「ここかしら…?」

追っ手をまき、見取り図を見た美音は一つの部屋の傍まで来ていた
そこは見取り図に部屋名が記載されていない無白の部屋
怪しいといえば怪しいことこの上ない部屋である

「魔力の気配…どうやら間違いないようね」

美音は長い間エレメントジュエル・アースを持っていたせいかジュエルの発する魔力を感知することができる
無論、近距離にならないの知覚できないレベルなのでそれほど使える能力ではないのだがこういう時には役に立つ
人と罠の気配に気をつけながらそっと扉へと近づいていく美音

「…それにしても人の気配がないのはどういうことなの?」

周囲に人の気配がないのは間違いない
だが、この部屋の中にウインドルが置いてある以上警備の一人もいないのはいくらなんでもおかしい

「余程屋敷の警備に自信があったのか、それとも何かの罠…」

怪訝に思いつつも美音はドアをそっと開いた
部屋の中に窓はなく、電気はついていないため室内は真っ暗だった
ライトをつける美音
と、部屋の中央でキラリと光る緑色の宝石が視界に入った

(ウインドル…!)

目的の品を見つけた美音ははやる気持ちを押さえながら慎重に部屋へと侵入した
罠が設置されていないか気をつけながらも一歩一歩確実に中央へと近づいていく
そして、少女怪盗は中央、つまりウインドルの元へと辿り着いた
ウインドルは机の上にぽつんと無防備に放置されている
恐る恐る慎重に、だが迅速にウインドルへ手を伸ばしていく美音

「何も、起きない?」

ウインドルに美音の手が触れる
しかし、何も起きない
警報が鳴る様子も罠が作動する気配もない
美音は拍子抜けしながらもウインドルをしまおうと手を引き

そしてその瞬間、部屋に証明が一斉につけられた

「な…」

瞬間
罠!? と身構える美音に室内にも関わらず暴風が襲い掛かった

「きゃあっ!?」

突如の出来事に目を瞑る美音
バタバタと怪盗衣装の裾がひらめき、少女の髪を舞い上げる
同時に、ミニのスカートもめくりあがり、怪盗少女のスカートの中が全開になってしまう

「あんっ!」

慌ててスカート押さえる美音
すると、風はあっという間にやみ、部屋に静寂が戻った
ガチャ、と扉が閉まる
そこにいたのは、塔亜家の当主にしてウインドルの持ち主塔亜風見だった

「怪盗アクアメロディ、我が屋敷へようこそ!」

風見は芝居がかった大げさな仕草で両手を広げた
その表情には今にもウインドルが盗まれそうになっているという焦燥感はない
美音は罠を警戒した

「大丈夫さ、罠なんて仕掛けてねえよ。ここにいるのも俺だけだ、他の奴はみんな外に出したからな」
「…それを、私が信用するとでも?」
「いいや? ただ俺は正々堂々がモットーなんでな、先に言っておきたかっただけだ」

ニヤニヤとなめるように自分を見る風見に嫌悪感を覚えつつ美音は構えた
勿論、風見の言など欠片も信用していない
だが、風見はそんな美音の様子に機嫌を損ねることはなく、むしろ機嫌良さそうに口笛を吹いた

「ひゅーぅ! それにしても…こりゃ大当たりだな!
 怪盗っていうからにはもっと年増を予想していたんだが…なかなかどうして、良い女じゃねえか!」

仮面で隠れているものの、美音の素顔は十分美少女と言って良いレベルだ
そしてそれは仮面越しでも把握できる
風見は予想以上の獲物に歓喜した

「ま、下着がちょっとお子様趣味なのはいただけないがな?」
「なっ!?」
「白と青のストライプ。もうちょっと色気のある下着だと嬉しかったんだがな」
「こっ…この、変態!」

羞恥に頬を染めた美音が怒鳴る
先程スカートがめくられた瞬間を見られていたと気がついたのだ

「だが、身体は十分大人のようだ…ふむ、上から89・57・85ってとこか?」
「っ!?」

ばっ! と身体を隠すように両手を交差させる美音
風見の告げたスリーサイズは見事に的中していた

「どうしてわかったかって顔だな? もう少し何か当ててやろうか? そうだな…その髪留めの下には小型のナイフが隠されてるんだろ?」
「……!!」

美音は顔色を失った
またしても言い当てられてしまったのだ
風見はそんな美音の表情を満足気に眺めると種明かしを始める

「くっくっく、そう驚くなよ。こんなのはこれを使えば簡単なことなんだぜ?」
「ウインドル!? いつの間に…!」

風見の手には美音が握っていたはずのウインドルがあった
慌てて自分の手を確認する美音
だが、そこにはウインドルはなかった

「エレメントジュエルはな、主人が呼べば転移して手元に現れるのさ」
「な…そ、それじゃああなたは!」
「そう、俺はウインドルに魅入られた…いや、選ばれた人間だっ!」

