「はぁっ!」
「ひょうっ」

先手は女剣士がとった。
真上から降り下ろされる剣撃に円月刀使いの男は奇声を上げながら身をかわす。
だが、剣士の攻撃は終わらない。
逃げ惑う男を捉えんと縦横無尽に斬撃が打ち放たれていく。

「わっ! おっ! くおっ!?」

ジャックは反撃する暇もなくひたすら身をかわし続ける。
ふざけているようだが、一撃たりとも攻撃を受けていないあたりはその回避力が非凡なものであることを窺わせる。
カグヤは男の動きに少々いらつきを覚えながらも続けざまに剣を振るう。

「くっ、ちょこまかと!」
「あぶねえあぶねえ! 姉ちゃん、おっかなすぎるぜ」

女剣士渾身の胴薙ぎを腰を引いてかわしたジャックはカサカサと後退して行く。
逃がすか、とばかりにカグヤはそれを追う。
だが、その足は突きつけられた二本の刃物によって止められる。
逃げてばかりだった男がついに武器を構えたのだ。

「ようやく逃げるのをやめたか」
「姉ちゃんに追い回されるのもオツだがね……やはり女の尻は追いかけてナンボだろう?」
「下衆が。逃げ回るだけの貴様に何ができる」
「ひゃひゃっ。逃げ回っていたわけじゃねえよ、観察してたのさ。こう見えても俺は慎重派なんだ。
 今まで集めたデータと、直に見たお前さんの動きを総合して分析してたのさ」
「ほう、それで? 構えたということは勝算があるということか?」
「さぁてね。それは……これからのお楽しみだろっ!」

ジャックが初めて自分からつっかけた。
だがカグヤはまるで動じることなくそれを迎え撃つ。
刃と刃がぶつかり、火花を生む。

「ひゃひゃひゃ! 確かにお前さんは強いよ。身のこなし、スピード、技のキレ、どれをとっても一流だ」
「貴様ごときに褒められても嬉しくはないっ」
「だがね、女の身の悲しさか。いかんせん……パワー不足だなぁ!」
「くっ!」

鍔迫り合いの状態からカグヤは弾き飛ばされる。
だが、女剣士は動じない。
パワーで劣るのは百も承知、しかしどれはあくまで今のようにまともに正面からぶつかった場合だ。
それに、体重を乗せた必殺の突きならばパワー不足を十分に補える。
それは相手も承知なのだろう、突きだけは警戒するように剣先の動きを注意しているようだった。

「やあッ!」

それならばと女剣士は手数で押し切るべく剣を振るう。
やがて、男の注意が下段に集中し、上段のガードが開いていく。
当然それを見逃さなかったカグヤは剣を大きく振りかぶるとその脳天を叩き割るべく一気に振り下ろす。
刹那、身の危険を察知したジャックが片手をガードに上げる。

(甘い!)

片手、しかも咄嗟の行動ではこの一撃は防げない。
勝利を確信し、笑みを浮かべるカグヤ。
しかし、その表情は一瞬後に大きく歪んだ。
弾き飛ばされるはずの円月刀がガッチリと女剣士の剣を受け止めていたのだ。

「な――」
「言っただろ? パワー不足だってなぁ!」

一瞬の隙をついて男の手が横に振るわれる。
カグヤはかろうじてそれをかわすと大きく後退した。
だが、その瞬間。
少女のズボンのベルトが真っ二つに切り裂かれ、その下のボタンが弾け飛んでいった。

「何……!?」

腰を包む衣服の緩みに少女剣士は僅かに狼狽した。
千切れとんだボタンとチャックの間から微かに白い下着が覗く。
だが、カグヤが狼狽した理由はそこではない。
確かに斬撃がとめられたことには動揺したが、確かに男の攻撃はかわしたはずなのだ。
自分の間合いの把握に絶対の自信を持っているカグヤは信じられないといった様子で前を向く。

