あらすじ
桃木志由は両親の敵である闇の組織の存在を世に知らしめ、復讐する為に
超テクを駆使する白き怪盗『Fizz』として、
両親の形見である超技術の結晶、超AI『ピーチ』と共に世間を騒がす!
巨大な組織と戦う為にマスコミを利用し敵の正体を暴こうというのだ。
マスコミ業界に精通し情報を得るため、さらに正体を隠す意味でも
大胆にもロリ系アイドルとしても活動する志由………
今日も盗みの後、TVに出演するのだった。
志由の予想どおり生放送のバラエティーは『Fizz』の話題で持ち切りだった。
TV局としては速報を兼ねつつ、フィズと『顔が似ている』と評判の志由が出演、
二倍に視聴率UPが見込める番組構成にホクホクだ。
多少急かされようとも志由の立場からも正体を隠す意味では有り難かった。
…10分前まで警官達に追われていた者がTVに出演しているなどと誰が思おうか?
だが…
「志由ちゃんもあと何年かしたらこれくらいのおっぱいになるよね〜w」
フィズと比較される際、よく言われる言葉…これだけは内心辛酸を舐める思いだ。
志由は…アイドルとしてのプロフィールは12歳……だが実年齢は18歳……
既に「あと何年か後」の姿なのだ。
胸の小さいこと…ロリ体型は志由の最大のコンプレックス…本当に辛い。
だから志由はいつもこう返して話を逸らす。
「ええ〜…でも似てるかなぁ?…ほら…フィズさんはフランス人形みたいだけど……
私は『こけし』みたいだし………機械オンチだし…………」
「こけし」と言うより志由は日本人形…和的な可憐さなのだが…
外見上のイメージ、その最も分かりやすい例えだ。
内面の特徴、様々な超テクノロジーを駆使するFizzとの違いを強調する。
「そうだね〜、光学迷彩!…ホログラム!…空を飛ぶのもハイテクらしいし……」
若い男のコメンテーターも唸る。そして初老の著名人も続ける。
「噂じゃ国連軍の極秘部隊でも敵わないほどの技術と言うじゃないか?」
志由は大袈裟に驚きながらコメントする。
「それじゃ……ひょっとして宇宙人?!…やだ、怖いよ〜〜〜」
そう言って会場を沸かす。内心ではその『技術』について深く追求したいのだが……
(これだけ騒ぎになれば…『ヤツら』も…きっと動き出す……!)
『ヤツら』…闇の組織『BARTENDERS』の悪事を白日の元に曝す……
…そんな事を考えている時に新たな速報が入った。
「……ええ、ただ今…速報が入りました。
世界有数の大富豪、Missヴァイオレットからフィズに向けての声明映像が発表され…
…あ、映像入りますか?……それではご覧ください!」
コメンテーターの言葉と同時にスタジオの巨大スクリーンに映像が表示される。
妖艶な…素晴らしい巨乳を強調したドレスを纏った女性…
「怪盗PTフィズ…私は貴女に挑戦します!
…来週の19:00、この秘宝のサークレットを持って貴女の国にお邪魔するわ♪
貴女が怪盗を名乗るなら……見事盗んでごらんなさい♪♪」
唐突にして訳のわからない声明……だが志由にだけは伝わった。
PTとはピーチの開発コード…その単語を入れてくるのは組織の手の者の証……
(……やっぱり来た!……ピーチ、お願い!)
口は開かない声帯だけの極小の囁き。
それでもピーチには首のチョーカーを通じて伝わるからくりだ。
それを証明するように途端にスクリーンの画像が乱れてフィズの姿が……
こんな時の為に用意しておいた映像だ。
「電波ジャック、本当にごめんなさい。
でも…私は誰の挑戦でも受けます☆
その『お宝』…必ずこのFizzが戴きますので♪」
ペコリと頭を下げて映像が戻る。
既に騒然としていた会場にさらに油を注ぐフィズの声明返し…
…放送はそこで『しばらくお待ち下さい』に切り替わった……
翌日…
ロリ系アイドルの肩書どおり…ランドセルを背負い名門の制服を着て登校する志由。
ランドセルの横の簡素な袋にクマのぬいぐるみがいても不思議ではない姿……
「……ホントに……やるのね?………」
聞くまでもない質問をクマ…ピーチが問う。
「……………うん!」
そう返事をして学校へと駆け出す。
…
志由には…学校へ行くことも、アイドルとして歌うことも…
フィズとしての怪盗行為…組織と戦うことも…全て同列……当然のことなのだ。
ついに…その日がやってきた。
指定された場所は…最近建造されたばかりの王立美術館。
その入口の鍵を難無く開けてエントランスロビーに立つフィズ……
例によって外は警官と観客で大変な騒ぎ…今回は突入時の大立ち回りも過剰に暴れた。
仕事を済ませた頃にはもっと人が増えているはず。
…目撃者が多いほど敵も誤魔化しが効かない。煽るだけ煽って会場の熱気を高めた。
そんな外とのギャップ…美術館の中は異質な空気に満ち寒気すら覚える。
思わず身震いするが…今日の為に万全を期してきた。
背中のリュックからピーチの本体であるくまのぬいぐるみが顔を出す。
他はいつもと変わらない外見だが…フィズにとってはフル装備…
備えられることは全て備えた。恐れることは何もないはずだが……
