容赦なく外気にさらされた肌を打ち付けるような突風がようやくおさまる。
だが、風に煽られた数秒の間に美音は何もつけていない生尻を公開するという恥辱を味あわされてしまっていた。
既に彼女の怪盗アクアメロディとしてのプライドはズタズタだった。
シティ中に捕縛された姿を映されているだけでもどうしようもない屈辱である。
にも関わらず、その上で上半身は胸を暴かれ、はしたなく勃起した乳首を責められる。
更に、下はスカートにこそ守られてはいるものの、その下にあるべき下着を奪われノーパン状態。
しかも、先程の突風でそれさえもバレてしまった。
もはや美音は細い糸一本で発狂しそうな己の心を押さえ込んでいるに等しい状態だった。

「はぁ…はぁ…」

怪盗少女の口から通常よりも荒い吐息が発せられ続ける。
ずっと空中に吊り下げられ続け、拘束による痛みと疲労が絶え間なく乙女の身体を責めたてる。
うっすらと浮き上がった玉のような汗がしっとりと身体中を覆う。

「はぁっ…」

美音の身体がほてったように熱く体温を上昇させていく。
それは疲れだけが原因ではなかった。
好奇の目、好色な目、軽蔑の目。
怪盗アクアメロディの恥態を見つめるそういった人々の視線が熱量を持って彼女を苛んでいるのだ。

(むおっ…!)

鼻腔をくすぐる甘い匂いに覗井はたまらず鼻をくんかくんかとヒクつかせる。
ふわぁん…と美音の身体からたちのぼる女の香りが原因だった。
極上の雌を感じさせるその香りに、あっという間に少女の近くにいた三人の男は魅了されてしまう。

「くっ…うっ…はぁ…あっ…ふぅっ…」

辛そうな、それでいて切なそうな吐息を吐きながらも、美音は両手を動かした。
折れそうな心を必死に鼓舞し、この状態から脱出しようとなおもあがき続けるその精神力はやはり並ではない。
疲れと寒さ、そして羞恥に震える手で針金を慎重に動かしていく。
しかしそれは彼女の目的を知らぬ者たちからすれば卑猥な動作に他ならなかった。
手を動かすたびに少女の肢体が連動してくねるように動く。
本人が意図していないとはいえ、それはまるで男に媚びるかのような動きだった。
美音の姿を見ている男全てが、この一瞬に少女を組み敷き蹂躙する自分の姿を幻想する。

(ほう、まだ粘るか…)

そんな中、ただ一人己を見失わずにいた夜暗は美音の精神力に感嘆していた。
だが、その余裕の笑みは全く崩れない。
少女の運命は既に手の内にあるのだ。
それに、まだこのイベントは中盤。
そう心中で呟いた夜暗は美音を更に追い詰めるべく足を止めた。

「あ……!?」

がくんっ!
クレーン車の静止による振動で少女の体が揺れる。
美音はその瞬間、振動によって呼び起こされたある衝動にぶるりと身を振るわせた。

(な…そ、そんな…!?)

腹部が張るようにふくらみ、勝手に股間がうずく感覚。
それはこんな場所では絶対に起きてはならない感覚、すなわち尿意だった。
長時間の拘束と緊張、そして衣類を剥ぎ取られたことによる肌寒さ。
それらが混然一体となって今美音の体へと襲い掛かり始めたのである。

「は…ぅぅ…っ」

膀胱を襲うあまりにも恥ずかしい衝動に美音の肢体がビクリとざわめいた。
手足全ての指がぎゅっと内側に折りたたまれる。
全体は拘束の中、心なしか腹部を中心に縮こまっていく。
もじり、とふとももが大きくすり合わせれた。
しかしながら幸いにもその動作に気がついた人間はいない。
何故なら、人々の注目は再び少女の顔へと集まっていたのだから。

「さて、二回目といきましょうか」

やはり怪盗少女を助けようとする者がいない中、夜暗の声が静かに響いた。
カチリという音とともに少女の背後のマジックハンドが再び動き出す。
今度はダークの力は行使されなかったものの、尿意に集中していた美音はあっさりと結び目を捉えられてしまう。

