「ぐわっ!」

打突の一撃を受け、苦悶の表情を浮かべながら警備の男が崩れ落ちる。
それを見やると、黒髪の剣士―――ブレイドは剣を収め、自身の後方に向けて手招きをした。

「さっすが、相変わらず見事な腕前だよね」
「不意をついたのだからこれくらいは当然だ」

自分よりも頭一つ分背の低い少女の褒め言葉に女剣士は表情を緩めることなく周囲を警戒する。
敵の気配はない。
よし、と互いに頷きあった二人は後ろをついてくる金髪の少女を先導するように駆け出す。

「その角を右に、その後真っ直ぐ行った所が目的地です」

後方からの指示に二人の怪盗少女は走りながらも軽く頷く。
指示を出した少女、ウィッチィは自分の右腕をチラチラと見ながら前の二人についていく。

「しかし相変わらずアルテからの情報は詳細かつ正確だな…」
「本当本当! 警備の数とか配置とか、建物内部の地図とか完璧だし」
「ふふっ、そうですね」

仲間からの感嘆の言葉にウィッチィは本当に嬉しそうに微笑んだ。
金髪少女の右手に装着されているのは小型のPCだった。
これはアルテミスの端末で、アルテを中継することによって本体と繋がっている。
アルテミスの性能にかかれば、電子機器が天下のご時世、調べられないことなど滅多にない。
それは一般に秘密とされ、隠されているはずの情報とて例外ではなかった。
機密の場所、警備の人数や配置、監視カメラの掌握、電子ロックの解除コード。
そういった情報をウィッチィはアルテミスを使うことによって手に入れ、怪盗活動に有効利用しているのだ。

「まあ、完璧すぎて歯ごたえがないのも事実なのだが」
「ブレイド、それは贅沢だよ。楽なことに越したことはないじゃない」

前二人のやりとりに軽く苦笑するウィッチィ。
怪盗トライアングルムーンだと有名になっても、所詮彼女らは小娘三人のチームである。
多人数に囲まれればどうしようもないし、罠にかかれば目も当てられない。
だからこそ、アルテミスによる情報収集は彼女たちにとっては生命線にして最大の武器だった。
安全なルートを必要最小限の被害で通り、目的を達する。
それを当たり前のように成し得る事ができるからこそ怪盗トライアングルムーンは今まで一度の失敗も犯していないのだ。

「さて、そろそろだな」
「初めての大物相手だったからかなり気合を入れてたんだけど、なんか拍子抜けだなぁ」
「油断するな、まだ目的を達したわけではない」
「わかってるって。ボクはただアルテミスを信頼してるだけなの」

あっけらかんと笑う小柄な怪盗に思わず残る二人も笑みをこぼしてしまう。
ラビットのこういったムードメーカー的部分には二人はよく助けられている。
堅苦しいほど生真面目なブレイドと、意外にも強情で意地っ張りなウィッチィ。
そんな彼女らがこうして上手くやっていけているのもラビットがいるからこそなのだ。

(けど、確かに上手く行き過ぎている…)

目的地まであと僅かというところで、金髪の少女はあまりの順調さふと不安を覚えた。
情報収集にミスはなかったはずだし、実際にこうして潜入したビルの地図や警備の情報にも間違いはない。
見落としている点もないはずだ。
だが、頭の一角を占める不安の闇は一向に晴れる気配がない。

(ううん、きっとあの人が関わっているかもしれないから気負ってしまっているだけ…そうに違いありません)

エスド・サンズの不気味な笑顔を頭の隅に追いやりながらウィッチィはぶんぶんと頭を振る。
入念に情報を集め、警備の少ない今日を選んだ。
例え相手が力を持った組織といえどもその隙間をついてしまえば倒せない相手ではない。
それに、自分には仲間がいる。
今までの成功と現在の状況、そして心強い仲間たちを思い、金髪の少女は迷いを振り切った。
だが、彼女は気がつくべきだった。
まがりなりにも巨大組織の一角であるブラックサンの情報をアルテミスの助けがあったとはいえ簡単に入手できたという不自然さを。
そして、重要施設であるはずのこのビルの警備が少なくなる日が存在しているということ自体がおかしいのだということを。