「ひっひっひ、どうしたい? 鳩が豆鉄砲でもくらったような顔をして?」
「な、何をした!」
「それを素直に俺が言うとでも?」

未だ混乱の続くカグヤにジャックが襲い掛かる。
なんとか体勢を整えようと女剣士は足を動かそうとし、何かを踏んだ。
それはずり下がった自分のズボンの裾だった。
ベルトとボタンがなくなったことによってズボンは自重に耐え切れず、徐々にずり下がり始めていたのである。

「しまっ…」
「ほうら、隙だらけだぜっ!」

ビッ、ビビッ!
円月刀が煌き、怪盗少女のお腹の辺りの服が切り裂かれる。
大きく開いた服の下からはすらっと引き締まった腹部とその中央に鎮座しているおへそが覗く。
カグヤはなんとかジャックから離れようとするが、ズボンを支えるために片手が塞がって思うように動けない。

「くそ…こ、このっ!」

ジャックの攻撃を防ごうとなんとか剣を振るうカグヤだが、不安定な体勢では満足に防御すらできなかった。
円月刀使いの男がその両腕を振るうたびに布が千切れ飛び、徐々に少女の肌が露わになっていく。

「いいぞいいぞ!」
「色っぺえぞ姉ちゃん!」
「ケケケ、大人気だな?」
「黙れっ!」

周囲の野次に怒声をあげる女剣士だったが、その一瞬後には太もものあたりを大きく切り裂かれてしまう。
その後ようやくジャックの攻撃が止み、カグヤはなんとか後退に成功する。
だが、少女の服はもはやボロボロといって差し支えない状態だった。
服を着ているというよりもボロ布を身に纏っているといったほうが正しい状況だ。
トライアングルムーンの共通コスチュームであるジャケットは既に見る影もない。
その下の服からはところどころから肌が覗き、かろうじて下着のみを隠している有様。
ある意味、裸よりも扇情的な格好になった女剣士に対し、男たちの歓声が飛ぶ。

「ヒヒヒ、いい格好になったなあオイ?」
「貴様……なんのつもりだ!」
「なんのつもりぃ? 見りゃわかるだろ、俺は女の服を切り裂くのが何よりも快感なんだ。
 ま、男はどうでもいいんでソッコーで殺すけどな。それでついたあだ名が切り裂きジャック。良い名前だろ?」
「外道が…!」

女性を辱める行為に快感を感じるなど潔癖な女剣士にとって許せるものではない。
ましてや、今現在その行為の被害を被っているのは自分なのだ。
なんとしても目の前の男に鉄槌を加えるべくカグヤは猛然と走り出す。
しかし、彼女は熱くなっていたがゆえについズボンのことを疎かにしてしまっていた。
一歩一歩足が進むたびにズボンに振動が加えられ、ずり下がっていく。
そして腰を包む下着が完全に露わになった瞬間、ズボンの裾はカグヤの足を捕らえた。

「うあっ!」
「ククッ、間抜けすぎるぜぇ姉ちゃん!」

不注意に後悔するが、時は既に遅かった。
嘲る様な男の顔が視界に入った瞬間、煌く剣線が少女の身体の表面を次々に通過する。
ハラリ、と女剣士の衣服が床に落ち、ついにその下着姿が晒されてしまう。

「オオッ!?」
「きゃっ…」

男たちのどよめきに反応し、カグヤは反射的に両手で身体を隠すように覆う。
だが、その細腕で身体の全てを隠しきれるはずもなく、腕の隙間からは女剣士の肌が覗く。
トライアングルムーン・ブレイドは長身に見合ったスレンダーな身体つきだった。
剣で鍛えられていたおかげか、無駄な脂肪はまるで見えず、むしろやせすぎともいえるくらいに儚げな稜線だ。
だが、腰はきゅっとくびれ、すらりと長い脚線美は十分に女性らしさを感じさせる。
そして、なんといっても注目はその胸だった。
爆乳といっても差し支えないほど膨らんでいるバストに男たちの視線が吸い寄せられる。
小玉のスイカほどはあろうその二つの丸みはさらしに押さえつけられてはいるものの、その大きさが見て取れる。

