気絶するまで待って…私は何があったか知らないフリして………
 う〜、それじゃ志由が恥ずかしいとこ視られたことになるし…
 やっぱ発情したのは媚薬のせいってことにして……)

ピーチがそんなことで悶々と悩んでいる間に…志由は……
…その小さな手で、指で胸の突起を撫でる。
「あ………んぅ………ちくび……キモチぃ……………っ」
誰に言うでもなく感じたままを言葉にする。
それを聞いたピーチは焦りと…言い知れない感情を覚えた。
(そっか…イったのは心だけだから……カラダは…まだ欲しいんだ………)
冷静に状況を分析しながらも回路を廻る電子の不安定さを隠せない。


もしピーチが生物なら…激しく脈動する心臓で興奮状態を自覚出来たかも知れない。
そう、オナニーを始めた志由に対して………ピーチは欲情を覚えたのだ。
…電脳空間での危険極まりなかった、
それでいて悦楽も半端なく凄まじかった…志由との交わりがリフレインする。

(今度は…私が…志由をキモチよく……………っ?)
クマのぬいぐるみが首を振る。誰も見ていなくても人間くさい動作を行う超AI…。
そこに志由を思いやる気持ちがあることも間違いない。
しかし大半は自身の欲望…志由を抱きたいというエゴ。それもまた事実。
(やっぱり…ダメ!……志由が自分で満足するまで…)
誰にも認識されないように超結界でガード…それ以外はしない。
…襲っても許される状況。想い人をだ。…しかし。
志由が望むときに結ばれたい。その気持ちが劣情に勝ったのだ。
……短い勝利…だったが。

…例えば空腹の状態で御馳走を前にどれくらい我慢できるだろう?
電脳空間で自らの中の志由と交わった…言わば志由をネタにオナニーした。
直前にそんな経験をしたピーチ、妄想ではない御馳走が目の前で跳ねる。
それを『小1時間』は拷問以外の何物でもない。
そう、『一時間』…志由はそのまま拙い自慰を続けていた。
見守っている方…ピーチはもう限界だった。
(こんなの……こんなのォ………いけない……ょ………っ!)
クマの本体上部に自身の、人型の虚像を投影して晒している。
欲情に身を任せる姿、両膝で中腰になり股間と乳房を弄ぶ様をだ。
無論、志由に悟られない位置、結界も警戒も維持したまま……
姿を晒すのは志由のオナニーを覗いて自慰に耽る自分に対する戒め…
背徳の思いがそうさせるのだが…それは志由も同じだった。
(…クスリの…せい…媚薬の…せい……だけど………
 お外で……みんなに……お尻…ハダカ…みせて………おしっこ…漏らして……
 こんな……恥ずかしいこと…しちゃう…なんて………ッ!)
…淫乱以外の何者でもない。無意識…本能のレベルでは理解しているのかも知れない。
媚薬など効いていない事実を。
『一時間』という時間は志由の精神を回復させていた。
初めてのオーガズムから醒めてみれば…羞恥と後悔の…豪雨、暴風。
その罰として、罪を償う意味で、羞恥を味わっている。そんな気分なのだ。
…建前は、だが。
観客が消えたことも逆に災いしていた。自慰行為を止められない。それも一時間も……
実際には自らの指だけでも過敏に反応する性感帯を、再度の絶頂を恐れているのだ。
無意識下ではその上で甘美な快感を長く愉しんでいる面もある。
理性では、表層意識では絶対に認められない…極度に変態度の高い性癖。

((でも………このままじゃ…………っッ!!))