ゴウッと風見の身体から風が吹き荒れる

「ウインドルは風を司るジュエル…だからこんなことは朝飯前だ。
 それだけじゃあない、風の伝導を使えば相手のスリーサイズや隠し武器の把握だってたやすい」
「…くっ、えらそうな割にはちゃちな能力ね!」
「まあな。だがコイツの能力がこれだけなんて俺は一言も言ってねえぜ?」

言葉と共にす…と風見の右手が持ち上げられる
ピタリ、と向けられた右の手のひらは美音の方向を向いていた

「喰らえ!」
「っきゃ!」

風見の声と同時に嫌な予感に襲われた美音は咄嗟に横っ飛びをする
一瞬後、風を切り裂く音が美音の耳朶を打った
ビリィ!
僅かに回避が遅かったのか、美音のスカートの一部が切り裂かれる

「どうだ、風の刃のお味は?」

ニヤつきながら風見は続けざまに風の波動を生み出す
そしてそれらは全て美音へと襲い掛かる!

「あっ! うっ! くっ!」

不可視の攻撃をかわし続けるなどいかなアクアメロディでも不可能である
風見が手を振るうたびに刃物で布を引き裂くような音が次々と怪盗の衣装から発せられ、徐々に少女の肌が露になっていく

「はっはっは! いいざまだなアクアメロディ!」

飛び散る布キレと露になっていく肌に興奮しつつ風音は手を振り続ける

(このままじゃ…こうなったら!)

美音は靴についているボタンを押し、足に力を込めた
瞬時に靴の底からローラーが現れる
そして、加速
そう、美音が選んだ手段は特攻だった

「何!?」
「やぁぁぁ!」

流石に不意をつかれたのか、仰天する風見を尻目に美音は男の懐へと潜り込む
そして瞬時に繰り出される拳
一撃目は的確に鳩尾を、二撃目のハイキックは顔面を見事にとらえる
会心の二連撃だった

「…こ、このアマぁぁっ!!」
「えっ!?」

だが、風見は倒れない
美音は知らないことだったが、エレメントジュエルは所持者に異能以外にも身体能力向上の力を与える
つまり、風見の防御力は一般人のそれではないのだ

「きゃっ…」

決まったと思っていたところの強襲に驚く美音だが見事な反射神経で風見の拳をかわす
だが、その瞬間風見の拳からは風の衝撃波が発生していた!
パキィィン!
甲高い破砕音が響く

「あっ、ダメッ!!」

パラリ、とほどける髪
狼狽した声と共に美音は顔を両手で覆った
風の衝撃波はアクアメロディの仮面と髪留めに隠されていたナイフをとらえ、粉砕してしまったのである
が、当然そんな隙を風見は見逃さない
猛然と視界の塞がった美音に襲い掛かると一気にその細身の身体を押し倒す

「くっ、うっ!」
「くくく…いいザマだなアクアメロディよ?」

馬乗りとなった風見が醜悪な笑みで美音を見下ろす
美音は顔を両手で押さえているためにそれを見ることはなかったが、もしも彼女が風見の表情を視界に入れていればさぞ怯えたことだろう
何故なら、風見は獲物を捕まえた狩人の表情だったのだから

「へ…よっぽど素顔をみられたくないんだな? まあいい…それは後のお楽しみだ、まずは…」

風見の台詞に不安を覚える美音
どうにか脱出しようとあがくも女の子の力では風見の身体を押しのけることもできない
風見の手がボロボロとなったアクアメロディの衣装へとかかる
瞬間、上半身の衣装が粉みじんに切り刻まれた

「あ、ああっ…何を」
「邪魔なもんをとっただけさ。お? 下着はおそろいか」

かあっと手の下の美音の顔が朱に染まる
相手の顔は見えないが、今ブラジャーごしに自分の胸が見られていると思うととても落ち着かない
だが、今の美音にはその事態をどうすることもできない
そして、風見の手はストライプデザインのブラジャーへと伸びていった