薄暗い夜の闇の中「彼」は意識を取り戻した。
ふらつく身体に活を入れ、起き上がる。
すぐ横には気絶した仲間の姿。
彼はしっかと床を踏みしめると同時に警戒を発した。
周りから仲間の怒声、あるいは悲鳴が聞こえたからだ。
彼は悟った、敵対者が多数の人員でこの屋敷に襲撃をかけてきたのだと。
そこで彼は迷う。
怒号はすぐ近くまで迫ってきている。
つまりこのままこの場所でぼんやりしていては自分も悲鳴をあげている仲間達と同じ目にあってしまう。
かといって仲間を見捨てていくのもいささか心苦しい。
だが葛藤は一瞬だった。

(すまない、ジョーン、モゾ、タイガー兄弟、ベーン、ズミス…そしてレッドアイ!)

彼は傍らに倒れているレッドアイを含めた仲間たちを置いていく決断をした。
確かに仲間達は大事な存在だが、それ以上に大切な目的が彼にはあったのだ。

(匂いは…よし、まだ近くにいる!)

鋭い嗅覚で目標の居場所を察知した彼は一目散に走り出した。
彼はご主人様の性癖が影響したのか、女性の衣類を集めることが趣味だった。
そんな中、彼はついさっき素晴らしい匂いを持つメスに出会ったのである。
なんとしても彼女の衣類が欲しい。
彼はその欲望の赴くままに駆けた。

「ワォン!」

雄雄しく吼える彼の名はギィン。
生物名は犬。
犬種はドーベルマン。
所属は塔亜風見の飼い犬。
先立っては美音のスカートを剥ぎ取ろうとしたエロ犬である。

「もう、あんな変態が警察にいるなんてっ…」

美音はぼやきながら周囲に気を配った。
短時間で二人の男に揉みに揉まれた胸は少しばかり赤く充血し、ヒリヒリと冷たい夜風に過敏に反応する。
素顔を月下に晒している怪盗少女は厳重にそんな女の子の象徴をガードしつつ脱出へ向け歩いていく。

「くしゅんっ」

十月という肌寒くなる季節の中、上半身裸で下はミニスカートという格好は見るからに寒々しい。
美音は本日数度目となる可愛らしいくしゃみを口からこぼした。

「うう、このままじゃあ風邪をひいちゃう…早く帰らないと」

寒さに震え始めた白い裸体を押さえつけつつ美音は移動を続ける。
ボヤボヤしていれば警察の応援やマスコミ、そして野次馬がやってきかねない状況である。
セミヌードでいつまでも敷地内にいるわけにはいかないのだ。

(あった。あそこの壁)

下見段階で見つけておいた低めの壁に駆け寄っていく美音。
壁の向こう側は人通りの少ない路地になっているので逃走経路の一つとしてピックアップしておいたルートだった。

(警察、人の気配は…ないよね?)

先程のことがあるので、美音は注意深く周囲を見回した。
一人気絶させて包囲網に穴が開いたのか、その壁の周囲に人の気配はなかった。
ほっと息をつきながら美音は壁に手をかけようとし

「えっ?」

そして動きを止めた。
お尻の辺りに何か違和感を感じたのだ。
そう、まるで生暖かい息を吹きかけられているような…

「なっなに?」

慌てて振り向く美音。
そこには、犬がいた。

「むぉっふ! むわぉん!」
「え、ええっ? ちょ、ちょっとやだっ…ふあっ?」

犬、ドーベルマンのギィンは美音のスカートの中に後から顔を突っ込み、お尻の割れ目に鼻を突っ込んでいた。
荒々しい吐息が少女のヒップにかかる。
白桃と見紛うばかりの桃尻が侵入者の暴挙に怯えたようにピクッと震えた。

「こ、このっ!」

すぐさま事態を理解し、怒りに頬を染めた美音がギィンを引き剥がすべく身をよじる。
だが、ギィンもようやく見つけた獲物を逃さないとばかりに密着して離れない。

「くっ…えいっ!」
「ぎゃうん!?」

業を煮やした美音は後ろ手でドーベルマンの頭を掴むとそのまま後ろへと倒れこんだ。
女の子の体重といえども人一人の重さにギィンの頭部は耐え切れずに押しつぶされる。
美音は素早く体勢を反転させると相手を制圧するべく首へと手を伸ばす。
スタンガンが手元にないので素手でやるしかないのだ。