「うひー、たまらねえ!」
「なんだよあのおっぱいのデカさ! 反則だろ!」
「あのさらしをとったらどれだけデカいんだろうな。ああ、早く生で見てえ!」
「……っ!」

男たちの揶揄に、思わず胸を隠そうとする女剣士。
本人の意思に反し、大きく育った胸は少女にとってコンプレックスだった。
女の身を捨て、剣士として生きたいと願うカグヤにとって大きな胸など邪魔でしかない。
女子からは羨望を、男子からは欲望を向けられるのもはっきり言って迷惑なのだ。
だが、それでもカグヤは手を胸から離し、剣を構えた。
羞恥心あるが、目の前には敵がいる。
それに、恥ずかしがって男たちを喜ばせることはない。
集中した女剣士はキッとジャックを睨み付けた。

「ヒッヒッヒ、きゃっ、だってよ。可愛い声もだせるじゃねえか!」
「……」
「おや、だんまりか。まあ、もう一枚くらい剥ぎ取ればもっと大きな声をあげてくれるかなぁ?」

ジャックの笑い声に追従するかのように周囲の男たちの笑い声が響く。
だが、女剣士の耳にはそれらの声は届いていなかった。
極度の集中が外部からの雑音をシャットアウトしていたのだ。

(生半可な攻撃は通じない、ならば……!)

先程までの攻防を考えるに、既に自分の攻撃は見切られていると思って間違いないだろう。
ならばとるべき道は唯一つ、全力の一撃にかけるだけだ。
幸いなことに、絶対有利を確信しているジャックに最初ほどの警戒はない。
ぐっと腰をかがませ、足の親指に力を込める。
瞬間、カグヤの身体がまるで疾風のように床を駆けた。

全体重を乗せた突きの一撃、決まればただで済むはずがない。
二人の距離が後五歩に迫ったところでジャックが女剣士の接近に反応する。
慌てた様に頭部がガードされるが、元より狙いは頭部ではなく腹部。
急所の一つ、鳩尾目掛けて突き出された剣が深々と突き刺さった。

「うげっ!」

モロに突きを食らう形になったジャックは無様な悲鳴とともに足元から崩れ落ちる。
嘔吐こそしなかったものの、その顔は青褪め、身体はピクピクと痙攣していた。
ついさっきまで少女剣士の下着姿に騒いでいた男たちの声が静まる。
まさかたったの一撃で自分たちの上司がやられるとは思ってもいなかったのだろう。
信じられない、といった視線が恐怖という感情とともにカグヤへと向けられる。

(勝った…!)

会心の感触に思わず笑みを浮かべるカグヤ。
流石に疲れたのか、息が乱れるがこれで一番厄介な男は沈んだ。
包囲網は解けていないが、動揺が走っている今なら突破できる。
そう考え、男に背を向けて窓の方向へと向かおうとする。
だがその瞬間、カグヤの背筋に寒いものが走った。

「え……なっ!?」
「油断大敵だぜぇ!」

振り向いた女剣士の視界に円月刀を構えたジャックの姿が映った。
そんな馬鹿な――
その驚愕の思考は致命的な隙だった。
下から切り上げるように振るわれた二つの閃光がカグヤの目に映る。
二つの剣閃は、それぞれ少女の顔面と胸部を通過していった。

「さ、流石に痛かったぜぇ。だが、トドメはちゃんとさすもんだぜ姉ちゃん?」
「ば、馬鹿な。今の一撃をくらってすぐに動けるはずは……」
「ひゃっひゃっひゃ! 種明かしをしてやってもいいんだが、いいのかい?」
「え…」
「しっかし硬ってえなその仮面は。俺様のコレクションがこの様だ」

男の円月刀の一本にはっきりとわかるヒビが刻まれている。
それを確認した刹那――ピシリ、ハラリ。
二つの音がカグヤの耳朶を打つ。

視界の一部がヒビ割れていく。
特殊素材で作られたバイザー型の仮面に損傷が発生したのだ。
それに続くように乙女の胸を守る白い布がハラハラとほどけはじめる。

「な…」

少女の呆然とした声の中、全てのさらしが床へと落ちた。
と同時にヒビ割れが限界に達し、怪盗の素顔を隠すマスクが木っ端微塵に崩れ落ちていく。
瞬間、怒号のような男たちの歓声が巻き起こった。