「ここか」
「はい」

目的の部屋の入り口を守る電子の扉が三人の前にそびえ立つ。
ウィッチィは電子キーの傍に寄るとパスワードの解除をはじめた。
ラビットとブレイドは後方を警戒し、開錠の瞬間を待つ。
プシュン。
風船から空気が抜けるような音と共に扉のロックが外れた。

「開けます」

シュッと軽快な音を立てながら扉は侵入者たちを迎え入れるべく開いた。
罠、あるいは待ち伏せがないか警戒しながら三人は入室する。

「ふむ、意外に狭いな」
「データ通りですね。ここにあるのは重要機密データを保存しているコンピューターだけのようです」
「待ち伏せの可能性も考えていたが、こう狭いとただの取り越し苦労か」
「こんなところに警備がいたらおしくらまんじゅうになっちゃうね」

あははっと笑うラビットを尻目に、ウィッチィは右手の端末から伸びるケーブルを目の前の機械へと取り付けていく。
ウィッチィの手がキーボードの上を躍る
すると、機械に電源が入り、あっさりとそのコンピューターはアルテミスの制御化におかれてしまう。

「はやっ。ウィッチィも大概凄いよね…」
「私の場合はアルテミスのおかげですから」
「それを差し引いても凄いと思うぞ。私など電子機器はサッパリだからな」

それえらそうに言うことじゃないよ、とラビットにツッコミをいれられるブレイド。
ウィッチィはそんなやりとりに対して笑いを堪えつつ、更に指を躍らせる。
数秒後、画面に表示されるブラックサンの犯罪データ。
だが、それはとてもうら若き乙女たちが直視できるようなものではなかった。

「な、なにこれ…?」
「外道どもが…!」
「そんな、酷い…っ」

三者三様の声を上げながら少女たちは身を震わせる。
画面に表示されたデータ。
それはブラックサンが誘拐ないしは裏で買い取った女性たちの記録だった。
ある女性は富豪に性奴隷として売られ、またある少女は組織の下っ端に払い下げられていた。

「くっ…」

悔しそうな声を上げたのは誰だっただろうか。
同じ女性として、悔しさと怒りだけが少女たちの胸に込みあがってくる。
だが、次の瞬間。
少女たちの顔色が一気に怒りとは違う理由で赤く染まった。

「え、あ、な…?」

目に映っている情報が何かわからない。
そんな感じで金髪の少女は間の抜けた声を上げた。
顔は首筋まで真っ赤に染まり、視線は一点を見つめて動かない。
残る二人の少女も声こそ上げないが、同じ状況なのだろう。
無言で画面に映る画像――すなわち、卑猥な格好をさせられている女性たちに目を釘付けにされていた。

「こ、これって…」

震える声を振り絞るようにナイフ使いの少女が画面を指差す。
その情報が文字だけならば、あるいは少女たちがスレていればここまであからさまな反応はしなかっただろう。
だが、幸か不幸か少女たちは皆処女であり、それぞれに純情な乙女心を持つ女の子だった。
そんな彼女らが自分たちではとても想像もできないような格好をさせられている同性の裸体を見てしまったのだ。
動揺してしまったとしても無理はない。
怪盗少女たちの鼓動がドクリと跳ね上がり、小刻みにビートを奏ではじめる。
胸の奥がきゅんと締め付けられるように痺れる。
それは、確かに興奮と言い表せられる反応だった。

「…もはや一刻の猶予もない。一秒でも早くこの組織は潰す!」

最初に立ち直ったのは髪を振り乱すように顔を上げたブレイドだった。
その頬にはまだ赤みが残っているものの、瞳の中の感情は轟々と怒りに満ちている。
男嫌いで、なおかつ潔癖症気味なところがある女剣士からすれば、目の前の画像は許せるものではなかったのだ。

「そ、そうだね。まさかここまで酷いことをしていたなんて…」

仲間の怒声を受け、ラビットとウィッチィも再起動を始める。
とはいえ、この中で一番ませているラビットは口では怒りを示しながらも画像に興味があるのか画面からを目を離さない。
勿論、ブラックサンが許せないというのは本音だが、年頃の女の子としては興味ある情報というのも事実なのだ。