「がふっ!」
「あっ!?」

だが、ギィンも塔亜邸を守る番犬の一匹である。
素手の女一人にそうやすやすとはやられない。
首を捕らえんとする少女の手をかいくぐり、一旦距離を取る。
そして、跳躍。

「なっ…」
「がうっ!」

空からの強襲に美音は尻餅をついてしまう。
流石に空から降ってくるドーベルマンの全体重を支えられるほどの力は女である彼女にはなかったのだ。

「あっ、ど、どこに顔を…!」

美音を押し倒したギィンは侵入者用の対応であるはずの噛み付きを行わなかった。
それどころか、己の欲望を果たすべく少女の股間へと侵入を開始し始めたのである。

「い、いやっ」

たまらず足を閉じて侵入をガードする美音。
だがドーベルマンは止まらない。
顔を突っ込んだ膝の僅かな隙間から、ぐりぐりと身体をひねって奥へ奥へと突き進んでいく。

「はっ、離れてっ」

美音はぽかぽかとギィンの頭を殴るが、座り込んだままで打つパンチに威力などあるはずがない。
じわじわと怪盗少女の足がM字に開脚を始める。

「はぁ…息が、当たって…んっ!」

ふとももと足の付け根に届いてくる吐息に美音はむずがる。
そしてその感触は徐々に彼女に危機感を与え始めていた。
今はまだいい、気持ち悪さとくすぐったさだけなのだから。
けれども、その感触は別の何かに変換されようとしている。
このままではまずい。
そう、女の子としての尊厳が失われてしまう。
ゾクゾクと背筋を走る悪寒と共に言葉にできない恐怖が美音を襲った。

「っ!」
「ぎゃふっ!?」

美音は反射的に足をひねった。
体勢の変化によって美音の股間にギィンの鼻先が到達する。
だが、美音はそれに構わず足を膝の辺りで交差させた。
足四の字固めである。

「ふーっふーっ!? っ! っ!」
「この、大人しく…あぅんっ、しなさ…いっ!」

首を絞められ、口と鼻を塞がれて呼吸を封じられたギィンは必死にもがいた。
だが美音の足はそう簡単には剥がれない。
一方、美音も真っ赤な顔で足に力を込めていた。
いくら相手が犬だとは言え、男を股間に突っ込んで密着させているのだ、恥ずかしくないわけがない。
しかも、ギィンが動くたびに犬の顔や舌、そして体毛がふとももや下着越しの股間にこすれるのである。

「はぅっ…そ、そんなところ…」
「もがもがっ」
「そこは…な、なめちゃダメ!」
「むぐぅんっ!」
「あぁっ…くっ」
「…っ(じたばた)」
「はぁ…はぁ…」
「…(ぐったり)

そして死闘開始から数十秒後、ドーベルマンの身体が力なく沈んだ。

ゆっくりと美音は足を開く。
真っ白なふとももは犬の唾液まみれでぬらぬらと輝いている。
股間の下着もぐっしょりで、その下の性器の形がくっきりと浮かび上がっていた。
なお、唾液以外の液体がパンティにしみこんでいたかは美音の名誉のため記さないでおく。

「おい、こっちからなんか物音がしなかったか?」
「ああ、俺にも聞こえた! もしかしてアイツをやった奴か!?」

からくもドーベルマンを撃退した美音に危機が迫る。
騒ぎを聞きつけて人が集まり始めたのだ。

(いけない…っ!)

美音は足にまとわりつく不快感に顔を顰めながら立ち上がった。
唾液をぬぐうなり足をこすり合わせるなりしてこのねちゃねちゃ感をどうにかしたかったのだが、状況は逼迫している。
もはや悠長に壁をよじ登っている暇はない。
一息に壁を飛び越えるべく唾液にまみれた足で助走を開始する美音。
だが、その時。

「ぐるる…」

腹の底から搾り出すような唸り声が響いた。
呼吸困難で気絶したと思われていたギィンが立ち上がったのである。

「な、なんで…気絶していたフリをしていたの…っ?」
「ワォン!」

一気呵成に自分を追って走り始めたドーベルマンに焦りを隠せない美音。
だが今更足を止めて相手をしている暇はない。
追っ手を振り切るべく更に加速する。

「ハッハッハッ!」

しかしギィンも獲物を逃すものかと加速。
そしてドーベルマンの脚力は美音のジャンプ寸前に追いついた!