「うひょう! でっけえー!」
「何食ったらあんな巨乳になるんだ?」
「見ろよ、たぷんたぷん揺れてるぜ!」

男たちは露わになった少女の素顔に見向きもせずに生乳へと視線を集中させる。
窮屈なさらしから解放された二つの果実は嬉しそうにぶるんっと大きく弾むとその巨大さを誇るように存在を主張する。
通常、胸は大きければ大きいほどたれるものだが、カグヤのそれは日々の鍛錬のおかげかツンと上向きを保っていた。
細身の身体にアンバランスな爆乳。
そのギャップに男たちの視線は釘付けになってしまう。

「え…あ…」

集まる視線にようやく事態を把握したカグヤの顔が朱に染まっていく。
ふと前を見れば、ジャックがニヤニヤと笑いながら自分の胸を見つめている。
刹那、カグヤの心の中に爆発的な羞恥心が湧き上がった。

「い、いやああああっ!」

ぺたん、とまるでウブな少女のように両手で胸を隠しながら床にうずくまるカグヤ。
胸の大きさゆえに横から見れば腕からむにゅりとはみ出した乳肌が見えるのだが、気にする暇もない。
とにかく肌を隠したい。
その一念で女剣士は身を縮こまらせる。

(ど、どうしたというんだ、私は…!)

よりにもよって男たちの前でか弱い女のような軟弱な悲鳴をあげてしまったことにカグヤは動揺する。
早く立って剣を構えなければ。
そう思うが、両手は頑として胸から離れようとはしてくれない。

「ヒッヒ! いいざまだなぁ、オイ!」

望む光景の実現に、ご機嫌になった円月刀使いの男が少女へと近づいていく。
だが、抵抗できる体勢ではない少女がとることができる道は一つしかなかった。

「く、来るな…っ」

ずりずりと四つんばいのような体勢のままカグヤは男から離れようともがく。
少女の身体が動くたびに突き出されたおしりが揺れ、男たちの目を楽しませる。
手が塞がっているため、かなり無様な格好での動きになってしまうが、それにかまっている暇はない。
カグヤは屈辱に耐えながら少しでも離れようと足を動かす。
しかしその望みはあっさりと潰えた。
足首が捕まれる感触が脳へと伝わる。
慌てて振り向き、そして少女は驚愕した。
なんとジャックの腕が伸びて自分の足首を掴んでいたのだ。

「な、な…?」
「驚いたかい? これが俺様の秘密さ。俺の身体は生体兵器として改造されていてね、こうやって手を伸ばしたり
 一時的に肉体の強度や筋肉を強めることが可能なのさ!」

自慢するように自身の異常を語る男にカグヤは戦慄する。
成程それならば剣が片手で塞がれたことも、届くはずがなかった攻撃を食らったのも、渾身の一撃で仕留められなかったことも納得がいく。
だが、この状態でそんなことがわかっても状況が好転するはずもない。

「そして当然伸ばした腕は…縮めることもできるッ!」
「あっ……や、やめっ!」

ぐんっ!
まるで伸ばされたゴムが元に戻るように勢いよくジャックの腕が元の長さへと縮んでいく。
当然、その手に掴まれているカグヤの身体も引き摺られる。
守るものがなくなった双乳が床を舐め、衝撃によって大きく歪んでは元の形に戻るという変形を見せる。

「ひっひっひ、お帰りっ!」
「は、放せ!」
「だが断る。それに…いいのかなぁ? 胸ばっかり隠してもよぉ?」
「何……あ!?」

男の指摘にカグヤはようやく自分が素顔を晒したままだということに気がついた。
慌てて両手で顔を隠すが、今更だった。
むしろそれによって胸の守りが解放され、大きく弾む生乳が男たちの目に晒されてしまう。

「ヒヒッ、胸に見合った別嬪さんじゃねえか。怪盗っていうもんだからもっと見れねえ面だと思ってたぜ?」
「くっ…」

ジャックの揶揄に耐えながらも、カグヤの心は後悔一色に染められていた。
下劣な男たちの前で半裸に剥かれたことは勿論、素顔を晒すなどあってはならないことだった。
自分の正体がバレるということは、仲間たちに迷惑がかかるということに他ならない。
表向き、三人に繋がりはないように振舞ってはいるが、情報というものはどこから漏れるかわかったものではないのだ。

(すまない、二人とも…!)