二人の少女を苛む性の疼きは治まらない。
二人は同じように…決定的な刺激を求めていた。
磁石のように被虐と加虐が惹き合っている。それでも動くべき加虐側…
ピーチは何も出来ない。
(志由……しゆぅ………っ)
好きだからこそ、自分はAI…本来隷属すべき立場だからこその…金縛り。
…物理的な理由も一応はある。
先程の敵AIとの攻防…その絶頂、再起動の際には結界を維持できた。
だが今度は…本物の志由と本当に性行為をしては…結界を張り続けられる自信がない。
それほどに溺れてしまう確信。それがどれほどの危険か…
…実際には対応策はあるのだが…ここまでの苦難を、この勝利を危うくしたくない。
その二つの呪縛を解き放つ為には…『彼』の回復を待たねばならなかった。

「何をしておるか!」

志由には聞こえない大きさの囁き、ピーチには大音量のサイレンに思えるほどの。
…遥か上空から『漢』の声が響いた。


その漢の巨躯が高空…上から降ってきたとき。
ピーチはフィズのバイザーの索敵機能を無効にした。
しかし志由自身が自分の聴覚等の五感で『漢』の気配に気付いたら…
恥ずかしい自慰、この状況…野外での行為を他者に見られたら…その心は砕け散る。
凄まじく焦ったが…漢は気配を絶つことにも長けていたようだ。着地もほぼ無音、
志由は至近距離…木々の影に漢が降り立ったことを察知できず恥態を晒し続けている。

「ちょ、ちょっと!…契約破る気?!
 私はちゃんと守ってる!…フィズと…私の…映像、ちゃんと…見せてるでしょ!
 『ソルジャードッグ』と呼ばれる超一流の傭兵…貴方が約束破る気?!
 そっちがその気なら……爆弾!…作動させちゃうからね!」

小声で言いつつ…爆弾作動は志由に悟られる公算が高い、不可能だとも悟っていた。
…そして同時に思い出す。『漢』との奇妙な契約を結ぶことになったいきさつを…

……
………
フィズが『漢』の前から去った後…一分ほどでクマのぬいぐるみ…ピーチは来た。
ピユピユと幼児の靴が鳴るような足音で立ち往生…麻酔で気絶している漢の前で進み…

「『組織』とも対等に交渉できる…契約無しでは組織に従わない、勝手に契約を破れる…
 それが許されるほどの実力を持つ傭兵『ソルジャードッグ』…
 惜しい気もするけど…死んでもらうわ…」

その言葉の終わり、クマの背中から触手が一閃!
蠍の針のように漢の体…胸、心臓を貫こうとするが…
「…なんてこと!…気絶してるのに!」
気を失っていても漢の纏う『闘氣』は失われていなかった。
コンクリートに穴を開けることも苦としない触手ですら皮膚も破れない。
無駄を悟り触手を止めるピーチだが…
(フィズ…志由の秘密を守る為には…殺すしかない!)
「…目ん玉からなら…脳味噌を…」
触手を瞼に向け操作しながら何気なく呟いた言葉に返答があった。
「効かぬ!…殺るならば鼻と口を押さえ呼吸を封じるのだな…
 …あるいは痺れが回復する前に窒息するやも知れぬわ」
『漢』自身からのアドバイスにピーチは触手の進行を止める。
見開かれた漢の眼光…確かに触手で貫けるものではなさそうだ。
(…普通なら三日は昏睡する麻酔を…化け物が……)
「……窒息死するのにどれくらい時間かかりますか?」
率直な質問を本人に向けるピーチ。不敵に微笑を浮かべ答える漢。
「…30分くらいか?…その間に腕くらいは動かせるようになるだろうがな!」
…他の殺傷手段を検討し始めるピーチに漢のほうが問いかける。
「…踏み止まるわけにはいかぬか?」
「むしろ闘氣を解いてくださいよ!」
即答するピーチだが…その台詞は漢の殺傷が困難だと吐露している。
そして尋ね返す。
「…どうして…フィズの麻酔針を喰らってくれたの?」
この闘氣…麻酔針など無効なはず……しばしの間を置いて漢が答える。
「汝の心意気が我が氣を上回ったのやも知れぬな……」
ツッコミを…「じゃあ何で今、殺せないのか」と入れようとしてピーチは止めた。
漢は油断していたわけでも手心を加えてくれたわけでもない。
麻酔針が刺さったのは単なる結果…それを悟ったからだ。
今、殺害出来ないのも同じこと…単なる結果だ。
仕方なく漢の案を実行しようと漢の巨躯を、鼻と口を目指して
抱き着きつつ、ぴょこぴょこと登り始めるクマのぬいぐるみ…