「…予想どおり中は誰もいないね。」
ピーチの声を確認するようにフィズはバイザーに表示される各種情報をチェックする。
確かにセンサー有効範囲には生命反応はない。
極秘を信条とする敵組織は捕えられて尋問等で尻尾を出すような愚は犯さない…
ピーチと志由は事前にそう予測していた。そして予測どおりだとすれば。
「……でも……敵も超級AIだよね?」
ピーチがそうするようにこちらの機器も騙されている可能性も否めない。
センサーで無人でも安心は出来ない。組織に関係ない人物が雇われている可能性もある。
「大丈夫!…私を信じて♪」
そう言うピーチの戦いは既に始まっていた。
…建物周辺に、あらゆる通信を遮断する見えない防壁…結界が張られていた。
闇から世界を支配する敵としては当然の反応…
フィズのほうも初戦から敵に情報を与えるわけにはいかない。
ピーチの攻性防壁を敵の結界全周囲に上乗せ展開、
二重の結界に今や建物内部は完全に外界から孤立している。
ピーチと敵AIの電脳戦…その勝者が今回の情報を独占出来る。
だが…超級はお互い様、膠着状態に陥りなかなか進展しないはず。
…そこでフィズの出番だ。
フィズの役割は…物理世界で敵AIを攻撃…すなわち相手の守る『お宝』を戴く。
宝の姿を借りた敵AI本体を物理制圧するのだ。
索敵範囲や対情報制御をフィズの周囲だけに限定、ピーチは防御に徹する。
護りはほぼ完璧になる…充分な勝機が見込める作戦だった。
…それが……簡単に覆されるとは思ってなかった。
フィズは一気に二階まで駆け上がる。
重量軽減効果のある装備はフィズの体重まで軽くする。
今のフィズは全装重量5kgに満たない。
パワーアシスト機能を使わなくても疾風の如き速さで動くことが可能だ。
そして敵AIもガードを自分の周辺に限定している。
センサーを邪魔する要素がある方向へ向かえばいい。順調に思えたが…
「…止まって!!」
ドアを開けようとしたフィズをピーチが強く制止する。
根は臆病、慎重な志由だ。即座に動きを止める。
「どうしたの?…ドアには罠とかないと思うんだけど……」
モニターの情報を再チェックしながら問う。
やはりドアにもドアの向こうにも怪しげな機器の反応はない。
「…まさか…そんな………ここまで…やるなんて…………」
声からピーチの焦りが伝わる。不明瞭な言葉からもだ。
今にも「引き返そう」と言い出しそうなピーチ……
「どうしたの?……どうすればいい?」
再度問いながら引き返すつもりはないことを主張する。
…沈黙とは言えないピーチの一瞬の迷い。
(……事前に気付けた、対処策もある。………けど……っ!)
志由の安全を第一に考えるピーチが引き返したいのは当然。
だが、ただ撤退すれば少なくとも現時点までの情報を敵に与えることになる。
フィズ自体をガードするこちらの情報制御能力を悟られてしまう。
募る焦燥感。悩んだ末に志由=フィズの意志を尊重する。
「…この先は毒ガスに満ちてる……酸素キャンディーを使って!」
その言葉にゾッとしつつもポシェットから迅速にキャンディーを取り出し口に入れる。
その味と酸素を味わいながらピーチの躊躇の理由を知るフィズ。
(キャンディーの効果は30分……急がなきゃ!)
そしてピーチは冷静に状況を、敵を分析する。
(毒……それも即効性の催淫成分!
そして最初から全館に満たしておかずに…油断させて二階から……
……陰湿!…姑息!…最悪な嗜好!)
動揺を避けるため催淫成分のことは志由には言えないが…
フィズはドアの向こうに踏み込んだ後、扉を閉める。毒ガスの拡散を防ぐ為だ。
仮に帰りには一階にも散布されているとしても、帰りに一階を通るとは限らなくても
毒ガスなどという忌まわしいモノを広げたくないフィズ…
…その甘さを嘲笑うような声が響く。
「あらあら、この香水はお気に召していただけないようね?……素敵な芳香なのに♪」
声と同時にプロジェクターから壁に映像が投影される。
妖艶な美女…ヴァイオレットの姿。
「………っ!!」
フィズもピーチも驚愕する。外部からは完全隔離の状態。
その上でこちらの様子を把握して話しかけてきている。
(…ヴァイオレットはこの中にいるの?)
(…ううん…敵AIが状況に応じて映像を選択してるだけかも……)
超小声と骨振動伝達スピーカーによる内緒話…
「そんなにビビらないで♪…ぶっちゃけると今回は様子見……
貴女たちをどうこうする気はないの。…まあ楽しんでもらえるように
ちょっとした悪戯程度の仕掛けは用意させていただいたけど♪」
様子見…そんな台詞など信用する二人ではないが
罠があることは確実……それがどんな罠かが問題だ。
そして時間は限られている。ここで映像を眺めている時間すら惜しい。
攻略するための何らかのヒントが含まれている可能性など極少…
先を急ぐべきだが…ピーチにはリスクを伴う秘策が思い浮かんでいた。
(……こんな事は敵も予測すらしないはず…だからこそ勝算も高い………けど!)