「あ……くっ…」

顔と足の付け根。
上下を同時に襲う危機が美音の心臓をうるさいほど動悸させる。
しゅるっしゅるるっ
水を打ったかのような静寂の中、衣擦れの音だけがはっきりと人々の耳に届いていた。

「……ぁっ!?」

高性能マイクでも拾えないくらいの小さな悲鳴。
美音の発した動揺の声だった。
それは目元に起きた違和感。
気のせいですませられる程度のその感覚は、美音の全身を思わず硬直させるほどのものだった。

(か、仮面が…ず、ずれて……っ!?)

ひんやりとした空気。
絶望と焦燥を伴ったその感覚が確かに目元の肌に生まれはじめている。
それはすなわち、仮面が自分の顔から離れ始めたということだ。
スクリーンに映る怪盗少女の仮面には一見何の変化も起きていない様に見える。
あるいはただの気のせいかもしれない。
しかし、仮に気のせいだとしても一度意識してしまった情報は頭にこびりついて離れなかった。

(い、いけないっ)

美音は咄嗟に俯くのをやめて顔を上げた。
顔を上げてさえいればたとえ結びが緩んだとしても仮面がずり落ちる可能性は大幅に減少する。
だが、その決断はこの場においては諸刃の剣でもあった。

「おい、見ろよあれ…」
「ああ、顔が真っ赤だぜ。よっぽど恥ずかしいんだな」
「ばぁか、寒いからだよ。あんな短いスカート穿いておきながらノーパンなんだぜ? 恥ずかしがってるわけないじゃん」
「はは、しかしなんにしても…色っぺぇなぁ!」
(違う…! 私はそんな…! ああ…やめて、見ないで…!)

観衆のざわめきが囚われの少女を更なる屈辱へと突き落とす。
顔を上げることによって観衆は少女の表情を細部まで観察することができるようになったのだ。
一箇所に集まるライトが美音の身体を、そして表情をはっきりと鮮明に浮き上がらせていた。

(あ…はぁっ…!)

差し込んでくる光に目を細めた美音は再び襲ってきた尿意の波に身体をひくつかせた。
もじもじと揺らされる怪盗少女の肢体。
それは恥ずかしさゆえの身じろぎにも、あるいは人々の視線を感じているがゆえの卑猥なダンスにも見えた。

(…も、うちょっとで……!)

自分に集まっている無数の視線。
直接間接を問わずに向けられるそれに怯えを感じながらも美音は口を開くことなく黙々と十指を動かし続ける。
この手を縛る枷さえ外すことができれば。
それだけが今の美音の希望だった。
だが、その指の動きは最初に比べて明らかに速度が落ちている。
尿意と仮面のほころび。
その二つの懸念が美音から集中力を確実に奪っていたのだ。

「ふむ、それでは最後の移動と参りましょうか」

夜暗は周囲の野次馬全てに聞かせるように宣言するとポケットにリモコンをしまい、歩き出す。
と同時にマジックハンドを引っ込ませたクレーン車がゆっくりと再起動を始めた。
その後ろを覗井を筆頭としたTVクルーと野次馬がぞろぞろとついていく。

「さあ、いよいよこのゲームも残すところ後一回!
 このままアクアメロディの仮面は剥がされ、その素顔を白日の下にさらすことになるのでしょうか」

カメラに向けて緊迫した表情を向ける覗井。
だがその目元は明らかにだらしなく緩んでいた。
リポーターとしては痛恨のミスであり、覗井もそれは自覚していた。
だが、彼はそれでも心の奥底から沸きあげるような欲望を抑えることができなかった。
今まで数々の事件をリポートし、数多の女性を辱めてきた。
しかしアクアメロディという存在は間違いなくその中でもトップを飾る獲物なのだ。
未だスカートに隠されている足の付け根はどんな形をしているのか?
あの魅力的な身体は触ったらどんな甘美な感触を与えてくれるのか?
自分のイチモツを挿入した時、少女はどんな声で鳴いてくれるのか?
何よりも、あの仮面の下にはどんな可愛らしい顔が隠されているのか?
覗井の欲望を伴った好奇心はもはや抑えられる限界にまで達しようとしていたのだ。