「…同じ女性として許せません」

ウィッチィはどちらかといえばブレイド寄りの性感覚の持ち主なので興味よりも先に嫌悪が湧き上がっていた。
箱入りのお嬢様といっても差し支えなく育てられてきた少女からすれば目の前のデータは悪夢でしかない。
男の性欲というものは勿論知識としてはあったし、パーティーのたびに身体をジロジロと見られ慣れてもいる。
だが、このような直接的な性の情報は聞いたことも見たことも感じたこともなかった。
思わず、目をそらしたい衝動にかられるがデータを落とさなければいけない以上それはできない。
故に金髪の少女は顔を羞恥心と嫌悪に染め上げながらも黙々と作業をこなしていた。

「…あと一分もあれば全てのデータを落とせます」
「じゃあ撤収の準備だね」
「このような場所、一刻も早く立ち去りたいところだ」
「――それは困るねぇ」

後もう少しで作業終了というその瞬間。
ほっとしたラビットの声と、忌々しそうなブレイドの声に聞きなれぬ第四者の声が乱入した。
驚きと共に、三人の視線が声の主の元へと走る。
そこには、一人の男がいつの間にか立っていた。

「やっ!」

瞬間、ラビットの手が反射とも言ってよい反応速度で振るわれた。
少女の手から放たれた四本のナイフが男の四肢を串刺しにするべく襲い掛かり、着弾する。

「なっ…!?」

だが、男はナイフが命中したにもかかわらず痛がる様子もなく立ち続けていた。
いや、命中したという表現は適切ではない。
何故なら、ナイフは男の身体を『すり抜けていった』のだから。

「な、なんで?」
「あれは…ホログラフィ!?」
「ご名答」

ラビットの動揺を押さえ込むようにウィッチィの声が響く。
確かに、男の身体はよく見てみるとうっすらと透けて見える。
男は白衣に眼鏡といかにも研究者といった格好で余裕たっぷりに三人の少女を見つめていた。

「貴様、何者だ」
「おっと、これは失礼。自分の名はキャンス。一応ブラックサンの幹部やらせてもらっています」
「あなたが、幹部…!?」
「ようこそ、怪盗トライアングルムーン。この罠を発案したものとして丁重に貴女がたを出迎えさせてもらいます」
「罠っ…!?」

慇懃に礼をする男に三人は慌てて周囲を見回す。
だが、特に何か状況に変化があるというわけでもない。
ハッタリか…?
三人がそう思いかけた刹那、キャンスは右手を高々と天に掲げる。
それが、合図だった。

「え…!?」

ゴウン、と重苦しい音と共に扉側を除いた部屋の三方の壁がせり上がっていく。
壁の向こう側は広めの空間になっていたらしく、壁が昇りきるとあっという間に部屋は広々とした空間へと生まれ変わった。

「そ、そんな…っ」

ナイフ使いの少女の動揺を隠せない声が響く。
壁の向こうから現れたのは広々とした空間だけではない。
一方向に数十人単位で警備の男たちが待機していたのだ。
全員合わせればおそらく人数は百を越えるだろう。

「いやあ、まんまと引っかかってくれて嬉しいですよ。これで我が『アポロン』の性能が証明されたというものです」
「アポロン…?」
「自分が開発した、我がブラックサンの誇る高機能コンピューターですよ。
 そちらもかなりのものを使っているようですが、こちらのほうが一枚上手でしたねぇ、あっはっは!」

勝ち誇るように笑うキャンスにウィッチィが歯噛みする。
全ては仕組まれていたことだと理解できてしまった。
簡単に手に入った情報、警備の少なさ、進行の順調さ、その全てが自分たちを罠にかけるための餌だったのである。

(そんな、アルテミスよりも上の性能だなんて…!)