フィズ=志由の身の安全を考慮すると躊躇せざるを得ない……が。
「……ピーチ……この映像から……敵AIを制圧出来ない?」
フィズがピーチと同じ策を持ち掛ける。多少言葉足らずだが…
正確には映像装置の制御から敵AIに接触、有線で相手の防壁を崩す…
ピーチの性能は闇の技術でも最高レベル…電脳戦で圧倒できる公算は高い…
…成功すればその時点で勝利。
仮に敵AIが同格であっても全力で攻めれば敵AIの能力を防御に集中させられる。
フィズの行動に関与する余裕は無くなる。攻略が楽になるはず…
…フィズが敵本体に辿り着けた場合も勝利。
だがその場合…ピーチ本体もこの場を動けない。制圧完了まで通信も出来ない。
通信からフィズに汚染が及ぶ可能性もあるからだ。
フィズ一人で、ピーチの助言無しで先へ…敵AI本体へ進まなければならなくなる。
「だいじょぶ!…超AIさえ封じてくれれば…いつもの装備でも楽勝…だよね?」
確かに今まで完璧に『Fizz』として怪盗を演じてきた実績もある。
それでも…敵の超技術と相対するこの状況では
命綱と言っても過言ではない超AIピーチと別行動を取るなど……
だからこそ敵も予測出来ない……そして……命綱無しでも渡れる障害ならば……
「…わかった!…でも充っ分!…気をつけてね!
…フィズがやられちゃったら私が勝っても無意味なんだからね!」
言いながらリュックから飛び降りるクマのぬいぐるみ。
そして背中のチャックから触手型マニュピレーターを伸ばし壁に穴を開けていく。
「わかってる♪…私が盗むのが早いか…ピーチが制圧するのが早いか…競争ね☆」
そのまま通路を風のように疾走していった……
軽い言葉や行動とは真逆の厳重な注意を払いつつ………
バイザーに投影される情報を抜かりなくチェックしつつ走るフィズ。
ヴァイオレットの様子見という言葉は真実だったのかと思えるほどに何も無い。
(あとちょっとで目的の部屋…仕掛けるとすればこの辺り…)
さらに警戒しつつ目的の展示場の前…
「……っ!!」
入退場を円滑に行えるよう廊下が広くなっている部分のほぼ中央、
…そこでフィズは急ブレーキをかけた。
床を踏んだ際、奇妙な違和感を感じたのだ。
…実際にはフィズが乗った瞬間、床がわずかに2mmほど沈んだのだ。
集中していたからこそ気付けた微妙な床の挙動に考えを巡らせる。
(…落とし穴??…ううん、違う!)
フィズのバイザーは物体を透過して分析できる。
そんな原始的な罠など文字どおり一目瞭然のはず。
事実、踏んでいる床の下には空洞などない。
それでも飛びのきたい心境に駆られながらフィズはその場で待機する。
その退避動作こそが敵の狙いかも知れない……そしてその考えは正しかった。
「流石に怪盗を名乗るだけはあるわねぇ……♪」
少し離れた壁に、またも現れるヴァイオレットの映像。
(っ?!…そんな!…敵AIはピーチが牽制してるはず……!)
フィズの行動に合わせてリアクションを取れる映像を流せるわけがない。
「あ、PTなら大丈夫よ♪…流石に超高性能AI…
こちらのヘボいAIでは全く歯が立たないわ♪…足止めが精一杯…でも♪
…貴女がピンチになれば…隙が出来て制圧できちゃうかもね?」
「くぅ……っ」
歯噛みするしかない。ピーチは感情を持っている。
それに流されることはなくとも志由が危険な状況なら…
リスクの高い選択肢も選びかねない。ヴァイオレットの言うとおりなのだ。
(なんとか……しなきゃ!)
バイザーのスキャン範囲を広げて違和感…罠の正体を見極めようとする。
「………っ!……そんな………これって………っ!」
あまりもの事実に思わず声が出る。
「そう♪……ピタゴラスビッチってとこね♪」
フィズが踏んでいる床…そこからフィズの重量が消えると床は再び元の位置に戻る。
その際に小さな球が転がるように仕掛けてある。
その球はレールに導かれ様々なスイッチを起動、連動させていき……
最終的に行き着く先には…ドクロが描かれたボタン。
落とし穴並に原始的だが…思考を凝らされた単純にして複雑な罠。
「…その床は…この美術館周辺のビルを爆破しちゃうスイッチね♪」
「………っ!?!?」
想像を越える最悪の事態にフィズは驚愕する。
美術館自体はピーチが入念に調査解析、爆発物など見逃すはずもない。
しかし周辺の建造物は…どうだろう?……わからない。
そして仮にフィズは爆発から逃れることが可能だとしても。
自分が呼び寄せた「観客」は……
(そんなこと………絶対にダメっ!)
表情からフィズの心理がわかるのかヴァイオレットが高笑いしながら言う。
「もう貴女はそこから一歩も動けないわけよ♪
…貴女の立っている床に掛かる重量がある程度軽くなれば…ボンっ!