うつ伏せになったまま、二人の仲間へとカグヤは謝罪をする。
羞恥心にかられ、素顔よりも胸を隠すことを優先してしまいこの結果だ。
この上は舌を噛んで自害でもするしかない。
しかし、それは許されないことだった。
剣士としての誇りが、何よりも仲間たちとの誓いが死という道を選ばせないのだ。

「おっ、おとなしくなったじゃねえか。ヒヒッ、それじゃあ最後の一枚も裂いちまうか」
「えっ…なっ!?」

ジャックの宣言にはっと我に帰るカグヤ。
既に半裸にされてしまったとはいえ、この上最後の下着まで剥ぎ取られてはたまらない。
なんとか男の拘束から逃れようと身体をジタバタと暴れさせる。
だが、足首を掴む手は全く緩まず、むしろ徐々に男の懐へと引き寄せられてしまう。

「やっ、やめろ! やめるんだっ!」
「生きがいい姉ちゃんだ! だがそれでこそ剥き甲斐があるってもんよ!」

暴れる少女の身体をものともせずにジャックは円月刀を股間へと差し向ける。
刃物の接近に大股開きにされた少女の股間がひくりと怯えたように震える。

「ひっ…」

肌に触れる冷たい金属の感触にカグヤは思わず上擦った声を上げてしまう。
だが、ジャックはそれに構わずに刃を下着の中へと侵入させる。
ぶちっ! ぶちちっ!
徐々に少女の腰を包む簡素な下着が切り裂かれていく。

「やっ、やめ…!」
「ほーら、ご開帳!」

ぶちんっ!
真っ二つに切り裂かれた純白の下着が身を縮ませながらぱさりと床へ落ちる。

「あ、あああっ!」

信じられない、とでもいいたげなカグヤの悲鳴。
だが無常にも股間を通る空気の感触が、そこに何もないことを告げる。

「み、見るなぁっ!!」

瞬間、カグヤは素顔を隠すことも忘れて股間へと両手を伸ばした。
しかし、片足を持ち上げられているという体勢上、手のひらで大事な部分を覆うのが精一杯。
結果、女剣士は剣を投げ出して必死に股間を隠すというこの上ない無様な格好を披露することになってしまう。

「オイオイ、剣士が剣を捨ててどうするよ?」
「所詮は女ってことだろ」
「コイツがこんなんじゃあ、他の二人もたかが知れてるぜ」
「だっ、黙れ…!」

中傷の野次に、涙目で反論するカグヤ。
だが大開脚で床を舐めている状態ではまるで迫力がない。
と、ようやく掴まれていた足が放された。
カグヤは素早く身を縮めると再び亀のような体勢になり、自分の身体を視線から守る。

(こんなっ、こんなことがっ…)

女として自分を捨て去り、剣の道に邁進したはずがこの失態。
挙句の果てには己の魂ともいえる剣すら手放してしまった。
これでは例えこの場を切り抜けることができたとしても仲間や両親にあわせる顔がない。

「さぁて…」

うずくまった少女に覆いかぶさるようにジャックが迫る。
もはや裸に剥かれた小娘一人になすすべはない。
ふと、目の前に転がる剣が目に映った。
あれさえ拾えばまだ戦えるのではないか。
折れかけていた少女の心に火が灯りかける。

(そうだ、まだ負けたわけではない。あれさえ、あれさえ手にできれば…)

そろそろと手を伸ばす。
だが、手を伸ばすということは身体の守りが手薄になるということだ。
それゆえに少女の身体は無意識のうちに羞恥心にほだされて鈍くなってしまう。
あと少し。
しかし指先が柄に触れた瞬間、剣が蹴り飛ばされた。

「あ…」
「姉ちゃん、惜しかったな」

心が絶望に覆われる。
最後の希望をたたれた少女の心の火が完全に沈黙してしまう。
そしてカグヤは、首に走る鋭い痛みとともに意識を失っていくのだった。