アルテミス頼みであるが故の誤算。
新堂グループの誇るコンピューターをも騙せる頭脳があるなど思いもよらなかった。

「さて、自分はそろそろお暇させてもらいます。あ、そうそう。後ろの扉は再ロックしておきましたから」

にっこりと笑うと最後にそう言い残して白衣の男の立体映像は消え去った。
わざわざ言い残すということは、今度のロックは恐らく外せないようになっているはず。
頼みの綱であるアルテミスが役立たずになってしまったことにウィッチィは少なからぬ焦りを覚えた。

(この状況は私のせい…私がしっかりと情報を分析していれば…っ)

ジリジリと迫ってくる男たちに視線を向けつつ、ウイッチィは自責する。
例え相手のコンピューターのほうが上手だったとしても、幾らでも注意する点はあったはずなのだ。
そこに気がつかず、焦りから安易に事を進めたのは明らかなミス。

「すみません、私のせいで…」
「気にするな、部屋の中にだけ気を配っていた私にもミスはあった」
「そーそー、今は反省よりも未来のことだよ。まずはこの状況をなんとかしないとね」

背中合わせの三角形にフォーメーションを組みながら金髪の少女は謝罪を口にする。
だが、少女の仲間は彼女を責めなかった。
一蓮托生。
それをしっかり認識している以上、不満などあるはずがない。

「しかしどうする? 流石にこの人数を相手にするのは無理がある」
「扉をブレイドの剣で斬って脱出とか?」
「無理だ。この剣は逆刃刀。斬撃には向かないし、私の力では突きで壊すのも難しいだろう」
「八方ふさがりってわけか…大ピンチだね」

口調はおちゃらけてはいるが、ラビットの表情は深刻極まりなかった。
じんわりと背中に汗がにじみ、緊張に足が震える。
罠があったということは最初から自分たちがブラックサンのターゲットであったことは間違いない。
つまり、彼らは自分たちの捕獲こそが目的なのだ。
流石に殺されるようなことはないだろうが、楽観視はできない。
例え命の心配がなくても、捕まってしまえばどうなるかわかったものではない。
ましてや、相手は女性を食い物にする犯罪組織なのだ。
他の二人もそれを認識しているのか傍にいると緊張が背中越しによく伝わってくるようだった。

「来るぞ!」

ブレイドは背後の二人に声をかけると共に刀を構える。
ラビットも指に複数のナイフを挟み、投擲の準備をする。
ウィッチィは腰のホルスターから鞭を取り出した。
絶望的な状況の中、三人の目には諦めの色はない。
そして、男たちが一斉に少女たちに向けて駆け出した。

(くっ…!)

広い空間を飛び跳ねながらラビットは焦りを顔に浮かべる。
固まって戦っていたはずなのに、いつの間にか三人は分断されてしまっていたのだ。
他の二人はどこに、と心配しようにもひっきりなしに襲い掛かってくる男たちがそれを許さない。

「やっ!」

向かってくる男にナイフを投げつける。
だが、小型の武器であるナイフといえども数は有限だった。
十人を越える数の男を倒した段階でナイフのストックはあっという間に零になってしまう。

「はぁっ!」

しかしラビットは想定内とばかりに冷静に格闘戦へと切り替える。
勿論、組み技など論外なのでヒットアンドアウェイの戦法だ。
小柄な少女は男たちをジャンプ台にする形で移動しながらその頭部に攻撃を加えていく。

「こ、このガキ…ちょこまかと!」
「へへん、鬼さんこちらっ……って、わっ!?」

と、床に着地した少女の体勢が僅かに崩れた。
人の波によって見えなかったが、着地地点には気絶した男が寝転がっていたのである。
そして、その隙を見逃さない一人の男がいた。

「うらぁっ! 捕まえたぜぇ!」
「ひゃあっ!? ちょっ、どこ触ってるの!?」

背後からガバリと抱きつくように掴みかかられたラビットが悲鳴を上げる。
わざとか、それとも偶然か、男の手は少女の胸をガッチリと掴んでいた。

「は、離して! 離してよっ!」
「誰が離すか!」

じたばたと暴れる少女だが、大の男の手にかかってはその拘束を振りほどくことはできなかった。
短いスカートが乱れ、その下のスパッツがチラチラと覗くが、それどころではない。
男は調子にのったのか、掴んでいた少女の胸を揉み始めたのだ。

「あっ!? こら、胸を揉むなっ!」
「胸ぇ? てっきり腹かと思ったぜ、あんまりにもぺったんこだったからな!」
「な……」

かぁぁっ。
胸を触られている羞恥ではなく、男の無礼な言葉に少女の怒りが湧き上がり、首の上へと血が上っていく。

「なんだ、怒ったか? まあ折角だから俺が大きくしてやるよ!」
「なっ、このっ、やめっ…」

もみもみもみ。
あるかなきかの起伏を揉みまくってくる男にラビットは暴れることで抵抗の意を示す。
しかし一向に拘束はとける気配はなく、むしろ男の手つきはどんどんいやらしいものへと変化していく。
そしてその指が胸の頂点を掠めた瞬間、少女は思わず上擦った声を上げてしまった。