だから……無駄に接着剤とか撒かないでねw」
特殊装備のクォーキングジェルで床を固定する…
試そうとしていた策に釘を刺されてフィズはグウの音も出ない。
だが向こうから言い出すと言うことは対策が成されていると見るのが妥当だ。
(………どうしたら………いいの?)
この状況でもフィズは諦めない。その頭脳は抜け出す方法を考え…そして……
(……これなら………でも………ううん!……迷ってる時間は…無いっ!)
フィズはバイザーの自重軽減機能をオフにした。
羽のように軽かったフィズの全装重量は今、本来の重さに戻る。
この状態で装備を外して、衣服を脱いで床に置けば…
先程までの重量を維持できるかも知れない。
単純な策だが、それが有効だと言うことはヴァイオレットの態度が示す。
「ち!…もう気付いたの?!
…今回は対貴女用の罠はこれしか用意してないの……
だから…もう少し時間を稼がせてもらうわよ!」
その言葉が終わる前に壁の隅に備えられた非常口の扉が開く。
そして…ゾロゾロと男どもが入ってきた。
皆、一様にデジカメ等の撮影機器を手にしてだ。
各々がフィズの姿を見て奇声を発する。
「あ!フィズたんだ!「すごい…「こんな近くで…ハァハァ…」等々……
思わず生理的嫌悪が沸くフィズだが…逆に冷静になれた。
(これは…立体映像!……それも…出来の悪い!)
バイザーに表示される生命反応その他のデータを見るまでもない。
第一こんな大勢が警官の警備を抜けてここまで入れるはずもない。
毒ガスの中で平気な点もおかしい。
…完全に時間稼ぎ…男どもの視線がある状況ならば
服を脱ぐのを躊躇うと考えての策だろうが……
「…こんな手にひっかかると思ってるの!」
フィズはヴァイオレットに怒鳴りつける。
男どもは自分が一喝されたようにある者は怯え、
一部の男たちは単純にフィズの生声を聞けた喜びに震える。
そのリアルな反応に内心驚きつつ…ヴァイオレットの言葉を待つ。
「あ〜あ、やっぱすぐバレちゃうか……バレちゃ仕方ないなぁ……
そう、立体映像だから…安心して…ストリップしちゃって♪」
「立体映像って…俺らのことか?」「つか!ストリップ…?!…!!」
「「……フィズたんが………脱ぐ?………」」
男どもの様子が一変する。全員の視線に…いやらしい光が宿る。
「それに…なんか熱くね?」「俺、もう堪らねぇよ!」「お、俺も!」
男どもの何人かはズボンを下ろし醜い陰茎を丸出しにして扱き始める……
あまりのおぞましさにフィズは後ずさりしそうになりその場を踏み直す。
「っ?!………これって……?!」
「ああ、気にしないで♪…媚薬ガスが効いてる演出よ…
それくらいしないと立体映像ってバレちゃうって思ったんでしょうねw」
もうバレてるのにね、やれやれ…というような仕草付きでヴァイオレットは返すが…
(まさか……こっちのセンサーが…騙されてる?!)
フィズは最悪の事態を想定する。有り得ない話ではない。
相手はピーチを足止め可能……同等以上の技術があると推測出来る。
それなら警備をかい潜ることも可能かも知れない。
…ヴァイオレットがあっさり立体映像と認める事すら怪しく思えてしまう。
(……それに……媚薬ガスって!!)
どんな毒ガスかは聞いてない、もし媚薬なら…ピーチは言わないだろう。
フィズ=志由は性に関しては必要以上に臆病、苦手なのだから…
あらゆる事実が最悪の事態を否定できない。
(けど……ここで…もたつくわけには……っ!)
フィズは光学迷彩を発動させるが…
「あ!あ!…フィズたんが消えてく!」「そんなぁ!」
「落ち着け!…これがあれば……」
そう言って妙なリモコンのような物体を向けられる。
「やった!…見えるよ!」「ぼ、僕もだ!w」
「…姿を消そうとするってことはさ……」「マジに脱ぐのか!」
「ひょっとしたら…フィズもエロい気分になってんじゃね?w」
(…………っ?!?!)
絶句するしかないフィズ…実際、もし媚薬を吸ってしまえば……
酸素キャンディが無くなったら…
しかし…この状況で服を脱ぐ…フィズ=志由には耐え難い恥辱……
葛藤の渦中でいたずらに時間を浪費し…焦りは募るばかり………
一方その頃………
ピーチも窮地に立たされていた。
正確に言えばピーチ自身には危険はない。この状態を保つことは容易……だが。
明らかに格下のAIに動きを封じられている事実がピーチを戦慄させるのだ。
敵AIの半分ほどは既に制圧している。美術館の機能の大半は制御できる。
故にフィズの置かれている状況、罠に苦しむ様子も把握は出来る。
その先に待つ…さらなる危機も……
それなのに肝心の映像通信制御が奪えない。
早急にこの事態をフィズに伝えなければならないのにだ。
(だからこそ……早くコイツを片付けなくちゃ!)