「バウッ!」
「えっ…?」

跳躍への踏み込みの瞬間、美音の身体がガクンと沈む。
ギィンがスカートに噛み付いたのだ。

「このぉ…!」

美音は構わず跳躍した。
今は逃げることが先決、少々の妨害に構っている場合ではないのだ。

ビリビリビリィッ!

怪盗少女の下半身を守るスカートが派手な音をたてて噛み裂かれていく。
それに伴い、闇夜の中その存在を主張するかのように白く丸いヒップが露になった。
白と青のストライプの下着に包まれた美尻がふるるっと揺れながら宙を翔ける。

「っ! と、届いて!」

邪魔が入ったためジャンプの高さは当初の予想を下回る。
だが、手が壁の淵にかろうじて届いた。
体を持ち上げるべく手に力を込める美音。
しかしその瞬間、一つの影が少女のおいしそうなお尻を追うように跳び上がった。
衣類ハンターことギィンである。

「がむっ!」
「ちょっ…!?」

ギィンは美音の肌を一切傷つけることなく、唯一彼女の胴体に残っていた布。
すなわちパンティににぶらさがるように噛み付いた。
途端、数十キロの重みが美音の手に加わる。

「く……あっ…!」

重みが増し、持ち上がらなくなった身体に美音は焦った。
警察の足音は既に間近にまで迫っている。
だがそんな彼女に更なる試練が襲い掛かる。
犬一匹の重みに負けてパンティがずり下がり始めたのだ。

「やぁんっ!?」

慌ててパンティの前側を左手で握りしめ、落下を防ぐ美音。
しかし、ギィンが食いついている後方、つまりお尻側は一気にずり下がった。
ふるんっと剥きたてのゆで卵のようなつるつるの生尻がストライプ模様の下から現れる。

「もうっ…は、離し…てっ…!」

右手一本では身体が落下にしないように支えるだけで精一杯。
しかし左手をはなせばパンティは脱げ落ち、夜空の下に全裸を晒すことになる。
美音が理性と羞恥心を天秤にかけた正にその時――

「ここか!」
「!?」

パッとライトが壁を照らす。
それは美音のいる壁からは数メートルは離れた場所だったが、彼女を追い詰めるのには十分だった。
もはや一刻の猶予もない、恥ずかしがっている場合ではない。
それはよくわかってはいるのだが、どうしても美音は左手をはなすことができない。
処女な乙女の悲しい性だった。

「うぅっ…」

伸縮性のある布地がドーベルマンの重みに引っ張られてぐんぐんと伸び下がっていく。
既に本来の役目、すなわち少女の大事な部分を覆い隠すという仕事は全く果たしていない。
ぷるぷると美音の手が震える。
人一人と犬一匹の体重を少女の細腕で支えるなど元々無理があるのだ。
ライトの明かりが徐々に迫ってくる。

(も、もう限界…っ)

美音の手がついに離れた。
離した手は、左。

「ふがっ!?」

突然の浮遊感にギィンは目を白黒させる。
だがパンティから口を離すことはない。
自然、彼は脱がしたてほかほかパンティと共に落下を開始し「ぎゃん!」と無様に地面へと叩き落されるのだった。

「…っ!」

一方、自分の身を守る最後の布という尊い犠牲をはらった美音は自由になった左手を使い壁をよじ登っていく。
少女の裸体が壁を登りきると同時に今までぶら下がっていた場所にライトが通った。

(か、間一髪…)

壁の向こう側に降り、ようやく屋敷の敷地を脱出した美音はほっと息をつき、そして震えた。
何せ今の彼女は全裸である、寒さから身を守る術は一切ない。
幸いにも人の姿は全くなかったのだが…

「こんな格好を見られたら別の意味で捕まっちゃうし…」

露出狂扱いは嫌だ。
そうポツリと呟いた美音の声音にはまだまだ遠い家への道のりへの絶望がにじんでいるのだった。