「ひゃうっ…」
「お、可愛い声だせるじゃないか」
「やめ…ぅんっ」
「ここか、ここがいいんだな?」
「く、くすぐった…っう!」

くりくりと乳首を弄くるように指を動かす男に少女の体がピクピクと反応を起こす。
十の指がそれぞれ動くたびにくすぐったさと痛痒感が胸の先から小柄な肢体を駆け巡る。

「こ、この…スケベ!」
「スケベで結構。お? それより皆見ろよ、こいつの乳首、勃ってきやがったぜ?」
「え…!?」

おお、と歓声がわきあがり、少女は慌てて胸を見下ろした。
男の指に挟まれるようにして弄られている乳首は服の上からでは勿論見ることはできない。
だが、タンクトップにブラだけという薄着のラビットの胸ははっきりとそのシルエットを映し出している。
そしてその中心では、確かに突起らしきものが自己主張を始めているように見えた。

「う、嘘っ…!」

羞恥心が怒りを上回り、動揺を少女の心へと埋め込んでいく。
その間にも乳首への刺激はやむことなく続けられていた。
そのたびに少女の口からは吐息が漏れ、身体が反射的に弾み、弄られている部分は健気な反応を返していく。
徐々にではあるが、男の言葉通り胸の中心にぽつんと乳首の輪郭が浮かび上がり始める。

「どれどれ、よく見せろよ」

数人の男がその様子を見ようと少女の胸に近寄ってくる。
だが、乳首が勃起する瞬間を見られるなど冗談ではない。
ラビットは先頭の男が射程距離に入ると、渾身の力で足を振り上げた。

「はぁっ!」
「ぶがっ!」

振り上げられた爪先が男のあご先にクリーンヒット。
脳をシェイクされた男は白目をむいて仰向けに倒れた。

「こ、こいつ……うぎゃっ!?」

だが、攻撃はそれで終わりではない。
振り上げた足をそのまま振り下ろし、加速されて重量が加算された踵が容赦なく少女を拘束していた男のすねに命中した。
痛みからたまらず足を上げてしまう男。
瞬間、密着していた二人に僅かな隙間が空いた。

「ふっ!」

ずどむ!
その隙間を利用した少女の肘が男の鳩尾に突き刺さった。
このコンボには大の男とてたまらない。
フラリと身体が傾き、少女を拘束していた男は崩れ落ちていく。
しかし、至近距離で威力が不十分だったのか、男は朦朧とする意識の中で最後の抵抗を行った。

「ふえっ……あ…ああああっ!?」

少女の顔が真っ赤に染まり、動きが止まる。
男は力が身体から抜けていく中、胸を掴んでいた手をギリギリまで離さずに倒れこんだのだ。
当然、掴まれたままだったタンクトップはその下の下着ごとズルリとずり上がる。

「おおっ!」

ふるり、とあらわになる少女のささやかな胸。
思わぬ生ポロリに男たちの歓声が上がった。
姿を現した微乳が男の視線に晒され、その頂点のさくらんぼが怯えたようにふるるっと揺れる。

「やっ…見るなぁっ!」

露出した羞恥部を隠すべく、慌てて少女は両手を胸の前で交差させ、ぺたんと床に座り込んでしまう。
だが、その女の子としての当然の動作は男たちにとっては隙だらけのものでしかない。
縮こまった兎を再度捕まえるべく無数の手が伸びる。
しかし次の瞬間、男たちはまとめて少女の視界から消えた。
正確には、一人の男がどこからともかく飛んできて男たちを巻き添えにした。

「ブレイド!?」

小柄な少女の目に映ったのは威風堂々と佇む仲間の姿。
そう、三人の中でも最強を誇る黒髪の女剣士の一撃が少女に迫る複数の男たちを蹴散らしたのだ。

「無事か?」
「うんっ!」

いつもと変わらない、怜悧な表情。
そんな頼もしい救援の手にラビットの顔がほころんだ。