そう思って仕掛ける度にカウンターを喰らうのだ。
直に有線で敵と接触している為に見紛うことはない。
超テクノロジーとはいえピーチとは比較にならない性能の低さ。
にも関わらず逆襲されるのは…
ピーチの思考が完全にエミュレートされ予め備えられている為としか考えられない。
いかに低性能でも「こう来るから」と事前に誰かに教えられていれば対処できる。
さらに言えばその『誰か』は巧妙に的確に罠を張っている。
…そんな感じだ。
電脳空間のイメージで表現するなら……
ピーチは四肢を大の字に縛られている状態まで追い込まれてしまった。
そのかわり、ピーチの美しい肢体は特注の全身鎧で隙間なく覆われている。
敵からの攻撃も一切、微塵も受け付けない。
そんな状態だ。ピーチから何もしなければ、このまま耐えきることは可能…
「フィズが敵本体に物理接触すれば勝ち」は変わってない。
だが。その可能性は…もはや無いに等しい。
敵の戦略の全ては把握した。
敵AIが低性能なことを筆頭に技術的には本当に様子見…
現代レベルに毛の生えた程度、
使用されていた媚薬ガスすら一般の裏社会でも珍しい物ではないことも判明。
罠も単純極まりない。しかしフィズの心理的弱さを巧妙に突く。
そうやって戦力を削いだ上で待ち受ける脅威の存在……現実に人間…男が居る事実。
ピーチは思う。
…あたかもこの美術館自体が巨大な檻……
フィズは既に捕われの身、
その監獄の中でさらにねずみ捕りに向かっているようなもの…
…ねずみ捕りにはちっぽけなチーズしかないのに。
その罠で待ち受ける汚らわしい男…可愛らしいフィズを凌辱するに決まっている。
(私が…何とかコイツを攻略しなきゃ……っ
もう………なりふりかまってられないっ!)
ピーチは…戦略上、絶対に有り得ない策を取る。
自分の纏っている攻性防壁…鋼の鎧を放棄する…
完全に無防備、格下にすら接触されれば制圧される危険がある。
まさに自殺行為…そんな状態を自ら選ぼうというのだ。
(そのかわり…この戒めを解ける!
…殺るか殺られるかになっちゃうけど…負けない!……一刻も早く…倒す!)
普通なら殺るか殺られるかではない。確実に殺される。
自由に動けるようになっても触れられるだけで死ぬ『鬼ごっこ』…
それを逃げ切る技…
(まだ未完成だけど…試すしかない!)
ピーチ自身ですら情報を持たない、知らないこの技を敵が備えることは不可能…
未完成ゆえの危険は伴うがリスクを承知で勝負を賭ける。
全身の輝く装甲をパージ…次の瞬間には捕捉されないように高速移動する!
………はずだった。
(っ?!………な……そんなぁ……っ!)
確かに鎧を脱ぎ捨てた。それは間違いない。…なのに装甲は未だ健在だった。
(脱いだ瞬間…『着せられた』っ!?………ありえない!)
敵の性能からすればこの鎧を精製するだけで機能の大半は失われる。
それで自分を守らずに敵であるピーチに着せるなど…
そもそも防壁を解くことを予測など出来るはずがない。
だが現実に超高速制圧は発動させられなかった。
まるで敵に操られているような気分にすらなる。結局ふりだし……
(変わらずの膠着…こうまでして足止めしたいなんて……………あ?!……違う!)
着せられた鎧は簡単には脱げない……だが着せた敵は自由に脱がせる。
手足の鎧はそのままで…胸の部分だけを消去された。
サイズは標準だが…実に整った美乳があらわになる。
現実とは違い鎧の下は一切アンダーウェアを着けていない。
ピンク色の突起まで晒け出してしまっている。
その尖端を舌だけ具現化した敵が舐め撫でる。
…もちろんこれは飽くまで電脳戦のイメージだが。
敵は舌しか存在させられないレベルの低機能だという証明でもあるのだが。
ピーチ自身が完全制圧寸前の窮地に立たされていることを示してもいる。
(だ……だめぇ………っ
乳首……制圧されちゃうぅ………ぁ………っ)
たやすく制圧され隆起したピーチの乳首は…
機能の低い敵の幼稚な愛撫にすら反応してしまう。
単調に機械的に先端を舐める動きすら達人のそれと同等なのだ。
「んく!……そんなにされたら……はぁ、……か、感じちゃ……うぅ……っ」
複数の舌だけの存在が少女を舐め回す…異様な光景。
だが、せつない喘ぎがその色を淫らにする。
敵に制圧されているとはいえ、ピーチ自身の乳首だ。その感度は極めて高い。
そこから発される性感信号も絶大…こうなってはピーチの高性能が逆に災いする。
乳首だけを執拗に責められるのも刺激が集中して辛い。
そしてようやくその行為に…わずかながら慣れ耐えられるようになってから…
「ふぁ!ダメ!……揉まないで!…強く舐めたら…胸が……ひぁ!」
チロチロと舐め転がすだけだった舌が球状の膨らみを潰すように歪ませる。
舌が戻ると反動で弾み揺れる乳房全体が制圧されてしまった。
「や、やはぁう!…ちくびのキモチいのが…増幅されちゃ……あう!……んはぁ!」
胸全体が乳首の繊細な感度をもっているようだ。乳首自体は本来以上に反応する。
舌だけゆえに乳首を巻くような動きも可能…そのまま回転して刺激も渦巻く。
壮絶なピンチ…快感信号はピーチ中枢に直通している。
敵からの攻撃ではない。自らのセンサーが純粋な反応を送信してくるだけ…
遮断は出来ない。すれば機能の一部を敵に与えることになる。
さらに責めが強化されてしまう。しかし……
(このまま…イかされたら……わたし………だめ!……ダメぇ!)