「……『取引』をせぬか?」
逞しい胸筋にへばり付くピーチの顔を見て漢が問う。
「しません。殺します。。。」
ピーチは即答するが…クマの巨躯登山は止まった。


話を聞く雰囲気を察した漢は言葉を続ける。
「汝は…あの娘を助けたい。…今も安全とは言えぬのでは?
 条件さえ飲めば…とりあえずは…あの娘を襲わぬことを誓おう…
 汝との約定を違えた場合は我を即殺出来得るであろう手段を与える…
 ………これでどうだ??」
無言を続けるクマに漢が語った条件はこうだ。
フィズに関する全ての情報を漢に教えること…代償にフィズの秘密は口外しない。
「フィズを完全に性奴隷にするには彼女自身を熟知する必要がある」とのこと。
…それが済むまでは襲わないと。襲う場合も宣言、宣戦布告してから襲うと。
そして条約を交わすのであれば…闘氣を解き体内に毒や爆弾を仕込めるようにすると。

沈黙……。
10秒ほど漢の胸に抱き着いたままだった小さいクマは飛び降りる。

「…爆弾……取って来ます」

背を向けたままそう言ってピユピユと足音を立てて部屋を出ていった。
………
……

(やっぱ…あのとき殺しとくべきだった…)
爆弾は心臓や肺の近くに埋めた。その際に手元(触手)を狂わせれば済んだ。
…いつかは敵になるのだ。そしてフィズ=志由に関しても知り過ぎている。
充分な殺害動機だが…利用するだけ利用できると考えたから踏み止まった。
(志由を狙ってるなら…『組織』の手に堕ちるのも阻止してくれる………けど!)
今、襲われては元も粉もない。だが止める手立てもない。

「ふふん!…条約を破った時ならば潔く爆弾の餌食にもなるわ!
 だが!…それ以外では死んでやるわけにはいかぬな!」
ニヤリと笑う漢…契約の後、『戌』と名乗った彼は不敵に笑う。
(こいつ………っ!…マジに爆弾に耐えるかも………)
どころか爆弾を埋め込む際に心臓を攻撃にも耐えたかも知れない。
自信があるから無謀な取引を持ち掛けた…そう思えるほど。
…結局は戌を信頼するしかない。そんな無力感すら覚える。

「そんな些細なことなど!どうでもよいわ!
 何故に性交わらぬ?!…あの娘の欲することを叶えてやらぬか!
 それであの娘のパートナー気取りか?…片腹痛いわっ!!」
戌の一喝に即座に反論する。
「そんなことしたら!…志…フィズが傷つくでしょ!
 ちったあ考えろよ!…筋肉バカっ!!」
全裸の、股間からは愛液の滴る少女の立体映像が怒鳴る。
その大音量は漢にしか聞こえない。戌の体内の爆弾を振動させて声とする荒技だ。
「笑止っ!…バカは汝よ!」
それに身じろぎもせず戌は小声で一蹴し…その後に穏やかな言葉で続けた。
「………それしきのことで壊れる娘ならば我は求めたりせぬ………
 何より…汝らの信頼は並のモノでは無かろう?…我が言うまでもなくな!
 ……だから……恐れるな……」

(…恐れてる?…私が?……志由に……嫌われるのを??)
戌の言う事は…志由とは初対面、それもつい先程、わずかに邂逅しただけの漢の言葉は…
…真実。
沈黙するしかない。…ヒトとして生物としてのシンパシーなのか?
ピーチは己の未熟さを恥じる。そんなピーチに戌はさらに続けた。
「…先程に制圧したAIを独立稼動させ結界を張らせよ……我も見守ってやる!」

「…っ………アンタが見たいだけでしょ!………へんたい!」
そう返しながら…ピーチの立体映像はフワリと浮かび、クマは歩いて志由へと近付く。
少女の立体映像が戌の巨体を摺り抜けたのは…
唇の座標が一致していたのは何故かわからないが。