(しかし今が深夜だってのが本当に残念だぜ…これがゴールデンタイムなら視聴率がどれだけになるのやら)

シティのアイドルだった怪盗少女の捕縛。
これだけで数字が取れることは間違いない。
だが、今はそれに加えて少女の痴態をリアルタイムで流しているのだ。
この放送は明日のニュースでも流されることは間違いないだろうが、情報とは生で得てこそ価値がある。
それだけに、覗井は今寝ているであろう市民を不憫に思い、自分の幸運と夜暗に感謝をささげるのだった。

(まあいいさ、いよいよクライマックスだ。エンターテイナーとしては盛り上げていかないとな?)

ニヤリと口元を吊り上げ覗井は怪盗少女へと向き直る。
その視線を受け、少女がビクリと怯えるように身体を振るわせる反応がたまらない。

「アクアメロディちゃん。どうですか今の気分は?」
「……最悪よ」

ぽつりと呟くように返された返事。
少女は当初の勝気な態度こそ崩してはいないものの、精神的にはすでに限界を迎えようとしているようだった。
今まではほぼ無視を決め込んでいたのに憎まれ口とはいえ反応した。
それは少女の精神が追い詰められている何よりの証拠だった。

「アハハ、まあ確かにこんな状態じゃあそうでしょうねぇ。ま、男としては眼福なんですが」
「変態……」
「失礼な。男はみんな変態ですよ? というかむしろこんなものを見せ付けられて反応しないほうが変態ってもんです」
「そんなことっ…」
「おやおや、アクアメロディちゃんは随分と純情なんですねぇ。ひょっとして処女?」
「っ!」

ぷいっ
覗井の下世話な質問に美音は思わず大きく反応して顔をそらしてしまう。
と、一瞬遅れて剥き出しの胸がぷるるっと大きくたわむ。

「うはっ、わかりやすい反応ありがとうございます! そうかー、そうですかー、怪盗アクアメロディは処女だったんですか!」
「だ、黙りなさい!」
「こーんなえっちぃ格好をしてるのに処女とはねぇ…いやはや、人は見かけによらないもんですねぇ、顔見えないけど」

最後に付け足された言葉にくすくすと笑い声があがった。
下手なジョークだが、覗井の声音と大げさな動作がそれを滑稽に見せる。
そして、観衆の興味は露骨な反応を見せた怪盗少女へと注がれていた。

「うーん、そうなると悪いことしちゃいましたね? 嫁入り前の身体をこんな公衆の面前で晒しちゃったわけですし」
「……っ」
「睨まないでくださいよ。まあ素顔はバレてないんだからセーフじゃないですか。
 まだ精々僕を含めた男たちのオカズになることが決定したくらいなわけですし」
「なっ…あっ……?」

直接的な表現でこそないものの、自分の今の格好がそういった対象になるという事実を突きつけられ、美音は狼狽する。
男と付き合った経験がない美音ではあるが、男に関して知識がないわけではない。
当然、男の自慰行為についてもそれなりに知識はある。

(そんな、私が…!?)

自分の身体に性欲を向けられるという事実に美音は戦慄した。
アクアメロディとしても、水無月美音としてもそういった視線を投げかけられたことは何度かあった。
腰まわりやふくよかに育った胸などに注がれる男の視線。
勿論、美音はその視線の意味を理解していた。
だが、それはあくまでその場一瞬のことである。
先日の風見にしろ彼が異常状態だったのは明らかであり、そこまで考えが思い至らなかったのだ。
故に、その後、つまりは知らないところで自分が男の想像の中でどう扱われているかというのは思考の範囲外だったのだ。
しかし今この瞬間。
無垢だった少女は現実に男の欲望を突きつけられた。
自分の身体が自分のわからない場所で汚されていることを認識してしまったのである。

「い…いやっ……!」

自覚してしまった事実。
それは美音に混乱と今までにない羞恥心を与える結果となる。
確かに今までも十分恥ずかしかった。
だが、今感じているそれは今までの比ではない。
いわば、自分の内面、水無月美音という人間の全てが人の視線に晒され、記憶されていっているようなそんな感覚だったのだ。