CPU周辺がどんどん過熱していく。熱暴走…そしてフリーズの危機。
この状況でのそれは完全制圧されることを意味する。
そうなれば……
(志由……っ!……志由まで………犯されちゃう!……ダメえ!……志由だけは!)
必死の抵抗……だが…性刺激受信は何故か逆に強まる………
それを見切ったかのように敵は新たな戦場を用意する。
「あ!…いやっ!……ソコはぁ………っ!!」
ピーチの股間を護るアーマーも…外されてしまった………
「やあ……やあ……みないでぇ………っ」
言いつつ身をよじらせるピーチだが…四肢の鎧はそのまま、
大の字に固定され捻れる範囲も狭い。…当然、局部を隠せるはずもない。
(ちくび…胸だけで……こんな…キモチいいのに………
…まんこ……クリまで…制圧…されちゃったら………っ!………っっ!!)
垂れるほどに愛液の溢れるピーチの無毛の局部に
無慈悲に舌のイメージが接近していく………
……
…
フィズがその場に立ち尽くし5分が経過した。
時間が制限されているフィズ本人にはとてつもなく貴重な時間が…
体感時間ではあっという間だが逆に実時間を凄まじく浪費してしまった気がする。
これ以上のロスは致命的……
(コイツらは…立体映像……だから…………恥ずかしくなんか…ない!)
そう自分に言い聞かせる、それを証明する為に…
フィズはスカートの裾をペチコートごと摘み、
…恐る恐る、震えながら持ち上げる。
「「うひょ!うおおっ!」」
瞬時に沸き上がる男どもの奇声。
スカートの中身を見るべく全員が姿勢を低くして中央へ寄りカメラを向ける。
「マジか!「今まで誰もみたことないフィズたんのパンツが…
「待てよ、脱ぐのとスカートめくるのと関係なくね?
「だからよ、脱ぎたいんじゃなくて見せたいんだよw
「ちょw…マジ淫乱露出症モードっすかwww
「白だ!…パンツは白っ!」
男どもの色欲に満ちた嘲りに耐えてきたフィズだが…
下着の色を叫ばれて溜まらずスカートを押さえる。
もちろん下着を見せるためにめくったわけではない。
立体映像なら…こちらの動きに合わせて映像を作っておく必要がある。
予想外の行動を取ればリアクションは出来ない…
…故に脱ぐ動作とは関係ない素振りをしてみせたのだ。
(こんな反応……直接みてなきゃ……できないよぅ………っ
でも………でも…………脱がなきゃ…………っ
………ぱんつ………自分から………みせちゃったぁ………………)
フィズは完全に混乱してしまった。
…立体映像だろうが否であろうが脱がなくてはならない。
試す行為自体が時間の無駄だったと思ってしまう。
だが…立体映像だろうが否であろうが…飛び抜けて恥ずかしいのだ。
再び立ち尽くしてしまうフィズだが…今度はさらに悪い。
下着を見れた男も角度が悪く見えなかった男も…激しい叱咤を口にする。
「どうした!…早く脱げや!」
「フィズたん…パンツもう一回見せて!」
「恥ずかしくてみせられないのさw…もうグチョグチョに濡れてるからww」
「………マジで……そうかも知れない………フィズと…セクロスできる……?」
ゴクリと唾を飲む男ども……
何人かは露出させた肉棒を扱いていたが…その動きを止める。
もしかしたらフィズに挿入できる…そう思えば無駄弾は撃ちたくないのだろう。
ビクリと全身を痙攣させたのはフィズだ。
(このまま……時間切れで…ガスを吸っちゃったら………っ?!)
見も知らぬ、それも複数の、醜い男に……強姦されてしまう。
いや。…自分がどれほどに乱れてしまうか…………
…自ら肉棒を求め複数の男と淫らに性交する姿を…フィズは想像してしまった。
(そんなの……絶っ…対………っ!!!)
それまでの躊躇が嘘のように息せき切って脱ぎ始める。
リュックを降ろし、コルセットを外し…
ドレスに手をかけると流石に一瞬戸惑うが…
裾から一気に捲くり上げて脱ぎ捨てた。
その他の装飾品も外し…残るは。
ペチコート付きのキャミソールと手袋、ブーツ……後は下着とバイザーだけ。
…手袋とブーツは脱いでしまうと本来の身長がバレてしまう。
キャミソールを脱げば下着姿まで晒してしまう。
下着やバイザーは言わずもがな…
…どれもこれ以上脱ぐのは抵抗がある。
今まで脱いだぶんで必要な重さを満たしていることを祈りながら…
フィズは仕掛けの床から一歩踏み出し少しづつ重心を移動させる。
(…お願い……っ………止まって…………っ!!)