「んん? どうしたんですかそんな急に暴れだして」
「降ろして! 降ろしなさい! このっ……」

ギシリ、ギシギシッ!
美音の身体が右に左にと揺れ動き、少女の身体を支える手錠とロープがギシギシと唸りをあげた。
だが、当然のことながらその戒めはピクリとも解ける様子を見せない。

「んっ……はぁはぁ、くっ……!」

熱っぽい溜息とうめき声が次々と少女の口から漏れてだした。
急な運動によって羞恥と疲労に火照っていた身体が更に熱を上昇させていく。
それによってうっすらだった汗が徐々に玉の形に膨らんでいき、滑らかな乙女の肌をつるりと滑り落ちていった。

(ようやく自分の立場を理解したか。こりゃ生粋の処女だな…くう〜、是非初物は頂きたい!)

アクアメロディの急な抵抗の意図を正確に理解していた覗井はなめるような視線で少女の身体を凝視する。
宙に吊り下げられたまま暴れた身体は不規則に前後左右に押し出されるように揺れている。
それにつられてはだけられた上着の中央では豊かな双乳がぽよんぽよんと弾んでいた。
時折、汗がつつーっとその胸の谷間へと吸い込まれるように落ちていくのもエロティックで見逃せない。

「はぁっ…! はぁっ…! はぁっ…!」
「もう終わりですか? 結構艶かしかったんですが」
「…ふぅ、ふぅ…っ」
「あらら、相当疲れちゃったようですね。なんか足も開きかけてますし」
「はぁ…え……!?」

覗井の言葉に美音の、そしてカメラの目が下へと向けられる。
そこには、相変わらずぴったりと閉じあわされた両足とそこにぎゅっと挟み込まれたミニスカートがあった。

「あ…!」

だが、先程と違い、その両足は僅かながらに開きかけていた。
太ももからかかとまで接着剤でくっつけたかのように閉じあわされていた少女の両足。
それが膝の辺りまで空白を作り出していたのである。

「きゃ…っ!」

慌てて美音は足を再度閉じようとするも上手く足が閉じられない。
しかしそれも当然のことだった。
長時間ピッタリと全力で力を込め、その上で身体を息が切れるまで振り回したのだ。
足に疲労が蓄積してもおかしくはない。
現に、できもの一つない少女の真っ白な美脚は寒さではない震えに襲われて脳からの指令を受け付けない状態だった。

(そんな、足が…動かないっ)

かろうじて膝から上は熱が残っているものの、既に膝より下は感覚がなくなりかけていた。
ぴくぴくと痙攣を繰り返し、ただふらふらと風と衝撃に揺らされるだけ。

(これじゃあ、手錠がはずせても…)

足の状態に美音は焦りを浮かべた。
これでは例え手錠を外しても、素早く逃走をすることができない。
いや、それどころかこれでは着地すら危うい。
そんなことになればあっという間に再度お縄になるだけである。

(どうする…どうすればいいの…?)

ぐるぐると思考が回る。
一番良いのは足の力を抜いて回復を図ることだ。
だが、それはできない相談だった。
今足から力を抜けば太ももに挟んだスカートが解放されてしまう。
そうなれば、必死に守ってきた最後の処女地までを周囲の目に晒すことになりかねない。

(でも、考えている暇はない…!)

既に最後の移動も半分を過ぎてしまった。
このままいけばあと数分で怪盗アクアメロディは仮面を外され、その素顔を晒すことになってしまう。
それだけは、それだけは防がなければならない。

「ぅく……っ」

そんな美音に更なる危機が到来する。
他の事に気をとられて忘れかけていた尿意が下半身に気をやったことで再び襲い掛かってきたのだ。

(あ……ダメっ!)

ビクビクッ!
一際大きい尿意の波が少女の身体を襲う。
だが、身体が大きく震えただけでかろうじて決壊は免れる。

しかしその代償は大きかった。
流石に様子がおかしいと感じ取った覗井がついに美音の尿意に気がついてしまったのである。

「あっれぇ〜? ひょっとして…」
「…?」
「おしっこ、したくなっちゃってます?」
「な、あっ――!?」

ぼん、と美音の顔が仮面の下で爆発するように赤く染まった。
とはいえ、アイマスク型の仮面で顔全体が隠せるはずもなく、赤面は少女を注視していた全ての人間が察することになる。

(ビンゴォ! いやいや、この女エロ神様につかれてるんじゃねえのか?)

ぶんぶんと否定の意を示すべく顔を横に振る少女が目に映るが、それを信じるものは誰もいないだろう。
あまりにもわかりやすいリアクション。
そして、もじもじと擦りあうように動く太ももと左右に揺れる腰が何よりの証拠なのだから。
だが、覗井はあえて少女を信じた。
いや、正確には信じるフリをすることにした。
そちらのほうが少女をいたぶれると判断したからだった。

「ですよね。まさかこんな状況でもよおすなんて」
「ひゃうっ?」
「ありえませんよねぇ」
「ぁ…はっ! や、やめてぇ…」

膝小僧をくすぐるような微妙なタッチで触れる。
それだけで怪盗少女の下半身から力ががくがくと抜けていく。

「おやぁ? やっぱりおしっこがしたいんですか?」
「ち、ちがっ…」
「もしそうなら…わかってますよね? これがテレビに映ってるってこと」

にやあ、と底意地の悪い笑みを浮かべて覗井は美音に囁く。
効果は覿面だった。
美音はさーっと顔を青褪めさせると唇を噛み切らんばかりに噛み締め、足に力を込めていく。
その行動が尿意があるということを宣伝しているようなものだとは気がつかずに。

ごく…

誰かの息を呑む音が響いた。
怪盗少女の素顔や裸が晒されるのとはまた別の興奮が観衆を包み込んでいく。
特に男の期待度は格別だった。
美少女の放尿シーンなどエロビデオでしかお目にかかれるものではない。
それが現実の、それも生で観賞することができるかもしれないのだ。
しかも対象は怪盗アクアメロディという格別の美少女。
それも緊縛に半裸というこの上ないシチュエーションでだ。

(……だめ、だめだめだめだめぇ!!)

が、当の本人である美音にとっては冗談ではない事態である。
散々の羞恥と屈辱を味合わされているというのにこの上小便まで漏らしてしまったらどうなるのか想像さえしたくない。
だが、現実は彼女に非情だった。
徐々に徐々に下半身からは力が失われていき、ゆっくりと足と膀胱は守りを緩めていく。

(絶対…駄目なんだから!)

もはや美音に退路はなかった。
今はかろうじて耐え忍んでいる。
だが、限界はもう間近だった。
このまま座して待っていても崩壊は免れない。
瞬間、覚悟を決めた美音の止まっていた両手に生気が吹き込まれた。

(この手錠を…外しさえ、すれば…!)

足は依然回復の兆しを見せない。
だが、手錠を外してしまいさえすればなんとかなる。
外した後の勝算はないに等しい。
けれども、自分の身を守るためには何もしないわけにはいかなかった。
顔から下が淫靡な視線に晒されている中、唯一注目されていない両手の指が必死に動き回る。

「んふー、どうかな? どうかな?」
「はっ、くっ…ふぅっ!」

だが、そんな少女の必死さなど覗井にはどうでも良かった。
伸ばされた手がすらっとした少女の腹部に当てられ、すりすりと何かを塗りこむように動き回り、美音を更に追い詰めていく。

(頑張るねぇ…つーか根性ありすぎ。頑張ったところで結果は同じなのにな……ん?)

少女に嘲笑の目を向ける覗井。
だが、彼は気がついた。
少女の目がこの期に及んで未だに生きているということに。

(…何かあるのか? この状況を脱出できるような何かが)

夜暗が何もいわないところを見ると、特に問題はなさそうだが万が一にもここでアクアメロディに脱出されたら最悪である。
覗井は少女の支えを探すべく視線を走らせようとし

――そして、次の瞬間、その場に「待て!」という大きな声が響いた。