乙女の思いも空しく床は元の高さを取り戻しそうになる。
フィズは1mmにも満たないわずかな差異を感知して足を戻す。
(………そんな!………そんなぁ…………ぅ……ぅ………)
バイザーの奥の瞳に涙が浮かぶ。
二の腕まである手袋、太股までカバーするブーツ、
この二つは腕力と脚力を増幅する働きもある。
これを外しては本来の非力な少女に戻ってしまう。
万一に襲われた場合の武器が減るのだ。
かと言ってキャミソールを脱げば…肌の露出が大きくなる。
どちらも選び難い、正に苦渋の選択……
(それに…脱いでも…重さが足りなかったら……っ)
ゾッとする。慌ててバイザーの視線入力を用いて計算してみる。
(…ギリギリ…届く………けど………っ!………くぅ………)
ホっとすることさえ出来ない。踏んだ時点の重さを確保する為には…
バイザーを除く全ての衣装を外さなくてはならないのだ。
キャミやブーツだけでなく下着、ウィッグまで外さなければ………
さらに酷な結果…床の高低差と戻る時間から計算して
かなりシビアに重さを再現する必要があることが判明した。
クォーキングジェルを使用していたら本当に重さが足りなくなっていた……
(……ま、まさか……最初から…裸に…ならなきゃいけないように………っ……っ!
…仕組まれてた……?
男どもが映像なのもソイツらを倒してスイッチに乗せられないように……?)
「……ぃや………いやぁあああぁっ!」
フィズの羞恥心が急激に膨らみ破裂した。
キャミ姿だけでも限界なのだ……胸を両手で隠しその場にへたれ込む。
(もぅ…ダメだょ………助けて………ピーチ………っ)
瞳に貯まる涙が許容量を越え流れてしまう。
泣くまいと目を閉じると…さらに溢れてしまい…鳴咽さえ止められなくなる……
小さくヒックヒックと揺れるフィズの姿にも男たちは容赦ない。
言葉こそ発しないが…いやらしい視線でフィズを嬲る。
その妄想の中では既に真っ裸…いや、犯されているかも知れない。
(これ以上……恥ずかしいとこ………みられたくないよぉ………っ)
凍りつくフィズを時間が追い詰める。口の中でキャンディが味を変えたのだ。
(あと…15分………っ
このまま…間に合わなかったら………っ)
媚薬などという未知の毒…どうなってしまうのか予測できない。
いや、想像したくない。
床にしゃがんだ姿勢のまま…キャミソールの肩紐をずらしていく。
右………左………震える手で虫の這うような遅さだったが
フィズの肩にはブラの肩紐しか残っていない。
あまりにも焦れったい、だが少しづつ露出していくフィズ…
男どもがそれぞれ何か言っているが…その耳には雑音にしか聞こえない。
思考が羞恥のあまり言語を解さないのだ。
だが…次の瞬間には認識させられてしまう。
怖ず怖ずとキャミをずらしていき…その胸の双丘を晒した瞬間だ。
「あれ?…思ったより…ちっちゃいなww」
「着痩せするタイプなんじゃね?……」
「大丈夫、いっぱい揉んで大きくしてやるよw」
荒い吐息混じりの男ども…何人かは止めていた肉棒を擦る作業を再開している。
フィズ…いや、志由にとって最大のコンプレックスである……
胸の大きさを視認されているのだ。
ドレスを脱いでもキャミのフリルとリボンで誤魔化せていた膨らみ……
それも、まだブラのパッドとヌーブラに助けられている大きさ……
白いブラのデザインとフリルにも助けられている。
「っ!!…………ゃ………ぁ…………」
小さく恥じらいを漏らすがキャミを脱衣する動作は止めない。
本当は今すぐにも両手で胸を覆いたい。いや、服を着直して即座に逃げたい。
(でも………ここで…逃げたら……)
自分の為に死傷者が出るかも知れない。
規模すら予測不能な大惨事になる可能性もあるのだ。
しかしこのまま留まって酸素が尽きれば…媚毒の餌食……
そうなれば肌を晒すどころではない。
加えてもっと大勢に…外の観客にまで見られてしまう可能性すら孕んでいる。
それも淫らに乱れる姿を………
ペタンと床に付けていたお尻をわずかに浮かせる。
先程めくった時は前からだが…今度は上からキャミを脱ぎ後ろからショーツを見せていく。
「おい、尻こっち向けろよ!」
「ブラ同様フリルいっぱいの…ぱんつ………ハァハァ」
「ちょっとお子様ぽいけどなw」
「だがそれがいいw」
口々に評価する男たちの歓声を浴びながらキャミは膝まで辿り着いた。
それでも立ち上がらず床とブーツの間を少し浮かせたり無理に引っ張り…
キャミソールを脱ぎ終える。間髪を入れず手袋を脱ぎ放つ。
これは迅速に取り去る…そしてブーツ……
せめて逃走用にブーツは履いておきたかったのだが…今の装備で1番重い物。
脱がないわけにはいかないだろう。
太股の中ほどまであるブーツを脱ぐには膝を立てなくてはならなかった。
右、左と交互に膝を立てる度に白いショーツの股間部分が三角に見える。
再び男たちの視姦モードにフィズは射抜かれつつ
ブーツと同じ丈のオーバーニーと…最後にウィッグを外して置いた。
(神様……お願い…します………これで……通らせて………っ!!)
今度こそ本当に神に祈りつつ…四つん這いで歩みを進める。
ブーツを脱いだ今、立てば志由本来の身長を知らしめてしまうからだが…
…その四つん這いのまま……フィズは止まった。
ぽろぽろと涙がバイザーに当たり流れて水滴となって床を濡らす。
…重量は…足りなかった。
男たちはフィズが軽くしないと進めない状況だと理解したようだ。
「ほらほらw…ブラもパンティも取らないとww」
「もっと泣けば涙の分だけ軽くなるかもなw」
「いやいや、小便漏らせば軽くなるぜ?」
「いっそ……うんちも…出して…スカトロ……フィズたんの排泄……ハァハァ」
極度の羞恥からフィズ…志由は男たちの言葉に事々く反応してしまう。
(ホントに…たくさん泣けば進める?
…!……おしっこ…したら……おしっこの重さで…………
…そんなこと!……出来るわけっ…………っ!!)
いつの間にか全裸をも越える羞恥を要求されている事実。
…男どもの妄想の中では既にさせられているのかも知れない。
屈辱、敗北感……フィズの心を蝕んでいく絶望………
(ブラも……ぱんつも……バイザーも………絶対…取れない………)
志由は…装備のほとんどを外した今…天下の怪盗『Fizz』とは自分では思えない。
ただの少女である志由はピーチの助けを待つことしか出来ない…
再び服を着る気力も…手で隠す気力すらなく
四つん這いから膝を付いたまま上体だけで天を仰ぐ。
虚ろな瞳で…両手をだらりと下げひざまづく美少女…
男たちには、まるでおねだりしているように見えたのだろう。
「お、俺もうダメだ!」「俺も出ちまう!」…
二人の男が射精…精液をフィズ目掛けて飛ばしてくる。
距離があるため届かなかったが…男たちの妄想の中では犯された証明……
(もっと近くで…いっぱい射精してくれたら……
せーえきの重さで…進めるかなぁ………)
志由は想像してしまう。男たちの前で性欲を促すポーズを取る自分を。
大量の白濁を浴びせられる自分を。
アイドルとはいえ水着姿すら見せたことのない志由が…
雨のように男の欲望を全身に……
(どうせ立体映像か……射精してもらっても…重くならな…………っ?!
待って!…雨のように?………ひょっとしたら!)
…ドラマの撮影で豪雨に打たれたこともある志由だからこそ。
この状況に一筋の光明を見出だすことが出来た。
その閃きを即座に実行する。
瞳は標的を探す…バイザーにターゲットサイトが表示される…
指を二本立てた左手を額に当ててポーズをつけ……
気合いを込めて技名を叫ぶ。
「…フィーズっ…ノヴァっ!!」
フィズのバイザーの右耳部分から発射される…レーザー!
電力消費が激しいため実戦では使ったことのない機能…
床や壁を破壊すれば罠が作動してしまう可能性があったため
現状では無用な機能と思っていたが……
向けられた先は天井、それも破壊するほどではない一瞬。
しかし。それは充分な効果を発揮した。
…
降り注ぐ救いの雨………
その霧の中、フィズの笑顔が周囲の水滴まで輝かせる。
バイザー周辺はエアバリアで水が弾かれるせいでもあるが…
そんな理由などなくとも眩しく思えただろう。
…
フィズが狙ったのは感熱装置…火災報知器だ。
スプリンクラーが作動、その水は脱ぎ置かれたフィズの衣服に染み渡る。
下着分の重さは確実に満たした。
「あちゃあ……残念……ここまでかぁ……
こんな事態は想定してなかったわ…」
先程まで沈黙していたヴァイオレットの映像が喋りだす。
具体的にどんな「事態」か語らないあたり本当に想定外だったと思えた。
そして男どもの姿もスプリンクラーの雨に乱されている。
やはり立体映像…それだけではない。全く動きを止めている…
水に濡れたフィズに対してリアクションを取れないのだ。
男たちの反応は全て造られたものだった。
半裸の恥ずかしい姿は誰にも見られてない。そう思える。
少なくとも可能性はある。
そう、敵はスプリンクラーの制御が出来ない。
それは…ピーチもまだ頑張っている何よりの証明……
ピーチが制圧されてないなら…
この中での出来事、映像が外部に出ることはない。
フィズは絶望の土俵際からギリギリ体勢を整えられた……
(でも………まだ勝ったわけじゃ…ないっ!)
床の罠自体は生きているであらうから服を着直すことは出来ないが…
時間は10分も残されていない。
……フィズは歩みを進める。勝利を信じて…………。
スプリンクラーの影響か…ヴァイオレットの映像、音声も乱れ始めている。
故に無視して進んだのだが…
……もし。正常に表示、発声されていたらフィズは聞いていたかも知れない。
「最後の…部屋には………最強…の……………
………彼の名前は…………
……ソル………ドッ…………
よろしく……伝えておい…………
ザーー…………………
…あるいは。
ピーチが人間…生物であったなら…
不可思議な力でテレパシーを送っていたかも知れない。
それほどに強く思っていた。
「フィズ……ううん!…志由! ……逃げて………っ!
…絶対……勝て…ない………っ………」
自らも絶対絶命の危機にありながら…ピーチは志由だけを案じていた……